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 ――星毘戦争の開幕。  BB級ダブルバトルの試合になるが会場にはファンや関係者、マスコミ各社が大勢集まっていた。 「……」  蒼は毘沙門館選抜メンバーがいる控室まで歩いていた。  あの調印式から1週間が経った。  その間に一部大衆雑誌やネットで様々な情報が流れた。  自分と柚木の関係である。  流石に一般人である柚木は名前と顔が伏せられていた。  しかし、自分の本姓が『鬼塚』であることがバレてしまっていた。  そこまではいい。  亜紅莉の存在までも報道されていたのだ。  新進気鋭の画家であること、その才能を毘沙門に発掘されたこと……。  だが、これ以上詮索されてはあのことがバレてしまう。 「何としてでも護らねば……」  蒼は深刻な顔となる。 (兄やん……お願いやから行かんといて)  試合当日に亜紅莉に言われた言葉だ。  理由を聞くとこう答えた。 (嫌な予感がする)  蒼は笑って答えた。 「大丈夫さ」  そうこうするうちに控室に着いた。  ドアノブを開けるとルミ、伊藤、アルーガの姿がある。  伊藤は毘沙門館の道着に着替えていた。 「遅かったじゃないか」 「ごめんね。ところで館長は?」 「ちょっと遅れるとよ」  謙信は伊藤達とは別に特別訓練に参加するため、あれからずっと会っていないらしい。  試合には間に合わせるとのことであった。  ルミが蒼の傍まで寄って来た。 「試合順は高橋のおっさんが決めたみたいだ。頼むよ副将さん!」  控室にはホワイトボードがあり、試合順と対戦相手が書かれている。  どうやら予め決まっているようだった。  副将戦――その対戦相手はこう書かれていた。 「高橋昴か……」 ・ ・ ・ ――バトルスタジアム【サムライコロシアム】  実況席にて座る男は遠藤一郎。  『毘沙門館オープントーナメント全関西空手道選手権大会』の実況を務めた。 『よもや再び実況をするとは思いませんでした!』  彼はそう語った。あの大会から約5年の月日が流れた。  不思議な大会だったのは何となく覚えている。  決勝が毘沙門館の空手家ではなく、齢50歳の武道家と異国の武道家だった。  結果的には、ルミの父である魁道の優勝となったが威場や詠の乱入ありと興行的だった。  云わば曰く付きの大会。  あの大会を契機に関西では毘沙門館のブランドが急落。  そして、葛城信玄は新空手ブランド星王会館を立ち上げた。  それ以降、星王会館は破竹の勢いだ。  他流派への挑戦、プロ格闘興行の発足、テレビ出演。  ――そして、ORGOGLIOに参加と僅か数年で全国、いや世界規模の格闘団体と成長しつつあった。  一方の毘沙門館は3年前に岡本毘沙門が逝去してからは凋落する。  相次ぐ看板選手や幹部達の離脱、組織内の分裂により国内及び世界での支部道場が激減。  ORGOGLIOに参加するも結果が出せないでいた。所謂『オワコン』になろうとしていた。 『毘沙門館と星王会館……ライバル同士の一戦であり、旧勢力と新勢力の決戦ッ!』  遠藤はマイクを握り叫んだ。 『こりゃ現代の川中島と関ヶ原だァーーッ!!』  スタジアム内の観客達も興奮の声を上げる。 『一粒で二度おいしい団体戦!まずは星王会館より選手の入場だッ!!』  オーロラビジョンにPV映像が流れる。 ――獰猛なカナリアがやって来た。 「我が一族の中で最も危険な男だ」  褐色肌の格闘家がそう答える。彼の名はデクソン・ダ・オルモ。  何でもありバーリトゥード界のレジェンドである。 「孫には毘沙門館に戻って来て欲しい」  今度は老人が出て来た。彼の名はカーリオ・ダ・オルモ。  毘沙門館ブラジル協会の会長であり、南米空手界のレジェンドである。 ――路上やビーチでの喧嘩沙汰数知れず。  ブラジル・サンパウロに在住。   雑貨屋を営むジェフィニ・ヴィアナさん(56歳)は語る。 「あたしゃ知ってるよ。本当はいい子なんだよ、でさ」 ――試合実績……。  〝2×××年・毘沙門館・サンパウロ大会 投げ技による反則負け!〟  〝2×××年・毘沙門館・南米地区空手道選手権 顔面殴打による反則負け!〟  〝2×××年・ノヴァボーザ柔術南米選手権 金的蹴りによる反則負け!〟 ――南米の喧嘩十段。  サンパウロ市警のグラウベ・フレイタス警部(45歳)は語る。 「いい加減アイツを止めてくれ!そのうち射殺しかねん!!」  遠藤は星王会館側の選手名をコールした。 「ファイアン・ダ・オルモ選手の入場ですッ!!」 ――プシューッ!!  デスメタル調の音楽が流れる。  そして、レッドワイバーンのゲートからスモークが焚かれた。 ――ギュイーン!!  まもなく、カナリアンイエローのBU-ROADが飛び出した。  “南米の喧嘩十段”ファイアン・ダ・オルモの専用BU-ROAD……。  ガッチマンヘッドの兄弟機『カナリアンヘッド』の登場である。  星王会館の先鋒はファイアン・ダ・オルモ。  ブラジル出身の24歳。ルール無用の喧嘩修斗ファイターだ。 『続きまして……毘沙門館より選手の入場だ!!』 ――それひょっとして空手なの?  劇画の一コマが流れる。  高橋夏樹をモデルにした漫画の主人公であった。  名前は『松山英光』荒っぽくも涙もろい。 ――そんなあなたを目標にしていました。  『チェリヤー!!』  若き頃の夏樹の演武が流れる。  傍らには笑顔で見守る毘沙門がいる。 ――‟円の組手の伝承者”。  画質は悪いが中学らしき若い空手家の練習風景が流れる。  帯はまだオレンジ色だ。  10級……昇級したばかりであろう。  映像は変わり、今度は高校生らしき若い空手家の試合映像だ。  茶帯である。試合は息が乱れながらも突きの連打でKO勝ち。  またも映像は変わる。黒帯同士の組手の映像だ。  角中と誰かが互いに一進一退の攻防を繰り広げている。 ――毘沙門館救世主伝説……ここに連載! 「私の自慢の弟子です」  場内の往年の格闘技ファンが歓声を上げる。  瘦せ細ってしまったが、そこにはかつての空手スター高橋夏樹が映っていた。  表舞台に出るのは数年ぶりである。 「伊藤二郎選手の入場ですッ!!」 ――ガシャン!  演歌調の音楽が流れる。  ブルーライガーのゲートから機械音が流れる。 ――ガシャン!  闘牛の模した造形、カラーはオレンジ色だ。  夏樹の故郷である愛媛県の名産『温州みかん』を連想させる。  ORGOGLIOファンは驚く。  そのBU-ROADはゲオルグが乗る『崩山』によく似ていた。  だが違う。  これは崩山のプロトタイプをカスタマイズした専用BU-ROAD『砕波さいは』である。 「誰だよあのおっさん?」  電光掲示板に伊藤二郎の顔が映る。  若い格闘技ファンは伊藤や夏樹のことを全く知らない。 「時代錯誤だね、ファイアンに勝てるわけねーじゃん。自由な戦いルタ・リーブリの大会で優勝しまくった本物だぜ」  バカにしたような口調だ。  その時だった。後ろから椅子をガンと蹴られた。 「だ、誰だ?!」  後ろを振り向いた瞬間だった。若い男にコーラが浴びせられた。 「ギャー!め、目が目がァ?!」  炭酸飲料が目に入り悶え苦しむ。  何者かにグイと胸ぐらを掴まれた。   「ウチの旦那を嘗めんじゃないよ」  彼女は伊藤礼華れいか(31歳)職業はこれでも看護師である。  毘沙門空手三段。世界選手権では女子の部で優勝した経験を持つ。 「す、すいません」  若い男は、礼華の圧に押され平謝りするしかなかった。 「パパーがんばれーっ!」  礼華の隣で声援を送る少女は伊藤麗奈れな。  今年で小学2年生だ。 ○ BB級(ダブルバトル)団体戦:毘沙門館VS星王会館・先鋒戦 “南米の喧嘩十段” ファイアン・ダ・オルモ スタイル:星王会館空手 スピード型BU-ROAD:カナリアンヘッド スポンサー企業:ハンエー VS “円の組手の伝承者” 伊藤二郎 スタイル:毘沙門館空手 パワー型BU-ROAD:砕波 スポンサー企業:ASUMA 「ブッ潰してやるぜ!」  ファイアンはそう言うと、カナリアンヘッドの額を砕波の額へ押し付けた。  伊藤は怯まず、逆に押し返しながらこう切り返した。 「そりゃ俺の台詞だボケ」  二人のやり取りにスタジアムは湧いた。  先鋒戦に相応しい闘いの幕開けであった。

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