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 通信携帯機で自撮りした簡素な動画が映り出される。  動画に映っていたの、先日の試合で敗北したタザワーであった。 「言い訳はしません。俺の完敗です」  彼は素直に自分の敗北を認めている。映りだされてる顔は神妙な面持ちだ。 「ええと、動画視聴している皆さん並びに紫雲社長やシウソニックの関係者の方々……そして、藤宮ルミさんに謝罪致します。俺が以前配信した動画の事は全て出鱈目です。ご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした」  タザワーは動画で出した情報をフェイクであると認め謝罪をしている。シウソニック側に名誉棄損で告訴されないためである。また試合終了後、ASUMA側から契約解除の通告をされた。  ASUMA側の言い分としては、タザワーの出鱈目な動画により信用が著しく落ちたとして解雇処分の発表がされた。 「その責任をとって機闘士マシンバトラーを引退することにします。また動画チャンネルは、これを持ちまして終了としたいと思います。今まで応援して頂きありがとうございました」 【機闘士辞めます。タザワー引退宣言☆彡】 動画視聴回数638,334回  高評価9857  低評価2.3万  敗北のショックと、ASUMA側から契約解除を通告されたことにより、数年間運営した動画チャンネルを終了することに決めた。  彼が作り上げたネット王国もこれにて閉園であろう。 「ねえおじさん……僕知ってるよ。WowTubeで見たことあるんだ」 「なんだよ。お前さんみたいな子どもが俺のこと知ってるのかよ」  タザワーは同じ病室にいる少年に話しかけられた。年齢は10歳くらいであろうか。 「僕ね……おじさんの動画見てね元気もらったんだ」 「元気……俺の動画でか?」 「ほらこの動画だよ」  少年はスマホを取り出し、動画のサムネイルを見せてくれた。 「ボクさ病気で1年くらいずっと入院してて、学校もずっと休んでて毎日つまんなかったんだ。ある時、ママからもらったこのスマートフォンでおじさんの動画を見たんだ。面白おかしくて元気が出たんだ」 「これは……」  タザワーは驚いていた。彼がWowTubeで初期の頃に出したお笑い系の動画であった。  体を張ったバカバカしい動画で、視聴数も少なくコメント欄もどちらかというと中傷的なものが多い。  今まで誰かに認められようと過激な動画を出し続けていた。  彼への賞賛の声は、ネット上でのコメントばかりで現実で褒めてくれる人は皆無だった。 「そうか……」 「ねえおじさん……何を泣いてるの?」 ・ ・ ・ 「5勝目だよ5勝目! 」  その頃、焼き肉店「牛華族」にてルミの祝勝会を行っていた。蓮也は塩カルビに舌鼓を打ちながら興奮した様子だ。ルミは淡々としており、蓮也に釘をさした。 「落ち着けよ。まだ5勝目だ」 「これが落ち着いてられっかよ!」  蓮也も喜ぶハズだ〝BB級ダブルバトル〟への昇格条件は〝6勝〟以上。つまり、後1つ勝てば昇格する条件が整うのだ。 「そろそろ会社に挨拶しなきゃならんな」  蓮也からの突然の申し出であった。そう彼女はシウソニックと契約してから一度も会社に訪問したことがない。 「社員にもお前のことを認知してもらいたい」 「面倒臭いな……」  彼女は申し出を断る気満々だ。蓮也の想いを粋に感じて、専属の機闘士マシンバトラーになっただけだ。会社自体に興味はない。そんな彼女の心中を見越してか、隣で黙々と肉を焼いていたカミラが言った。 「私も賛成です。そろそろご挨拶に行ってもらわないと」 「おい勝手に……」 「ダメです。それが社会人としての常識です」  カミラの口調は少々きつめだが顔は笑顔を保っている。そのアンバランスな態度をとる彼女をルミは苦手としている。 「わ、わかったよ」 「そうと決まれば善は急げだ。明後日は予定が空いているぞ」 「あ、明後日?!あたしはその日……」 「ルミ……」  笑顔で語りかけるカミラ。そんな彼女を苦手な人物と重ね合わせるルミは渋々承諾するのであった  苦手な人物とはルミの母親のことである。  上京してから連絡する機会が減ってしまったが、彼女の母親は凛とした女性で一見すると淑やか雰囲気がある。  東京の下町生まれの母親は、江戸っ子的な気風の良さがあった。そんなアンバランスな雰囲気がカミラと被るのだ。 「い、行くよ」 「決まりだな!」  彼女達のやりとりを静かに見る男がいた。店内だというのに、ハンチング帽を被りサングラスをかけていた。彼は蓮也達の直ぐ傍のカウンター席に腰かけている。男は水を一杯飲むと、ポケットから財布を取り出す。 「すみません。お勘定をお願いします」 「あいよ!」  男は店長の西木を呼んだ。どうやら代金の支払いのようだ。 「新メニューのビーフ丼、美味しかったよ」 「そう言ってもらえると嬉しいね。それにしても、お兄さんどこかで見たような」  西木は男の顔を凝視する。よく見ると端正な顔立ちをしていた。  一言でいうとイケメンである。  体型も細身であるがよく引き締まった体をしていた。 「まさかお兄さん芸能人じゃないよね?」 「気のせいじゃないかな」 「それもそうか。ウチみたいなボロ屋に芸能人が来るわけないか」 「そんなことないよ。お店の雰囲気もいいしね」 「お兄さんお世辞がうまいね。また来てくれよ!」  男は店から出て繁華街を歩く。  少し繁華街から離れ、人気の少ない路地を歩く。  その男の前に大柄の西洋人がヌッと出てきた。 「……藤宮ルミはどうだった?」 「まァ元気そうだったよ」 「そうか……」  西洋人はゲオルグ・オットー。ASUMA所属の機闘士マシンバトラーである。  もう一人の男は間宮蒼まみやそう、同じくASUMA所属の機闘士マシンバトラーだ。  藤宮流とは、ライバル関係である不動流の〝龍虎〟と呼ばれた二人。  しかしゲオルグは、格闘技の試合に出場したことを理由に破門。  間宮は不動流を辞め、現在は毘沙門館空手に所属している。 「藤宮ルミが来たのは運命かもしれんな」 「はは……どうだろうね。それよりも空を見てごらんよ」  間宮は空を指差した。指差す方向にゲオルグも天を仰ぐ。 「綺麗な満月だ」  夜空には満月が光っていた。それは儚げもあるが静かに美しく輝き続けていた。 ・ ・ ・  場面は変わり『東京・丸の内』に移る。この地は日本屈指のオフィス街として発展し。東京の中心業務地区(CBD)として機能している。  大手企業の本社ビルが建ち並び、日本の金融・経済の中心地の一つである。世界最大大手の総合スポーツ用品メーカー『ASUMA』の本社ビルもそこにあった。  本社ビルのCEO(最高経営責任者)の部屋では、経営トップである飛鳥馬小夜子が椅子に座っている。  その前には黒スーツの男が立っていた。年齢は20代後半といったところか。  顔は面長で面妖な顔つきである。  少し口角が上がり笑顔の表情にも見てとれるが、機械的な笑いで感情を読み解けない雰囲気があった。 「お呼びでしょうか」  男の名前は山村慈念やまむらじねん。  ORGOGLIO事業部の最高責任者で、スカウト部門も統括している。 「呼び出したのは言うまでもないわ」 「田澤さんの件ですか?」 「彼は大ハズレよ」  タザワーの一件で彼を責めているようだ。彼を獲得するように進言したのは山村だからだ。 「高齢ではありますが、アマチュアの経歴もそこそこありましたから」 「それだけ?そんな人ならいくらでもいるわ」 「ネット上では人気がありましたよ。話題作りにもってこいと思いまして……」 「ただの問題児じゃない。我が社の信用に傷がついたわ」  山村もそれなりの根拠があって獲得したことを告げるが、小夜子は納得しない。  試合結果も散々で彼のこれまでの言動、行動から獲得したASUMAも批判にさらされたからである。 「いや……誠に申し訳ございません」  山村は上司に対して謝罪の言葉を伝えるがどこか機械的だ。言葉がテンプレート的で感情がない。 「それよりも山村。正直に白状なさい」 「どういう意味でしょうか」 「とぼけて……どうせあの人の命令でしょ?」  小夜子は山村の顔をジッと見つめる。その顔を見て山村は白状した。 「……観念します。その通りです」 「何故あんな選手を……」 「藤宮ルミにぶつけたかったらしいですよ」 「どういうこと……?」  質問に対し山村は答えた。 「さァ……私にもあの方の考えはわかりません。でもひょっとしたら……」 「ひょっとしたら?」 「小夜子様と紫雲さんを近づけたかったのかもしれませんね」  山村は無機質な笑いを浮かべる。 「ふざけないで!」 「失礼しました」  小夜子は激高した。自分の感情に土足で踏み込んだからだ。  実のところ山村に対して彼女はそれほど強く出れない。  『あちら側』の人物で下手をすると自分よりも強い発言力を持つ男なのだ。  山村は機械的な謝罪後に小夜子にあることを伝える。 「それより藤宮さんも5勝目ですね」 「それがどうかしたの?」 「このまま順調に昇格するのも、小夜子様のしゃくに障るだろうと思いまして……実は次の対戦相手をこちらでご用意いたしました」 「……それもあの人の差し金なの?」 「左様でございます」  そう伝える山村の顔には、闇の光が輝くのであった。

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