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 スタジアムは熱気に包まれる。いよいよ試合が始まろうとしていた。 「藤宮ルミ、よくぞ上がってきた」  声の主はMr.バオである。この試合での審判を務めるようだ。 「アンタか、よく審判で当たるね」 「ここからが本当のBU-ROADバトルが始まる。心しておくがよい」 「言われなくても」  ルミの動きに合わせて旋風猛竜サイクラプターも構えをとる。 「フェッ!審判さんよ贔屓判定やめてくれよ!!」  対する島原のガッチマンヘッド、同様に構えをとった。 「BU-ROADファイト……開始はじめッ!!」 ――ゴォーン!!  戦いの銅鑼は打ち鳴らされた。 「シュッ!!」  まず仕掛けたのはガッチマンヘッド。  左ジャブと右ローキックの基本的なコンビネーションである。  旋風猛竜サイクラプターはまともに受けずそのまま後退しながら下がった。 「ヘァッ!!」  それに合わせて、ガッチマンヘッドは後ろ回し蹴りを放った。 「単調だね」  旋風猛竜サイクラプターはサイドに回りながらこれも躱す。 「チョロチョロと動き回りやがって」 「アンタの芸はそれだけかよ」 「ならこれはどうかな?」  島原は腰を深く落とした。そして、前屈立ちの構えより右手を腰につけている。  そうそれは、空手の基礎稽古で何万回も行う正拳突きのフォームである。  余りにもバレバレの構えである。次の技は右正拳突きであろう。 「おいおい稽古じゃないんだ。そんな……」  〝ブースター発動ッ!!〟 ――ドォン!!  ガッチマンヘッドの両脚に取り付けられているブースターが作動した。  推進力により直線方向へと移動。間合いは即座に詰められる。  人間の動きでは不可能な動きである。 「チェストーッ!!」  〝双極分子流拳コンコルド・パンチ!!〟  正拳突きは見事、旋風猛竜サイクラプターの胸部へと叩き込まれた。  ブースターによる推進力と島原の空手力による合わせ技である。 「くっ……!!」  胸部にダメージを受けた旋風猛竜サイクラプターは後退する。  倒れはしないがまともに受けたのだ。ダメージがないはずはない。  ≪胸部機体損傷率39%≫ 「あ、あんなのありかよ!!」  試合の模様を見守る蓮也はそう言った。  ORGOGLIOでは、刀剣・火器・重火器の使用は不可である。  確かに武器類の使用ではない、がああいった機構は良いのか。 「ありっス、BB級ダブルバトルからはこういう戦いになります」  隣りにいる野室は静かにそう言った。  BB級ダブルバトル機闘士マシンバトラーの格闘能力だけでなく、機体の性能も問われてくるのだ。  セコンドにいる信玄は笑みを浮かべていた。 「ここからは、力持ちだけが勝つ世界ではないのだよ」  云わばB級シングルバトルでは、機闘士マシンバトラーの格闘能力が問われる。 BB級ダブルバトルに昇格するに値するかの格闘性が求められるからこそ、シンプルなノーマルカラーズのみの使用となる。  だが、BB級ダブルバトルからは違う世界になる。  各専用機の開発が求められ、機闘士マシンバトラーの技量だけでなく、ロボットの性能が問われるようになる。  何故ならば‟ORGOGLIO”は機械格闘技イベント。ロボット格闘技なのだ。  各機闘士マシンバトラーの能力と機体の性能が織り交ぜられることで、迫力のある試合展開となる。  ただの殴り合いだけでは、人々の支持は受けられないのだ。 「宇宙ロケット開発に携わる友人の協力を得て作ったガッチマンヘッドの性能はどうだい?」  そう述べたのは、信玄の隣に足を組んで座るハンエーの中台。  ハンエーの機体開発は、ネットサロンなどで知り合った企業家や技術者達の協力を得て製造された。  今回のガッチマンヘッドも、協力関係にあるベンチャー企業が複数集まって製作された。 「やるじゃないか、そんな動きは人間じゃあ無理だね」  ルミは再び構えをとる。  両手掌を朝顔のようにぱらりと開いた。〝水流れの構え〟だ。  そうすると画面上のモニターに野室の顔が映った。 「大丈夫か?」 「今は試合中だぞ」  今は試合中である。これからと言う時に水を差されたような気分だ。  野室はそんなルミをなだめながら言った。 「ウチらも、旋風猛竜サイクラプターの凄さを見せてやろうじゃないか」 「突然何を言ってるんだ?」 「まぁ聞きなよ。音声認証システムで作動する『おもしろ機能』を付けてみた」  おもしろ機能。野室は確かにそう言った。 「渦潮ストロームと言ってみろ」 「ストロームか?」  ルミがそう言った時である。両手掌がパカリと開き筒状のものが現れた。 ――キュイ―ンッ!!  それは吸引機であった。掃除機とかに使用されるアレだ。  スタジアム内にある埃やゴミが旋風猛竜サイクラプターに吸い込まれていく。  蓮也は吸引機構を披露する旋風猛竜サイクラプターを指差す。 「野室さん……これ意味あるの?」 「我が社の掃除機は凄い吸引力があるっていうアピールですよ」  野室はニヤリとしながらそう答えた。 「はっ!意味のない機能ですね!!」  相手側セコンド席にいる中台はそう笑いながら言った。  だが、隣にいる信玄は違った反応だ。 「マズイですな」 「えっ……?」  同じく控室のモニターで試合を観戦している角中も違った反応を見せる。 「間合いが強制的に縮められている。ミドルからロングレンジを得意とする島原君がベクトルを詰められると……」  星王会館に移籍し角中の指導により、近距離のパワー空手に転向した島原。  しかし変則空手スタイルを持ち味にしていた島原にとって、それは早急インスタントなものであった。  やはり長年慣れ親しんで来たスタイルを変えることは難しい。得意は間合いを取り相手の出方を伺う戦法である。 「クソ……機体がいうことをきかねぇ!」  島原は焦った。距離を詰められての闘いは正直まだ苦手だからだ。  だが無情にも、強烈な吸引力により旋風猛竜サイクラプターとガッチマンヘッドの距離がどんどん縮んでくる。 「今までのデータを見るとあの女は組み技が得意だ。このままじゃあ……」  額から冷や汗をかく。 「ヤケクソだ!ここは取り合えず殴り合いに……」  そう言って、ガッチマンヘッドがアップライトに構えた時である。  旋風猛竜サイクラプター渦潮ストローム機構が止まった。 「……という具合に解除することも出来る」 「なるほど」  轟音は収まった。渦潮ストロームが解除されたようだ。  島原の額から青筋が立つ。 (嘗めてるのかよ俺を、元BBB級トリプルバトルの俺をッ!!)  落ちたとはいえ、元BBB級トリプルバトルにいたのだ。それくらいの矜持はあった。 「フザけんじゃねェぞッ!!」  〝ブースター発動ッ!!〟 ――ドォン!!  ガッチマンヘッドはブースターにより上空へと舞う。  その時だ。モニター画面に信玄の顔が映った。 「いかん島原!冷静になれ!!」 「うるせェ――!!」  島原は信玄の言葉を無視し、ガッチマンヘッドは右脚を頭上に大きく掲げる。  その体勢はネリチャギ、つまりはかかと落としの形である。 「キェェェェェイ!!」  島原は猿叫する。 〝薩摩隕石打アルドノア・メテオ!!〟  強烈なかかと落としが、旋風猛竜サイクラプターの頭部へと向けて振り下ろされる。  当たればダウン間違いない威力がある。 「アホだな」  試合を観戦する元同門の伊藤は一言述べる。  島原の熱くなりやすい性格は相変わらずだと思った。 「相手の能力を見誤るのが、島原あいつの最大の悪癖だ」  〝渦潮ストローム発動〟 「ぬァにイイイィィィ?!」  旋風猛竜サイクラプター渦潮ストロームが再び作動した。  吸引力で空中で舞うガッチマンヘッドの体勢が崩れた。 「薩摩隕石打アルドノア・メテオがデキねェ……ならば!」  〝ブースター発動ッ!!〟  脚を天井に向けてブースター発動させた。頭から垂直方向へと落下する。  島原は右手を大きく引いた。正拳突きを頭部へと叩き込むつもりなのだ。 「スピード×出力=破壊力だぜ!!このまま脳天を試し割りのように……」  科学忍法火の鳥だといった具合にそのまま突っ込むのであるが……。  〝渦潮ストローム解除〟 「アホだね。敗因は機体の性能に頼り過ぎたことかね」 「フェッ!?」  急降下するガッチマンヘッドを旋風猛竜サイクラプターはひょいと横に交わした。 「し、しまっ……」  避けられたガッチマンヘッドの頭部は、固いリングに叩きつけられるのは必然であった。  ≪ヘッド機体損傷率100%≫  ≪島原駿明……KO!!≫  ガッチマンヘッドは床面に深々と突き刺されてKOダウン。  控室で戦況を見守っていた角中は戦評する。 「島原君……君の敗因は『相手の能力を見誤る』『機体の性能に頼り過ぎたこと』以外にもう一つあります」  角中はメガネをキラリと光らせる。 「頭が悪すぎた……」 ○ 中層リーグ:BB級ダブルバトルワンマッチイベント “帰ってきた肉食系鳥人キッカー” 島原駿明 スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:ガッチマンヘッド スポンサー企業:ハンエー VS “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜サイクラプター スポンサー企業:シウソニック 勝者:『藤宮ルミ』

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