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「不問にする?」  昴は星王会館本部道場に来ている。  信玄に呼び出されたのだ。 「そうだ。被害届も取り下げる」 「それはどういう意味でしょうか」 「言葉の通りだ。秋山も解放する」  昴は不思議に思う。あれだけ星王会館がコケにされたのだ。  武闘集団である星王会館が、一人の男の逆恨みから襲撃を受けたままとあっては面子が立たない。  秋山には私的制裁をしなければならないのだ。 「そ、それでは世間の顔が」 「問題が大きくなりそうなんだよ!!」  信玄は珍しく焦った様子だ。  スターハンターを捕らえたのだが、新しい問題が起こった。  粕谷隼人が重傷の状態で見つかったのだ。  それは即ち、益田と同じく粕谷の悪事も知られることである。 「警察が捜査するうちにあいつの裏家業がバレた」 「裏家業?」 「あのバカ、益田と一緒になって違法キャバクラや売春の斡旋をしてたんだよ」  信玄は溜息をついた。昔からこの悪童どもには手を焼きっぱなしだ。  息子の暁も加わっていたので、彼らの暴行恐喝等を人や金を使って何度も揉み消してきた。  だが今回はそうもいかない。  政界とも繋がりが深い、飛鳥馬不二男が動いているとの情報を耳にしたからだ。  理由はわからない。  だがあの男を怒らせてしまっては、今までの努力が水の泡となる。  ここまで、あらゆる手段を使って星王会館を大きくしてきたのだ。 「やっとここまで来たんだ。星王会館を潰すワケにはいかん」 「そ、そんな、師範は腕を……」  昴は唇を噛んでいる。自分の敬愛する師の腕を折られたのだ。  ニセのスターハンターに何とか報いを受けさせたかった。  その気持ちを汲み取ったのか信玄は言った。 「昴、俺がこうやってお前を呼んだ意味はわかるか?」  神妙な口調だ。目が笑っていない。 「これ以上の詮索は無用だ。わかったな」 「はい」  昴は静かに頷いた。それを見た信玄は続ける。 「まあ何だ、お前の師に対する尊敬する気持ちはわかる」  信玄は昴の顔に近づいて言った。 「でもな、それは本当に尊敬する気持ちから出たものか?」  その言葉を言われ昴は目を逸らした。 ・ ・ ・  試合翌日、ルミは早朝のトレーニングに励んでいた。  ランニングだ。走るのはいつものコースである。  彼女は単純シンプルな鍛練法を欠かさずに行っている。  闘いにおいて持久力は重要な要素なのだ。基礎体力無しに技は発揮できない。 「藤宮ルミさんだね」  彼女が走っていると後ろから声をかけられた。  青と白のニット帽にフェイスマスク、見るからに怪しい男だ。 「誰だ」 「『ウラノス』と言えばおわかりになりますかね」  ――ウラノス。星王会館所属のファイターだ。  BBBB級クアドラプル超武闘祭の前チャンピオンでもある。  本名経歴一切不明。2年前に彗星のごとく登場。  古代ローマ剣闘士の兜を模した覆面を被るミステリアスな選手として、人気急増中の機闘士マシンバトラーである。 「アンタが噂のチャンプか」  ルミは警戒して間合いを取る。  一方のウラノスはリラックスした状態だ。 「あなたのご活躍は見ております」 「チャンプに言われるなんて光栄だね。ウラノスさんは試合で使う覆面は被っていないのかい」 「あれはリングコスチュームですよ。普段からしているわけがない」 「だったら何故顔を隠す必要が?」  ウラノスは頭をかきながら言った。 「こちらも事情がありますので」 「ところであたしに何か用事かい」  ウラノスは歩を進めてルミに近づく。  何も構えず、ただ進むだけなのであるが全く隙がない。 (こいつ……強い!!)  つい構えを取ってしまった。これほど不自然に隙なく近づかれたのは初めてだからだ。 「何を警戒されているのですか。試合でもあるまいし」 「い、いや……」  ルミは構えを解いた。ウラノスは少し笑っている。 「相変わらず面白いお方だ」 (相変わらず?)  相変わらず……確かにそう言った。どこかで会ったことがあるのだろうか。  今思えばこの声は聞いたことがあるような気がしたが、ルミは思い出せないでいた。  ルミが思い出そうとしていたところ、ウラノスは傍にある公園を指差して言った。 「あちらの公園に行きませんか」 「デートはごめんだよ」 「ご冗談を。少し練習に付き合ってもらいたくてね」  ウラノスの目は真剣だ。どうやら本気らしい。 「チャンピオンの実力を堪能させてもらうよ」  二人は公園まで来た、周囲には人はいない。  ――お互いに構えを取る。既に二人は戦闘態勢だ。  ルミは水流れの構え、一方のウラノスはオーソドックスな組手構え。  外連味のないシンプルな構えだった。 「始めましょうか」 「チャンプの実力、確かめさせてもらうよ」  ジリジリと間合いを詰める両者。先に仕掛けたのはルミだ。  軽く順突きを打つ。 「シィッ!」  ウラノスは避けずにそのまま受け止めた。 (硬い!)  打ち込んだルミは驚いた。体が岩のように固くゴム鞠のように柔軟だったのだ。  剛柔一体の体であった。この体を作り上げるには相当な修練を要したであろう。 (何だこいつの体は生半可な鍛え方ではない) 「攻撃が止まってしまいましたが?」  ウラノスは何のダメージもない。  順突きとはいえ確かに鳩尾に体重を入れて打ち込んだからだ。 「では私の番ですね」 ――ブン!!  そう述べるとウラノスは上段蹴りを放つ。  全く見えなかった。力感がなく鞭のようにしなやかな蹴りだった。  当たる――そう思ったが蹴りを寸止めしてくれていた。 「可愛い顔を蹴るのは忍びない」 「ふざけんな!」  ルミは小馬鹿にされたと思ったか連撃のラッシュだ。  右の鉤突き、左前蹴り、右上段飛び蹴り、左順突き……。  次々と技を繰り出すも、避けられ、捌かれた。 「いい攻撃ですが力任せですね。攻撃とは早く、柔らかく――」  そう述べると、ウラノスは頭を低くし片手を地面につけた。  変則の後ろ回し蹴りだ。まるでカポエラや躰道のような蹴りである。  大技であるがタイミング的に顔面が当たる位置と距離だ。 「ちっ!」  ルミは寸前で躱し、バックステップをとって距離を取った。  ウラノスは蹴りの後、素早く立ち上がると構えを解いた。 「これくらいにしておきましょうか」 「逃げるのかよ」 「お互いにケガをしてはシャレにならないでしょう」 「勝ち逃げか気に入らん」 「勝ちも負けもないですよ。いい練習になりました」  ウラノスはそう答えるとそのまま公園を後にした。  ルミは一人公園に残された。やり逃げされたようで気分が悪い。 「――フザけたヤツだ」 ・ ・ ・  ウラノスはルミとの対戦一戦後、一人道を歩いていた。  周囲に人気はない。寂しいが普段からこのような雰囲気だ。 (藤宮ルミ……まだまだ伸びしろが大きい。楽しみな逸材だ) ――ザッ……  ウラノスの前に全身黒ずくめの怪人が現れた。顔は黒いアノニマスマスクで隠している。  そう彼こそが……。 「こんな朝っぱらから『スターハンター』のお出ましか」  スターハンターはウラノスを指差しながら言った。 「お前がウラノス……いや葛城暁か」 「人違いではないですか?」 「だったら何故顔を隠す。葛城暁も覆面を被って素性を隠している話だぞ」 「誰がそんな話をしたんですか」 ――シュッ!!  不意打ちだった。スターハンターの前蹴りが顔面に向かって飛んでくる。  ウラノスを体を屈めながら避け、その勢いでタックルへと移行する。 「くっ!!」  だが、スターハンターは軸足を起点に飛び退いた。  反射的な動きであったが、彼の身体能力の高さを伺わせる。 「いいバネをしてるね。間宮君」  確かにそう言った。ウラノスはスターハンターの正体を知っていた。  蒼は動揺している。 「き、貴様」 「会長が君を心配しているよ。もうこれ以上の詮索はしない方がいい」 「黙れ!」  蒼は飛燕の連撃を繰り出すも悉く避けられる。 「練習不足だね。妹さんの面倒を見ているから忙しいんだろうけど、武道家たるもの常日頃から鍛練は積んでおかなければならないよ」 「ハッ!」  蒼は飛び後ろ蹴りをするも躱される。 「甘い!」  今度はウラノスの反撃だ。右のアッパーカットが顔面を襲う。  蒼は紙一重で躱すが、ウラノスの拳がかすり仮面が取れてしまった。 「やはり君だったか」 「お前が葛城暁ではなければ誰なんだ」 「それは言えないね。ただ一つ伝えておくと、私は星王会館に所属しているだけだ。君と同じように他流派のものだよ」 「ちっ……!」  ウラノスの言葉を聞き、蒼はその場を去るために後ろを振り返った。  だが振り返るや否や、一人の女性とバッタリ会ってしまった。 「蒼さん……アンタ……」  その女性とは藤宮ルミだった。

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