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「毘沙門館のレベルも落ちたもんだな」 「ぬ、ぬゥ……」 「早く岡本謙信を連れて来い」  東京池袋にある毘沙門館の本部道場。  道場の板間に門下生が数名倒れ伏せていた。  そう道場破りにあっていたのだ。 「この緒方琉煌るきらを……」 ――ガラッ……  開き扉を開ける音がした。  門下生が期待した声を出す。 「か、館長!やっと来て下さっ……」 「すいませ~ん!道場破りに来たんですけど」  上下紫色のジャージを着た女性が入って来た。  だが白い目出し帽を被っている。明らかに怪しい。  しかも、その女性は道場破りだというのだ。 「ま、待てィ!今その道場破りにあってるところなんだ!」 「道場破りに道場破りの重ねがけは止めてくれ!!」  毘沙門館の門下生達はそう述べた。  目出し帽の女性はそれを聞き頭を抱えている様子だ。 「マジかよ。じゃあその道場破りが道場破りしたところをあたしが……クソ頭が痛くなってきやがった」  道場破りをしている緒方は呆れた様子だ。 「頭の悪そうなヤツだな。だいたい何故覆面をする必要がある」 「黙れ。お前こそ何で髪を緑に染めてんだ。しかも赤いカラー道着かよ」  道場破り緒方の頭髪は緑に染め上がっている。  それに道着も真っ赤、カープ坊やにしか見えなかった。 「ファッションだよファッション!」 「髪を染め続けるといつかハゲるぞ」 「……ッ?!」 『君ね……髪を赤く染めたら毛根をイタめて、将来ハゲるかもしれんぞ』  緒方が一瞬であるが過去の記憶がフラッシュバックした。  ひょうきんなおっさんに敗北した嫌な思い出だった。 「毘沙門館の看板を奪う前に、お前を数秒で倒してやるぜ!!」 ・ ・ ・ 「伊藤さん早く早く!」 「おいおい、今日は娘と……」 「これは館長命令ですッ!!」  謙信といさみに引っ張られる男は伊藤二郎。  毘沙門館4段の実力派で指導員を務める。  3年前、色々と事情があり大阪から東京へ引っ越してきた。  新生活には既に慣れたものの、館長のこの頼りなさにほとほと呆れていた。 「それくらいお前が相手しろよ」 「館長が万が一負けてしまったら毘沙門館が……」 「あのなァ」  総裁であった岡本毘沙門が亡くなり、この謙信が館長の座についたのは仕方がないにしろ、伊藤はもう少ししっかりして欲しいと思っている。 「今は伊藤さんしか頼りになる人がいないんですよ!」 「しゃーねーな」  とはいえ、伊藤自身も謙信のことを憎めないでいた。  性格が真面目なのだ。  例え空手の実力はないにしても応援したい、ついていきたい人物だった。  「あ、あれ……」 「救急車が着てるね」  謙信達が道場に着くと、その前に救急車が到着していた。 「すまないが搬送しなきゃならないから道を開けてくれないか」 「は、はい」  そうすると、ストレッチャーに乗せられた赤い道着の男が搬送されていく。  どうやらこの男が道場破りのようだ。丁度そのタイミングで門弟の一人が出て来た。 「館長!」  門弟が声をかけた。あまりにも急展開で謙信は理解出来ずにいる。 「ど、どうしたんだ?」 「道場破りを道場破りが倒しました!!」  門弟の言ってる意味がわからなかった。  『道場破りが道場破りを倒した』とはどういうことであろうか。  理解不能だった。 「よくわかんねぇけど入ればいいんだろ?」 「い、伊藤さん?!」  いさみの制止も聞かず、伊藤は道場へと入っていく。  門弟が見守る中、道場板間の中央に胡坐をかいている者がいた。 「道場破りってやつはあんたか?」 「そうだ」  白い目出し帽に紫色のジャージを着ている。明らかに怪しい。 「ここはプロレス会場じゃねェんだぜ」 「知ってるよ。岡本謙信に会わせろ」 「館長はヒマじゃねェんだ」 「いや、後ろにいるじゃん」  怪しげな道場破りは、後ろにいる謙信を指差した。  謙信は少し慌てた様子だ。 「お、俺は……」 「ちょっとは強くなったっぽいな。体も大きくなってるみたいだし」  どうやら謙信のことを知ってるような口調だ。  だがそんなことはどうでもいい。声と体格からして女性のようだ。女性の腕力でどうやってあの道場破りを倒したのであろうか。 「お前よく見たら女だな。女子部の時間にはまだ早いぜ」 「うるさいよ伊藤二郎さん」 「俺を知ってるのか」 「アンタが負けた試合を見たからね」  今度は伊藤のことも知っているようだ。 5年前に同門である角中翼に敗れた試合のことを語ったところを見ると、あの大会に関係する人物であろうか。 「ん……ちょっと待って。その声聞いたことがあるわ」  いさみが道場破りの前に来た。 「いさみさんよ、危ないぜ。飢えた狼の前に来ると嚙みつかれる」  伊藤が警告をする。既に雰囲気は厳戒態勢である。  静寂で混沌とした道場。そんなことをお構いなしに扉を開ける音が聞こえてきた。 ――ガラッ…… 「ゼェゼェ……いさみちゃん。僕を置いていくなんてヒドいよ」  空気を読まない宇井が入ってきた。  それを見た道場破りが驚いている。 「ゲッ……宇井じゃないか!何でこんなところに」 「あっ!その声は!!」 「しまった!!」  道場破りは急いで口を閉ざした。どうやら何か気付かれたようだ。 「藤宮さん何やってるんですか。今日は旋風猛竜サイクラプターの試験運用の日でしょう?」 「いやお前こそ、こんなところで何やってんだよ」  道場破りの名前は『藤宮』という名前らしい。  いさみや謙信は藤宮の名を聞き、懐かしさと驚きの声を上げた。 「ひょ、ひょっとして!!」 「ルミちゃん!?」 「ちっ……バレたか」  道場破りは目出し帽を脱いだ。道場破りの正体は藤宮ルミである。 「久しぶりだな。毘沙門館は上手くやっているかい?」  ルミは髪をかき分けながらそう述べた。  状況をあまり理解できないでいる伊藤はキョトンとした表情だ。 「何だよ館長達の知り合いかよ」 「ま、まあね」 ・ ・ ・ 「ルミちゃんが機闘士マシンバトラーになったことは知ってたんだけどね」 「いさみさんは今何をしているんだい?」 「ブレネースポーツの記者かな。まだ駆け出しだけど」  道場中央にルミ達5人は集まって、久しぶりの再会に喜び合っていた。  謙信はルミにある人物について尋ねた。 「魁道さんは元気かい?」 「死んだよ、すい臓ガンでね」 「えっ……」  空気が少し重たくなった。  謙信といさみは、魁道をきっかけにルミと出会ったからである。 「そうなんだ……」  いさみは少し目が潤んでいる。その顔を見て宇井は話題を変えた。 「ところで藤宮さんは、何で道場破りまがいのことをしてるんですか」 「まがいじゃなくて、道場破りだよ。謙信が強くなったか確かめにね」 「うげっ」  ルミにそう言われ、謙信は気まずそうな顔をしていた。  傍にいる伊藤はニヤつきながら言った。 「全然ダメだぜ。多少は強くなったがヒヨッコで、カリスマ性も皆無。強さだけ求めるヤツ、出世したいヤツはどんどん毘沙門館から離れちまってる」 「そ、それは言わない約束ですよ……俺も頑張ってるんですから」  岡本毘沙門の死後、毘沙門館は衰退の一途をたどっていた。  特に葛城信玄が独立してから、星王会館へ移籍する者が後を絶たない。  毘沙門館もスポンサー企業を見つけ選手を派遣し“ORGOLIO”に参戦させているが、成績が振るわず契約解除されている。  主力級の選手もいたが、星王会館等に引き抜かれるなど不遇を受けていた。 「島原ってヤツもそうかい?」 「島原……あいつか」 「知ってるも何もここで稽古してたからな」  伊藤が吐き捨てるように言った。 「島原は昔っから恰好ばかり気にするヤツだった。キャラ作りに勤しみ、変な笑いやウラノスの影響で覆面ファイター始めたりしてな。それでも才能はあったから上までいけたんだけど……」 「けど?」 「ゲオルグ……あの大会で準優勝したドイツ人か。あいつに負けてな。それから真面目になったのはいいんだが、スポンサー企業のフラットとの契約を強制解除した」 「何故だ」 「ハンエーと契約するためだ」  謙信は眉をひそめながらこう続けた。 「あの時は本当に大変だったよ。フラットさんには長年お世話になってたからね」 「何でそこまでして……」  宇井は伊藤に尋ねた。ハンエーのどこに魅力があったのだろうか。  少し怒気がこもった声で説明した。 「葛城と角中……アイツらに引き抜かれたんだよ」

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