9 大きなテレビ。大きなソファ、床暖房でフローリングも暖かい。カップ麺でお腹も満たされ、早朝のニュースは天気とスポーツのことばかり。 ポカポカして人様のうちなのに、ウトウトしてしまっていた。時間は朝の十時半。早く起きすぎたせいで、こんな時間なのに眠い。 「木ノ葉、俺千葉行くけど一緒に来る?」 「千葉で何するんですか?」 「店番だよ。コマツ今日は午後シフト入ってないから、俺が行かないと店開けられないんだよ」 「ああ。あのブックカフェ……」 コマツさんって多分凛さんがいない時にずっといる四十代前半くらいのオシャレ髭のおじさんかな。 「ブックカフェって……一応『タムタム』って店なんだけど」 「タムタム……」 そう言われてみればそんな看板が出ていた気がする。でも大きく『本』って看板があるからそっちの方が目立つし、大体の人は初め本屋だと思って入って来る人が多いと思う。実際、私もそうだった。 漫画喫茶とは違って、買った本がすぐ読めるカフェスペースがある、ちょっとアンティークな家具や内装で、若い子より大人の方が常連になりやすいのか、周りをみるといつも私より大人が使用していることが多い。 「あの店って、凛さんのお店なんですか?」 「いや、だいたいいつもコマツって髭のおやじが働いてるだろ?その人と共同経営してるんだ」 さっきから年上の人をコマツって呼び捨てにしているけど、共同経営以外はどういう関係なんだろう。 「コマツも俺が生きてるって知ってる数少ない人の一人。えー、何故ならコマツは俺の義父だからです」 「お父さん?」 「義父だけどな。俺が三歳の時に母さんと結婚して、母さんが五年前に亡くなって、俺が小説で賞とった年に、賞金元手にコマツと二人で始めたんだ。けど、最近はコマツも別のバイトしはじめたんだ。別って言っても同じようなカフェなんだけどさ、好きな人が出来たらしい。だから俺も出れるときはなるべくタムタムで働いている」 仲が悪いわけじゃなさそうだけど、お父さんとは呼ばないんだなって、ちょっとだけ違和感を感じた。 「あの、お義父さんのことなんで呼び捨てにしてるですか?」 「なんでだろうな子供の頃は『とーたん』って呼んでたんだけど、母さんが亡くなったら急にコマツって呼んでくれって言われたんだ。多分、家族のカタチみたいなものがちょっと変わったんだろうな。俺のことも今日経営者って立場になって凛から、凛くんに変わったし」 なんか、SNSで自分を死んだことにしちゃったりするくらいだから、何か抱えていると思ったけど想像以上に複雑な人生を歩んできたのかもしれない。 「でも、とーたんでも、コマツでもどちだっていいんだ。俺の父親ってことには変わりない」 こういうことも知っていかないと、ゴーストライターの体にはなれないんだろうな。 「凛さんのそういうことも全部を知っておかないと、誰かに生きているってバレちゃうかもしれませんね」 「そう!だからさ、なんでも訊いてよ!」 私は何も答えなかった。眠くなって、凛さんの肩を借りて、多分五分くらい寝た。 目が覚めた時は昼の十二時だった。 お腹がすいて冷蔵庫を開けたけど、何もなかったので、またカップラーメンを食べた。 このままじゃ太ってしまう。でも、ちょっとした罪悪感のあるカップラーメンの味は結局美味しかった。
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