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 スタジアムは異様な雰囲気に包まれる。  おどろおどろしいBU-ROADが登場したからだ。 「何だよアレ……すっげぇ不気味」 「アルギルダスって、どんな機闘士マシンバトラーだ」  オーロラビジョンに選手の顔が映り込む。  金色の髪に雪肌。まるでファンタジー世界から抜け出したような美青年。  機体と操縦者とのコントラストが逆に神秘性を演出していた。  スタジアムを訪れている女性ファンからは黄色い声が漏れる。 「何あの人!?チョーかっこよくない!!」 「まるでファンタジーの住人みたいね」  女性ファンが感嘆する中、マニアックなORGOGLIOファンの男性が呟く。 「毘沙門館側は、破壊屋こわしやのアルーガを出したか……こりゃ鉄と油の匂いで満たされるぞ」 ○ BB級ダブルバトル団体戦:毘沙門館VS星王会館・次鋒戦 “蒙古の空手魔術師” エルデ・ガラグメンデ スタイル:星王会館空手 バランス型BU-ROAD:ベルウルフ スポンサー企業:ハンエー VS “里都亜尼亜リトアニアの魔拳士” アルギルダス・モリカ スタイル:毘沙門館空手 バランス型BU-ROAD:骸童子 スポンサー企業:フリー  無駄な睨み合いはなく、お互い相対するのみの淡々としたものだ。  先鋒戦とは違い、静かな立ち上がりである。 『アルギルダス・モリカ……私の手元に彼を紹介する資料がございます!』  実績のあるエルデとは違い、無名に近いアルーガの説明を遠藤は行う。 『リトアニア、シャウレイ出身!毘沙門館リトアニア支部の小さな町道場で空手を学びました!!格闘技の実績は、2×××年毘沙門館世界大会軽量級3位!2×××年欧州修斗大会フェザー級優勝!BU-ROADバトルは、イレギュラーリーグのクロアチア〝ミルコジャガー〟や沖縄〝デニーオーシャン〟に所属していたとのことです!!』  アルーガの経歴を聞いた観客達の反応は様々である。 「何か……ビミョーだな」 「毘沙門館は層が薄いからなァ」  ライトなファン層からは微妙な声が上がった。  だが、コアなファン層は違った反応だ。 「イレギュラーリーグ出入り禁止の機闘士マシンバトラーだ!」 「どんな破壊技を見せてくれるか楽しみだぜ!!」  無名の実力者の試合を楽しみにしている様子である。  ライトとコア……相対的な感想と反応を見せ、独特な空気が流れる。  そんな空気感がありながらも、審判のMr.バオは自分の仕事を淡々と続ける。 「BU-ROADファイト……開始はじめッ!!」 ――ゴォーン!!  銅鑼が打ち鳴らされる。  静寂が包まれる中、両雄はオーソドックスな組手構えだ。  ジリジリと間合いを詰める両機体。  先に仕掛けたのはアルーガだ。鋭く早い前蹴りを放つ。 ――ガキッ!  エルデのベルウルフはこれを難なく受け止める。  開手で前の手を腹の前、奥の手を真っ直ぐ貫手で前に出すその姿勢。  〝尾麟の構え〟と呼ばれる独特の構えであった。  続いて更に間合いを詰めるベルウルフ。構えが即座に変更される。  開手で左右の手を胸と腹の前で重ねるように構えた。  〝龍変の構え〟と呼ばれ、これもまた独特の構えである。  間合いを詰められた骸童子は、素早く順突きを放つことで距離を取ろうとするも……。 ――パシッ!  内廻し受けで攻撃を捌かれ……。 ――ドカッ!≪胸部機体損傷率37%≫  綺麗なカウンターの中段突きが炸裂する。  型稽古のような一連の攻防が繰り広げられ観客は歓声を上げる。 『これぞ空手道!スポーツ空手ではない美しすぎる空手だ!!』  星王会館の控室では、戦況を見守る昴が感心した様子で語る。 「クラシカルな空手だね。教本でしか見たことないよ」 「あれが“蒙古の空手魔術師”だべ」  ヌッと横に並んだのは“強襲の巨人”シーム・シュミットである。 「彼の空手技術は、そこいらの空手家じゃ及ばないほどのものがあるべさ」 「なるほど……だから魔術師の異名があるのか」  エルデは正火流から星王会館に移籍したには訳がある。  純粋にのだ。  それは古流、現代空手の垣根を越えてのもの。  現代空手を経験することで、より自分の空手道を磨きたかった。  その道の探求は彼が最初に始めた〝相撲〟の影響が強い。  勝ち負けに拘るのではなく、人間を磨くこと。  『心・技・体』の具わった人物になるのが目標だ。 「空手に拘っているね」  一方、スタジアムで試合を立ち見する威場はそう呟いた。 「ウチを辞めてに所属したと思えば、今度は星王会館へ移籍……節操のないヤツだ」  その隣には、団体のTシャツを着た岩のような体をした男が並んでいた。  三宅一生――リングネームはキラウエア三宅。  正火流出身のプロレスラーである。 「相撲崩れなのに、空手に拘るなんて理解出来ないね」 「空手出身ながらプロレスに拘った君とよく似ているじゃないか」  威場は三宅に笑いながら皮肉を言う。  三宅が過去に出場した毘沙門館の大会で、プロレスの〝受けの美学〟に徹するあまり負けた試合のことを取り沙汰したのだ。 「そ、それは」 「ハハハ!まァ試合をじっくりと観戦しようじゃないか」  試合場では、骸童子が華麗なるエルデの空手技に翻弄されていた。  踏み込んだところを猫足中段前蹴りでのカウンター。  突いたところを横に捌かれての下段蹴り。  組み付こうとしたところを弧拳で顎を打たれる。 『何という教科書通りのクラシック空手だ!』  遠藤の実況で盛り上がる中、ベルウルフに乗り込むエルデはボソリと呟く。 「そろそろ違う引き出しも見せるか……」 ――ガキッ!≪右大腿部機体損傷率22%≫  変則の下段蹴りが炸裂した。  踵部で骸童子の奥足、右大腿部を踏みつけるように蹴ったのだ。 『ヴァレリーキックだ!!』  遠藤がそう実況する。  新極真会ブルガリア支部ヴァレリー・ディミトロフ選手が得意とした特殊な下段踵蹴りのことである。 「……ッ!」  踵という固い部分で、奥足を蹴られた痛みにより動きが止まる。  ベルウルフは追撃の一撃を放つ。 ――バカッ!≪頭部機体損傷率39%≫  相撲仕込みの鉄砲を顔面に叩き込んだ。  骸童子はその衝撃で数メートル吹き飛ばされてしまった。 『つ、突っ張りだーっ!!』  遠藤の実況に対しエルデは不服そうな顔だ。 「突っ張りではない……掌底だ」  毘沙門館側の控室では、ワザとらしく山村が慌てた様子を見せる。 「ありゃりゃ……一方的な展開だ。次鋒戦は負けですかね」  それに対しフッと息を吐きルミは言った。 「大根演技だね。アンタも見えていたんだろ?」  ルミの問いかけに対し、山村はキツネのような顔で答える。 「ええ……彼の魔拳士と呼ばれる所以ゆえんが見れますよ」  試合場ではライトな観客達が野次を送る。 「おいおい!ありゃダメだな!!」 「顔だけが売りならアイドルデビューした方がいいぞ!」  女性の観客達から黄色い声援が送られる。 「アルーガくんファイト!」 「ここから反撃よ!!」  その女性観客達の中にカミラの姿もあった。  カミラの隣には、間宮蒼ファンクラブ会長の姿もある。 「新しいアイドル戦士が誕生した瞬間ね」 「ええ……」  カミラは少し放心状態だ。そんな彼女に会長は優しく語りかける。 「会員№8……蒼様へのガチ恋は禁止よ。結婚したとしても、彼の幸せを祈りましょうよ」  カミラの手には、今週発売された週刊誌が握られていた。  その記事に、蒼とモザイクをかけられた柚木のツーショット写真が掲載されていた。題名は次の通りだ〝人気機闘士マシンバトラーの間宮蒼に恋人?!〟と。 「おっとボーッとしちゃダメね!アルギルダス・モリカ様の経歴を検索よ!!新しいファンクラブを結成しなきゃ!!」  会長はそう述べると、通信携帯機を操作しアルーガを調べ始めた。  もう彼女の頭の中は、蒼や試合のことはどうでもよくなっている。  さて、試合場の方ではベルウルフの動きが止まっていた。  エルデの左小指から痛みが出ていたのだ。 「ぬぐ?!」  よく見るとベルウルフの左小指があらぬ方向に折れ曲がっている。  動揺するエルデに対し、骸童子から不敵な笑い声が漏れた。 「ハハ……少し調子に乗り過ぎたようだな」  最後の掌底を放った瞬間、瞬時に左小指を掴みへし折ったのだ。 「お遊びは終わりだ」 「……!」  アルーガがそう述べると、骸童子の両手が螺旋状に回転し始めた。  彼の破壊屋こわしやとしての本性が解禁されようとしていた。

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