作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

――ガシャン!  控室では、パイプ椅子を床に叩きつける音が鳴り響いた。 「あのボケェッ!何を考えてやがるんだ!!」  星王会館の大将を務める信玄は激怒している。  当然だ、シームが敵に塩を送るような行為を行ったからだ。  それと同時に弟子である砂武にも憤慨する。 「砂武も砂武だ!『武道家の矜持』とやらだけでメシが食えるか!この団体戦は勝たなきゃ意味がねェんだよ!!」  信玄は飼い犬に手を嚙まれるような心境であった。  勝負だけを考えればルミの勝利である。  空手は武道……それを踏まえて砂武はあのようなことを言ったのだろう。  だが、それがどうした。  この団体戦で星王会館が勝利して、よりブランドを高める。  古い象徴である毘沙門館を星王会館が倒すことでドラマ性が高まる。  より発展し、より繁栄し、星王会館のロゴを世界中に星々のように散らばらしたい。  空手は過去の産物、時代遅れの代物、生産性のないもの……そのようなイメージを払拭させたかった。  こんなところで足を止めるわけにはいかない。それが空手……格闘技界発展に繋がる。 「昴ウウウゥゥゥ――ッ!!」  荒れ狂う信玄は昴を見た。 「絶対に勝てよォッ!!」  軽く拳を昴の鼻先に当てる。  昴は動揺もせず、顔は無表情のまま。  すると彼女は、無表情だった顔から口角を上げた。  静かで冷たい笑みを浮かべたのだ。 「もちろんですよ」  彼女は控室に来ていた角中を見る。 「私には勝算がありますから」  見られた角中、かけた眼鏡がキラリと光る。  昴から冷たい何かを感じ取った。 「昂さん……」  弟子にこの違和感を指摘しようと思ったが、その思いを寸前で押し殺した。 「いえ何でもありません。必ず勝ちましょう……間宮蒼に」 「師範、間宮ではありませんよ。彼は鬼塚……鬼塚蒼」 「えっ?」  彼女は対戦相手のプライベートを知っているようだった。  そのことについて問い詰める前に、彼女は控室を出て行き試合場へと向かった。 ・ ・ ・  その頃、毘沙門館側の控室……。  伊藤は医務室、アルーガは既にいなく、ルミは試合を終えたばかりでまだ戻っていない。  そして、大将である謙信はまだ姿を現していない。  一人、能楽師のように型を行っていた。岡本毘沙門直伝の型である。 「お見事!お綺麗な型ですね」  拍手で称える者がいた。  ASUMA・ORGOGLIO事業部の山村慈念である。 「……」  蒼は黙したままだ。顔は怖いまでに冷たく無表情だった。  つい先程、山村より週刊誌の記事について尋ねられたからだ。  自分と柚木の関係……今はゴシップ記事程度で済んでいるが、何れは亜紅莉のことまで調べられるだろう。  そうすれば妹の心は……。 ――スッ……  無声の残心をとり、型を終えると蒼は山村を見る。 「試合前に何故あのことを言う。集中できないだろう」 「失礼……所属選手のゴシップ記事が出たのでね。ほら間宮さんも色々とイメージを売っているので……」 「本当は別に言いたいことがあるんじゃないのか?」  蒼の言葉を聞いた山村は、能面のような顔から悪狐のような表情になった。 「そのことなんですがね。あなたのことを調べる人がいまして……」 ・ ・ ・  試合場。団体戦は今のところ毘沙門館がリード。  シウソニック所属のカミラは、今回の団体戦では応援と言う形で参加している。  試合場整備のため、一旦ブレイクタイムがもうけられる。  片手にドリンクを持つ彼女は席に戻ろうとした時だった。 「あら……あの子」  ずっと気になっていたことがあった。  スタジアムの隅で立ち見する若い女性がいたからだ。 「あなたさっきから立ち見しているけど大丈夫?」  カミラは彼女が気になったのか声をかけた。 「え、ええ……」  突然声をかけられた彼女は目を伏せがちだった。  何やら目立ちたくないような、そういう雰囲気だった。  知らない人物に突然話しかけられては困惑するか、カミラがそう思った時だった。 「芥生さん、芥生さんじゃないですか」  カミラが振り向いた時、そこに中年の男性がいた。  上背はないが肩幅もあり、首や指が太い。何かレスリングか柔道でもやっているかのような雰囲気だった。 「あ、あの……あなたは?」 「鬼塚です。鬼塚英緑です、紫雲社長はお元気ですか」  男は古武道不動流の道場主、鬼塚英緑。  間宮蒼……否、鬼塚蒼の父である。  カミラは、ルミをスカウトするため身辺調査をした際に彼の名前を知った。  実際コンタクトをとり、ルミとの付き合いが長い英緑に彼女の特徴を性格を聞き出すためにコンタクトをとった。  会ったのはそれっきりであったが、英緑はカミラのことを覚えていたようだ。 「鬼塚さん、何故ここに!?」 「間宮蒼が出場すると聞きましてな。ん……?」  英緑はカミラの傍にいる女性がいることに気付いた。  若干、容貌は変わっているが見たことがある顔だった。 「君は……確か柚木さんじゃないのか。亜紅莉が世話になったね」 「あっ……」  女性……つまり柚木綾那は困惑していた。  気まずそうな顔をしている。  カミラは二人を見て不思議に思うも、笑顔で答えた。 「こうして集まったのも何かの縁ね。偶には立ち見もいいかもしれないわね」 ・ ・ ・ 『副将戦……副将戦をこれから開始致します!!』 ――ワアアアァァァッ!!  実況の遠藤の言葉と共に観客達も興奮の歓声を上げた。 『ここまで星王会館1勝!毘沙門館2勝!どうする新時代の空手団体!!』  星王会館が負けている。  新時代の格闘空手団体が、古めかしい空手団体にリードを許している。  確かに助っ人として、古武道家のルミが参戦している。  だがどうだろう。ルミは女性、それに実戦性を疑われている古武道である。  新時代の空手、総合格闘技を越える空手、生産性のある空手……。  新しく売り出そうとしている星王会館が、毘沙門館関係なく女性に敗れたのだ。  それはシームだけではない。鳥人島原や重量級のエース砂武もが敗れ去った。  また、ルミだけではない。  ロートルの伊藤や無名のアルーガにネームバリューのある自選手が敗れ、または恐怖から試合場から逃げ出した。  星王会館のブランドが少しづつ落ちかけていた。星の輝きが消えそうになっている。 『ここで消えてたまるか星王会館!六連星よ!今、栄光の輝きを放て!!』  スッと息を大きく吸う遠藤、そして……。 『高橋昴の入場だアアアァァァッッッ!!』  照明が消されると、幻想的で静かな音楽が流れる。  あちこちで流星の如く照明がレッドワイバーンを照らす。  そうすると重厚なメタルが流れた。よく見ると人型のBU-ROADが見える。  カラーはオレンジ、紫、藍色のトリコロールカラー。  星雲を彷彿させる色合いだ。  頭部はノーマルカラーズと似たデザインであるが、薄いイエローのプロテクトマスクを着用。  胸には北斗七星が描かれている。  これなるは高橋昴専用のBU-ROAD。  その名も『北辰珠郎ほくしんじゅろう』と名付けられる。  ハンエーが様々なスポーツマシンメーカーと提携して作り上げたバランス型のBU-ROADだ。 「昴くーん!!」 「昴ちゃーん!!」  昴は女性であることは明言されている。  しかし、彼女は中性的な顔立ちをしている。  時には男性に、時には女性に見える。  この相反する両性的な風貌から男女共に人気があった。  信玄は昴の実力とこの容姿から星王会館の看板選手あるいは広報として期待している。  星王会館がより高く、より美しく、より輝く為に彼女の力が必要だ。  そして、この度の団体戦。相手は毘沙門館の貴公子、間宮蒼が相手だという。  経歴は空手の前に何か別の武術をやっていたらしいが、そんなことはどうでもよかった。  新時代のエースである昴が、商売仇である毘沙門館の看板選手を倒してもらわねばならない。 「昴……倒せ。必ず勝たねばならん」  控室では、どっかりと胡坐の姿勢で座る信玄はVTRを眺めそう呟いた。  さて、試合場に立つ北辰珠郎。  セコンド席では弟子の姿を見る角中とハンエーの中台がいる。 「角中さん……これで負けると星王会館は終わりですよ。そうなれば我々ハンエーも……」 「黙って頂けませんか」 「……ッ!?」  中台は隣に座る角中を見て押し黙った。  その目は現役時代に戻ったかのように鋭い眼をしている。  緊張感と気迫が伝わる。まるで角中自身が試合で闘うかのような雰囲気を出していた。 「副将戦はあなたのご息女ですわね」 「……」  一方のASUMA側。こちらは夏樹と小夜子がいる。  娘の姿を静かに見据える夏樹。角中とは対照的に静寂としている。  あるがままを受け入れるかのような表情であった。 「今は敵です」  夏樹は静かにそう述べた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません