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「今日は蒼様の一戦よ!」 「ゴリラファイターばかりでウンザリしてたのよね」  バトルスタジアム【サムライコロシアム】でワンマッチイベントが開催される。  間宮蒼VSコリー・リッチモンドの一戦だ。今回は珍しく若い女性客が多い。  スタジアム内は女性ファンの熱気で包まれていた。 「凄い人気だな」  ルミはテンション高い女性ファン達を見ていた。蒼がアイドルや俳優並みの人気があることに驚いている。  若干引き気味のルミを見て、小夜子は通信携帯機を取り出し蒼のファンクラブ公式ページを見せる。  画面にはTシャツや団扇などのグッズが映っていた。 「ASUMAでは彼のグッズを販売していて売り上げは好調よ」 「うわァ……写真集もあるのか」 「ルミも買ってみる?」 「いらん」 ――パチン  スタジアム内の証明が消えた。  試合が始まるのだろう。軽快なJ-POP長の音楽が流れる。 「蒼様よ!蒼様がご降臨なされるわ!!」 「も、もうすぐよ」  女性ファンの一団は静かになった。  それは熱狂的な信者が教祖を待ちわびる気持ちに似ていなくもない。  それほどに信仰心が高いことを表現しているといってもよい。 ――ギュイン……  ゲートから、白いスモークと共に一体のBU-ROADが入場する。  透明感ある露草色で水鳥のように美しい色合いだった。  顔立ちは人を模して端正、細身のフォルムでありながらも鋭利さがあるボディ。  一振りの刀のような切れ味を感じさせる。からくり人形のような和のテイストだった。  これなるは、蒼が操る専用のBU-ROAD『朧童子おぼろどうじ』である。  さて、朧童子がスタリとリングインすると……。 『ウルトラ蒼ッ!ハイッ!!』  女性ファンが一斉に同じ声援を送る、もはや祭儀であった。  ルミが熱狂的な女性ファン達を見て言った。 「まるで祭儀だな……」 「BB級ダブルバトルであるにも関わらず、ファン投票で1位になりBBBBクアドラプル超武闘祭の出場が決まったくらいだしね」 「出たのか?」 「辞退したわ。それが逆に神秘的な雰囲気を出して、女性ファンを虜にしちゃったんだけどね」  蒼がデビューしたのは約2年前。  ルミと同じく圧倒的な強さで昇格するも、あまり試合をせずBB級ダブルバトルに留まっている。  理由はわからない。  その謎めいた雰囲気と強さ、また蒼の端正な顔立ちで女性ファンを獲得していくことになる。 「BU-ROADバトル嘗めんじゃねーよ!」 「倒されるところを見たいぜ!!」  女性ファンが多いことに、男性からの嫌悪、嫉妬を呼ぶ。  熱心なファンがいれば、当然ながら彼らのようなアンチもいるのが当然だ。 「てかさ、いつまでBB級ダブルバトルにいるんだよ」 「上で勝つ自信がないんだろ」  このように、蒼が積極的に試合に出ないことから実力的にも怪しまれていた。  嫌悪や嫉妬、玄人を自称するコアなファンからは疎まれていた。  さて、続いては対戦相手のコリーの入場だ。 ――チャッチャッ  黄色い声援が終わり、今度はラップ調の音楽が流れる。 ――プシュ……  焚かれたスモークから、一体のBU-ROADが肩を切って入場する。  この入場は曰く『総合格闘技界のレジェンドをリスペクト』しているものだという。  自信満々の入場だ。 「コリー!モノホンの格闘技を見せたれーッ!!」 「あのアイドル気取りを潰せ!」  コリー・リッチモンド。  総合格闘技『USR』のライト級チャンピオンまで上り詰めた男。  紺、黄、緑のトリコロールカラーの専用機『ウーサイド・スクバッド』だ。  メタルな質感とフォーマーなメカメカしさが強さを感じさせる。 「あいつ強いな」  ルミは一言そう述べる、あの堂々とした入場を見て直観的に思った。  理由は上手く説明できないが、独特の匂いというものがある。  それは強者の香りとでも表現しようか。 「確かにあいつは本物だ」  ルミの言葉を聞きながらも、小夜子は微笑むのみ。  その微笑みは余裕から生まれているものと言ってよい。 「格闘技ならね、でもここは‟ORGOGLIO”という機械格闘技の舞台よ。ルミもBU-ROADバトルの醍醐味を知ることになるわ」 「……醍醐味ね」 ○ 中層リーグ:BB級ダブルバトルワンマッチイベント “眠れる龍” 間宮蒼 スタイル:毘沙門館空手 バランス型BU-ROAD:朧童子 スポンサー企業:ASUMA VS “ワンダー・バッド” コリー・リッチモンド スタイル:総合格闘技 パワー型BU-ROAD:ウーサイド・スクバッド スポンサー企業:ハズレ 「ヘイ!ジャパニーズ!!」  立派なヒゲを蓄えたコリーが蒼に語りかけた。 「お前、BB級このレベルで燻ってるらしいじゃないか」  コリーからの第一声は挑発だった。どうにもこうにも悪童といった感じだ。 「自信がないのか、向上心がないのか。どうなんだい時代遅れのカラテマン!」 「近づき過ぎだ」  審判機は接近するウーサイド・スクバッドを制止する。  触られたコリーは荒ぶってる。 「気安く触るんじゃねーよ!!」  審判に悪態を付くコリー。そんな姿を見てルミは言った。 「態度悪いな」 「地元でも『ワンダー・バッド』と言われるくらいの問題児だからね」  コリーは相手を侮る態度、負けフラグの発言を繰り返すも勝ち続けた。  そこで人々は彼に渾名を付けた。ワンダー・バッド……『不思議な悪たれ』と。  そんな彼が“ORGOGLIO”参戦を表明したのは去年だ。理由はお金マネーである。  契約金、スポンサー収入が圧倒的に良いのだ。実にシンプルで合理的である。 「リッチモンドさんだっけ」  蒼は荒ぶるコリーに話しかけた。彼とは対照的に終始静かで穏やかだ。 「キミも確か昔空手をやってたらしいね。時代遅れってどういう意味だい」 「カラテなんざ子供のお遊びさ、時代は総合やBU-ROADバトル。日進月歩に進化する総合と違い、カラテは時代遅れでマネーを稼げない、だから“ORGOGLIO”に参戦したのさ」 「お金ね」 「オレにとって格闘技はビジネスに過ぎねえ。アンタを倒して上に行かせてもらうぜ」 「なるほど」  間宮は静かに構える。両手はだらりと落とす無構えである。 「俺が負ける要素は一つもないな」 「BU-ROADファイト開始ッ!!」 ――ゴォーン!! 「負ける要素がないだと?」  コリーは腰を深く落とし、両手はしっかりと顔面をガードする。  ウーサイド・スクバッドはリズムを刻みながら射程圏内に入った。 「イキりやがって!」  ウーサイド・スクバッドが踏み込みジャブを放とうした時だ。  朧童子はタイミングを合わせ、蹴りを放つとパシリと顎に命中した。 (上手い、的確に急所に当てやがった)  ルミは蒼の強さをその一撃で読み取った。  下段に手を下げることで脱力し、起こりを無くすことで動きを読ませなかった。  また間合いの取り方も上手く、相手の動きを読むのも上手い。技量の高さが伺える。 「うぐっ……」  意識が飛びそうになったが、コリーは何とか持ちこたえた。  ウーサイド・スクバッドは、特段機体にギミックなどの機能はつけていない。  純粋に出力のみ高くするように設計を頼んだ。  自身の格闘能力に絶対的な自信があるからだ。 「シュ――ッ!!」  そのまま構わず、間合いを詰めていくウーサイド・スクバッド。  殴り合いに持ち込むつもりだ。 「シュッ!フッ!シュッ!!」  パンチの連打を浴びせかける。  コリーはプロボクシングのライセンスも持ち、何度かプロのリングで闘っている。  殴り合いならば得意中の得意だ。重いパンチの連打が飛ぶ。 (お、おかしい)  違和感に気付く、何度もパンチを打ち込んでいるのに感触がないからだ。 (こんなに殴ってるのにどういうことだ)  シャドーボクシングのように一人打ち続ける。  ウーサイド・スクバッドの姿は、まるでダンスをするように動き続けている。  その打ち続ける姿を見てルミは言った。 「何をやっているんだ、本物は後ろにいるぞ」  ウーサイド・スクバッドは延々と、立体映像ホログラムを打ち続けていた。  朧童子は蹴りを的確に打ち込んだ後、立体映像投影機を発動させていた。  コリーは一瞬意識を失っていたので、そのことに気付いていない。  背後に回り込んだ朧童子は膝を折りたたみ足を高く上げる。 ――ガゴッ!!  水鳥が羽ばたくような美しい上段蹴りが、隙だらけの後頭部に入った。  そのままウーサイド・スクバッドは頭から煙を出して倒れた。 ――ゴォーン!  銅鑼が打ち鳴らされる。勝者は『間宮蒼』である。 「強いだけじゃダメ、BU-ROADバトルは機体の性能も問われるのよ」 ――これからの試合は格闘能力だけじゃ限界がある。  小夜子の言葉を聞き、改めて野室が言っていたことを思い出した。  その意味がよくわかった。純粋な格闘家に限ってこのようなハメ技に弱い。  “ORGOGLIO”は格闘能力が高いだけではダメなのだ。  BU-ROADの性能と機闘士マシンバトラーの強さ、相性の良さが問われる。 「凄い場所に足を踏み入れちまったようだ」  その言葉とは裏腹に、ルミの胸には熱いものが湧き起こるのであった。

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