オミクロン・カルトの部室はいつも通りの外観を保っており、人が侵入したり荒らされたりした形跡は見当たらない。藁人形の位置、霊感増幅を目的とした調合材のラベル、部員がまとめた資料の数。全てがいつも通りだ。 薄暗い部屋を見渡す。パソコンのディスプレイとのにらめっこに忙しい葉菜、合わせ鏡の角度調整に苦心するママ・カルボナーラ、そわそわと落ち着きがない様子で椅子に座る尊、その隣で彼のレポートを確認する私。いつか過ごした思い出のひと時が、陽炎のように現れては消えていく。 これもきっと、霊なのだろう。突然に砕けてしまった日常への悔恨がこの部室に現出し、輪郭も覚束ない幽霊となって私の目に映る。 葉菜にもこの情景が視えていたのだろうか、苛立ち混じりに呟く。 「霊感なんてない方がいいわ。世界は視たくないもので溢れているから」 「でも、それは大切なものだ」 「天照」 「私は、霊感を持ったことを後悔してはいない。親の無理心中に付き合わされて以来、私は死者の世界に足を踏み入れた。そのせいで弟との関係は瓦解し、奇異な目で見るものも少なからずいた。けれど、同じような悩みを抱える人達がいて、死してなお苦しむ人々がいて、私は彼らを救うためにこの力を振るった。そうすることができた」 力の使い方は本人次第。葉菜の言うとおりだ。 「私はゴーストヘルパーだ。霊を視る、霊を救う。それが私に課せられた使命だ」 私の宣誓じみた言葉に、葉菜はくすりと微笑む。唐突に小悪魔的な表情を見せられ、顔がほんのり熱を帯びていく。 「あなたは本当に、本当に素敵でかっこいい。だから、あなたの後を追いかけたくて心霊現象究明会を創設した。オミクロン・カルトをツクった」 葉菜の笑顔は段々とひずむ。口角は大きく吊り上がり、逆に目は限りなく細っていく。悪寒を通り越し、恐怖をも超越した感情に呑まれる。自身の口から湧き出す黒い液体に触れた瞬間、私は葉菜の煽情的な微笑を忘れ、今の化け物面を直視する。 悪霊に憑かれた兆候に、顔の過剰な変化が挙げられる。変形という方が正しいのかもしれない。人間の心理を表現する最も手っ取り早い手段は、言葉ではなく表情だ。口をついて出るより早く、私達は己の今を顔で見せる。それ故に、負の感情をまき散らす悪霊の憑依はその顔面いっぱいに憎悪の念を張りつかせる。 霊の存在があれば真っ先に気づくのだが、部室にそれらしい気配は確認できなかった。とすれば、葉菜に憑いたままこの瞬間まで身を潜めていた?ありえない。そんな芸当ができるとすれば、葉菜は私と同等の憑依体質を持ち、悪霊をも身に宿す技量を備えていたことになる。 それに、私の口から噴き出た液体は何だ。ごぽごぽと溢れて止まらないこの粘ついた物体は――。 調合材の棚を見る。数十本の薬瓶に反射する私の顔もまた、葉菜と同じく歪なそれへと変貌していた。顔の右半分から白色の岩が飛び出し、目や鼻を押し退けている。それが頭蓋骨だと気づいた瞬間、骨はますます飛び出し、円形に捻じれ、オオアマナの形を取る。 幸いにも痛みを感じないが、状況は最悪だ。 間違いなく憑りつかれている。それも邪悪な亡霊に。 「葉菜、葉菜!」 黒い液体のことなどお構いなしに、私は彼女の名を叫ぶ。唾と共に飛び散った液体は鮮やかな赤へと変わり、時間と共に黒へと戻る。体が思うように動かない理由は、やはりこの液体だ。 肩を見やると、乾いた血も同様に赤と黒に点滅している。つまり私が吐き出しているのは、自分自身の血だ。ママ・カルボナーラとの一戦で受けた傷に加え、多量の血を失い、いよいよ気合でどうにかなる限界を超えたようだ。肩の切り傷が開き、耐え難い激痛に襲われる。その痛みを誤魔化すために棚へと突っ込み、がたがたと揺れる薬瓶を背に棚へ体重を預ける。 葉菜の意識は既にない。私達の顔の変形も収まり、彼女は催眠にでもかかったかのようにゆらゆらと体を揺らしている。いつの間にか部室全体がどす黒い霧に包まれており、その霧を突き破って伸びた腕が彼女の首に絡まった。次いで彼女の胸部へと這いずり、衣服もろとも力任せに掴む。 その行為に対し巻き起こる激情。私の脳裏に、あの男の姿が浮かぶ。 「わたくしより受け継いだマナの洗練にも励まず、どこで油を売っているのかと心配してみれば、まさかあなたに巡り合うとは思いませんでした。若き霊媒師さん」 大ア・マナ会を率いる教祖、是羅はかつてそうしていたように葉菜の体を抱き、陰部を指でなぞる。そうすれば私の怒りを買うと知っていて、わざと彼女の肢体を弄ぶ。 「ママ・カルボナーラに聞いた。年頃の娘が自分の手を離れるのがそんなに嫌か、お父さん」 「ええ、嫌です」 黒霧の中にあっても、彼の背より差す虹色の光はその輝きを損なわない。霊に絶対の耐性を持つ光は健在とみえるが、私は既にその正体を看破していた。 「シャリーラ」 私の挑発を意にも介さなかった是羅の表情に、たった一つの単語が影を差す。 「何故それを」 「霊を意思の集合体とみるならば、霊そのものを心に置き換えてもおかしくはない。私を私たらしめる心の粒子――光を纏ったお前の姿は、それこそスークシュマ・シャリーラという言葉が似合う。ただのカルト教団だと侮っていたけれど、ウパニシャッドに端を発しているなら話は別だ」 先の乱交のおかげで下劣な新興宗教というイメージが先行してしまったが、以前の大ア・マナ会は枝峰に勝るとも劣らない霊的現象の専門家集団だったらしい。葉菜を救出した後、枝峰から聞いた話だ。 その源流はインド、聖人の遺骨シャリーラを崇める秘密結社の一派が来日したのは今から十年ほど前。日本では仏舎利として知られるそれを聖遺物として扱い、彼らは神秘の法を研究した。それがどういうわけだか組織を是羅に乗っ取られ、研究成果をそのままに新興宗教大ア・マナ会として作り替えられてしまった、という流れだ。元がれっきとしたエキスパートなのだから、私がオミクロン・カルトに提供していた技術のブラッシュアップをやってのけたのも頷ける。 「彼の者、出る日を分かちて黄金より現出す」 是羅の詠唱に呼応し、彼の腹部が真っ白なローブ越しに発光する。脇腹の位置に走るひと際輝く曲線は、聖人の肋骨を移植したものだと分かる。 黒い靄は晴れ、部室本来の薄暗さをも明るく照らし出す。私にはそれが夜の街に灯る下品なネオンライトに重なって見えた。 「普遍宗教の概念に感銘を受けたわたくしは、彼の聖人より肋の骨を賜りました。天上天下に彷徨う魑魅魍魎の一切を現世より消し去る法。まさしく神の御業也」 御託は結構。そう言って彼のご高説を遮る。一秒でも早く葉菜を救出し、この空間から抜け出さなくてはならない。霊能者だけを閉じ込める空間だとママ・カルボナーラは言ったが、その条件をクリアしている人間は私と葉菜、ママ・カルボナーラや尊の他にもいる。分かっている限りでは晴、それに弟の嵐も――直接確かめたわけではないが、晴によるとぼんやりとだが幽霊を視認しているという。親の心中が原因であるかどうかは、今のところ不明だ。 それに加え、校内で起きていた異常現象、内側の霊を閉じ込め外側の霊を阻む結界の正体も暴く必要がある。それはおそらく、大ア・マナ会の教祖がこの場にいる理由とも関連しているだろう。 「葉菜、少しだけ、少しだけ待っていてくれ」 意識のない彼女に、私の言葉は届かない。せき込み、床に多量の血が滴る。私は血だまりに右手を突っ込み、左手の人差し指と中指を立てた。血だまりはやがて渦を巻き、数百本の針となって部屋中に拡散する。是羅はとっさにローブをはためかせ、蠢く血から己と葉菜を保護する。 血の針はしかし見た目ばかりでローブに当たっても刺し貫くことはなく、触れた途端に元の血液に返る。もとより攻撃のためではない。葉菜への配慮もそうだが、部室を荒らしたくなかった。 これはあくまで目くらましだ。私は部室を飛び出し、ママ・カルボナーラと尊が気を失っている階段へ向かう。 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ 雨は止んだが、変わらず空は薄暗い。廊下の灯りは全て消え、温もりを感じられるものは一切見当たらなかった。吐く息も白く、身体は凍える。それが単に寒さからくるものなのか、それとも出血多量によるものなのかは断定できない。 脳はすっかり正常な思考を止めていた。だから、意識を取り戻したママ・カルボナーラの首筋に包丁を突き立てても、何の感慨もわかなかった。 「私に協力しろ。是羅から葉菜を救い出す」 「は、何を馬鹿なことを。一度のしたからって心変わりするとでも思いましたか?」 「――廊下を見てみろ」 私達は今、三階の視聴覚室に身を潜めていた。言われた通り廊下に顔を出したママ・カルボナーラは、途端に震え、話が違うと喚き出す。そのやかましい口を手で抑え、共に身を屈めた。 今しがた彼の目撃したものが、段々とこちらに迫っているのを感じた。息を殺し、恐怖に慄き、窓越しに『それ』を目撃する。 十数本の腕で尊の身体を高々と持ち上げ、廊下を這いずる黒い毛むくじゃらの何か――尊は頭部を引きちぎられ、首の断面からはどくどくと血が溢れている。悪霊をも超えた、この世に存在してはいけない狂気。 それが過ぎるのを待った後、過呼吸寸前のママ・カルボナーラが縋りつく。 「自分は、助かるんです。だって是羅さんはそう言ってたんです」 「口約束は信用するな。それでよく呪術ビジネスを興そうなんて言えたな」 私は以前そうしたように、彼の頭頂部に拳骨をお見舞いした。あの時とは違い、ママ・カルボナーラは何も反論してこなかった。ただ自分が見捨てられたという事実に絶望し、己の死がすぐ目の前まで迫っていたことを痛感している。 「お前達を叩き起こそうとしたら、あれに出くわした。お前は起きなかったが尊はすぐ目を覚まして、それから、私達を庇った」 尊にどんな心境の変化があったのかは知れない。ただ突然に襲い掛かってきた異形を前に、彼は悲鳴を上げながらも立ち向かった。交差するようにママ・カルボナーラを抱えて走り出した時、尊はぽつりと謝罪の言葉を口にした。 「ごめん」 臆病で、気弱で、何をするにも自信が無い彼はいつものように、いつも通りに謝った。だが普段の口癖じみたそれではなく、彼の確固たる意志が込められていたように感じた。 尊の散り様を聞き、ママ・カルボナーラは侮蔑たっぷりに吐き捨てる。 「本当、馬鹿な人ですよね。どうせその場の雰囲気に絆されたに決まってます」 「その馬鹿に救われたお前は何だ?」 彼は何か言い返そうとするが、口を開けたまま言葉に詰まる。代わりにふいと目を逸らし、 「あれは、何です」 ママ・カルボナーラは化け物の姿を思い出したのか、ぶるりと震える。 「分からない。お前の浄眼でどうにかなるかとも思ったんだが」 「少なくとも霊ではありません。浄眼を向けても何も反応がなかった――」 「あれを相手にしろとは言わない、たぶん私にもどうにもできない。だが今の状況を作り出したのは是羅だ、そうだろう?あいつを締め上げればこの状況も打開できるはず」 「そうだね」 ――体の芯まで凍りつく寒気。私達のどちらの声ではない、何者かの同意にドキンと心臓が跳ねた。わたし達は恐る恐る、顔を横に向けた。 そこには胴体を化け物に持っていかれ、頭だけになった尊が浮かんでいた。血の通わない真っ白な肌はわずかに透けている。霊と化した友人は生前浮かべたことのない満面の笑みで、 「よくもこき使ってくれたね」 私には目もくれず、ママ・カルボナーラににじり寄る。彼は迷わず浄眼を使おうとするが、それより早く尊の頭が飛び掛かった。必死の攻防を繰り広げる中で、辺り一帯に血しぶきが舞い、べしゃりと肉片が落ちる。それが両目だと分かった時にはもう、ママ・カルボナーラは抵抗する力もなく項垂れるばかりであった。 眼球を失い、空っぽになった眼孔は見えるはずのない私の姿を探す。 「天照先輩、どこですか、助けて。真っ暗で何も見えないんです」 喉を噛み切られたのか、シャワーのような勢いで血が噴き出す。私も既に満身創痍だが、ママ・カルボナーラは既に事切れてもおかしくないほどの血液を失った。それなのに、まだ蠢いている。自身が死体になったことにも気づかず、ずるずるとこちらに這い寄ってきた。 尊の頭は床に転がったまま動かない。私は二人の死者から距離を取り、危険を承知で廊下に飛び出した。 「待ぁああああってえええええ、天照先ぱぁああああい」 迫りくるママ・カルボナーラ。私の足音に気づき、引き返してきた怪物。このまま走って逃げたところで、どちらかに追いつかれるだろう。そして殺される。 私は意を決し、窓を開けて校舎三階から飛び降りた。 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ ――まどろむ意識の中、明瞭としない視界に映る人物は言う。 「死にたての霊の魂が三つ、霊の見える魂が三つ、人も霊も超えた存在が三つ。神秘学において三角形は現世と死後の世界、それにくわえてもう一つ、異次元を指し示すとされています」 死にたての霊の魂――青崎 璃緒、佐原 尊、ママ・カルボナーラ。 「霊の見える魂は、私と晴、それに嵐か」 校庭のど真ん中、泥だまりに伏したまま私は声を荒げた。手足を縄で縛られ、身動きを取ることは叶わない。どうやら校舎から飛び降りた際に意識を失い、是羅に捕まってしまったようだ。目の前には葉菜を侍らせた是羅と、私と同じように捕縛された晴と嵐の姿があった。ここはまだ結界の中なのか、私達の他にひと気は無い。 私の回答に是羅はいえいえと首を振る。 「それは違います、若き霊媒師さん。霊の見える魂はそこのお二人と――」 彼の言葉を遮るように、校舎が爆発した。大量の瓦礫と共に飛び出した、ひどく見覚えのある人物はそのまま重力に沿って地面に激しく叩きつけられる。吹き飛んだ校舎の中から、例の化け物がちらりと覗く。 「枝峰!!」 晴の絶叫。スーツはあちこちが無残に破け、そこから生々しい傷跡が垣間見える。彼は生きているのだろうか。それとも、もう――このどうしようもない状況に、正直に言おう、私は怖気ていた。枝峰さえ来てくれたら、という僅かな希望はここに崩れ去ったのだ。 「彼が三人目。誰よりも早く事の対処に動いていたようですが、霊ではないものが相手では僧の力などたかが知れている。ちなみにあの怪物に魂は無いようですからカウントしません。扉が開きかけた途端、飛び出してきたんですよ」 是羅は楽しげにスキップを踏みながら自分と、次いで葉菜を、最後に私を指さす。 「最後に人も霊も超えた存在。一つは仏舎利を宿したわたくし、その血を継承した娘の葉菜。そして、若き霊媒師さん、あなたも人ではありません」 言葉の意味が分からず、私はただ唖然とする。それからふと、身を捩ろうとした際に腹部に違和感を覚え、視線を下に向けた。 「嘘だ」 皮膚を刺し貫き、腸と共に飛び出る太い木の枝。校舎から飛び降りた後に意識を失った私は、そもそも無事に着地できていたのか?そういえば左肩の出血はどうなった。血は止まったように見えるが、何の応急処置もしていない上にあの深い刺し傷だ、とっくに動けなくなってもおかしくないのではないか? 嗚呼――目の前の風景に海が重なって見える。海中の、ずっとずっと奥の深海。人が生きられない世界。水の中に暮らす生者はいない。海中で幽霊を見たという話は聞いたことがない。 私の魂は、まだあの海に取り残されている。この世でもあの世でもない、誰もいない所。 「霊魂が死後の肉体に憑りつく例は珍しくありません。しかしあなたの場合、肉体の中に魂は無く、また魂も肉体を持たず彷徨っています。霊媒の素養に長けているのは初めから見抜いておりましたが、自身の魂がそもそも無いのですから、他人の魂を受け入れるのに躊躇がなかったというわけです」 私が人間ではない。そんな是羅の言葉をどうにか覆してやりたくて、私は晴の方を見た。晴、何か言ってやってくれ。このイカれたカルト教団の教主様に、私が間違いなく生きた人間なのだと教えてやってくれ。だが彼女は口を開こうとして、私の腹に突き刺さった枝を、すっかり血の流れ出なくなった傷跡を見て、ただただ首を横に振る。 ふと、嵐と目が合った。彼の怯える様はいつも通りだ。変わらず恐れおののいている。その恐怖に侵された目を見て、私は悟らざるを得なかった。 弟は最初から見抜いていたのだ、私達が親の無理心中から無事に再会を果たしたあの時から既に、私の魂がまだ溺れていることを。 私が、人間を辞めていたことを。 「あ、はは」 全身の力が抜け、私はばしゃりと泥に突っ伏した。霊がどうこうと偉そうに講釈を垂れていた当の本人が、一番訳の分からない存在だった。何だこれは。もう笑うしかない、とことん道化ではないか。 泥中に映る自身の哀れな姿を眺めていると、是羅がそろりと忍び寄り、耳打ちする。 「大丈夫ですよ、わたくしがあなたを救って差し上げましょう」 是羅は曇天の下、大きく両手を広げる。 「あなたのことは憎くて憎くてしょうがない!可愛い娘を連れ去った悪魔!鬼畜!ですが、あなたがこの状況を作り出すのに尽力してくれたのは紛れもない事実。あなたがいてくれたからオミクロン・カルトに近づき、これだけの霊能者と死霊、それに人ならざる者を揃えることが出来ました。本当にありがとうございます」 「――――」 「お教えしましょう。大ア・マナ会は確かに下等な存在に成り果てました。しかしあなたもご存知の通り、その始まりは極めて正統なもの。信者から搾り上げた金はやはり神秘の探求に回されていたのですよ。先人の夢は未だなお、教祖のわたくしを含む数人の幹部らには燻り続けているのです」 是羅はここにきて、己が野望を打ち明けた。空が真っ黒に塗り潰され、耳にしたことのない咆哮があちこちから響き渡る。結界がぼろぼろと砕け散り、私達は現実の校庭に投げ出される。それでも空の異常は変わらず、校内の生徒らが何事かとこちらを伺っている。 空間が裂け、雷鳴が轟く。虚ろなまま立ちすくんでいた葉菜の体がふわりと浮き、突如出現した黒い渦に飲まれていく。まさに地獄のような光景。 「これで門は完全に開かれた!あらゆる生者よ、全ての死者よ、異次元の住人らよ!自由に溶け合い、混ざり合い、一つとなりなさい!全ての次元に存在する世界を統一する、それこそが大ア・マナ会の悲願!」 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
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