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 ルミは〝剣闘試合グラディエーターバトル〟のルールを承諾した。  刀剣に対して素手で挑むのだ。  蓮也はルミを見据えて言う。本当によかったのかと。 「下手すりゃ死者が出るって話だぞ。いいのか?!」 「では何故、あたしを契約の場に連れていったんだ」 「そ、それは……」  蓮也は立ち止まってしまった。話を断ることも可能だった。  苦労して見つけた逸材を、みすみす危険に晒すような真似はしたくなかった。 「私が承諾したからよ」  二人は後方を振り返る。カミラであった。 「芥生君……」 「あんだけ危険だなんだの言ってたのに」 「試合を承諾すると思ったからよ」  ルミの性格をわかっていた。  彼女はスポーツマンではない、武道家なのだ。  危険とわかっていても、勝負を承諾する性格であると。 「社長……ルミと二人きりにして頂けませんか」 「わかった……」  蓮也はそう言ってレストランを後にした。  何か大事な話が二人の中であるのだろう。そう思ったからだ。 「武器相手は経験済みね。片桐さんと対戦したんでしょう?」 「何故それを……」 「いつか必ずあなたに伝えるわ。今は私を信頼して」 ・ ・ ・  ルミとカミラは無言で夜道を歩いていた。  色々と聞きたいことはある。でもカミラは『信頼して』と言った。  彼女を信じることにした。その目にウソはないと感じたからだ。 「や、やめて下さい!」 「そんなこと言わずにいいじゃないの」 「俺達と遊ぼうぜ!」  外国人らしき少女が、二人組の日本人に絡まれていた。  二人組は半グレ風で、如何にもという感じだ。  少女は碧眼で髪はブラウン。清楚な雰囲気のある女性だ。 「あれは……」 「ベタな展開だね」  ルミは二人組の男に声をかける。 「ちょっといいスか」 「なんだテメェは?」 「今更そういうの時代遅れだぞ。マッチングアプリでも使っとけ」 「お前には関係……?!」  言うや否や悶絶する男。  どうやら股間を蹴られたようだ。  片方の男はポケットからナイフを取り出した。 「こいつ何しやがる!」 「いきなり光物かよ。ウエスト・サイド物語でも見たのか?」 「うるせーっ!ぶっ殺……すべぇっ?!」  ナイフを取り出した男は顔面に飛び蹴りをくらった。  ルミは着地すると少女の手を掴む。 「あの何を……」 「さっさと行くよ」  そのまま少女の手を掴んだまま走るルミ。 「ちょ、ちょっと!」  カミラは走り去るルミ達の後を追った。  その場から走り去った彼女達は、近くのカフェテリアへと入っていった。 「あ、あの……なんとお礼を申し上げたらよいか」 「一人で夜の街を、うろつくもんじゃねぇぞ」 「ごめんなさい……」  少女は申し訳なさそうな顔をしていた。  そこへカミラが注文した3人分のコーヒーを用意してきた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  出されたコーヒーを見て少女は感謝の言葉を述べた。  ルミは持って来たコーヒーを見て一言。 「おいおい、コーヒーって……おっさんじゃねぇんだから」 「あっ本当ね。あなたは違うものの方がよかったかしら?」 「大丈夫です」  少女はニコリと微笑んだ。その笑顔はまるで天使のようである。  カミラは彼女に尋ねた。 「あんなところを一人で歩いてどうしたの?」 「人を探してまして……」 「良ければ話を聞かせてくれない」 「ご迷惑をおかけするわけには……」  少女は申し訳なさそうな顔をしている。  今度はルミが尋ねた。 「アンタの名前は?」 「アンナ・ジェランといいます。フランスから来ました」  少女の名前はアンナ・ジェラン。フランスから来日したという。 「アンナは誰を探しに日本へ来たんだ?」 「ヴィート・ムッソという人を探しています」 「ヴィート・ムッソ……!」  少女が探している人物はヴィート・ムッソ。  先程出会ったばかりの男だ。 「ヴィートを知っているんですか!?」 「まぁ一応……」 「彼はどこにいるんですか!?」  アンナは椅子から身を乗り出している。  二人の中で何か関係があるようだった。 「あの男のファンか?」 「い、いえ違います」  アンナは恥ずかしくなったのか、体の位置を元に戻した。 「彼は、私の父レオポルド・ジェランが経営するイレギュラーリーグ〝ナイト・デュエル〟の看板選手なんです」 「イレギュラーリーグ?」 「イレギュラーリーグというのは……」  アンナがルミにイレギュラーリーグの説明をする。 (レオポルド・ジェラン?)  説明している間、カミラはその名をどこかで聞いた気がするが思い出せなかった。 「世の中広いんだね」 「ナイト・デュエルは『現代騎士の決闘』と呼ばれ結構人気があるんですよ」 ○ ナイト・デュエル 元ORGOGLIO正戦士、レオポルド・ジェランが発足したイレギュラーリーグである。 『剣闘試合グラディエーターバトルをより安全公平に』をコンセプトとして生まれたものである。 なるべく鋭利な部分を削ぎ落したソードを使用。 更に選手は安全性を高める為に、特殊吸収材で作られた『アーマー』と呼ばれる防具をBU-ROADに装着させる。 ルールは、先にヒットをさせるかのポイント制。 制限時間内(3分3ラウンド)に多くポイントを稼いだほうの勝ちとする。 「その看板選手がどうかしたのかい?」 「突然『ORGOGLIOに復帰する』と言って辞めてしまって……」 「何か問題があるのかい。挑戦することはいいことじゃないか」  アンナは必死にそれを否定する。 「スター選手がいなくなるとそれだけで困るんです!!」 「そ、そんなにムキになるなよ」 「ご、ごめんなさい……」  アンナは少しムキになってしまった自分を恥じた。  そんな少女の必死な思いを説明するかのようにカミラは言う。 「イレギュラーリーグの経営は大変なの。どこもギリギリの状態で運営してるのよ」 「そうなのか?」 「多くは金持ちの道楽運営だけど、きちんとしたビジョンを持ってやってるところだってあるの」  毎年ORGOGLIOからは、スポンサー企業の撤退・契約解除による解雇引退選手が、年間数十人出ていると言われている。  元々多くの機闘士マシンバトラーは、武道・格闘技しかやっていない者達も多い。  他の職業に就ければよいが、不完全燃焼のまま解雇引退する選手にとっては辛いものである。  選手のセカンドキャリアを考える場として、イレギュラーリーグが存在している部分もある。 「元々私の父は、ORGOGLIOの創成期に活躍した選手でした」 「アンナのお父さんって凄い人なんだね」  ルミの言葉に嬉しそうにしている。父親のことを尊敬しているのであろう。 「父は『ナポレオン・マスク』という覆面戦士として、剣闘試合専門に闘っていました」 (覆面戦士って…アンナのお父さんのセンス大丈夫か…) 「でも問題があって……」 「リーグ制の導入ね」  現在ORGOGLIOは、B級シングルバトルからBBB級トリプルバトルまでのリーグ制である。  リーグ制導入に至った経緯としては、スポンサー企業・所属選手の増加によるものであった。  しかし、創成期のORGOGLIOは参入企業・選手共に少なくリーグが存在しなかった。  徒手対武器は当たり前に行われており、異種格闘技の究極として人気を博した。  だが死亡事故や刀剣を扱える機闘士マシンバトラーが少なくなり廃れていった。  更にはリーグ制の導入により、剣闘試合専門で闘うには厳しい環境となった。 「そこで父はナイト・デュエルを旗揚げしたんです」 「やるじゃん」 「少し前までのナイト・デュエルは人気があったんですが……」 「刀剣で闘える人自体が少ないものね」  ルミは、アンナが言っている事を理解出来た。  徒手格闘技の人気は確かにある。町を歩けば空手や柔道の教室があるくらいだ。  だが道具を使う格闘競技は、剣道・フェンシングを除いてマイナーなものである。  ORGOGLIOのように、選手を集めることが非常に難しい。 「そうなんです」 「武道格闘技といえば素手の技術と思ってる人が多いからね」  ヨーロッパで人気を博しているとはいえ、それは一部地域での限定的なものであった。  選手の高齢化により、剣闘試合専門で闘ってきた機闘士マシンバトラーも引退。  レベルも低下してきており、その人気に陰りが見え始めていた。 「対抗策として父は解雇された機闘士マシンバトラーを集めました」 「クビになったヤツらに剣の使い方を教えたのか」 「そうです。格闘能力の高い機闘士マシンバトラーに教え競技レベルの向上を目指しました」  選手がいないのならば育てればいい。考えたものである。 「父の努力の甲斐もあって、登場したのがヴィートなんです」 「あなたのお父さんが、手塩に育てて出てきたんですものね」 「彼が活躍してから人気も取り戻してきたんですが……」  その言葉を終えると、アンナの顔は曇ってしまった。  父の努力も虚しく、ヴィートはナイト・デュエルを脱退。  ASUMAと契約し、ORGOGLIOの舞台に復帰してしまったのだから。 「私、彼に会って説得したい……」  アンナの目から涙が流れていた。  ルミは無言でカミラを見る。何が言いたいか直ぐに理解出来た。 「わかってる……ヴィート・ムッソの居場所を突き止めればいいのね」

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