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 イタリア料理店アレッサンドロ。オーナーはサイゼリ・マエストーラ。  都内でも有名なレストランで、ミシュラン公認の三ツ星店である。  3人はレストラン入り口の階段を昇っていく。  上がっていくと黒スーツの男が立っていた。ASUMA‟ORGOGLIO事業部”の山村慈念である。 「紫雲様と芥生様……そして藤宮様ですね。お待ちしておりました」  出迎える山村、蓮也達は初対面である。  にこやかに微笑む男に尋ねた。 「そちらは?」 「申し遅れました。私、ASUMA“ORGOGLIO事業部”の山村慈念と申します」  そう述べると、山村はお辞儀し丁寧に名刺を手渡す。 「なるほどね」 「飛鳥馬CEOがお待ちかねです。どうぞこちらへ」  山村の案内で、レストランに入る3人。  店内のインテリアは、ナチュラルな雰囲気である。  グリーンを差し色で入れることにより、心落ち着く空間になっている。  店の一番奥の部屋のテーブルに彼女はいた。  飛鳥馬小夜子、大手総合スポーツ用品メーカーの経営トップである。 「ようこそ……紫雲社長」 「お会いできて光栄です」 「私もです。どうぞお掛けに」  小夜子は微笑んでいた。  以前、会った時と比べて華やかな装いをしていた。  美しいワインレッドのワンピースであった。  蓮也はその美しさに見とれていた。小夜子は一人呆然と立っていた蓮也に声をかける。 「紫雲社長、お座りにならないので?」 「す、すみません」  蓮也は着席する。  位置としては中央に蓮也、右にカミラ、左にルミが連座する。  対するASUMA側は中央に小夜子、右に山村が連座していた。  そして、左の席には西洋人の青年がいた。  彼が次なる対戦相手、ヴィート・ムッソである。 (あいつがそうか……)  ルミはムッソをジッと見ている。  一方、ムッソはシウソニックの面々を見ていた。  テーブルで相対する両企業。 「皆さんお揃いのようですね」  それを分けるかのような位置に座る男がいた。  オールバックの髪型で大柄な体躯、ハーフのような彫りの深い顔立ちをしている。  ルミはその特徴的な男が気になったのか尋ねた。 「おっさん誰だ?」 「ちょっと失礼よ。申し訳ございません」  カミラはルミに注意し無礼を詫びる。  それに対しタニヤマは、微笑みを浮かべて言った。 「面白い娘(こ)だね。初めまして、WOA協会員のルンバルト・タニヤマです」 「ダブリューオーエーって何だ?」  横文字に弱いルミにカミラは説明する。 「〝W〟orld 〝O〟RGOGLIO 〝A〟ssociationの略称よ」 「横文字はわからん」 「もう……要するにORGOGLIOの偉い人!」 「そういうことか」  小夜子は、少しばかり嫌味ったらしく言った。 「紫雲社長、あなたの所の選手は笑いの才能がおありですね」 「は、ははっ……面目ない」  蓮也はルミの自由な態度と言動に気恥ずかしくなった。  その姿を見て、飛鳥馬小夜子はうっとりする。  試合の契約であるがどんな形であれ、こうして紫雲と会うことが出来たのだ。  場所も高級レストランを指定し、衣装もコーディネートして決めてきた。  そんな小夜子に、ルミはとんでもないことを言い放った。 「それよりアンタさ。その服ハデ過ぎないか?」 「藤宮……さんでしたわね。どういう意味かしら」 「この場で赤って似つかわしくないよな。試合前だろ厳かにしろよ」 「そうかしら?赤は戦いの色とも言いますわよ」 「フラメンコでも踊り出しそうな格好だぞ」 「くっ……」  衣装をダメ出しされた。小夜子の顔は少し引きつっている。  流石にこの場で怒ると蓮也にドン引きされる、と思い彼女は我慢した。 「冗談が面白い方ね。芸人になられては?」 「チンドン屋みたいな格好してるアンタに言われても……」 「お、お前……」  小声でルミは言ったが、蓮也の耳にはしっかりと入っていた。彼の顔は青ざめている。  小夜子は続けざまに嫌味を言ってきた。 「そういえば、あなたの服装リクルートスーツじゃなくて?面接じゃないんだから」 「これは、カミラのダサいセンスで決まったものだ」 「ダ、ダサいってどういう意味よ……落ち着いているっていうの!」  ルミの衣裳をコーディネートしたカミラはムッとした様子だ。  カミラの言葉を聞き、フリーダムな彼女は小夜子の服を見つめて一言述べる。 「この人の服装は落ち着いてないってことか」 「なっ……!?」 「す、すみません。こいつバカなもんで大変ご無礼を……」  蓮也は必死にフォローする。 「い、いいんですよ」  顔は笑っているものの、小夜子は必死にアンガーマネジメントをしていた。  蓮也がいなかったら、この場で怒り狂い退室しているところだ。  タニヤマが少し冷や汗をかきながら言った。 「今回は〝剣闘試合〟でのルールとなります」  〝剣闘試合グラディエーターバトル〟という言葉を初めて聞いたルミ。  タニヤマに質問をした。 「〝剣闘試合グラディエーターバトル〟って何だ?」 「〝剣闘試合グラディエーターバトル〟って言うのはですね……」 【ORGOGLIOオルゴーリョハンドブック】 ≪試合規定≫ 3.武器の使用に関して 〝刀剣〟類等WOAで規定された武器を使用された試合は〝剣闘試合グラディエーターバトル〟として扱われる。 ただし、協会員および試合主催者、選手同士の何れかが必ず許可しなければならない。 〝剣闘試合グラディエーターバトル〟は対戦側の片方が〝徒手空拳〟だった場合、各リーグ合わせてで以下の勝星・ポイントが付与される。 [特別ポイント制度]:別名〝マウロルール〟 〝B級シングルバトル〟〝BB級ダブルバトル〟…5勝 〝BBB級トリプルバトル〟…100pt ※1.この試合で死傷者が出た場合はWOAは一切の責任を負わない。 ※2.勝者が〝徒手空拳〟で武器持ちの者が敗北した場合は勝数-3および-100ptされる。 「武器を使用しての試合ってことか」 「そういうことですね」  タニヤマの説明を聞き納得するルミ。  蓮也は小声で彼女に話しかけた。 「お前……どうするんだ」 「決まっている。コイツでらせてもらおう」  ルミは右手で握り拳を作り、対戦相手であるムッソにその拳を向けている。  拳を向けられたムッソは表情を崩さず、その拳をずっと見ていた。  蓮也とカミラは、彼女の強気な発言を聞いて驚く。 「お、お前……!何考えてんだ!!」 「だって、勝ったら5勝もらえるんだぞ」  カミラは、ルミの認識の甘さを察してか忠告した。 「悪いことは言わないわ……辞めておきなさい」 「どういう意味だよ」 「剣闘試合グラディエーターバトルは危険なのよ」 「危険?ロボットに乗るから安全だろ」 「甘いわね」  カミラは顔の表情が険しい。  何かを知っているようだった。 「過去、この剣闘試合グラディエーターバトルでの試合は死者が出ています」  タニヤマは静かに剣闘試合グラディエーターバトルの事実を知らせる。  過去、このルールにおいて死者が出たことがあるのだ。  WOAでも危険との判断で廃止も検討されたことがある。  実際、刀剣類を使うスタイルの選手もいないこともある。 「どうされますか?」  山村は契約書とペンを見せつけ、テーブルの中央に置いた。  その顔はキツネのような狡猾な顔をしている。 「私どもとしては、見送りという形でもよろしいのですが……」 「やるに決まってるだろ」  ルミはそう述べると契約書とペンをとった。 「何を考えて……」  蓮也が止める間もなく、ルミは契約書の署名欄にサインを行った。 「これでいいかい?」 「迅速な対応ありがとうございます」  山村はニンマリとした顔である。何かを化かしたかのような顔だ。  蓮也は無論、納得が行かない。 「ちょ、ちょっと待て!俺は……」 「用件は済んだろ。さっさと帰らせてもらうよ」  ルミがそう言って席を立った時である。 「対戦相手に挨拶もなしに帰るのですか?」  先程から沈黙を守っていた対戦相手のヴィート・ムッソである。 「そうだったね。藤宮ルミだ……アンタは?」 「ヴィート・ムッソと申します。お互いに良い試合をしましょう」  ムッソはそういうと立ち上がり、笑顔で握手を求めた。 「馴れ合いは嫌いだね」 「それは残念」  ルミはそう言ってレストランを後にした。  対戦相手であるムッソは、表情を崩さず再び席に座る。 「ちょっと待てよ!」  蓮也はルミの後を追いかける。  カミラの方は黙って、席に座ったままだ。  一人残された彼女に山村は話しかける。 「追いかけなくていいんですか?」 「そうね……失礼します」  カミラは席から立ち上がる一礼し、その場を後にした。  それに合わせてレストランのボーイがやってきた。 「前菜のアンティパストになります」  正式なイタリア料理のコースである前菜料理アンティパストを持って来たのだ。 「他のお客様の姿が見えませんが……」 「すみません。3人はキャンセルという形で……キャンセル料はお支払いします」 「かしこまりました」  山村がそう述べると、ボーイは人数分の料理をテーブルに置いていく。  グラスには赤ワインを注いでいった。 (しまった!)  グラスにワインが注がれる中、小夜子はあることを思い出した。  ルミとのやり取りで冷静さを失い、ある目的のことを忘れていたのだ。 (今日は蓮也さんを、じっくり見つめながら話を進める予定だった!)  そう元々会食しながら、次に行われる試合の契約を結ぶ算段だった。  更に今日は蓮也の為に、気合を入れて服装を選んだのだ。  彼女にとって、デート気分があったのも正直なところである。  後悔する小夜子を不思議そうな顔で見る、タニヤマとムッソ。  小夜子はというと、山村を睨んだ。 「こうなることを予測して先に契約書を……!」 「何のことでしょうか?」  飄々と答えると、山村は出された前菜を食する。 「お先に食べますよ」 「あ、あなたね」 「いやァ……流石に三ツ星レストランの料理は美味しいですね」  ムッソは注がれた赤ワインを一口しながら言った。 「ルミ・フジミヤ……対戦が楽しみです」

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