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 スタジアムがしんと静まった。  いよいよこれから始まるのだ。  メインイベントが……。 ――ガシャン  金属音がする。  ゲートから赤いノーマルレッドが現れた。 ――ガシャン、ガシャン  人は石垣、人は城、人は堀。  オーロラビジョンにでかでかと文字が現れる。  暫くすると文字はフェードアウトし、違う文が流れた。  情けは味方、仇は敵なり。  甲斐の虎、武田信玄の故事または武田節の一節である。 『星王会館!葛城信玄の出陣だッ!!』  壮大で風林火山の如し音楽で登場。  星王会館館長、葛城信玄が現れた。  搭載するは、カスタマイズした『ノーマルレッド・アストロ風林火山』  赤を基調にしながらも、銀河を彷彿とさせる金銀の装飾物が散りばめられている。  スポットライトに照らされ煌びやかで華やかだった。 ――人は石垣、人は城、人は堀。 (下らねぇ!人は道具、人は踏み台、人は肥やし) ――情けは味方、仇は敵なり。 (違うね!情けは敵、仇は味方だ)  親が偉大なる信玄公にあやかり、同じ名を付けたが彼は全くの正反対だった。  人は利用するもの、より上に、より高みに達するために必要な素材だと。  そう、葛城信玄の野心は広大な宇宙の如き広さがあった。  その欲望は留まることを知らない。  上昇志向の塊、権威主義、守銭奴、ビジネス空手屋。  それが武道界の信玄に対する反応だ。 (だからなんだ!)  お前も!貴様も!テメェも!  綺麗ごとをぬかすな!!  口当たりのいいことを言うな!!  金がなければ何もできない、好きな事を金にして何が悪い。  伝統、清貧、潔白……全てクソだ。  そういったものを標榜してきた偽善者どもは消えた。  この世はサバイバルだ。  綺麗ごとだけでは生きていけない、汚いことをして何が悪い!! 「星王の銀河を!宇宙を拡大する!!」  試合中央上に降り立った『強欲の巨星』はおかしなほど意気揚々としていた。  星王会館主催のBU-ROAD大会の構想、昴の広報活動、先の未来を想像していた。  そうしなければ気が持たない。何故なら……。 ――親父、早く来てくれよ。閻魔様がお待ちかねだぜ。  それは幻聴か、息子の死を知らされたことでのショックか。  時折、こうやって暁の声が聞こえて来るからだ。 (黙れ……黙ってくれ暁!)  さて信玄の入場曲が鳴り終わると暫し間を置く。  すると……。 ――ガン!  走って来た。 ――ガン!ガン!  駆けて来た。 ――ガン!ガン!ガン!  黒いヒト型だ。ノーマルブラックだ。  黒をベースに白、橙、緑、紫、青の色を使ったカラフルなデザイン。  白は毘沙門館、その他配色は共に戦った仲間をイメージした色だ。  橙は伊藤、緑はアルーガ、紫はルミ、青は蒼である。 ――ガン!ガン!ガン!ガン!  若い命が真紅に燃えて来たのだ。悪を許すなと言わんばかりに。  これなるは、スペシャル仕様『ノーマルブラック・毘沙門ウォリアー』  ガッツ!岡本謙信の見参である!! 「ウオオオオオオッ!!」  謙信は雄叫びを上げていた。  例えるなら、敵陣に飛び込む若侍。  例えるなら、騎馬隊と交戦するアパッチ族の戦士。  男の名は岡本謙信。  伝説の空手家、岡本毘沙門の孫である。  威風堂々の入場。  差し当たってカラテ・ウォリアー。  顔には派手なペイントを施されていた。  それは超合金戦士のように。また超銀盤戦士のように。  見た目だけかもしれない。上辺だけかもしれない。  そういった批判はどうでもよい。形から入ることが重要だ。  戦国時代武士にとって、化粧品は必需品であったとされる。  紅は勇猛であるように見せるために使った。  香は首を取られた際の名誉と品位を保つために使った。  武士は死を覚悟し意識していたからこそ化粧をしていた。  此度の岡本謙信も同様の心境である。  相手はあの葛城信玄。星王会館の巨星。  巨星の首を手にするのは俺だ。一番槍を上げるのは俺だ。  その思いからの突撃であった。 「ピエロだな」  信玄はオーロラビジョンに映る謙信を指差して高らかに嗤う。 「数秒でギブアップしてくれるなよ。ハッハッハッ!!」  対峙する謙信は沈黙を守る。 ○ BB級ダブルバトル団体戦:毘沙門館VS星王会館・大将戦 “星王の巨星” 葛城信玄 スタイル:星王会館空手 バランス型BU-ROAD(スピード寄り):ノーマルレッド・アストロ風林火山 スポンサー企業:ハンエー VS “毘沙門館の若き総裁” 岡本謙信 スタイル:毘沙門館空手 バランス型BU-ROAD(パワー寄り):ノーマルブラック・毘沙門ウォリアー スポンサー企業:ASUMA  大将戦は予め、ノーマルカラーズ量産型を使用して行われることが約束されている。  但し、ギミックなしの改造は可能。  お互いの技と技、パワーとパワーがぶつかり競い合う。  大将戦に相応しい、小細工なしの一本勝負だ。 「では、大将戦を開始致します……」  審判機に乗るリリアンが両者の間に入った。  これよりリリアンが最終決戦の……。 「BU-ROADファイト!」  号令をかける! 「レディーファイツッ!!」 ――ゴォーン!!  銅鑼の音と共に……。 ――ブンッ!!  謙信、つまり毘沙門ウォリアーが。 ――ワアアアアアアッ!!  信玄、つまりアストロ風林火山目掛け。 ――ガキッ!!  飛び込み手刀を叩き込んだ。 『こ、これは川中島合戦の再現だ――ッ!!』  それは川中島合戦における、三太刀七太刀伝説のようであった。  試合開始早々に仕掛けたのは謙信。  首元へ飛手刀を叩き込んだが、信玄は赤い腕でしかと防御した。  まるで甲斐の虎・信玄公が軍配で、越後の龍・謙信公の太刀を受け止める絵画を再現させたのだ。 「ガキが生意気にも奇襲かよ!」  即座にアストロ風林火山は間合いを取る。  そして構えた、大きな構えである鶴翼の陣を彷彿させる姿勢だ。 「ウオオオオオッ!!」  謙信は吼える。  自らを鼓舞し、小刻みに震え、足を踏み鳴らす。 「さっきから何だよ、人の言葉失ったのか?」  信玄は少し引いていた。  目の前にいるのが、あの謙信か。  雄叫びを上げるその姿、暴力性、躁状態。 「ハアアアッ!!」  構えも運足もない、ただただ突撃し……。 ――ゴッ!  左ジャブ。 ――ドカッ!  左内腿へのロー。 ――ドッ!  左ジャブ。 ――バギッ!  右正拳突き。  嵐のような猛攻だ。  控室で試合を見守る毘沙門チーム。  ルミは昔、父である魁道が出場した大会を思い出した。 「思い出したよ。あんたそのコンボ出してたね」  毘沙門館オープントーナメント全関西空手道選手権大会。  謙信が試合で出したコンビネーション攻撃だ。  一見すると暴走しているように見える、狂戦士のように見える。  だが違う。謙信は理性を保っているのだ。 「今宵の俺は違うぜ!信玄のおっさん!!」  重戦車のような猛攻に防戦一方の信玄。  着ている紺色の道着、勝負服に汗が滲む。  装着するプロテクターを震わせながら言った。 「調子乗んじゃねえぞ!ガキとは年季が違うんだよ!!」 ――ブンッ!!  巨大な拳を右ストレートを放つも……。 「ハイヤーッ!!」  逆に腕を取られ……。 ――ドギャッ!!  地面へと叩きつけられた。 『カ、カウンターのねじ込み式腰投げだッ!!』  サンボ流の腰投げだ。  Wakakoこと潘和香子との特訓で身に付けたものだ。 「ウラララッ!!」  謙信は追撃の踏みつけを放つ。 「ぬおッ!」  信玄は飛び跳ねてこれを躱し、半身の姿勢となる。  高橋空手、正中線を守る護身空手の構えだ。 『高橋空手!円の組手だ!!』  実況の言葉に控室の伊藤は眉をしかめた。  師を裏切った男が学んだ、盗んだ技法を使ったからだ。 「ふざけやがってあの野郎!!」  試合ではその構えを見た謙信が嗤った。  今度はこちらがトラッシュトークする番だ。 「それはウチの技術だ。特許料は払ってくれるんだろうな」 「い、いい気になりやがって!」  ハルク・ホーガンよろしく。  耳あてポーズをして挑発する。 「聞こえねえぞ?」 「ガキがッ!!」  挑発に乗り、信玄は飛び込みでの正拳突きを放つも……。 「高橋先生の技は、護りに入ってこそ真価を発揮するんだ!」 「ぎィッ?!」  謙信はその飛び込みに合わせ、肘打ちをアストロ風林火山の頭部に打ち込んだ。  カチ上げである。不動流の技『黒鵬』である。  強化合宿の際、蒼に誰にでも出来て使える技だとして教えてもらったものだ。 「ウオリャ――ッ!!」  体勢を崩れたアストロ風林火山をリフトアップした。  毘沙門ウォリアーはノーマルカラーズのカスタム機といえど、パワー型に調整された機体だ。  北山とのフィジカルトレーニングにより、機体からかかる負荷に耐えられるようになった賜物。  その出力は量産期の域を超えていた。 『こ、これは凄いパワーだ!!』  遠藤の実況と観客達の歓声がブレンドして盛り上がる。 「おっしゃ!いくぞ!!」  そのまま無造作に地面に放り投げる。  無論、全身打撲は免れないダメージだ。 「ウオオオオオオッ!!」  謙信は拳を天に向かって突き上げた。  それは祖父、岡本毘沙門に捧げるポーズであった。

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