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 晴天の青空だ。スズメのちゅんちゅんとした可愛らしいさえずりが聞こえる。今日はシウソニックの会社見学いわば挨拶回りである。  移動は車での運転。車内には蓮也、マネージャーであるカミラ、そしてルミの三人がいた。窓越しからルミは社内の敷地内にある建物を見て驚いている様子だ。 (てっきり東大阪の町工場サイズと思ってた……)  会社の入り口に差し掛かった。ゲート前の警備ロボットが音声を出す。 〝オハヨウゴザイマス ICカードヲ リーダー ニテラシテクダサイ〟 「あいよ」  蓮也は窓越しから、ロボットに取り付けられているカードリーダーに照らし合わせた。 〝シャチョウ キョウモ ゲンキニ ハタラキマショウ〟 「SFの世界じゃん」 「これくらいどこも普通だぞ」 「マジか……」  駐車場の車から降りる3人。10階ある本社ビルの地下入口へと入場する。エレベーターに乗りそこで蓮也もルミに質問をした。 「なァルミ……お前昔どんな生活してたんだよ」 「ガキの頃は家族で、山の中で生活してたね」 「ハ○ジみたいな生活してたのか……」 「ヤギはいなかったけどね」 「そ、そうか」  そう言いながら蓮也は、エレベーターに装着されている認証システムの画面に立つ。デジタル画像の画面から音声が流れた。 〝ニンショウ カンリョウ シマシタ イキタイ カイスウ ヲ ドウゾ〟 「5階まで頼む」 〝リョウカイ シマシタ シャチョウ〟 「うえ?!マジすげぇな超科学だッ!!」  彼女が驚くのも無理もない、大自然の中で生きてきた彼女にとっては〝魔法の世界〟にしか見えないのだ。ルミが魔法の世界に驚愕している間に5階に到着した。カミラはそこから降りてルミを呼ぶ。 「ここで降りるわよ」 「おっもう到着か。てっきり最上階の10階に行くもんだと思ってた」 「ふふ……俺は役員達と先にあって、お前を出迎える準備をしてくる」 「え?」 「いいスピーチを期待してるぞ」  蓮也はそう言うとエレベーターの扉は閉まった。エレベーターは最上階の10階へと向かったようだ。 「おい、スピーチってなんだ?」 「そりゃあなたの挨拶に決まっているじゃない」 「聞いてないぞ?!」  シウソニックの幹部役員達に挨拶をしなければならないらしい。  カミラはルミの背中を押しながら誘導する。 「ど、どこへ連れて行くんだ?!」 「女子更衣室よ♪」 「げっ……嫌な予感が……」  ルミの嫌な予感は的中した。更衣室まで連れていかれ『ある服』に着替えさせられた。渋々着替えをしたルミは少し怒っている。 「あたしは新入社員かよ」 「よく似合ってるわよ」 「こんなコスプレさせやがって」  少し顔を赤くするルミ。シウソニックのオフィス用事務服に着替えさせられたからだ。白のプルオーバーに可愛らしい黒のスカート。首元には透明感のあるブルーのスカーフが巻かれていた。 「さァ社長達のところへ行きましょうか」  そういうと更衣室から出るカミラ。部屋に取り残されたルミは少し不気味に笑いながら言った。 「くっくっくっ……アスパラどもめ。目にもの見せてやる」  その表情から推察すると『何かを企んでる』ような顔だった。そして、更衣室を出た彼女はカミラの元へと向かう。  そのまま通路を進み再びエレベーターに乗る二人。先ほどの蓮也のように、カミラは顔認証システムの前に立つ。 〝ニンショウ カンリョウ シマシタ イキタイ カイスウ ヲ ドウゾ〟 「最上階の10階までお願い」 (よし……)  何かのタイミングを狙っているようだ。その目は獲物を狙うハンターのようだった。 「さぁ楽しみね」 (このタイミングだ!あばよ!!)  ルミは扉が閉まる前に急いでエレベーターから降りた。 「え!?ちょ、ちょっとルミ!!」 「カミちゃんバイバーイ!」  その捨て台詞を残し慣れないヒールを履きながら彼女は逃げ去った。 ・ ・ ・ 「投げたらアカン!」 「はい!」 「仕事を投げ出すのはアカンのやで!!」 「はい!」  さて場所は変わりここはシウソニック・商品開発部。社内の花形部署といってもよい。 商品開発部の顧問・鈴草魂(すずくさたましい)47歳は大声で朝礼の挨拶をする。 「最後の最後まで走り込みをしながら、商品のアイデアを考えるんや!」 「はい!」 「それがシウソニックの魂っちゅーもんなんや!」 「はい!」 「よーし!ほならまずは草魂体操や!!」 「はい!」  社員一同、中腰の姿勢から両手と膝を天に向かって伸ばす体操を始める。やり方は『そう』の掛け声で身を屈め、『こん』で両手両膝を伸ばす。 「草ッ!」 「魂ッ!」 「草ッ!」 「魂ッ!」  回数は5回、10回、20回と進んでいく。  この体操は女子は30回で終了するが、男子は必ず50回まで行う地獄の体操である。女性社員は30回目で終了。それでも運動に慣れなていない女性にとって30回は苦しいものだ。 「マジしんど……」 「あんたも疲れない?」 「あたしにとってラジオ体操以下の負荷量だな」  中途社員であろうか、見慣れない顔であった。  その女性社員は汗もかかずに、鈴草が考案した体操を難なくこなした。 「あんた凄いわね。学生時代なんかスポーツでもやってたの?」 「まァね」 「何の競技?」 「古武道」  女子の会話が続く中、草魂体操は続けられている。  そして、体操も終盤に突入したときである。 「頑張ってるじゃないか鈴草さん」 「阿波田(あわた)部長!一旦体操止めや!!」  長身でスーツの男性が入ってきた。眉目秀麗のイケメンだ。  彼は阿波田幸秀あわたゆきひで。W大卒のトレンディ部長として営業一課を任されている。 「キャー阿波田部長よー♡」 「カッコイイ!!」 「女子社員も元気で何よりだね」  女子社員達は阿波田の顔を見るなり黄色い声援を送る。それに手をあげて答える。 「部長はどうしてここに?」 「今日は社長がORGOGLIOのファイターを連れて来る話を知ってるかい?」 「あの話ですか」 「どうやら女性という話らしいからね。どんな人か一目見ようと思って探しているんだよ」  阿波田はルミの噂を聞き探しているようだった。 「人聞きが悪いなぁ。部署同士の連携を深めるためのコミュニケーションの一環だよ」 「ハハハ!英雄色を好むと言いますからな!!」 「ふっ……」 「そーらお前らも部長を目指して草魂体操や!!」  体操の続きを始めようとする鈴草。その時に小さく声が聞こえてきた。彼の地獄耳にはしっかりと届いている。 「アホくさ……こんな体操疲れるだけだっつーの」 「あんな、しょうもない運動して何の意味があるんだ」  オフィス内は凍りついた。鈴草の顔がどんどん紅潮してくる。そう朝礼で行われる草魂体操を批判するのは『ご法度』である。  以前この体操を批判した者は、例外なく窓際へと追いやられ退職するハメとなった。鈴草はパワハラ上司として問題になっているが、彼と懇意にしている阿波田が上手くとりなし揉み消していった。 「今、この草魂体操をバカにしたんは誰や!」  男性社員が集まるところに鈴草は小走りで寄ってくる。男性陣は皆委縮した様子だ。普段から鈴草に理不尽なことで怒鳴られているためそのせいであろう。 「う、宇井ういが言いました……」 「ゲェ?!」  頭がピッカリと禿げ上がった日野軽樹ひのかるきが隣の社員を指差した。名指しされた彼の名前は宇井健一ういけんいち、入社2年目の若手である。 「ひどいっスよ日野さん!」 「すまんな……俺も自分や家族を守る為なんだ」  猛牛のように鈴草迫ってくる。その姿を見て宇井は委縮する当然だ。 「宇井!貴様さっきの言葉はどういう意味や!」 「い、いや……その……」 「ええーい!もう一人草魂体操をバカにした女はどいつや!!」  女性社員の集まる方に目を向ける鈴草。皆下を向き、小声で口々に言い始めた。 「ちょっと……誰よ……」 「あんたじゃないの?」 「私はそんなこと言ってないわよ!」  女性陣が鈴草の威圧感に押されている。そこへ若い女性が一歩前に出ながら言った。  中途採用と思わしき見慣れない顔だった女性だ。 「あたしが言ったよ」 「貴様か!」  どこかで見た顔である。藤宮ルミだ。  商品開発部の部屋に入り草魂体操を体験したようだ。 「お前もこっち来んかいッ!」 「わ、わっかりましたーっ!!」  宇井もルミの隣で並び直立不動で立っている。  その光景を見て、阿波田は何を思ったのだろう鈴草の傍に寄った。 「ははっ……鈴草さんも怖いなァ」 「部長何か?」 「いやいや……ちょっとね」 「そういうことですか」  阿波田はルミを下から上へと見ている。どうも何やら品定めしているらしい。  完了後、彼は甘い声でルミに話しかけた。 「途中入社の社員かな。ボクが助けてあげようかい?」 「は?」 「『助けてあげる』って言っているんだよ。その代わり今夜ボクと……」 「うぜぇよ消えろボケ」  彼女は中指を立てた『ファックサイン』を阿波田に向ける。女性社員達は次々に野次を飛ばした。 「何よあの子!阿波田部長に失礼じゃない!!」 「そーよ!そーよ!新入りのクセに!!」 「うるせーっ黙れッ!!」  彼女は『阿波田親衛隊』の女性社員達の野次を聞いて一喝する。その喝を受けて一瞬で黙ってしまった。阿波田はやれやれといった表情とポーズをとりながら言った。 「全く怖い子だね。時々いるんだよこういう『はねっ返りちゃん』が」 「おっさん……何ワケわかんないこと言ってんだ?」 「お、おっさん?!」  阿波田から笑顔が消えた。おっさん呼ばわりされたことが癪に障ったようだ。  そもそも女性からこんな辛辣な言葉と態度をされたのは初めてだ。  女性社員100人斬りをしてきた阿波田のプライドが傷ついた。 「彼女達をお仕置きしちゃいましょう」 「同感ですわ!」  二人はニヤニヤと笑っている。隣に立っている宇井は話しかけた。 「あの……大丈夫なのかい?」 「面白イベントになりそうじゃないか」

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