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 家に帰ってきて、トイレに行ったら生理が来ていた。 「まじか」  男の一人暮らしに必要のないものリストがあるとして、上位に食い込んでくるのはトイレの生理用品関連はまず無い。  私はとりあえず自分の部屋に行って、出かけるときにいつも持っているバックから生理ナプキンを取り出して下着も変えて使用した。  言いにくいなぁ。そう思いながらも、リビングでコーヒーを啜っていた凛さんに呼びかけた。 「凛さん、あのぉ、トイレに生理用品の置き場所作ってもいいですか?」  訊きづらかったけど、居候の初期にこういうことは遠慮しないで訊いた方がいいと思った。 「あ、上に棚もあるし、なんでも置きなよ。ごめんごめん、女の子だもんな必要だよな、悪い、気の利かない男で」 「いえ、ありがとうおございます」 「失礼ついでに訊いてもいい?」 「はい」 「生理のせいでなんか困ったこととかそういうのある?」  小説のネタ探しだろうか。困ったことなんてたくさんあった。急に生理が来て、学生時代にスカートをなんどか血をつけてしまったし、体育なんてやりたくないくらいお腹がいたかったり怠かったりした。でも一番の思い出はアレかな。 「子供の頃、小学五年生の時まで空手をやっていたんです。自分で言うのもなんですけど、結構上手くて、大会とかで賞をもらったこともあったんです。だけど、稽古中、急に生理が来て白の道着に、血が染みてきて周りにいたのは男の子ばっかりだったから、みんながざわざわしだして、気が付いた時に凄く恥ずかしくて、またやっちゃったらどうしようって思ったらら、動きがぎこちなくなって、思うように動けなくなって、好きだったんですけど、辞めちゃいました。別にからかわれたとかそういうんじゃなかったんですけど、いつか私の生理のことを誰かが思い出すかもしれない、誰かに話すかもしれないって大人になった今でもふと思い出すかもしれないって、自分でも忘れたいのに忘れられない魔法をかけちゃって、解けないんです」  凛さんがマグカップを机の上に置くと、近づいてきた。私の両肩を掴むみたいに手を乗せてきて、少し強引に唇と唇が触れた。  三度目のキスだった。 「木ノ葉って可愛いよな」 「タイプってことですか?」 「うん。俺の小説に出てくるキャラクターみたいだ」  山月凛だった人はキリだった人になって、私にキスする彼は、今、誰なんだろう。

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