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 人気のない道を男が歩いていた。男の名前は松原基泰まつばらもとやす。  益田京介に代わり、新たに星王会館の新宿道場を任されることになった。  大阪府出身で、星王会館初期の頃より信玄に尽力する古参。  元毘沙門館・高橋道場の門下生でもある。 ――ザッ……  松原の前に全身黒装束の怪人が立ちはだかった。  フードを被り怪しげな黒い仮面をつけている。  両手にはメリケンサックをはめ、右手にはスタンガンを携帯していた。  「あんたか……噂のスターハンターってのは」  目の前に立った黒ずくめの怪人に、松原は関西なまりの標準語で言った。  黒い怪人は無言で構える。松原はその構えを見て懐かしそうな表情だ。 「その構え、高橋先生が教えたもんとはちょっと違うな」  黒い怪人の構えはやや半身に構えている。  スタンガンを持つ順手は目の高さに、逆手は鳩尾に手を置く。 「星王会館初期に葛城先生が教えていた構えだ」  その構えは、信玄が試合競技用に『ある人物』に教えたものとそっくりであった。  松原はニヤリとしながらこう言った。 「誰が犯人か見当がついたぜ。逆恨みか?」 「……ッ!」  それを聞いたスターハンターは体が少し震えるも襲って来た。 ――ズキッ!  次の瞬間に横から鈍痛が走る。誰かに横から蹴られたのだ。  スターハンターは反動で数メートル飛ばされた。 「昴、お疲れさん」  松原はそう言った。不意打ちを仕掛けたの高橋昴である。 「こいつが例の……よくわかりましたね」 「一緒に活動してた仲間がやられたからな。次に襲ってくるならば、俺だろうと予想がついた」  スターハンターは起き上がり構えをとる。  持っているスタンガンをパチパチと音を鳴らして威嚇する。  黒い怪人に対し、昴は静かに見据えながら言った。 「星王会館を嘗めるなよ」 「……ッ?!」  スターハンターは後ろの気配に気づいた。いつの間にか屈強な男達に囲まれていたのだ。  男達は星王会館本部の門下生達、何れも本部内弟子の手練れである。 「お前はこれから償いをしてもらう。たっぷりとな」  昴の声は普段からは想像も出来ないほど冷たかった。 ・ ・ ・  その頃、スタジアムでは試合が行われていた。  藤宮ルミVS砂武天翔の一戦である。 「3秒でぶっ飛ばしてやるぜ!」 (またこの手の脳筋タイプか)  旋風猛竜サイクラプターは一体のBU-ROADと対峙している。  そのBU-ROADは昭和の怪獣的なデザインをしていた。  色は深緑で、背中には黄色い背びれのようなものがついている。  これぞ星王会館の重量級エース、砂武天翔専用BU-ROAD『ゴラス』である。 「ウルトラビッグファイトかよ」 「怪獣大戦争だバカヤロウッ!!」 ○ 中層リーグ:BB級ダブルバトルワンマッチイベント “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜サイクラプター スポンサー企業:シウソニック VS “となりの怪獣王” 砂武天翔 スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:ゴラス スポンサー企業:ハンエー 「この試合の審判を務めさせて頂きます、リリアンと申します」  白い審判機から声が聞こえる。珍しく若い女性の声だった。  アメリカ出身の24歳。金髪スレンダーの美女である。 「いいか、俺を島原のような……」  砂武は拳を突き出し挑発するも……。 「バオのおっさんが審判じゃないのか」 「あなたがルミさんね。バオさんからお話は聞かせてもらっているわ」 「あのおっさんから?」 「色々と期待しているそうよ」 「マジかよ。ストーキングしないだろうな」 「するワケないじゃない」  試合前だと言うのに選手と審判が親しげな会話をしている。  そんな二人を見て砂武は怒りをあらわにする。 「おい審判が……」  そんな砂武の言葉を遮り、リリアンは注意した。 「そこ!これから試合よ私語は慎むように!!」 「な、なんだと、そもそも審判が……」 「BB級ダブルバトルのワンマッチを始めます」 「だから審判のあんたが!」  砂武の抗議を無視し、リリアンは試合の開始を合図する。 「BU-ROADファイト……レディーファイツッ!!」 ――ゴォーン!!  戦いの銅鑼は打ち鳴らされた。 「調子が狂うぜ」  ゴラスは両手拳を顎につけ、しっかりと顔面をガードする。  一方のルミは、両手をダラリと下げた蜘蛛糸の構えである。 (なんだコイツ、ノーガード戦法かよ)  砂武がジリジリと間合いを詰める。モニター画面上にはセコンドの粕谷と中台が映り指示が出る。 「くれぐれも油断するなよ。どんな技や機能を出すかわからん」 「砂武さん、ゴラスの機能を堪能して下さい」 「わかってるぜッ!!」  一方のルミ、前に観戦した蒼の試合のことを思い出していた。  全身を脱力させ、ムチのようにしなやかに蹴りを出す身体操作だ。 (試しにやってみるか) ――ジリ……  ゴラスは少しづつ間合いを詰めて来る。 (この間合いだな…) ――スパンッ!! 「むぐっ!?」  旋風猛竜サイクラプターの前蹴りが見事ゴラスの鳩尾に命中。  中段の前蹴りが炸裂したのだ。 「よっしゃ入った!一本だ!!」  セコンド席にいる蓮也は喜びを表す。 「ところがどっこい――ッ!!」  砂武はそう叫ぶと……。  〝セクター29起動ッ!!〟 ――ギュイイィーン!!  ゴラスの足裏から、高速回転するタイヤが出て来た。  そして、旋風猛竜サイクラプターの蹴り足がヒットしたのと同時に前方へと突進したのだ。  その勢いで旋風猛竜サイクラプターは後方へとすっ飛ばされる。 (打ち合い専門ブルファイターっぽいな)  ルミは吹き飛ばされながらも冷静に相手を分析する。  綺麗な受け身を取る共に即座に跳ね起きる。 「恐竜戦車かよ」 「恐竜はお前だろ!俺のは怪獣だァーッ!!」  ゴラスはガードをしっかり固め、前後左右にウェービングしながら間合いを詰める。  砂武の動きに合わせ、車輪が床面に対して滑らかに動く。  さながらスケボーのような動きであった。  セコンドの中台は、髪をかき分けながら自信満々の表情だ。 「豪州のバイクメーカー、ザネッティ社の助力により得た機能……この動きについてこれるかな?」  ザネッティ社が開発した〝セクター29〟は操縦者の重心位置に合わせて、車輪が前後左右に対応し床面に対し並行に動く。  つまり、ちょっとやそっとの崩れで転倒しないよう設計されている。  ハンエーのような開発能力を持たない企業は、このように中小・ベンチャー企業に協力を募ることで機体開発を行うのだ。  さて一方の試合では、砂武がゴラスのセクター29を堪能していた。 「いくぜ!マッドマックス戦法――ッ!!」  旋風猛竜サイクラプターの周囲をグルグルと周るゴラス。 「シィッ!!」  ガコリとサイドからローキックを放つ。  バットで叩かれたような衝撃がルミの左大腿部に伝わった。  ≪左脚部機体損傷率15%≫ (重い……!!)  痛みを感じながらも、ルミは反撃の機会を伺う。オートレースのバイクのように周るゴラス。     後ろに気配を感じたと同時に裏拳を放った。 「そこッ!!」 「コイツも、ところがどっこい!!」  ゴラスのタイヤが後方に高速回転し、バックブローを躱された。  その動きを見て、ルミは相手がなかなかの手練れと感じとれた。 「ただのパワーバカじゃないみたいだね」 「ハハハッ!そういうこったぜお嬢さん!!」  轟音を立てながら旋風猛竜サイクラプターの周りを旋回しつづけるゴラス。  パワー型ながらセクター29を搭載することで機動性をアップ、操縦者の砂武自身も機体の性能を活かした戦法だ。ただのゴリ押しだけではない、クレバーさを感じさせる。  試合を見守るセコンドの蓮也と野室。野室はゴラスのデータを見て感心している様子だ。 「ザネッティ社か、スポーツバイク分野に力入れてますね」 「いやそれよりもだ、ちょっとヤバいんじゃないか……」  ルミはゴラスの動きを見る。  なるほど旋回しながら相手への死角へと回り込む円の動き、そして前後左右のタイヤ駆動で機動力も良し。  『重機のように動き、ハンマーのように叩く』ヒットアンドウェーの戦法。  打撃が得意な星王会館向けに設計された良い機体である。 「いくぜ!!」 ――ギュイイィーン!!  ゴラスは更にタイヤを加速させて突っ込んできた。  旋回しながら突きや蹴りをサンドバックのように打ち込んでくる。 「右のボディがガラ空きだぜ!」 ――ガゴッ!≪胸部機体損傷率16%≫ 「お次はローキックだ!」 ――ベギッ!≪右脚部機体損傷率19%≫ 「チェリヤッ!!」  ゴラスは後ろ回し蹴りを放つ。  クルリと反転するその蹴りは、まるで大怪獣の尾撃のような威力を感じさせた。  その攻撃は旋風猛竜サイクラプターの胴部に命中する。 ――グギャッ!≪腹部機体損傷率42%≫  滅多打ちになる旋風猛竜サイクラプター。  だが倒れなかった。  両手をダラリと下げて腰を深く落とすのみである。 「タフだな」  砂武の言葉にルミはこう答えた。 「怪獣はヒーローに倒されるのが運命さ」

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