口づけの魔法
掌編集01

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 観覧車の頂上でキスはできなかった。  ふたりして目も合わせられず、七色に輝く夜景を眺めて終わり。  そんな中、もう一度乗ろう、そう提案して頷いた彼女の手を取り再びチャンスを得る。  けれど、やっと叶ったのは手の甲への口づけだけだった俺に、彼女は笑って、好きよ、そう告げてくれた。 ---  うさぎの着ぐるみが私と幼馴染の彼にハートの風船を手渡した。  どうやら恋人と間違えられたらしい、頰が熱を持つ。  突然、彼の顔が目の前に現れたと思うと、唇に柔らかな感触。  驚いて見上げれば真っ赤で困り顔の彼。  順番が違うと不貞腐れれば、ずっと欲しかった言葉がキスと共に降ってきた。 ---  陽の落ちた冬のある日、私はココア、彼はコーンスープを自販機で買う。甘いものを食べたらしょっぱいものも欲しくなるよね、なんて話をしたら、差し出されるコーンスープ。  そんなつもりじゃなかったよ、訂正すれば奪われたココア缶が空を仰ぐ。  俺は逆なの! お互い顔が真っ赤なのはきっと寒さのせい。 ---  付き合い始めて一週間。彼とはまだ一度も口づけを交わしたことがない。  手を繋いだり、誰もいないところでは私を優しく抱きしめてくれる。 段々と距離が近づくといいけど。  でも、あんまりにも進展がないので、悪戯にキスを求めたら、それ以上を迫られてしまった。彼に狼がいるなんて知らなかったよ。 ---  リップクリームが手放せない冬の日。ずっと気になっていた少女にそれを取り上げられてしまった。  彼女が僕のリップリクームで自身の唇をなぞれば、赤い頬、俯き加減で制服を翻し駆けて行く。  僕が少女にかけた言葉は、たった三文字のそれで精一杯だった。 ---  優しく甘い香りが彼女を僕の元へ連れてくる。彼女が纏うそれは、ずっと憧れてやまなかった初めての香水だった。  腕に少しだけつけたの、そう言って伸ばした彼女の手を取ると、優しい色のネイルが彩りを添えている。思わず手の甲に口づければ、告白してくれた時みたいと彼女は笑った。 ---  雪の降る日に彼は逝ってしまった。  突然のことで心が空っぽになり、白くなった彼の顔を目にしても、涙は流れなかった。  雪が大好きだと冬になれば大の字で寝転ぶ彼の笑顔が忘れられない。  桜の咲く日、名残り雪がそっと唇に落ちた。  私はやっと、張り裂けそうな思いを涙に託すことができた。 ---  風鈴揺らめく昼下がり。涼しげな音が入道雲と共に縁側を飾る。  高校の寮とは違う畳に寝転がれば、懐かしい香りが私を包む。  ふと額に柔らかな感触。おかえり、丸いメガネの似合う幼馴染が逆さまにお出迎え。ずっと逢いたかったと唇をせがんだ。  今年の夏休みは、特別なものになりそうだ。

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