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 12月の中旬、年末も近くなった。  ルミは蓮也と共に帝都ホテルに来ていた。 「めんどくせぇな」 「しょうがないだろ諦めろ」  BBダブルバトル級昇格が決まったルミは、週刊バトリンピア主催する『来シーズン注目の機闘士マシンバトラー』ということで、注目選手の一人として呼ばれていたのだ。  記者会見を受けるのも立派な広報活動だ。宣伝は大事なのだ。 「あなたも来ていたんですね」  ルミは後ろから声をかけられた。  黒いランニングキャップに青と白を基調とするジャケットを着ていた。  どこかで見た顔、まじまじと見る。 「あ、あの……そんなに近づかれたら」  目鼻の整った顔立ちだ。中性的である。  女性で表すならばクールビューティ。  男性で表すならば清涼な男性アイドルといった顔立ちだった。  耳までかかったショートカットがとても良く似合う。 「どっかで見たな」 「ランニングコースでお会いしているはずです」 『おはようございます。いつも見てますよ』 「あっ……あたしのランニングコースでいつも挨拶している」 「やっと思い出して頂けましたか」 「あんたか。名前は?」 「高橋昴と申します。数年前にあなたのお父様のご活躍を見ていました」  昴はどうやら魁道のことを知っているらしい。  もう一度、昴の顔をまじまじと見た。今度はキスが出来そうなくらい近い。  そのためか、昴の顔は少し赤くなっていた。 「で、ですからそんなに近づかれたら……」 「あっ!思い出したゲオルグに抗議してたヤツか!!」  毘沙門館オープントーナメント全関西空手道選手権大会。  その準決勝で昴の師である角中翼とゲオルグ・オットーが対戦したのだ。  試合の結果はゲオルグのTKO勝利。  だが、試合内容は反則勝ちに近いもので後味の悪いものが残った。  ルミは試合終了後、昴が懸命に反則を訴えている姿を思い出したのだ。 「近付き過ぎだ」  ルミと昴の間に入って二人を分ける。  二人を分けた時に、弾みで蓮也の手が昴の胸に当たった。 「きゃっ?!」  その瞬間に昴が悲鳴を上げた。ルミと蓮也の二人はきょとんとした顔で見ている。  まるで痴漢にあったかのような急な声で驚いたのだ。  蓮也は心配そうな声で言った。 「む、胸でも痛いのか?」 「い、いえそうではありません。じゃあ私はコレで」  そう述べると昴は駆け足で帝都ホテルへと入っていった。 「変な子だなァ」  蓮也はホテルに入る昴の後ろ姿を見ながらそう述べた。  傍にいるルミは顎に手を当てながらこう言った。 「あのホテルで働いてるのかな」 ・ ・ ・ 「社長。お待ちしておりました」  ホテルに入るとカミラが待っていた。  どうやら記者会見場へと案内するために先に到着していたようだ。 「うむ。では案内を……」 「おやおやァ?こんなところで女性に囲まれるだなんて良い御身分ですね。さん」  イヤミったらしい声が聞こえた。  ホテルのロビーからスーツを着た男が来た。  立体的で飾りボタンが多く、上下にポケットが二つ配置されている高級そうなスーツだ。  髪型もツーブロックにきめており、清潔感が溢れていた。  男は櫛で髪をかき分けながら寄って来る。年齢は30代といったところか。 「中台か……何しに来やがった」 「誰だこいつは?」  世間の情勢に疎いルミはカミラに質問をした。 「中台歩、今をときめくハンエーの社長よ」 ○ ハンエー 8年前、中台がまだ大学生の頃に創業した超新星企業。 インターネットショッピングモール『ハンエー市場』や総合旅行サイト『ハンエートラベル』などのECサイトを運営。 経営状態が好調で勢力を拡大中である。 「シウソニックさんも落ちぶれたもんだ。そこのお美しいマドモアゼルを、ORGOGLIOの場に立たせてるって話じゃないか」 「な、なんだとォ?!」  中台はこれまたイヤミったらしい顔で見ている。それに対し蓮也は今にも掴みかかりそうな勢いだ。  二人の仲が悪いのは理由がある。  2年前、シウソニックの製品を許可なく通常の価格より20%引きでネット販売。  これにシウソニックは抗議し商品取引を停止し、両社ともに訴訟合戦になった過去がある。  それ以来、中台と紫雲の中はかなり険悪となった。 「おいアスパラ、このおっさんロリコンか?」 「な、な……なんですと?!」  中台の顔は鳩が豆鉄砲を食ったような顔だった。あまりにも無礼な態度に怒りの表情を表した。 「き、君!名前は!?」 「顔は知ってても名前を知らんのかい。あたしは藤宮……藤宮ルミだ」  藤宮という名前を聞いて歩は少し驚いた様子だ。  彼女の顔を来賓として参加した空手の大会で見た気がする。 「藤宮……んっちょっと待て、君のことを見たことがあるぞ。確か三つ編みで……」 「うわっキモッ!知らんおっさんに話しかけられているんですけど~!」 「お、おっさんだと!?私はまだ30歳だぞ!」 「いきなりナンパしようとしてる不審者なんぞおっさんで十分だ」 「ナンパなんぞしとらんわっ!それに私は不審者でもない!」  中台のことなんて一片の欠片も記憶にないようだ。  初対面の相手にいきなり『マドモアゼル』などとキザったらしいことを言われ、おまけに『君のことを知っている』と大昔に流行したトレンディドラマの登場人物みたいなことを言った。  ルミにとって、中台はイタイおっさんにしか見えなかった。 「ははっ!いいぞもっと言ってやれ!!」 「しゃ、社長」  蓮也は目から涙を流しながら喜んでいる。ざまあみろという感じだ。  カミラは子供の口ケンカみたいな状況に、気恥ずかしい気持であった。  腕を組み、視線は床に向けて呆れた表情だった。 「中台社長……こんなところで何をやっているんですか」 「す、昂君!」  子供のような口ケンカをしているところ、昴が後ろに立っていた。  出会った時の姿と違い、ジェンダーレスな黒の上下のファッションだ。  まるで甘い顔立ちのアイドルのようである。 「君はさっきの……昴君だっけか」  蓮也は昴を見ながら言った。  中台のところに来たということは、何を意味するかが分かる。 「先程はどうも」 「昂君、こいつらを知っているのか」 「先程、ホテルの入り口でお会いして……」 「アホがうつる。さっさと記者会見場へいくぞ!君はこんな無礼な、機闘士マシンバトラーになっちゃダメだからね!!」 「な、中台社長!すみません、また後程」  中台はツカツカと、ホテルの記者会見場が行われる大広間まで歩いて行った。  昴は蓮也達にペコリと頭を下げると、その後をついて行った。 「けっ……のやろう偉そうにしやがって」 「昴君か……礼儀正しい子だったわね。顔もよかったし」  カミラは後ろ姿の昴を見ながらボーッとしている。  蓮也はそんなカミラを見ながら注意する。 「オホン……芥生君。大広間まで案内して頂けないかね?」 「は、はい。ではこちらへ」 (あいつ機闘士マシンバトラーになってたんだ)  ルミは感慨深い気持ちになった。あれからもう4年か。  魁道が人生で初めて出場した空手の大会。見事に初出場初優勝を飾った。  父の後ろ姿、戦う姿、一つ一つの言葉が懐かしい思い出だ。  その父は既にこの世にはいないが、あの時の試合する父はかっこよかった。  今も父の代理で持ったトロフィーの重みの感触は手に残っている。  そんな思い出の中、視線の横側に一人の女性の姿が目に入った。 「えッ?!」  彼女に驚くべき女性の姿が写り込んだのだ。その女性もまた懐かしい人物だ。  着物姿の和装美人。凛とした大和撫子である。  おそらく年齢は40代であろう、が肌のつやがよく年齢よりはかなり若く見えた。  知らない人が見たら20代後半というかもしれない。美魔女である。 「おいルミ。何ボケっとしてんだ行くぞ」 「あ、ああ、すぐに行くよ」  蓮也に呼ばれ、ルミはその後に急いでついて行った。  彼女が視線を戻すと、先程の和装美人の姿はなかった。  ルミは不思議そうな顔だった。まるでキツネにつままれたようだ。  さっき見た女性は思い出から出てきた幻想、はたまた夢だったのだろうか。 (ママがこんなところにいるわけないか)  ルミが一瞬見えた和装美人とは、彼女の母親である藤宮詠のことである。

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