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「怪獣はヒーローに倒されるだァ?」  砂武は半笑いしながら言った。これまでの試合進行はゴラスが圧倒的に押しているからだ。  このままパワーで貧弱な恐竜を踏みにじる気満々だ。  砂武は強く言いたい『怪獣は強いのだ』と。  一方、旋風猛竜サイクラプターは極端に深く腰を落とし、手は床面につけている。 「お前は確かに強い。だが、ゴリ押しだけじゃあ乙女のハートは掴めないよ」 「はっ?意味わかんね」 「に注意しな」 「だから意味がわかんねェって……」 「さっさと来いバカ」 ――プツン  砂武はキレた。その怒りはさながら大怪獣のような猛々しさがあった。 「そんなにぶっ飛ばされたいか!」  モニター画面にトレーナーである粕谷が映った。 「砂武!相手は何かする気だ。頭を冷やせ!」 「冷やす前に溶かしちまえばいいンすよ!!」 ――ギュイーンッ!  ゴラスはその場で小さい円を描く。 ――ギュラララッ!  だがその円は……。 ――ギュラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ッ!  徐々に大回転を始めるのであった。 「の、野室さん!?」  蓮也はこりゃマズいという表情だ。  大昔見たスーパーロボットを彷彿させる超高速回転、何か大技が出すに違いないと思った。  野室はボーッとその光景を見たままだ。 「大丈夫です。を教えてやりましょう」  ボソッと小さい声で言った。 「オラーッ!いくぜッ!!」  超高速大回転の中、砂武は自らのフェイバリットホールドを叫んだ。  〝黒洞大散惑星脚ブラッキーファントム!!〟 「ドッカーン!!」  錐揉み回転のバックスピンキックである。  ゴラスの出力パワーと超高速回転の遠心力で当たれば大破壊KO間違いない。  一方のルミは腰を高く上げて普通の立位姿勢になった。手は腰に当てるだけだ。  余裕の表情である。 「手を腰に当てて力道山ポーズかよ!潰れな!!」  砂武は間合いとタイミング見計らい、右大腿部を高く上げて蹴りの体勢を作った。  上げた膝を伸ばし、旋風猛竜サイクラプターの腹部へとインパクトさせようとしていた。  もう終わりか、スタジアムにいる観客達の殆どがそう思った。 「ところがどっこい!」  ルミは不敵な笑みを浮かべて言った。  砂武は足元に違和感を感じた、何故か足が滑る。  まるで路面が凍結しているような……。 ――に注意しな。 「ま、まさか?!」 ――ツルル! 「ぐお?!」  ルミの忠告の意味をようやく理解した、路面が凍結していたのだ。  ゴラスの高速回転に、床面の摩擦力も加わることで遠心力はより強固となる。 「ぐわあああッ!!」  そして、ゴラスはトリプルアクセルの如く回転したままスタジアムの壁へと激突した。 「だから言っただろ。路面凍結に注意しろって」  派手に壁に激突したゴラスを見て、ルミは静かにそう呟いた。  セコンド席にいる蓮也は、旋風猛竜サイクラプターの前方約10m範囲の床面が凍結していることに気付いた。 「いつの間にか床が凍っているじゃないか」 「ちゃんと説明書を読んでくれたみたいだね」  野室は眠そうにストローでドリンクを飲んでいる。  そんな野室を見て蓮也は尋ねた。 「な、何だよありゃ」 「梨畑さんの協力を得て搭載した冷却装置〝氷満象アイスマンモー〟です」  ○ 冷却装置・氷満象アイスマンモー  商品開発部・北海道支部担当から本社顧問に転属した梨畑孝昌なしばたけたかまさが主導して開発した冷却装置。  北海道にいた頃より開発がスタート。その理由として、新鮮な魚介類を瞬時に冷凍することでより美味しい海の幸をご家庭に届けるためである。  この冷却装置は、地元の漁業組合や食品メーカーではかなり好評となった。  野室はこの装置を旋風猛竜サイクラプターに搭載。射程範囲は狭いが物体を凍らせることが可能となった。 「何れはあの装置を食品加工用だけでなく、冷蔵庫に搭載したいって梨畑さん気合入れてましたよ」 「二原さんが強い推薦してた理由がわかったぜ。キチンと社内の人材は見なきゃならんな」  蓮也と野室が会話する中、壁に激突したゴラスの操縦者である砂武は全身に痛みがありながらも立ち上がってきた。 「ゴラスは雪国仕様じゃねェんだ、ちったァ考えろ」 「いやだから路面凍結に注意しろって言っただろ」  審判であるリリアンは試合続行を宣言する。 「続行ッ!」 ――ウオオオォォォッ!!  怪獣王の姿を見て観客は歓声を上げる。 「あんたもタフだね」  ルミは立ち上がってきた砂武を見て言った。  彼をファイターとしてある意味尊敬を持ち始めていた。 「俺を嘗めんじゃねーぞ」  ゴラスの上下肢や胴体部は破損し放電している。  機体のあちこちから出る焦げた匂いが、スタジアムを包んでいた。 「まだれそうだね」 「当たり前田のクラッカーッ!!」 ――ギュイイィーン!!  ゴラスはセクター29を再び起動させ突進する。  だが旋風猛竜サイクラプターは後ろを向き、試合場を後にしようとした。  その姿を見てリリアンは注意する。 「試合はまだ終わってないわよ」 「いや……もう終わったよ」 ――グアシャン!! 「お、俺は……怪獣……」  ゴラスは突進するも盛大に転倒して、旋風猛竜サイクラプターを横切った。  機体が限界だったのだ。ゴラスのあちこちから黒い煙が出ている。  審判機はその場に駆け寄り機体の状況を確認。ゴラスの機能停止を確認する。 「破壊確認致しました」  審判員は右手を天に掲げて高らかに宣言した。 「WINNER!藤宮ルミ!!」 ○ 中層リーグ:BB級ダブルバトルワンマッチイベント “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜サイクラプター スポンサー企業:シウソニック VS “となりの怪獣王” 砂武天翔 スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:ゴラス スポンサー企業:ハンエー 勝者:『藤宮ルミ』  旋風猛竜サイクラプターはゴラスを横切る。ルミは砂武に声をかけた。 「あのゴラスが最後の一体とは思えない。もしBU-ROADバトルが続けて行われるとしたら、あのゴラスの同類がまた世界の何処かに現れて来るかも知れない……」  ルミはゴラスに向け投げキッスをした。彼女なりの労いのポーズだ。 「なんてな」 ・ ・ ・  試合終了後、中台は控室で悔しそうな顔で地団駄を踏んでいる。  期待の機闘士マシンバトラーがライバル視するシウソニックに負けたからだ。 「く、悔しい!星王会館のファイターは何やってんだよ!!」 「そ、そう言われましても……」  砂武の専属トレーナーである粕谷は視線を逸らすのみである。 「そうだウラノスだ!!ウラノスをあいつにぶつけよう!!」 「ウラノスはBBB級トルプルバトルです。それに対戦相手はWOAが決定します」 ――トゥルルル……  スマホが鳴った。粕谷のものである。 「失敬、一旦失礼します」 「早くしろよ!」  スマホを取ると粕谷は控室を出た。 ・ ・ ・  一方、ここはとあるビジネスホテルの一室。  このホテルは星王会館の関係者が経営している。  スマホで通話しているのは昴である。その眼は鋭い。 「粕谷さんですか」 『昴か。なんだ』 「試合はどうでしたか?」 『負けたよ』  それを聞いた昴は残念そうな表情をした。 「それは残念です」 『話はそれだけか?」 「いえ実は……」  黒装束を着た男が後ろを縄で縛られ拘束されていた。  顔や体にはあちこちにアザが出来ている。集団暴行を受けたのだ。 「スターハンターを捕らえたんですよ」 『それは本当か?!』 「ええ……一応ご報告の意味でお伝えしました」 『そうか。これで安心だな』 「ですね。じゃっ……また後で」  昴はそう言うとスマホをポケットに入れ、スターハンターの元へ近づいた。 「何か言いたいことはあるかい。」 「昴……」  そうスターハンターの正体は秋山亮であった。  彼はゲオルグに受けたケガの影響で卒論が期限に間に合わず、親に金を借り指導教員に渡そうとしたが厳格な人物で断られてしまった。  そのため留年となり、ブジテレビへの就職は断念。  大学は卒業し、地元の商社に就職するも肌が合わず1年で退職した。  その後はフリーターのような形でブラブラする生活する日々。遂に親から三下り半をつけられて家から追い出されたのだ。 「怨むのならゲオルグさんでしょう」 「お前に何がわかる。大企業のコネを持つ葛城や他のヤツらに就職の斡旋を頼んだのに『自分で何とかしろ』とか言いやがるからだ」 「情けない。ここまで落ちぶれるとは」  かつての先輩の転落ぶりに呆れるしかなかった。 「俺をこんなところに閉じ込めてどうするつもりだ…さっさと警察へ突き出せ」  秋山は星王会館の門下生達から制裁を受けた後、このホテルの一室に閉じ込められた。  今は昴と秋山の二人だけである。 「ダメです。師範の腕を折った罪は大きい」 「師範……角中さんのことか?待て……あの人だけはやっていない!」  その言葉を否定するように、昴は秋山の顔を殴った。 「うぐ……」 「ウソを言うな!」 「ウ、ウソじゃない……あの人だけは俺を心配してくれていた」 「一体どういうことだ」

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