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 ORGOGLIOの真価がわかった。  純粋な格闘能力だけで闘うには限界があるのだ。  蒼とコリーの試合でBB級ダブルバトルの試合は終了、次はBBB級トリプルバトルの試合が数カード組まれている。 「次はBBB級トリプルバトルの試合ね」 「まだあるのか」 「BB級ダブルバトルは前座みたいなものよ。どうルミ、ウラノスの試合も見ていかない?」  ルミは小夜子からBBB級トリプルバトルの試合観戦も勧められた。  なんでも前年度のチャンプ、ウラノスの試合があるらしい。 「すまないね、横綱相撲には興味ないよ」  小夜子はふっと息を吐き笑った。彼女らしいなと思った。 「まァいいわ、私はこれから所属する選手の試合もあるし残るわね」 「蒼さんにもヨロシク」  ルミはそう言ってスタジアムを後にした。  周囲はまだ人がまばらだ。これから人気のBBB級トリプルバトルが始まるからだ。  だが、スタジアムの隅に女性の一団が集まり盛り上がっている。 「今日も蒼様がお勝ちになり遊ばれましたわ!」 『ウルトラ蒼ッ!ハイッ!!』 「最高ですか!?」 『ウルトラ蒼ッ!ハイッ!!』  ふわふわの巻き髪に、白いワンピースを着た女性を中心に集まっている。  彼女を中心とする蒼のファン達のようだ。 「会長!」 「何だ会員№8」 「実はこの間、朧童子1/20フィギュアを入手致しました」 「な、なん……だと!?」  会長と呼ばれた女性は、三歩後ろへ後退した。  朧童子のフィギュアを指差す、衝撃の余り指が震えている。 「こ、これはBB級ダブルバトル昇格記念に20個限定で販売されたものではないか。会長である私でさえ入手出来なかったものだ」 「ある伝手を頼って入手致しました」  フィギュアを提示し自慢する女性はどこかで見た顔だった。  ……というよりもよく知る顔である。 「あんたこんなところで何をしているの」 ――ギクッ!? 「ル、ルミ、何でここに!?」  その女性とはカミラだった。普段と違う服装と髪型で気付かなかった。  かなり慌てた様子のカミラを見て、ファンクラブの会長は言った。 「どうした会員№8。知り合いか?」 「い、いえ……すみません。今日はもう帰ります」 「そ、そうか」  カミラは素早くルミの手を取ると慌てた様子だ。  強く引っ張ると、どこかしらへと連れて行った。 「ちょっと来なさい」 「うわァ……おいちょっと!?」 ・ ・ ・  二人はスタジアム近くの公園にまで来ていた。カミラはかなり動揺している。 「何であなたがあそこにいるの」 「キャラが壊れてるぞ」  ルミは何とも言えない表情をしている。  クールな印象があるカミラがまさかアイドル選手を応援しているとは思わなかった。 「いつから応援しているんだ」 「デビューして間もない頃から……」 「なるほど、それでか」  ルミは合点した。  以前、蓮也から“ORGOGLIO”参入は『カミラからの提案』ということを聞かされたことがある。 「そういや“ORGOGLIO”参入のアイデアって、カミラからだったね。まさか間宮蒼に近づくために……」 「ち、違います!それは断じて否定するわ!!」 「本当か?」 ――スウゥ……  その時だ、冷たい空気が流れた何者かが背後にいるのは間違いない。  誰かは分からないが気配なく忍び寄ったのだ、只者ではない。 「本当ですよ」  ルミは耳元で囁かれた。  声から言って男性、音の方向から自分より背が高いのは間違いない。 ――ブンッ!  反射的にバックブローを放つが、その影は難なく躱した。 「危ないじゃないですか」  影の正体は山村慈念。  ASUMA‟ORGOGLIO事業部”の最高責任者である。 「あ、あなたは」  カミラは驚いた様子だ。それに対しルミは……。 「いきなり乙女の耳元で囁きやがって」  そう言って戦闘態勢に入った、山村は慌てた様子で弁解する。 「お待ちを!私は怪しいものではございません」  山村はそう述べて名刺を見せる。 「何でお前がこんなところにいるんだよ」  ルミの言葉に対し、山村は笑顔になる。しかし、その笑顔は仮面のように無機質で不気味だ。  山村はチラリとカミラを見てから、夜空にある月を指差しながら言った。 「今日はとっても月が綺麗なので」 「はァ?」 「そういえば大昔『月がとっても青いから』って歌がありましたね、アハハ」  ルミはとぼけた様子の山村を見る。 「まァいいや。それにしても、あたしの裏拳を避けるなんてやるね」 「若い頃は色々とやってましたので」 「色々ねえ……」  飄々とした山村にルミは警戒感を覚える。あの瞬時の攻撃を素人が躱せるはずがない。 ――アグワッ!?  静寂と緊張の空気が流れる中、男の悲鳴が聞こえた。 「何でしょうかね」  山村は珍しく少し動揺しながら語った。 「あの悲鳴は……」 「ちょ、ちょっとルミ!」  ルミは悲鳴がする方向へと走った。  その場にはカミラと山村だけ残される。何故か二人は緊張感を残し対峙していた。  山村は無言でカミラに近寄った。隙もなく音もない。 「エンジョイしてますね」  山村は掌を上に向けて差し出した。  カミラは無言でバックからUSBを取り出して渡す。何やら怪しい雰囲気だ。 「ご苦労様。実様もこれでお喜びになります」 「出てくるなら、誰もいないところでして欲しいものだわ」 「フィギュアをあげたからいいじゃないですか」  山村はニヤリとする。 「慈念……あなたね」 「あざみの花言葉に相応しいお仕事です。芥生あざみカミラさん」  そう述べ音もなく山村は去って行った。 ・ ・ ・ 「声は確かここから」  一方ルミは公園の周囲を見渡す。  ジャングルジムやブランコといった遊具が静かに佇んでいるだけだ。 ――ビリリ……  青い光が見えた。光の方向は公衆トイレの近くだ。  ルミは光の方向へと走って行った。  すると全身黒装束の仮面の怪人がいた。黒いフードを被り、怪しげな黒い仮面を付けている。 「何者だ」  ルミは警戒を崩さず、黒い怪人を指差す。  相手は両手にメリケンサックをはめ、よく見ると右手にはスタンガンを持っていた。  その傍らには、顔面を殴打され血塗れの男性が倒れている。 「やるか……」  ルミは構えをとる厳戒態勢だ。  だが黒い怪人は慌てた様子で逃げ去った。 「ルミ、何があったの?!」  後ろからカミラが小走りで来た。  血塗れの男性がいることに気付くと声を震わせた。 「ひ、人が……」  ルミは倒れている男の傍へ行き生死の確認をする。 「息はある大丈夫だ。とりあえず救急車を呼ぼう」 「あっ……コレ……」  カミラは傍に小さなバッジが落ちていることに気付いた。  拾い上げると、バッジには三つの星が描かれている。 「なんだそりゃ」 「見たことがあるわ……このロゴは星王会館の三ツ星マークよ」 「星王会館……空手のか」 ・ ・ ・  同日の2時間後、繫華街の路地裏で白い男と黒い影が相対していた。  白いスーツを着た男の名前は益田京介。星王会館・新宿道場長である。  が、彼にはもう一つの顔がある。  お金に困っている若い女性を見つけて騙し春を売らせていた。 「逆恨みしたバカ女の関係者かい」  益田の前に立つのは黒いフードを被り、これまた黒いアノニマスマスクの怪人だ。  夜中、裏家業が終わり帰路につこうとしたときに突然現れたのだ。 ――スゥ……  黒い怪人は半身に構えた。空手か拳法をやっているようだ。 「そうか……お前が噂に聞くスターハンターか」  益田も構えを取った、両手で顔面をガードする現代空手の構えだ。  その構えを取ると、スターハンターは即座に下段蹴りを放った。 ――ビシィ!! 「やるね」  しっかりと腿を上げてカット。新宿道場長を務めるだけあって格闘能力は高い。 「シャッ!!」  次に益田はスターハンターの股間目掛けて蹴り上げた。  試合にはない街頭ルールで磨き上げられた喧嘩空手だ。 ――バシィ!!  だが、金的蹴りは下段払いで弾き返された。 「ぬゥ!」  体勢が崩れた益田の隙を見逃さず、そのまま追撃するも……。 ――サク……  ポケットに忍ばせたナイフで腕を切られた。幸い動脈は切られなかったが血が流れている。 「ナイフは卑怯じゃないよねェ♡」  益田はナイフを振り回しながら襲う。  ナイフの斬撃を、スターハンターは紙一重で避ける。 ――パシ! 「うおッ?!」  益田の視界が突然地面へ移った。  どうやら足払いをされたようだ。そのまま転ぶ益田の腕をとり肩を極めた。 ――ボグン! 「ひぎィッ!!  肩の関節を外した。益田は激痛でうずくまっている。  スターハンターは益田の落としたナイフを拾い顔に近づける。  そして、声色を使い低い声を出しながらこう言った。 「葛城暁を知っているな。日本にもう帰ってきているはずだ」  ……と。  そして、スターハンターはナイフで軽く益田の頬に斬り込みを入れる。  益田の頬からは赤い血が流れた。 「さ、暁さんが日本に帰っているかなんて知らねェよ」 「嘘をつけ」  スターハンターは益田の喉元にナイフを近付ける。  益田は半泣きになりながら言った。 「ほ、本当だ!信じてくれ」 「ちっ……使えない野郎だ」 ――ガギッ!  スターハンターは益田の顔面に蹴りを入れた。そして、執拗以上に踏みつけ蹂躙する。  更に無理矢理立たせ、殴り、蹴り、あるいは投げつけた。 「フゥフゥ……」  スターハンターは興奮していたのか、息が乱れている。  気付くとそこは血の海になっていた。 「そ、そこで何をしているの?」  黒いコートを着た女がいた。どうやら益田の女らしい。 「だ、誰か!!」  女が叫ぼうとした時、スターハンターはとっさに口を塞ぐのであった。

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