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 私には服を選ぶ権利がないみたいに凛さんと花野が私の服を選んでいた。私は何度も試着して、まるで着せ替え人形だった。 「これ可愛い!」  私しか試着してないのに薄い花柄のワンピースとモモンガ袖の黒のカーディガンをその場でお買い上げして、タグを切ってもらった。  花野も同じものを買って試着室で着替えていたけど、自分に似合わない服なんてないとわかっているのか、当たり前のように同じ服を着こなしていた。 「え、めっちゃ私たち双子じゃん!写真撮りたいから飲み物買いに行こう!」  スタバかタピオカがないと写真撮れないのか? 「あの、そんなことより凛さん、服のお金、私のも花野も出してもらっていいんですか?」 「もちろん!担当編集だからね」  担当編集はATMでもお財布でもないのに凛さんが言うと誤解をまねきそうな言い方だった。  花野の我儘をきく一日だった。何をするかどうするか全部決めてくれるのは案外楽だったし、慣れない人混みも、花野と手を繋いでいるとスイスイ歩けた。たまに視線を感じたけど、多分それは花野への視線だと思えば、凛さんが生きていると気がつかれたわけじゃないと、どこか安心して歩けた。  昼食をとって、お揃いのブレスレットとセットのネックレスを買った頃、花野はそうなるのが当たり前のように、私達に提案を持ちかけてきた。 「みなさんこれから、あたしの家来ません?」 「いいんですか?」  凛さんが喰いついた。 「お姉ちゃんも、凛さんも矢部っちさんも、人に聞かれちゃいけない話、したいでしょ?」  鋭い。明るくて元気だけど、馬鹿ではないのだ。 「確かにお姉ちゃんは昔から本が好きだったけど、それ以上に作者が好きだった時期がありましたもん。ねぇ?キ・リ・さ・ん。」  バレていた。  映え写真には#姉妹デート#双子コーデと書かれてアップされていた。私も顔出しを初めてした。コメントは『お姉さんも美人』と書かれていたので少し安心した。ネットも酷いことばかり書かれるわけじゃないんだななんて思ったけど、花野が写真のコメントにお姉ちゃん来週小説家デビューと書いたせいで『七光り』というコメントも見てしまった。  そう。七光りでも私は売れないといけない。凛さんの小説を私の小説として世界に届けるのが仕事なのだ。

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