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 ‟ORGOGLIO”新シーズンの開幕。  大晦日は終わり、新年早々より試合が組まれる。  今日はその対戦相手の発表がされた。  ルミは早朝より、カミラに呼び出されてシウソニック本社へと赴いていた。 「ふはァ……なンだよ。正月の休みボケがまだ取れないんですけど」  ここはシウソニック・ORGOLIO事業部。  ルミはあくびをしながら椅子に座っている。  その前には蓮也とカミラが立っていた。 「WOAから発表があったわ」 「何の?」 「あなたの対戦相手よ」  ルミの目は一気に覚めた。次の対戦相手は誰だと言うのだろうか。 「島原駿明しまばらとしあき……去年まで百舌鳥小僧シュライクキッドとして活躍してた空手家だ」  蓮也は対戦相手の名前を伝え、ルミに資料を渡した。  今年で島原駿明、年齢は27歳。  毘沙門館に所属していたが、星王会館へと移籍したようだった。  覆面をやめ素顔となっている、髪型はロングでパーマをかけていた。  雰囲気として売れないバンドマンという感じだ。 「シュライクキッド?聞いたことないね」 「一応、去年までBBB級トリプルバトルにいた実力派よ」 「ゲオルグ・オットーとの試合でケガしたみたいだな。そのせいでBB級ダブルバトルへと降格しちまったようだ」 「ふーん」  そう一言述べると、ルミは興味なさそうな顔をして立ち上がった。   「ど、どこへ行くんだ。これから対策を練らんとだな」  蓮也は慌てた様子でルミを止めようとした。  だが、ルミはやれやれといった表情だった。 「対策も何もいらんだろ。そのモズ男さんを倒せばいいだけだろ」  そう一言述べ、部屋から出ようとするルミにカミラは注意する。 「相手を嘗めてはいけないわよ。島原選手は星王会館へと移籍し、名伯楽と言われる角中のコーチングを受けて実力を伸ばしているらしいわ」 「コロコロと所属流派を変えるヤツに負ける気はしないね」 「そうは言ってもね」 「それよりもアスパラさん」  ルミは、カミラを無視して蓮也の方を見た。いつになく真剣な表情だ。  その表情を見た蓮也は少したじろぐ。 「ど、どうした……」 「飛鳥馬小夜子さんのことなんだけどさ」 「えっ?何だ急に」 「だってさ」 「ハァ?!」  そう言うとルミはそそくさと部屋から出て行ったのだ。 「ちょ、ちょっと待ちなさい!野室さんから専用機である旋風猛竜サイクラプター完成の連絡が……」  カミラはルミを追いかけて行った。  蓮也の方といえば、急に理解不能なことを言われ呆然としていた。 「いや、ちょっと待て?」  蓮也はまだ現実がわかっていない。超展開過ぎる告げ口だったからだ。 「好きって誰が……俺が?いやいや、そんなワケないだろ」  一人ブツブツという蓮也であった。 ・ ・ ・  場面は変わってここは東京にある美術館。  ASUMA主催『空手も芸術も爆発だ!岡本毘沙門コレクション展』が開催されていた。  そこに男女のカップルが仲良く絵を見ている。 「死んだお爺さんって、絵を集めるのが趣味だったんだね」 「そうなのよ、これなんて凄いでしょ」  久しぶりの登場である宇井健一は浮かれていた。  こやつに『彼女』が出来たからである。  その彼女とは……。 「う、うん……そうだね。いさみちゃん」 「でしょ!これなんてね」  素人からしたら、子供の落書きにしか見えない絵を熱心に語っている。  彼女は岡本いさみ。かの有名な空手家である岡本毘沙門の孫である。 (お爺さんの写真があったけど、全然似てないな……)  宇井は格闘技のことはよくわからないが、毘沙門館の名前だけは知っていた。  昔はよく、毘沙門館がテレビや雑誌といったメディアで紹介されていたからだ。  いさみがその毘沙門館の総裁の孫で、弟が館長をしていることを聞いて驚いたが、自分とは関係ないと思い流していた。 (なんか今でも信じられないな、こんな可愛い子が)  ちなみに宇井といさみとの出会いは、マッチングアプリである。  何とか彼女を作ろうとやっきになった宇井だったが、もちろん連戦連敗。 (でも、いさみちゃんって少し変わってるよな)  忘年会の帰り、自宅でマッチングアプリを起動。  いつものことながら反応なし。苛立ちと焦りの感情が沸き上がる。  何となく操作した。いつものことながら可愛い系、美人系は男への条件が厳しい。  その中に始めたばかりなのか、プロフィール欄が空白だらけの女性がいた。  名前は岡本いさみ。  年齢は自分より1つ上だ、ショートカットの爽やかな笑顔はかなり可愛い。  しかし、こういうタイプは『イケメン、高収入、高身長』が好きだろうと勝手に思いムカつき始めた。 「モテない男の恨みをくらえ!愛などいらぬ!!」  もう遠慮はいらない。  こういう女には、イタズラメッセージ送って嫌がらせをしようと思った。  酒も入って暴走気味だった。  『好きになりました、秒速で1億クリックします。俺のハートも○○○も爆発だ!!』  後で後悔と恥ずかしさが大爆発して眠れなかったが、まさかまさかのお返事が来たのだ。  恐る恐る開くと、驚愕のメッセージ書かれていた。 『面白い人ですね。年下で、ケンと付く名前が気に入りました。今度会いませんか?』  最初は信じられず、投資詐欺か宗教の勧誘をされるかと警戒した。  だが、いさみの頭のネジはぶっ飛んでいたらしい。  快く宇井とのお付き合いが意味不明に始まったのだ。 「ぼ、僕はこの虎の絵が好きだなァ」 「流石ね、やっぱりケンと名の付く男は見る目あるわ」 (うへ……めっちゃ適当に選んだんだけど)  それは虎の絵であった。  猛々しく、今にも人に襲いかからんとするほど飛び出してきそうな迫力があった。 「この絵の作者は間宮亜紅莉あぐりさん。蒼さんの妹さんね」 「ソウさん?」 「知らないの?毘沙門館うちのエースよ。“ORGOLIO”の機闘士マシンバトラーなの。まだBB級ダブルバトルなんだけど人気あるんだから」 「は、はぁ……そうなんですか」(ソウだけに)  いさみから男の名前が出てきた。ひょっとして自分はからかわれているんだろうか。  少し不安に思っていると、情けない大きな声が聞こえて来たのだ。 「ね、姉ちゃ~んッ!!」  坊主頭にティアドロップ型のサングラスをかけた男が来た。  派手な花柄のプリントシャツに白いズボンを履いている。  昭和時代のヤクザ映画に出るチンピラのようなファッションだ。 「た、大変だ!大変なんだよ!!」 「だ、誰……この怖そうな人」 「私の弟の謙信」 「弟……ああ毘沙門館の館長やってるっていう」  男の名前は岡本謙信、毘沙門館の総帥を務めている。 「姉ちゃん、こいつダレだよ」  ギョロっと謙信に睨まれる宇井。体は空手をやっているのでゴツいので威圧感は相当ある。 「あ、あわわ……」 「ちょっとケンちゃん!この人はよ!!」 「マジ!?」  いさみに注意された謙信は姉から出た『彼氏』というキーワードに驚いた。  顔は確かに可愛いが、ブラコン気質だ。  弟に対してストーキングをするのはしょっちゅうだった。  だが成長して体がゴツくなり、風貌がヤクザみたいになってしまってからは『可愛くなくなっちゃったね』の一言で最近は音沙汰がなかった。  それがいつの間にか弟に変わる男を見つけたようだ。心が安堵した。 「それはこの男の人が超絶に気の毒だな」 「えっ?」 「これからが地獄の始まりだ。覚悟しとけ、休日は1時間に1回はメッセージ送らんと死ぬことになる」 「はァ?」  謙信がそう言うと、いさみはムッと頬を膨らませた。 「ヘンなことを言わないで!それより何があったの?」 「ど、道場破りが現れちまったッ!!」 「何ですって!?」  道場破りを告げると、いさみは大慌てだ。  二人の慌てた様子を見た宇井は一言伝える。 「それは館長の君がやればいいじゃないか」  宇井の一言が二人に暗い影を落とした。 「ケンちゃん凄く弱いの」 「ハ、ハッキリ言い過ぎだろ!」  よくは分からないが、謙信は毘沙門館の館長でありながら弱いというのだ。  いさみはポンと手を叩きながら言った。 「そうだ島原さんがいるじゃない!」 「島原さんなら星王会館に移籍したじゃないか」 「そ、それじゃあ蒼さん……」 「あの人、亜紅莉ちゃんの面倒で忙しいよ」 「「ハァ……」」  二人は深いため息をしていた。  だが二人は、すぐさま何かを思い出したかのようにこう言った。 「「そっか!伊藤さんがいたんだ!!」」  二人はお互いを指差してそう言った。 「こうしちゃいられない!!」 「そうだね!伊藤さんを呼びに行こう!!」  二人は美術館の出口へと向かっていった。結構な速さだ。  走る後ろを見て、宇井は追いかけていく。 「ちょ、ちょっと待ってよ!いさみちゃん!!ぼ、僕も一緒に行くよ!!」

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