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 ASUMAグループ会長『飛鳥馬不二男』とはどのような人物なのか。  黒澤と名乗る男が運転する車の中で、ルミは窓から外の風景を見る。風景を眺めると、どうやら都心から離れ高速道路に乗るようだ。 「ところでどこに向かっているんだい?」 「軽井沢です」 「か、軽井沢?!」  どうやら車は、軽井沢へと向かっているようだ。  黒澤はルミに説明する。 「会長は今は休暇中でしてね。軽井沢にある別荘まで向かっています」 「休暇中なのに良いのかよ?」 「休暇中だからこそですよ。是非とも貴方とお話ししたいとのことです」  車に乗って数時間後、カラマツ並木の通りが見えた。どうやら軽井沢に到着した様子だ。  車は美しい原生林の森に入り、大きな屋敷が見えてきた。ここが、どうやら別荘のようだ。  車を止めると黒澤は先に降りて、ドアを丁寧に開ける。 「藤宮ルミ様どうぞ。こちらが会長の別荘となります」 「金持ちのお家って感じだね」  その屋敷は大正ロマン溢れる洋館であった。扉の前には和装の女性が出迎えている。  涼やかな印象の和風美人であった。歳は20代前半といったところか。 「片桐結月かたぎりゆづきと申します。黒澤からお話は聞いております」 「その恰好は会長さんの趣味かい?」  片桐と名乗る女性の服装を見てルミは皮肉交じりに言った。  だが、彼女はルミをまじまじと見つめながら返す。 「ふふっ……面白い方ですね。どうぞこちらへ」 「……邪魔するよ」  片桐は涼やかな笑顔を浮かべ屋敷内へと案内する。彼女の対応に少し毒気が抜かれたような感じだ。  屋敷内には、黒服の男達や和装の女中達がいた。ルミが入室すると、無言ではあるがお辞儀をする。  そして、壁には油絵や写真が飾られている。  ただ不思議だった。  絵や写真はスポーツを題材にしたものばかりだった。 「不思議そうな顔をされていますね」 「いや……ちょっとスポーツ関係のものばっかりだなと思ってね」  大きな階段を上る二人。片桐はルミに説明する。 「それは飛鳥馬会長が大のスポーツ好きだからでしょう。例えば……」  片桐は階段途中にある自転車競技の絵に手を指す。一件見ると子どもが描いたような落書きにしか見えない。 「あちらの絵は自転車競技の元選手が引退後、芸術家に転身され描いた絵です。」 「下手くそな絵だね。」 「あの絵は画壇でも高く評価され、1億円の値段がつけられております。」 「い、1億?!」  ルミはその値段を聞いて驚いた。こんな落書きに億の値段が付けられているからだ。  芸術の世界はわからないものである。 「あちらの戦闘機の絵は元競輪選手の方が描いた絵です」 「自転車競技の人って芸術家になりやすいのか」  飾られている絵や写真の数々の説明を受けながら、大きな扉の前に来た。  どうやらここが応接間のようだ。  ドアをノックする片桐。 「会長、藤宮ルミ様をお連れ致しました」 「入んな」  部屋の中から威厳ある声が聞こえる。  そっと扉を開ける片桐。 「よく来てくれたな。あんたが藤宮ルミさんか」  そこには、大島紬を着た和装の老人がいた。  どっかりとソファーに座り、あんパンを食べている。  そして左右には男性が2名。一人は先ほどの黒澤だ。いつの間に先回りしていたのだろうか。無言で直立不動の姿勢をとる。  もう一人は西洋人であるが、どこか見覚えのある顔だった。  こちらも無言で直立不動の姿勢。 「おっとすまねェな。ちょっくら小腹が減ってたもんでな」 「黒澤、アンタいつの間に……」 「まァ座んね」  ルミは促さられるままにソファーに腰を掛けた。  お茶を一服口にして口を開く。 「遠路はるばるですまないね。俺も色々と忙しくてな」 「で……あたしに何か用かい」  不二男に質問をするルミ。会って話をしたい内容は何なのかと。  だが、その質問を煙に巻くかのように飛鳥馬は片桐に言った。 「結月お客さんにお茶だ。それからあんパンも」 「かしこまりました」 「お、おい!」  片桐は軽くお辞儀し部屋から出た。  不二男はルミの顔を暫く見た後にニッコリと笑う。 「おめェさん、なかなかのべっぴんさんじゃねぇか。なァ黒澤?」 「は、はあ……」 「〝はあ〟じゃねぇよ。お前もそろそろ結婚したらどうだ。はっはっ!」 「爺さんあたしを嘗めてるのかい!」  ふざけた態度をとる不二男に対し、ルミはテーブルをドンと叩いた。  それに合わせて黒澤は構えを取る。もう片方の西洋人は黙って様子を見るだけだ。 「待ちねィ……そうカッカしなさんな。」  不二男はさっと黒澤を手で制しながら言った。 「いやすまないねルミさん。単刀直入に言おうウチに来ないか?」 「はっ?」  突然のスカウトの申し込みであった。  ルミは突然の言葉に困惑するしかなかった。中々食えない爺さんだ……心底そう思った。  不二男は続けざまにルミを説得しにかかった。 「シウソニックもORGOGLIOに参入するって話じゃねぇか」 「ダメなのかい?」 「蓮也のハナタレ小僧じゃどうしようもあるめぇ。ありゃ辰之助の財産でもってるだけだぜ」 「意味が分からん」 「アンタほどの逸材をシウソニックに埋もれさせたくないんだよ」  どうやらASUMAの機闘士マシンバトラーとして勧誘しているようだ。  元来ASUMAの経営は小夜子が担っている。しかし裏で立ちまわっているのは、この飛鳥馬不二男と言われている。  表舞台に立っていないが、まだまだ現役で経営に携わっている影の首領ドンだ。 「俺は才能ある選手はどんどん陽の目を見て欲しいんだ。なあゲオルグ」 「……」  そう傍にいた西洋人はゲオルグ・オットー……元不動流の〝虎〟である。  ルミが高校生の頃、鬼塚の道場で稽古している姿を見たことがある。  だがその時は、線も細く髪の毛も短かった。  それがどうだ、体も大きくなり髪も長くなっている。  また眼光も鋭い。修羅場を潜ってきたかのような雰囲気を醸し出している。 「ゲオルグは3年前に豪州の賭け格闘試合で見つけてな。何でもこいつが古武道の使い手らしくてね」 「会長……」 「最初は色物かと思ってたけど、この男は強くてねェ」 「会長……よろしいですか?」 「おいおい。俺の話はまだ途中だぜ?」  ゲオルグは話の最中に声を掛けた。話を途中で折られ少し不機嫌になる。  そんな中、ルミはゲオルグの顔を見ながら言った。 「別人のように変わっちまったが、あたしはこいつを知ってる」  二人の様子を見て不二男は少し驚いている。 「ほぅ……そいつは驚いた」 「不動流と藤宮流は長年のライバル関係です。」 「なるほどね」  何か悟ったかのような顔で二人を見合わせる。 「あんた、破門されてからこんなところに」 「久しぶりだな……と言っても会ったのは数度だけか」  父・藤宮魁道と鬼塚英緑はライバル流派同士ということもあり交流があった。  その際に、ルミは不動流の稽古を見学したくらいだ。それも数度だけ。  その時に、ゲオルグ達門下生の稽古姿を見た程度である。  二人の間に、何か気まずい空気が流れていた。 「失礼します」  その丁度良い頃合いに片桐がお茶とあんパンを運んできた。  それらをテーブルに置き、涼やかな笑いを浮かべる。 「どうぞ」 「あ、ああ……すまない」  場の雰囲気を誤魔化すかのように、ルミは持ち運ばれたお茶を口にした。  茶を口に含んだ後、それを見た不二男は真顔となり再び申し出た。 「でっ……どうだい」 「断る」  ルミは申し出を端的に断る。  不二男は袖に手を入れ腕を組んだ。表情は残念そうだった。 「やっぱりか」 「話したいことはそれだけか?」 「おう〝それだけ〟だ」 「だったら帰らせてくんな。あたしも忙しいんだ」 「まァ待ちねい。ちょっくら、遊んでから帰んな」 「はァ?」  不思議そうな顔をするルミに黒澤は言った。 「藤宮様、お庭へどうぞ」 「何を勝手に……ッ?!」  その時だった。彼女の背後に神社で会った黒服達がいたのだ。 「多勢に無勢……っていったところだね」 「最初にお会いした時もそうでしたが、なかなか聡明な女性だ。理解が早い」 「何が聡明な女性だよ。脅しみたいなもんじゃないか」  彼女は黒澤に対し憎まれ口を叩いた。  ソファーからゆっくりと立ち上がると不二男の方を向く。  不二男はルミの顔を見ながら微笑んでいる。 「早く案内しな」 「はっはっ!そうこなくっちゃ」  場面は屋敷の庭となる。周りは原生林で囲まれており、鳥の鳴き声が聞こえる。  白いテーブルと椅子があり、そこに不二男とルミが座っていた。  その周りを囲むように黒澤とゲオルグ、そして黒服達がいる。  そして、庭には居合で使用される巻藁が立てられていた。 「なんだいこりゃ?」 「武道やってりゃわかるだろ。巻藁だよ」 「失礼します……」  一人の女性が入ってくる。  涼やかな雰囲気の女性……先ほどの片桐結月である。  先ほどの服装とは違い、少し花柄がある居合道衣を着ており両肩にたすきをかけている。  そして目立つのは腰の得物……そう〝日本刀〟を差していた。  片桐は巻藁の前に立った。 「参ります」  その言葉を合図に巻藁を三段に断ち斬ったのだ。  動きが全く見えないほどのノーモーションである。 (は、はやい!) 「いつもお見事だね。そんじゃそこらの居合道家より凄いよ」 「ありがとうございます」  不二男は拍手をして褒め称えた。片桐は慎ましやかにお辞儀をした。 「さてと……」  飛鳥馬はルミの方をまじまじと見つめながら言った。 「結月の相手をしてもらおうか」

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