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「何それあなたのお母さん滅茶苦茶ね」 「いや全くだよ。犬○家の一族か、ワケわからんマスク男と結婚しろだなんてさ」  テーブルにはビールやワイン、そして料理類があった。  どうやら二人だけの年越し女子会が始まったようだ。気付けばもう10時を過ぎようとしている。 『つ、強い!強すぎるぞウラノス!!堂々の準決勝進出だ!!』  大画面のテレビには『BBBB級クアドラプル超武闘祭』の映像が流れているが、二人はもう番組を見ていない。 「ところで小夜子さんは結婚とかしないのか。一人でこんな部屋じゃ寂しいだろ」 「と、唐突に何よ」  女っ気のないルミからそう言われたことに驚いた。  上下関係という概念が微塵もない彼女から、お構いなしに質問される。 「好きな人いるかなと思って」 「え、えーっと……それは」 「いるんだな」 「い、いるわよ!!」  二人はお酒のせいもあってか、酔い始めてぶっちゃけトークが始まろうとしていた。 「なるほど、忙しそうな小夜子さんのことだ。きっと仕事関係の人だな」 「な、なんでわかったの」 「闘いは将棋みたいに、相手の心境を読まなきゃならないからね。それを繰り返すうちに、何となくわかるもんなんだよ」  ルミはそう述べると皿にある唐揚げを一つまみした。  そんなルミを見ながら、グラスを片手に小夜子は悩みを告げた。 「好きって……なかなか言えないものね」 「女子高生じゃあるまいし。言わなきゃ伝わんないよ」 「簡単に言わないでよ!私が好きな人は、あんたのところの蓮……」  小夜子は急いで口を閉ざした。危ない、もう少しで言いそうだったからだ。  ルミが知ってか知らずか、とぼけたような態度をとったからだ。  きっと蓮也はモテるだろうから、この女もあの人のことが好きなはずだと一方的に思い込んでいた。 「なんだ、あのアスパラのことが好きなのか。あんなのどこがいいんだ。変な髪型の眉なし悪党面だ」 「彼の魅力がわからないの?!」 「フフフ……」  ルミはニヤリとしている。どうやら引っ掛かってしまったようだ。 「あ、あなたハメたわね」 「やっぱりそうか。あのイタ飯屋で一人気合入った格好してるからおかしいと思ってたんだ。それにアスパラを舐め回すように見てたからな」 「わ、私は……」 「よっしゃ、今から呼んできてやるよ。そして、さっさとセッ○スしてデキ婚したらいい。芸能人どもがやってるから別に構わんだろ」 「あ、あなた、なんて下品な!」  小夜子の動揺を楽しむかのように、ルミはスマホを取り出した何やら番号を押している。 「お、お願い!やめて!やめてったら!!」 「だったら事の馴れ初めを聞かせなさい」 「わ、わかったわよ」 ・ ・ ・  それは小夜子が高校生だった頃、祖父や父と一緒に参加した異業種交流会のパーティーでの出来事である。 「はァ……つまらないパーティーね」  無理矢理、祖父や父に連れてこられた小夜子は退屈していた。  連れてこられた理由として飛鳥馬家の一員だからだろう。  将来へ向けての投資である。  飛鳥馬家の令嬢と言っても、彼女はまだ女子高生だ。楽しいはずがない。 「おじさんばかりね。まっ王子様なんて、ドラマみたいに都合よくいやしないけどね」  周りは自分より一回りも二回りも年上の男性ばかりである。  それに……。 「いやァお嬢さん可愛いですね。これでも私はベンチャー企業の……」 「スポーツカー10台も所有しているんですよ。もしよかったら連絡先を……」  このように若い企業家がいたとしても、見てくれだけで中身ペラペラの男性ばかりであった。  何人もの男が下心丸出しで近づき、体よく断り続けた。そんな中、一人だけ肉食系のIT企業の若社長が壁ドンをしながら迫って来たのだ。 「確か君は飛鳥馬家の令嬢だったね。よかったらボクと結婚を前提に付き合わない?」 「や、やめて下さい!」 「そんなこと言って、本当は嬉しいんだろ?顔に書いてるよ。イヤよイヤよも好きのうちってね」  男はテレビや雑誌に取り上げられるような男だった。  黒いスーツに髪を整えており、一見するとホストかヴィジュアル系バンドマンに見える。  顔立ちは良いのだが、溢れ出る女癖の悪さを醸し出していた。 「本当にやめて下さい!」 「怒った顔も可愛いね。さァボクと一緒にここから出て……」 「いい加減にしろ。ここは婚活パーティーじゃねェんだぞ」  嫌がる小夜子を見かねて、尖がり頭の男が止めに入ったのだ。 「子供にガチ口説きはいかんだろ。常識的に考えて」 「なんだキミは!」 「なんだキミはじゃねーだろ。それよりなんだその恰好、おめぇ企業人ってより芸能人じゃねーか」 「失礼な人だね、君みたいなイカれた髪型をしたヤツと一緒にしないでくれよ」  その一言に尖がり頭の男はキレてしまった。 「このホストもどきめ!紫雲家の伝統ある髪型をバカにするんじゃねェ!!」  バチン……。  男の整った顔にアントニオ猪木ばりのビンタをしたのだ。 「オ、オヤジにも殴られたことがないのに……」 「殴って何が悪い」 「こ、これでもボクは空手をやってるんだぞ。修正してやる!!」 「おい、そこの娘ッ!!」  蓮也は男のことを無視し、傍にいた小夜子の顔を見た。  その眼は血走っていた。冷静でないことは確かだ。  ちょっと怖かったが、彼は諭すようにこう言った。 「昨今流行りの令嬢だか知らんが、お姫様気分で一人ほっつき歩いてんじゃねェぞ!ここは戦場なんだバカヤロウッ!!」  蓮也はそう述べて、チャラ男との乱闘が始まった。  もちろんパーティが滅茶苦茶になったのは言うまでもない。 ・ ・ ・ 「それだけ?」  ルミは小夜子の顔を見ながら言った。 「それだけ」  小夜子もルミの顔を見ながらそう答えた。 「いやまァ、途中までは恋愛ドラマっぽかったからわかる。でも、それだけであいつを好きになるか」 「蓮也さんは『真剣に私を叱った初めての親族以外の男性』だったの。好きになるには十分すぎるでしょ?」 「そ、そうですか」  ルミは『変わっているな』と思った。  変わっているのはルミも同じなのであるが、通常人というものは自分は普通であると思い込んでいる。  どちらもお互いを変わり者であると思いつつ、大晦日の夜が終わろうとしていた。 「あなたはいいわよね。許婚いいなずけがいるんですもの」 「ワケわからん、スケキヨもどきと結婚できるか!」 「何言ってるの。早いうちに結婚した方がいいわよ、ルミはんだから」 「女っけないのは余計だ!」  今までルミのペースだったが、今度は小夜子のターンだ。年上の女性に翻弄され始めた。 「素顔は案外イケメンかもしれないわよ」 「ザクロみたいな顔だったらどうする」 「男は顔じゃないわよ」 「あんたに言われると納得せざるを得ない」 「どういう意味よ」  暫くお互いの顔を見合った。そして、不思議と二人からクスクスと笑いが起こる。  そうして穏やかな雰囲気になった時だ。 『優勝はウラノス選手!初優勝オメデトウ!!感動をアリガトウ!!』  テレビでは『BBBB級クアドラプル超武闘祭』の放送が終わろうとしていた。 「あら、今年の超武闘祭もいつの間にか終わったようね」  それを合図に小夜子はテレビのチャンネルを変える。  そこには、ゆく年くる年が流れていた。 「もうこんな時間ね。今日は泊っていきなさい」 「いいのか?」 「今日は久しぶりに楽しめたわ。そのお礼よ」  そう述べると小夜子は満面の笑顔を浮かべるのであった。 ・ ・ ・ 「やっと完成に近づいたな」  シウソニックの整備工場で作業着姿の男が汗を拭い、年越し蕎麦を食していた。  蕎麦といってもコンビニで買ったカップ麺ではあるが、男にとってはそれで充分であった。  男の名前は野室陽彩。ORGOGLIO事業部長である。 「へェ~このウラノスって選手が初優勝か」  野室はテレビで優勝トロフィーを掲げるウラノスを見ていた。  剣闘奴隷風の服装に鉄仮面を被っている。まさに古代戦士といった雰囲気だ。 「ウチも頑張って、『BBBB級クアドラプル超武闘祭』に出場できるまでになりたいね」  野室は蕎麦をすすり、昆布のダシ汁を飲み干すと布に被された立体物を見た。 「旋風猛竜サイクラプター……早く動くところがみたいな」

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