口づけの魔法
砂糖菓子
八重桜がまあるく咲いて、君はおいしそうねと呟いた。きっと、優しい砂糖菓子の味がして、口の中でふわりと溶けてゆくんだわ。 彼女は桜をひとつ摘むと口に咥え、僕の首筋に両腕を絡めてそのまま口に押し込んだ。 唇が重なると同時に彼女が云った通り、八重桜はふわりと口の中に甘く溶けていった。 彼女が美味しそうと云った花々を口移しされれば、瞬く間に甘く花の香りが芳しいお菓子に変わる。 僕だけその甘いひと時を独り占めしていることが気になって、今度は自分から彼女へ花越しに口づける。 彼女は驚いた顔をして、確かめるようにその花を味わう。おいしい、ありがとう。笑顔が溢れた。 彩り豊かな花々はそれぞれ違う味がして、ふたりして自分の好みを探す。 彼女はシロツメクサ、僕はスミレが気に入って、今度は一緒に詰みにゆく。 日差しがあたたかいねと声をかければまた、彼女は言葉を遮った。 初めて彼女の部屋にお呼ばれされ、彼女が来るまでひとり待っていた僕は、とても落ち着かず困っていた。そんな気持ちもつゆ知らず、彼女は庭先から色とりどりの花を籠に詰んでやってきた。 もしかしてその花、言いかけて言葉が遮られる。彼女が花を口に咥えれば、試食がはじまった。一方的では悔しいので代わる代わる口移せば、甘味に花の香り、そして柔らかな感触に胸が高鳴った。
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