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 朱雀門の型を取るゲオルグ。  蒼の想いを継いでいるかのような戦闘態勢。  それについづいして、バーバリレオンも頭部を腕で護る姿勢で――― ――ギュインッ……ギュイン……  型落ちの機械らしい古びた音を鳴らし、ゆっくりとゆっくりと間合いを詰める。  そこには、ただひたすらに真っすぐに攻める意志を感じさせられる。 「獅子というよりも水牛ね」  対するルベラ、暁の愛機である東雲は半身の型を取っていた。  その型を見たゲオルグは何かに気付いたようだ。 「その構えは……高橋空手の変形か?」  それは紛れもなく、高橋空手の特徴である円の組手の構えに酷似した姿勢だった。  ただ少し違うところは両手を伸ばし、センターラインを守る高橋空手であるがルベラの取る構えは違っていた。  両肘を軽く折り曲げ、順手は胸を引き手は顎を守っていた。 「サトルに教えてもらった構えよ」 ・ ・ ・ ――私は真実の中にウソをつき続けた。  ルベラはふと昔のことを思い出していた。 「お前は捨てられたんだ」  父親に言われた言葉だ。  小さい頃、学校の友達には母親という存在がいるのに自分にはいなかった。  そのことについて父親に尋ねたときにそう伝えられた。 「それよりレッスンの時間だ。さっさと着替えろ」  父親は不機嫌な顔になり運動着を投げ渡される。  毎日、毎日行われる格闘技のレッスンのためだ。  ほとほと嫌になっていたが、子供である自分が到底逆らえられない。 「わかりました」  子供の頃からなるべく考えないようにした。  父親の言うことを聞くしかないからだ、そこに『疑問』という不純物が混ざり込んではならない。  また日常生活において、友達からの遊びに誘われても彼女はこう言った。 「私、帰ったらお母さんと一緒に習い事に行かなきゃならないの」  母親はいるというウソ……帰っても父親の指導が待っているだけという事実……。  真実とウソを混ぜ込むことで誤魔化し続けた。  そうするクセを身に付けて言ってしまった。  やがて成長したルベラ。  女性ながらプロの機闘士マシンバトラーとなる。  地元では有名なアスリートとして持て囃され始め、父親も鼻高々だ。 「順調だ!私の指導は完璧だ!女性であることは非常に残念だったが逆に良かった!!」 「父さん?」 「私の機闘士マシンバトラー理論は女性でも大の男を倒せることが証明された!これでコーチのオファーがドンドン入るはずだ!」  父親も昔はプロの機闘士マシンバトラーだったが2流だった。  2流だった故に才能がなかった故に、子供に己の野心を託したのだ。 「捨てられたんじゃねェ……引き離されたんだ」  ある日、父親と仕事を共にしていた男にこっそりと真実を伝えられた。  幼少期から格闘技、BU-ROADバトルの英才教育を叩き込んでいた父親を見かねた母親は離婚を決意。  親権を自分に戻そうと奮闘したが裁判で敗訴、父親に引き取れることになったという。 ――お前は捨てられたんだ。 「全部……ウソだったんだ……」  彼女は考えないようにした。  目の前にある事柄に集中するしかない。  そうでないとやっていけなかった。 「もうすぐBBB級トリプルバトルに昇格出来そうだったって時に……」  父親の計画は狂った。試合の怪我を理由に契約を解除されたからだ。  せめてルベラが女性としてBBB級トリプルバトルに昇格すれば、BU-ROADバトル史に自分の名を刻むことが出来る。  現役時代は2流だったが、指導者としては名伯楽として有名になれる。その夢が脆くも崩れ去ったのだ。 「まァいい『孫に期待』するか」 「孫?」 「そうだ父さんがいい格闘家を紹介してやる。体格、筋肉の質、身体能力……遺伝的に完璧だ」  ようするに結婚話だ。  父親は自分を種牡馬としてしか見ていない。  体も心もケアしてくれない鬼ような父親に心底呆れ果て、深く傷ついてしまった。  数ヶ月のリハビリの後、何とか闘える体に戻し家を出た。  向かう先はロサンゼルス州スキッド・ロウの〝ドットイート〟である。  彼女は結局、機闘士マシンバトラーとしての運命から逃れられなかった。  これしか生きる術を知らなかったのだ。 「ルベラ・ミケンズ……名前だけなら聞いたことがあるね。BB級ダブルバトルでそこそこ活躍した選手だ」  オーナーのスナックはルベラの経歴を通信携帯機で調べながら言った。  WowTubeで怪我する前の試合動画も視聴しているようだ。 「ここで働かせて欲しい」 「OK」  あっさりと決まった。  全盛期の力は出せないながらも、ルベラの顔立ちはいい。  下心を持つ男性陣を呼ぶための客寄せパンダとして期待されたのだ。 「うっ……」 「おいジャッキー!またルベラが倒れたぞ!」 「酒でも顔にかけてやんな、疲れでブッ倒れただけだ」  ドットイートでの試合の毎日、勝ったり負けたり繰り返す日々。  過激な試合を提供するドットイートだ。  電流爆破マッチ、剣闘試合グラディエーターバトル、多人数掛け……ドッと言わせるような非公式ルールを強いられる。  徐々に彼女の身も心も疲労感が蓄積されていく。 「雑な扱いだな。俺が部屋に連れて帰るよ」 「お前がか」 「ルームメイトなんだ」 「サトル、ヘンなことするなよ」 「言われるまでもねェ」  そんなある日、部屋にルームメイトとして一人の日本人が紹介された。  名前はサトル・カツラギ。  色々と母国でヤバいことをしたという札付きのワルとスナックから伝えられた。  当初はお互い多くを語らず、日々の生活を過ごす毎日であった。 「離せ……自分で動ける」 「無理するなよ、足がふらついてるぜ」 「余計なお世話だ」 「お互いに傷持ちなんだ。これを機会に互いのことを話さないか」 「どういうことだ?」 「聞いたぜ、お前の父親のことを」 「お前に何が理解わかる」 「理解わかるさ……母親がいない者同士なんだから」  どこで聞いたか分からないが、暁はルベラの過去を知っていた。  そして、暁も同じく小さい頃から母親がなく男手一つで育てられた。  話を聞くと同じ境遇の持ち主だった。  お互いに野心深い父親を持つこと、母親の温もりや優しさを知らないこと、似た点は様々だった。 「似た者同士だ。もっと仲良くしたいな」 「な、何を……」  部屋に戻ると、サトルはルベラを押し倒した。  その眼は狼のような獰猛さを宿している。 「や、やめて……」 「ジッとしてろ、お前が好きになったんだ」 「何を突然」 「似てるんだよ。俺が好きだった女に……そして、俺を見捨てた母親に……」  ただ唯一違うとしたら、暁は根っこの部分に悪を宿していることだ。  その悪は父親によって人為的に宿されたもの。  『可愛がり過ぎる虐待』というもので育まれていった。  欲望を抑えることが出来ない暁は思ったままの行動をすぐさま実行してしまう。 「かわいそう」  普通ならば悲鳴を上げているところである。  しかし、ルベラは違った。 「―――ッ!?」  暁は動揺し狼狽、そして何故か涙を流し始めた。 「泣いてるの?」  暁は情事に移さず、そのまま立ち上がった。 「人からそんなことを言われたのは初めてだぜ」  袖で涙を拭う暁。 「ますます気に入った」  妖しくも哀れみを醸し出す笑みだった。  一方のルベラ、何故『かわいそう』という言葉が出たのであろうか。  真実の中にウソを混ぜたのだ。 (何を勘違いしてるんだろう) ――かわいそう。  それは上辺だけのもの。  両親の優しさや温もりを知らず、他人から初めて愛の言葉を聞いた自身に対して言った深層の叫びだ。  暁がかわいそうではなく、私はかわいそうな存在、似た境遇を持つ者だからこそ伝えたかった言葉だ。 「私も気に入ったよ」  ルベラも立ち上がると、再び真実とウソを混ぜた言葉を伝える。  欲望の塊である暁、彼もまたルベラにとっては愛憎入り混じる存在。  父親に似ていたからだ。

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