作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

――ギシ……  金の鱗粉に包まれた朧童子。  肘打ちの体勢から全く動けないでいた。  それは、あたかも蟷螂に捕らわれた蝶や蝉のようである。 「私の勝ちだ、もうあんたは動けない」 「な、何をした」 「ふふっ……」  不敵に笑う昴は答えない。  操縦する蒼の体は自由に効くのであるが、朧童子は蒼の動きをトレースしない。  動きが固まったままだ。 ――ギシ……  関節部が動かないのだ。  だが、機体は操縦者の動きに反応しようとする。  それがかえって機体に内蔵されるパーツに負荷をかけ熱を帯び、放電と白煙を発生させる。  朧童子はオーバーヒートしようとしていた。  ダイレクトトレースシステムの利点であり欠点は、操縦者の動きを忠実に再現することである。  BU-ROADに公式採用されるこのシステムを、逆に利用して開発が進められた機能『黄金鱗粉ゴールドダスト』。  強力な磁力を帯びた特殊な鉄粉を噴き付けることで、機体の関節部機能を低下させる能力を持つ。 『お、朧童子が……煙を上げたまま全く動かなくなったァ!!』  動けず、ただ小さな放電と煙を出す朧童子。  悠然と腰に手を当てたモーションをとる北辰珠郎は一歩一歩近付いた。 「あのことは黙ってて欲しいかい?」 「……」 「だんまりか」 ――ガキッ!  鞭のようなしなやかな蹴りを右大腿部に蹴り込む。  朧童子は、膝が崩れかけるものの何とか持ちこたえる。 「……妹さん思いなんだね」  そんな木偶人形と化した朧童子を見る昴の目は冷たい。  師の言葉で少し暖かみを戻した目ではあった。  しかし、動けなくなった朧童子を見て勝利を確信した昴は残酷な感情に戻る。  このまま制裁を加えるつもりだ。 「とりあえず……腕を一本貰うか」  朧童子の左腕を静かに捕った北辰珠郎。  ブチリと腕を絡め捥ぎ取る。 「……ッ?!」  蒼は悲鳴を上げたかったが堪えた。  それは武道家として矜持か、それとも……。   「我慢強いな。普通の格闘家だったら悲鳴を上げてるほどの辛さなのに」 「俺はどうなってもいい……あのことだけは……」 「……ふざけるな!」  北辰珠郎はボディに強烈な一撃を放った。  体を突き上げられた朧童子は、そのまま壊れたからくり人形のように膝から崩れ落ちる。  感情的になった昴は、顔面を中心に次々と攻撃を加える。 「何がどうなってもいいだ!お前の勝手な復讐心に、私の大切な人を巻き込みやがって!!」  審判のリリアンは止められずにいた。  それは彼女が未熟だからではない。あのMr.バオでさえ止められないであろう。  二人の試合は怒りと怨念が混ざり込んでいた。  このような試合……否、死合となっていた副将戦。  スポーツ的ジャッジの経験が高くなれば高いほど止められないであろう。  それほどまでに、余人が入る隙間もないほどの深い闇となっていたのだ。 「やめなさい!これ以上やれば!!」 「ちょ、ちょっと昴君!やめろって!」  師である角中とスポンサーである中台の声が聞こえた。  一度は愛する人の言葉を聞き人に戻れたが、蒼の言葉で再び夜叉へと戻されたのだ。  試合を見守る観客達、一部地域で放送される視聴者。  皆それぞれ、戦慄し、息を呑む。  ある者は凝視し、ある者は目を逸らし、ある者はチャンネルを回し、テレビを消した。  両者共にアイドルとして爽やかな印象、美しい印象があったが消え失せていた。  そこには『生の感情』が存在していた。 「これは……何と表現したらいい」  VIP席で観戦する不二男はその光景を見て戦慄していた。  これほどまでに感情がぶつかり合うとは思わなかった。  これは遺恨を通り越して、怨念へと昇華している試合だ。 「……!!」  同じくVIP席で観戦する亜紅莉、一方的に打たれる朧童子を見て決心をした。 「ど、どうした?」  不二男の袖を掴み、必死に何かを指差している。  指差す方を見るとオーロラビジョンの方向である。 ――蒼君、君は不動流のままで良い。無理に空手家にならんでええが……一つだ伝えたいことがある。  一方的に打たれ、蹴られる蒼はもう一人の師である岡本毘沙門を思い出していた。  亜紅莉の才能を見出し、光の世界へと導いてくれた恩人だ。 ――『空手とは、人に打たれず、人打たず、事のなきを基とするなり』……という格言がある。  自分は亜紅莉を世話をするために付いていき、成り行きで空手を学ぶことになった。  正直、最初は戸惑ったが毘沙門の人として、武道家としての魅力に次第に尊敬の念を抱くようになっていた。 ――君の心には鬼が住んでいる。それを消さんと何れ災いが起こる。  看破されていた。  自分は亜紅莉の声を奪った連中に復讐をしたかった。  蒼が亜紅莉に抱く感情……それは兄妹の一線を越える……。 ――不動流は『鬼砕き』という当身が特徴だそうだな……ならば鬼は砕かんと。 (先生……俺はアカンやつや……) ――毘沙門のメッキ空手を教える。まずは君の鬼をワシの空手で消せるかやってみる。 (最後の最後まで鬼を殺せんかった) ――人生の輝きは黄金色でなくちゃあならんッ!! (俺は亜紅莉にあんなことをした星王の連中を……) ――武道は爆発じゃああああああッ!! (まだ俺は……ッ!!) 「こいつッ!?」  動かぬはずの朧童子であるが、不思議な事に北辰珠郎の腕を掴んでいた。  そして……。 「不動流……登龍破!!」  そのまま北辰珠郎を腕力で引き込み、深く折りたたんだ膝から前蹴りを頭部に入れる。  さながら鯉が滝を昇り龍へと変化するか如き、強烈な一撃であった。 『ま、前蹴り一閃――ッ!!』  蹴られた北辰珠郎は吹き飛ばされ、朧童子は機体は限界を起こしそのまま倒れる。  両機共に放電と白煙を出していた。 『りょ、両者ダウン――ッ!!』  遠藤の絶叫に合わせ、それまで静かだった観客達はやっと歓声を上げる。  だが……。 『ああっと!北辰珠郎が立ち上がったぞ!!』  蹴りが浅かった。  立ち上がるほどの余力が昴にあった。 「見事な蹴りだったよ……でも本当にこれで終わりだ」  倒れる朧童子に近付き、顔面を踏み砕かんとするため足を上げる。 「君にされそうになった踏みつけだ……二度と立ち上がれないようにしてやる」 「ま、待ちなさい!試合は……」  審判機に乗るリリアンが厳しい口調で止めようとする。  だが、北辰珠郎に乗る昴は不服である。完全なるとどめを刺したかったからだ。 「審判、邪魔するな。徹底的な破壊をしないとORGOGLIOの試合は終わらないんだろ?」 「見ての通り、間宮蒼選手の試合続行は出来ません。従って……」 「もう関係ないんだよ!」  北辰珠郎が無情にも踏み砕こうとした時だ。  オーロラビジョンに女性が映った。 「えっ……」  観客達は見知らぬ女性が登場したことで騒然となる。  何故ならば映る背景に不二男が映っているからだ。 「あの可愛い子、誰だ?」 「俺が知るわけねーじゃん」  口々に語る観客達。  だが、一部例外を除く。その女性を知っているものが二人いる。 「あ、亜紅莉!」 「亜紅莉ちゃん……?!」  父の英緑と親友だった柚木である。 「あぅ……あっ……ッ!!」  亜紅莉は何かを伝えようとするも上手く声が出ない。  必死で何かを伝えようとする。  見守る観客達は勿論のこと、試合場にいる昴は戸惑っていた。 「も……もう……」  僅か。僅かであるが声が聞こえた。  小さいながらも、女性らしい美しい声だ。 「お願い……やめ……て!」  静まった。  この女性は誰かは分からない。  が……その思いは分かる。これ以上はただの殺し合いだ。  誰もがそんなものを見たいわけがない。 「……」  昴はその声を聞き、踏みつけようとした足を地面に戻した。  少し肩を落とし、項垂れたまま試合場を後にする。  数歩歩いた後、昴は審判機に乗るリリアンに伝える。 「試合続行……出来ないんだろ?」  虚しさを秘めるような声だった。 「え、ええ……」  その声を聞いたリリアンは右手を掲げる。  いよいよ決着のコールである。 「WINNER!高橋昴!!」  勝者を高らかに宣言するも、試合場は静寂に包まれたままだ。  拍手するもの、歓声を上げるものは誰一人いなかった。  それはどちらが勝ったか、それすらも判らないほどに……。 ○ BB級ダブルバトル団体戦:毘沙門館VS星王会館・副将戦 “星王の織姫” 高橋昴 スタイル:星王会館空手 バランス型BU-ROAD:北辰珠郎 スポンサー企業:ハンエー VS “眠れる龍” 間宮蒼 スタイル:毘沙門館空手 バランス型BU-ROAD:朧童子 スポンサー企業:ASUMA 勝者:『高橋昴』

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません