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 次鋒戦終了。  選手通路を一人歩く男はアルギルダス・モリカ。  全身には試合での鈍い痛みが伝わる。そのためか足取りは重い。  前を向いているが暗い顔だった。  試合に負けた、痛みよりもその事実の方が辛いようだ。  勝利を至上とする彼にとっては受け入れ難い。  ASUMA専属の機闘士マシンバトラー契約はなくなっただろう、彼はそのように考えた。 「まるで、この世が終わったかのような顔ですね」  フラフラと歩くと、目の前には山村がいた。  能面のような顔に僅かな微笑。まるで翁面白式尉はくしきじょうのような無機質な表情。  そんな山村は、能楽師のようにゆるりと歩み、労いの言葉を送る。 「お疲れ様でした。勝利ボーナスは出ませんがいい試合でしたよ」 「勝たなければ意味がない」  アルーガは冷めた表情をしていた。  団体戦でのマッチで勝利した場合、選手契約を結ぶ約束になっていた。 「確かに勝てた場合、あなたと我が社は契約を結ぶ手筈てはずでしたね」 「それで……結果は?」  山村は冷たく事実を伝える。 「残念ながら契約は結べません。内容もそうですが、あなたの試合運びはASUMAのイメージダウンに繋がりかねません」  講評する山村の言葉を聞き、アルーガはフッと微笑した。  試合結果があの様では仕方がない。  それに暴走気味に闘ってしまった、故意でないとはいえ審判を試合中に倒したのだ、印象が悪い。 「ファイトマネーは貰えるんだろうな?」 「ええ……約束は約束ですからね。団体戦の契約金とは別にお支払いしますよ」 「それを聞いて安心したぜ」  山村を横切り、ゆらりと歩を進める。 (次の働き場所を探さなきゃな……)  このような結果には慣れている、また次の居場所を探せばいい――転戦する空手傭兵はそう思っていた。  今回は偶然、毘沙門館という組織に所属したことが幸いし掴んだチャンスだったが、結果は不合格。  BU-ROADバトル界での悪名は知れ渡ってしまっている。次に契約できるイレギュラーリーグはないのかもしれない。  真っ当に生活出来る好機を不意にしてしまった。だが、彼の脳裏にはいつもこの言葉が響く。  ――前を向いて立ちなさい。  どんな辛い現実が連続しようとも進むしかない。  学もなければ、器用でもない。格闘技という特殊技能でしか生きる道がないのだ。  とにかく、生きるため愛する人を養うには金がいる。  何もBU-ROADバトルに拘らなくても、リアル格闘技の世界で闘い稼げばいい。  アルーガの中で、ある種の開き直ったような気持ちが芽生えていた。 「お待ちを……」  山村はアルーガを呼び止めた。 「実は先日、あなたに興味があると言う企業さんが現れましてね」  アルーガは無言で山村の方を振り向いた。  翁面白式尉はくしきじょうのような作り笑いを浮かべる山村は名刺を渡す。 「こちらに連絡してみては如何でしょうか」  その名刺にはこう書かれている。  『株式会社ゴルドナムプロダクション』と……。 ・ ・ ・  アルーガは試合が終えると戻ることはなかった。  テストを兼ねたワンマッチ試合の契約は終わった。  山村より経緯を説明された蒼は、控室で闘いの準備する機闘士マシンバトラーに伝える。 「アルーガ君から〝後は頼む〟だってさ」 「そうか……」  女性機闘士マシンバトラーは淡々と述べる。  軽くジャンプや屈伸運動などウォーミングアップをしている。  アルギルダス・モリカ……どこか影のある男だった。結果内容は残念だったが、同じチームメンバーなら最後までいて欲しかったのが正直なところだ。 「まっ……何にせよあたしが勝てばいいだけさ」 「準備はいいかい?」  プロテクターを装着した女性機闘士マシンバトラーに話す男はシウソニックの野室陽彩。  同社のORGOGLIO事業部長である。  今回のASUMAと提携しての団体戦参加、流石に旋風猛竜サイクラプターに関しては製作者である野室自身がメンテナンスしたいとのことでチームに参加している。 「藤宮君、旋風猛竜サイクラプターの整備は万端だ。頑張れよ」  そう中堅戦はいよいよ藤宮ルミが出陣する。 ・ ・ ・ 『これまで先鋒戦!次鋒戦!共に1勝1敗のタイッ!!』  次鋒戦の気まずい試合展開もなんのその、スタジアム内は遠藤の実況で盛り上げを見せている。  先程の試合はある意味、味のある試合であった。トラブルもまた盛り上げのスパイスとなるのだ。  次鋒戦を味わった観客達は次の試合を待ち望んでいる。  次の中堅戦に誰が出るのか……期待感に胸を膨らませていたのだ。 『次の中堅戦!この勝敗が団体戦の行方を左右する!!まずは星王会館の選手入場だーッ!!』  スタジアム内に壮大な交響曲と共に、レッドワイバーンのゲートより巨大な影が侵入する。  オーロラビジョンには、大きな文字が表記される。  〝大きいことはいいことだ!〟  ガシャンとした機械音と共に怪獣型BU-ROADが入場する。  〝大きいことはいいことだ!!〟  それは星王会館の砂武が乗っていたゴラスによく似た形状をしている。  〝ゴラスの逆襲!!〟  だが……ゴラスより『デカい』BU-ROADである。  これなるは後継機『キングゴラス』。出力はゴラスの3倍あるモンスターマシンだ。  そして、怪物BU-ROADの操縦者は……。 『“強襲の巨人”が遂に来日だーッ!!』  操縦者はシーム・シュミット。身長211㎝130kgの大巨人格闘家。  彼の格闘キャリアは『総合空手覇道塾』より始まった。  覇道塾とは打投極が認められた着衣総合格闘技である。創始者は毘沙門館出身の西剛にしたけし。  シームは覇道塾が主催する南斗旗オープントーナメントで4連覇達成後、キックボクシングに転向。  欧州のスーパーヘビー級王者となる――が格闘技界から干されてしまっていた。 『あまりにもデカく!強いため業界から干された大巨人格闘家!!』  そう……彼は強すぎた。デカいやつは何をやっても強いのだ。  超ヘビー級の体躯であるからして、彼は生まれた時から強かった。 『ガチで“ORGOGLIO”に参戦したのです!塩試合だけは勘弁してくれーっ!!』  現実は何時だって残酷。  一般的に身長差、体重差があり過ぎる闘いが通用するのは、漫画や創作物の中だけだ。  故に強すぎる彼は興行的に面白くない選手だ。様々な格闘団体にオファーするが声がかからない。  半ば諦めかけ格闘家を引退しようと思った時、葛城信玄からスカウトされたのだ。 「機械格闘技とはいえ格闘は格闘……楽しみだべ」  シームは嬉々とした表情であった。  持て余した身体と闘争心をメラメラと燃やしていた。 『この大巨人、巨大メカのお見合い相手はこの人だ!毘沙門館の助っ人娘入場ッ!!』  そして、いよいよブルーライガーのゲートより自分の対戦相手が入場して来る。  藤色の恐竜マシンはキングゴラスと比べては小柄である。  暴龍の形状をしているも凛とした風格が強さを醸し出していた。 「毘沙門館の卑怯者ーっ!!」 「女に力を借りるなど恥を知れ!」  星王会館側の応援席からはブーイングと野次が飛ぶ。  入場する藤色の恐竜マシン……旋風猛竜サイクラプターは何事もないように入場。  心無い野次や罵声は彼女の耳には届いていない。  藤宮ルミ……今宵は藤宮流ではなく毘沙門館空手名誉初段として試合場に降り立ったのである。 「まーたゴラスか……」  ルミは巨大怪獣マシンを見上げながらそう言った。  大怪獣キングゴラスの逆襲となるか。それとも暴龍サイクラプターが勝つか。  毘沙門館側のセコンド席には、シウソニック社長の紫雲蓮也が座る。 「大昔の映画でこういうのあったよな……」  ポツリと呟く。  幼少時に祖父、辰之助と一緒に見た白黒の怪獣パニック映画を思い出したからだ。 「それなら知っていますわ。確かその映画では恐竜の怪物が負けてしまいましたね」  映画館の席に座るかの如く横に並んだ小夜子はそう言った。 「旋風猛竜サイクラプターは負けません!絶対に!!」  子供のように両拳を握りながら蓮也は強気に語る。  そんな蓮也を見る小夜子は静かに微笑む。まるで映画館でのデートをするかのように楽しんでいた。  2大強獣の決戦、結果はどうなるか。 ――まもなく上映会試合が始まる。

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