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「で、明日は何するんだい?」  シアンが聞くと、レオは、 「えっとね。日本のネットに人材募集広告を出そうと思うんだ」  そう言ってニコッと笑った。 「へ!? 日本に?」  驚くレヴィア。 「だって、『IT分かる人いないとこの国回せない』ってオディーヌが言うんだもん」  オディーヌが続けた。 「国の管理は結局情報の管理で、そのためには情報システムが不可欠ですよね? それってこの星の人には無理ですよ」 「いいね!」  赤ら顔のシアンはサムアップしながら上機嫌に言った。 「いやいやいやいや、そんなの管理局セントラルに怒られますし、そもそも地球の管理者が許すわけないですよ!」  レヴィアが立ち上がって断固とした調子で言った。 「『いい』って」  シアンが答える。 「へ!?」 「ヴィーナさんが『構わない』って言ってるよ」  シアンはニコニコしながら言う。 「え? あ……、そ、そうですか……」  レヴィアはそう言いながらゆっくり腰を下ろした。 「それでですね、国民全員にスマホを配りたいんですが……、大丈夫ですか?」  オディーヌは恐る恐る言う。 「いいよ!」  シアンは即答する。 「いやいや、スマホ配ったら基地局建ててSIMカードや番号管理システム動かさないとならないですよ?」  レヴィアが眉間にしわを寄せて言う。 「ん~、任せた!」  シアンは酔いの回った声で返す。 「ま、任せたって……、メッチャ大変なんですが……。とほほ……」  レヴィアはガックリとうなだれた。        ◇  翌日、日本のネットは奇妙なSNSへの投稿で持ちきりだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 異世界で国づくり! フルスタックエンジニア募集! アットホームな職場です♡ ◆概要 異世界で十万人の国を作る事になりました。国民には全員スマホを配ります。 国が回るように、電子決済、戸籍管理、行政サービス管理などのシステムを構築してください。 インフラ部分は完備してるのでアプリ部分をお願いします。 ◆必須項目  GitHubにて顕著な成果を公開していること ◆勤務地 異世界(タワーマンション内社宅完備) ◆待遇 週休二日、有給完備 社会保険は無し(病気やけがは責任をもってすぐに治します) ◆給与 月給制:金貨五十枚(日本円換算二百五十万円) ◆応募方法  こちらの『フォーム』に必要事項を記載のこと。書類選考を通過された方には面接の案内が行きます。 異世界国家アレグリス 設立準備委員会 オディーヌ=オルタンス・ニーザリ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  さらに圧巻だったのが添付されていた動画だった。タワマンが林立し、超高層ビルや巨大なスタジアムが見える最先端な街の風景をバックに、男の子と女性二人が手を振っている。そして、そこに巨大なドラゴンが飛んできて、鮮烈な炎を吹くという物だった。  ネットの人たちはその異様な動画を必死に分析したが、それは最新のiPhoneで撮って出しの物で、編集の形跡が一切見えなかった。地球上にそんな都市は無いし、CGでないとするとドラゴンの存在は理解不能であり、みんな首をひねるしかなかった。    二十八歳のエンジニア一条零いちじょうれいもネットニュースでその動画を見つけた。明らかに作り物のはずなのにどこにも破綻のない動画、それは零の心を千々に乱した。零はベンチャー企業でWebサービスを開発していたが、無能な上司にわがままな顧客という環境にウンザリとしていたのだ。  異世界は大好きなラノベで毎日のように親しんでいるものの、さすがに虚構であると割り切っていた。しかし、もし、これが本当の動画であるとしたら異世界は本当にある事になる。それは思いもかけなかった事態であり、零は仕事が手がつかず、飛んでくるドラゴンの動画を何度も何度も食い入るように見入っていた。  そして、逡巡しゅんじゅんした後に、零は意を決すると応募フォームに必要事項を記載し、送信ボタンを押したのだった。 3-12. ITエンジニア採用面接  翌日、零のところにGmailのアドレスからメールがあった。zoom面接の案内だった。日程をいくつかある中から選んで返信すると、すぐに確定の返事が届く。いたずらにしては手が込み過ぎていると思い、零はドキドキしながら面接の時間を待った。  面接時間がやってきた。パソコンにはパーティールームのテーブルに並ぶ四人と零の映像が並ぶ。 「よ、よろしくお願いします……」  インカムをつけた零は緊張しながら切り出す。 「私は採用担当のオディーヌです。今回はご応募ありがとうございました。GitHub見させていただきましたが、素晴らしい技術力ですね」  オディーヌはニコッと美しい笑顔で話した。 「あ、いや、それほどでも……」  零は謙遜する。 「それでは志望動機について教えてください」 「異世界に興味がありまして、もし動画みたいなところがあるなら行ってみたいなと……。それから、新たな国づくり、とてもやりがいがありそうだったので」 「あの動画はあるがままをiPhoneで撮っただけです。現実ですよ」 「では、異世界は本当にあると……?」 「あるというか、私たちからしたら日本が異世界なんですけどね」  苦笑するオディーヌ。 「あ、そ、そうですよね」 「ちょっと技術的な質問いい?」  シアンが横から口を出す。 「は、はい」  シアンはパソコンを手元に持ってくると、GitHubの画面を共有し、そこからソースコードを一つ選んで拡大した。 「ここの処理だけど、DB叩くならこう書いた方が正しくない?」  そう言ってシアンはチャットにソースコードを打ち込んだ。 「あっ! ……。でも、このテーブルはこうクエリかけた方が、出てくるデータの順番が都合がいいんです」 「ふーん、なるほどね……」  シアンはそう言ってうなずき、パソコンを元の位置に戻した。 「何か質問はありますか?」  オディーヌが聞く。 「設立準備委員会というのは何人いるんですか?」 「これで全部じゃ」  レヴィアが答える。 「え? 見たところ皆さんお若いようですが、この四名だけで国づくりを?」  困惑する零。画面に映っている四名はどう見ても全員十代だった。 「街の様子は動画で見たじゃろ? あれ何日で作ったと思う?」 「何日って……四人ですよね? 何年かかっても無理……そうですが……」 「一日じゃ」 「へっ!?」 「一日で街を作れるメンバーなんじゃよ」  レヴィアはドヤ顔で言った。 「そ、それは感服しました……」  零は圧倒される。林立するタワマンに巨大スタジアム、一体どうやったら一日で作れるのか? 本当だとしたら異世界とは常識の通じないすさまじい所……。零は背筋がゾクッとした。 「メンバーは豪華ですよ」  オディーヌはニッコリと笑って言った。 「あ、治安とかは大丈夫ですか? 魔物が出たり盗賊が出たりは……」 「治安は大丈夫。うちの軍事警察力は宇宙一、米軍を瞬殺できるくらい最強じゃ」  レヴィアは目をつぶり、ちょっと気が重そうに言った。 「米軍を瞬殺!? この四人で……ってことですよ……ね?」 「実質一人じゃがな」  レヴィアは淡々と言い、シアンは、 「きゃははは!」  と、笑った。  零はこの荒唐無稽な話をどう考えたらいいのか悩む。とは言え、ウソを言っているような感じではない。ドラゴンが火を噴いていたが、あの不可解なエネルギーを使えば本当に米軍を瞬殺できるかもしれない……。でもドラゴンが米軍を? それはまさにファンタジーの世界の話だった。 「他にご質問は?」  オディーヌが聞く。 「えーと……。一度参加したら異世界に行きっぱなしですか?」 「基本そうなります。ただ、止むに止まれぬ理由があったらその時は帰れます。異世界の事は一切口外してはなりませんが」 「守秘義務……ですね」 「そうです」 「職場はどこになりますか? その部屋ですか?」 「あー、どうですかね? ここでもいいし、タワマンの好きな部屋でもいいし……」 「オフィス使おうよ!」  レオが言った。 「え? あぁ、あのビルもう使えますか?」  オディーヌがシアンに聞く。 「ん? ネットさえつなげればOK。レヴィアよろしく!」  と、シアンはレヴィアに振る。 「わ、わかりました……」  レヴィアは渋い顔でうなずいた。 「ということで、動画で出てた超高層ビルのオフィスになりました」  オディーヌはニコッと笑って言った。 「そ、それは凄いですね。分かりました。ありがとうございます」  零は頭を下げる。 「どうですか? うちで働いてくれますか?」  オディーヌは少し上目遣いで瞳をキラッと光らせて言った。  零はその美しいまでの鋭い視線にゴクッとツバを飲む。この答一つで採否が決まる事を本能的に感じたのだった。ここですぐに『はい』と言えなければ不採用だろう。しかし……、異世界など地球の常識が全く通じないはず。どんなリスクがあるか分からない。命の危険だってあるだろう。  零はうつむいて逡巡しゅんじゅんする。夢見ていた世界に飛び込むなら今この瞬間しかない。全てを捨て、命の危険を冒してでも行くか……。零はグッと奥歯をかみしめた。  ふうっと大きく息をつくと、零は腹を決め、バッと顔を上げる。そして、 「ぜひ働かせてください! 必ずやご満足いただく結果をお見せいたします!」  そう、明るい顔で言った。  オディーヌはニコッと笑うと、 「結果はまたメールでお知らせします。本日はありがとうございました」  そう言って丁寧に頭を下げた。  果たして、翌日零のところに採用通知メールが届いたのだった。  こうして日本のITエンジニアがジョインする事になった。 3-13. 少年の外交 「次は移民の受け入れじゃな」  レヴィアが言った。 「スラムのたくさんの人たちに来てもらわないとね」  レオはニコニコして言う。 「しかし、どうやって周知し、どう来てもらうか……うーん」  レヴィアは腕を組んで悩む。 「お父様に相談してみるわ!」  オディーヌが言う。 「王様、いいって言うかな?」  レオは心配そうにオディーヌを見つめる。 「スラムの貧困層たちは犯罪の温床となったりして、国としても手を焼いていたから協力してくれると思うわ」 「良かった!」 「でも……、そんな犯罪の温床となってる人たちを連れてきちゃったら、この国壊れちゃわないかしら……」 「うーん、衣食住を保証してあげれば変わると思うんだけどね……」  するとレヴィアが、スマホみたいな小さな装置をレオに渡して言った。 「そういうお主らにこれをプレゼントしよう」 「え? これは何?」 「ウソ発見器じゃ。こうやってグラフが出て、ウソだったら赤の方に振れ、本当だったら緑の方に振れるのじゃ」 「これって……どう使うの?」  レオは不思議そうに言った。 「試しに『レヴィア様は凄い』って言ってごらん」  レヴィアはニヤッと笑って言った。 「分かったよ。レヴィア様は凄い!」  レオがウソ発見器に向かってそう言うと、グラフは緑に振れた。 「おぉ、お主は良い子じゃなぁ……」  レヴィアはうれしそうにレオの頭をなで、レオは少し照れた。 「じゃあ、レヴィア様嫌い!」  レオがそう言うと、グラフは赤に振れた。 「うむうむ」  レヴィアはご満悦だった。 「そしたら、これを入国審査に使えばいいってことですよね?」  ウソ発見器に感心しながらオディーヌは言った。 「そうじゃな。『犯罪を犯しません』って宣誓させて、赤くなった人には入国をお断りすればいい」 「でも、考えを改めたら入れてあげたいよね」  レオは言う。 「そうじゃな、毎日パンを配りながら生活を安定させ、心に余裕を持たせてもう一度宣誓してもらえばええじゃろ」 「うんうん、みんなに来てもらいたいからね!」  レオはニコニコして言う。 「そうと決まれば、お父様に話してくるわ!」  オディーヌは元気に立ち上がり、レヴィアにつなげてもらった空間から王宮へと入って行った。        ◇  その日の午後、一行は王宮におもむいた。  豪奢な会議室に通され、メイドが紅茶を丁寧にサーブしていく。薄い純白のティーカップには可愛い赤い花の装飾が施されており、気品が漂っていた。きっと名のある職人の手による物だろう。  レオは静かに紅茶を飲みながら、何度も王様に頼む事を思い出し、確認する。  手の込んだ刺繍が施されたレースのカーテンには柔らかな日差しが当たり、室内をふんわりと照らしていた。  シアンがお茶菓子のクッキーを美味しそうに食べる、ポリポリという音が静かな室内に響く……。  ほどなくして王様が現れた。 「ようこそお越し下された。娘も世話になっていて申し訳ない」  王様は席に着くと一同を見回しながら威厳のある声で切り出した。 「オディーヌには助けてもらっています」  レオはそう言ってニコッと笑った。  王様は小さな少年、レオが答えたことにちょっと驚いて言う。 「それで今日は何やら提案があるとか……」 「スラムの人たちを僕たちの国で引き取りたいんですが、いいですか?」  レオはニコッと笑って言った。 「え!? あの人たちを?」 「そうです、そうです。まずこれを見てください」  レオがそう言うと、オディーヌがパソコンで街の動画を見せた。 「な、なんだ……、これは……」  驚く王様。 「ドラゴンの領地にこういう街を作りました。ここの住民としてスラムの人たちを呼び寄せたいのです」 「ちょ、ちょっと待って、この高い建物は何かね?」 「あぁ、この一番高いのがオフィスビルで、低いビル群がタワマン、住居です」 「ほわぁ……。こんなのどうやって建てたの?」  王様は圧倒されながらレオに聞いた。 「シアンがエイッて建てたんです」 「きゃははは!」  シアンはうれしそうに笑った。  王様はシアンの方を向いてただ茫然ぼうぜんと見つめていた。 「お父様、スラムの人たちを引き取るのは、ニーザリにとってもいい事でしょ?」 「それはそうだが……。それには安全保障条約とか脅威にならない保証を得ないと……」  王様は困惑した。こんなオーバーテクノロジーを実現するドラゴンの国とどう付き合ったらいいのか皆目見当がつかなかったのだ。 「別にニーザリを攻めたりせんよ。条約なら問題ない。レオ、ええじゃろ?」 「うん、僕は大丈夫」 「ちょっと待って、君が意思決定者なのか?」  王様が驚いてレオを見る。 「あ、自己紹介がまだでしたね。この国、アレグリスの国王のレオです」  そう言ってレオはニコッと笑った。 「こ、国王……?」  唖然あぜんとする王様。  前代未聞の恐るべき国を率いる存在が、まだ幼いこの子供だという事実に、王様は困惑する。この少年との付き合い方がニーザリの将来をも左右するのだ。王様はただ茫然ぼうぜんとレオを見つめた。 3-14. 夢の強さ 「まぁ、国王と言っても、権力を持つのは一時的じゃがな。体制が整ったら国権は議会に移譲される」  レヴィアは淡々と説明する。 「レ、レオさんは何か特別な……方なのかね?」  困惑しながら王様が聞く。 「ただの奴隷あがりの何もできない子供です」  ニコッと笑ってレオは言った。 「奴隷あがり……」 「あ、でも、貧困と奴隷をこの世界からなくそうと誓ってるのは特別かも?」  レオはちょっと首をかしげて言った。 「レオはね、自由の国を命がけで作るんだって。そんな子なかなかいないでしょ?」  シアンがニコニコしながら言う。 「国づくりの発案者……ということ……か。しかし、国というのはそう簡単に作れる物じゃない。理想だけでは国は回らんぞ」  王様はいぶかしげにレオを見る。 「理想を追わなければ理想は実現できませんよね?」  レオはニッコリとして答えた。  王様はレオの目をジッと見る……。 「……。そうか……。なるほど……」  王様はそう言って目をつぶり、何度か大きくうなずいた。  そして相好を崩すと、 「なるほど、レオさんは特別な方だな」  そう言って少し羨ましそうにレオを見た。  ちょっと恥ずかしそうにはにかむレオ。 「で、オディーヌ。お前はどうするんだ?」  王様はオディーヌに振る。 「しばらくはアレグリスのお手伝いをしようかと……」 「王妃になるつもりは?」  王様はニヤッと笑って言った。 「え!?」  驚くオディーヌ。  そしてレオと目を見合わせる……。 「まぁ、それは若い二人が自由に決めたらええじゃろ」  レヴィアはニヤリと笑みを浮かべて言った。  レオもオディーヌも真っ赤になって下を向く。 「分かった。それでは相互不可侵の安全保障条約を前提に移民計画を受け入れよう」  王様は満面の笑みで言った。 「あ、ありがとうございます」  レオは真っ赤になったまま頭を下げた。  こうして、アレグリスはスラム街のそばの倉庫を一つ借り受けることになり、そこを拠点として移民受け入れ事業を進めることになった。       ◇  まだ朝もやが残る静謐せいひつな早朝――――。 「ねぇ、レオ、ちょっと見て!」  タワマンの一室で寝てるレオをオディーヌが起こす。 「ん? どうしたの?」  乗っかっていたシアンの腕をどけ、目をこすりながら起きるレオ。 「これよこれ! チラシができたわ」  徹夜明けのハイテンションでオディーヌが紙を渡す。  それは街の写真がふんだんに盛り込まれた、スタッフ募集のチラシだった。 「うわぁ! 綺麗だね!」  レオは喜んで写真を一つずつ眺めていった。 「これをあちこちの掲示板に貼ったり、配ったりしてスタッフを集めましょ!」 「うんうん、いいね!」  レオはうれしそうに言った。 「あれ……? これ、何のマーク?」  あちこちに使われている、龍が火を吹いているような意匠のマークを指して言った。 「あ、これは国章ね。案として作ったの。どう?」 「国章!? カッコイイね! さすがオディーヌ!」  レオは目をキラキラさせながらオディーヌを見上げた。         ◇  その日はみんなで手分けして、街のあちこちにチラシを貼ったり、置かせてもらっていった。  チラシが無くなるころにはもう夕方だった。 「あー、お腹すいた~」  レオがぐったりとしながら言う。 「ふふっ、お疲れ。じゃあ、零を呼んで歓迎会かねて食べに行くか!」  シアンがニヤッと笑って言った。 「あれ? 零って大丈夫なの?」 「んー、暇してそうだから大丈夫じゃない?」  シアンは宙を見つめながら言う。  そして、何度か軽くうなずき、 「恵比寿の焼き肉屋になったよ」  そう言ってニッコリと笑った。

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