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 副将戦は終わった。激闘に次ぐ激闘。  ここまで勝敗を改めて説明しよう。  先鋒戦:伊藤二郎 ○ VS ファイアン・ダ・オルモ ×  次鋒戦:アルギルダス・モリカ × VS エルデ・ガラグメンデ ○  中堅戦:藤宮ルミ ○ VS シーム・シュミット ×  副将戦:間宮蒼 × VS 高橋昴 ○  共に2勝2敗の五分……勝敗は大将戦で決着することになる。  さて、一方の試合場はブレイクタイムが設けられる。  破壊された試合場の整備に入るためだ。 「うむ、わかった。私も行こう」  スタジアムにいる英緑は、通信携帯機で何者か連絡を取っていた。  通信を切るとチラリと柚木を見た。 「柚木さん、蒼が近くの梔子総合病院へ搬送されたそうだ。一緒に来て頂きたい」 「わ、私もですか?」  呼ばれた柚木は少し動揺する。  英緑と連絡する人物はだいたい察しがついていたからだ。  何故ならば、その人物に呼ばれてこの試合を観戦しに来ていた 「あなたにはその権利がある。この場所に来たということはそういうことです」 「……」  顔の表情は曇る。  果たして自分が行って良いものか。  罪を背負う柚木は悩んでいた。英緑はそう言っても蒼は許さないであろう。 「行ってあげなさい」  躊躇する柚木。  傍でいるカミラがその背中を押す。 「行くのは、あなたの義務よ」 「義務……」  カミラの出た言葉は、柚木が蒼の恋人であるとの判断から出たものである。  が、柚木としては蒼に対する贖罪の意味が多分に含まれていた。  お互いに義務の解釈が食い違うが、カミラの言葉によって柚木の心は揺らいでいた。  この試合、ある人物から来るように言われたのだ。  その人物は……。 「柚木綾那だな……」 「あなたは!?」  突然男はやって来た。男の名前はゲオルグ・オットー。  数年前に毘沙門館の大会で出会った男だ。  風貌は変わったが顔立ちからすぐに分かった。  何でも毘沙門館と星王会館の団体戦が行われることを伝えられ、蒼が出場するとの話を伝えられた。  だが、突然そのように言われてもどうしたらよいか分からない。  それに行ったからといって、蒼から冷たくあしらわれるだけである。 「そんなこと急に……」 「亜紅莉はその試合に来るかもしれん」 「亜紅莉ちゃんが?!」 「連絡があった。出来るならばお前も来て欲しいとな」  亜紅莉からの誘い。  本人には会えてはいない。  ……というよりかは会いたくないというのは本心である。  しかし、その思いはありながらも柚木は自然とスタジアムに足を運んでいた。  そして……試合終了直後より自分の通信携帯機に連絡が入っていた。  その番号は変わらないナンバーだった。  何年経っても変えていないでくれていた。  怖くて出れなかったが、カミラの言葉……『義務』を聞いて決心する。 「私も行きます」  蒼の元へ行けば、亜紅莉と会える。  柚木は確信していた。彼女と会って謝罪したい。  その思いを胸に……。 ・ ・ ・ 「うぐっ……ううっ……」  試合を終えた昴は嗚咽を上げて泣いていた。  肉体も精神もギリギリの闘いだった。  恐怖した鬼に……龍に……そして夜叉となりかけた自分にも恐怖していた。  あの時、亜紅莉が止めてくれなかったら本当に夜叉になるところであった。 「昂さん……」  師である角中は声をかけられなかった。  ただ赤ん坊のように泣く昴を見守るしかなかった。 「何にせよ勝った。よくやったぞ昴」  その姿を見て笑うのは葛城信玄。  星王会館の館長である。彼は確信していた『この勝負勝った』と。 「中台さん、この団体戦はウチがもらったようなもんだ」 「か、葛城さん……」  次の大将戦、相手は岡本謙信である。  事前情報では謙信の実力は大したことはない。  毘沙門館メンバーの中で最弱であるからだ。 「その……何て言うか」  中台は複雑な気分だ。  喜ぶ信玄と目を合わせようとしない。先程の副将戦が原因だ。  あのような試合をしてはスポンサーとして、これから勢力を伸ばすハンエーとしては痛い。  企業イメージが悪くなるかもしれないからだ。 「中台さん、次はポンコツが相手だ。俺が勝つのは間違いない」 「は、はァ……」  そう述べて、信玄は鼻歌を歌いながら控室へと入っていく。  試合前のウォーミングアップをするためだ。  信玄は控室に入ると床に座り、軽い柔軟体操を行う。  久々の公式戦の試合だ、血肉湧き踊るのと同時に未来への皮算用をし始める。 「この団体戦が終わったら、昴を本格的にタレント活動させてやるか。ゴルドナムプロダクションに連絡して……」 ――ガチャ……  ドアが開く音がした。何者かが入って来たのだ。 「だ、誰だ!」  信玄が音の方向を振り向くと覆面の男がいた。  その覆面は古代ローマの剣闘士の兜を想起させるデザインをしている。  覆面の男はただ立っているだけだが、不思議な威圧感を感じさせていた。  その姿勢、佇まいは強者を表しているといってもよい。 「すぐ調子に乗ってしまうところは悪い癖ですね」 「ウ、ウラノスッ!!」  BBBB級クアドラプル超武闘祭の前チャンピオン。  星王会館所属のファイターとして闘っている男である。 「何しに来やがった」 「警告です」 「警告だと?」  警告……ウラノスは警告に来たと言う。  信玄は立ち上がるとウラノスを指差す。 「どういうことだ。意味わかんねェぞ」 「言葉の通りです」  ウラノスの禅問答に信玄はイラつきを覚える。  そもそもこの団体戦、出場選手は団体の関係者であれば誰が出場してもよいルールだ。  BBB級トリプルバトルであるが、星王会館所属なのでウラノスも当然出場権利がある。  だが、ウラノスは断った。  試合の調印式の時に信玄は小夜子に対して強がったが、本心としてはウラノスに出場してもらいたかった。  星王会館最強のウラノスが出場してもらえば、ここまで気揉みせずに済んだからである。 「相変わらずの野郎だ。だいたいお前が団体戦に出場してくれりゃあ……」 「いつまで、他人の力……私の力に頼るのですか」 「……!」  先輩という言葉を聞き、信玄は表情は少し穏やかになる。  昔のことを思い出していた。 「先輩……懐かしい響きだ。元仁王禅の同門として、共に武道を極めんとしたな」 「霊雪先生……あの人は変わり者でした」 「あれだけ強かったのに、古武道というブランドに拘ってた」 「あなたのようにブランドに拘っていた」  昔のことを思い出して穏やかなになったが、それは束の間だった。  ウラノスの返答に信玄は険しくなる。 「俺がブランドに拘っているだ?」 「師を裏切り、毘沙門館に入門したあなたのことさ。空手というブランドが欲しかったんだろう?」  葛城信玄は関西で一時栄えていた『仁王禅少林寺流拳法』という流派に所属していた。  34世法嗣司家を名乗る霊雪丹波竜によって広められた流儀である。  鎌倉時代から続く古武道であると吹聴していたが、実際は伝統派空手をベースに柔道や各種古流、拳法の技法を混ぜ込んで出来た新興流派であった。  専門家よりそれを指摘され霊雪は否定したが、元同門や弟子によって経歴が暴露、仁王禅は急速に衰退することになる。  そして、霊雪が死去したことが徹底的となり流儀は分裂を繰り返し、遂に消滅した幻の流儀である。 「けっ!偏屈オヤジの詐欺に引っ掛かって、エセ古武道を学んでた俺は被害者だぜ」 「どれだけ偽物であろうが武道は武道。どの流儀団体に所属しようとも強さを極めんとすることが出来る」 「それは屁理屈だね。それともあの偏屈オヤジが、だからってかばっているのか?」 ――スッ……  ウラノスは一歩踏み込む。  霊雪丹波竜、本名は黒澤了慶りょうけいという。 「久しぶりに組手するかい?」  ウラノスは覆面を脱ぐ、その素顔……。 「なァ大吾」  黒澤大吾。飛鳥馬不二男の部下である。  そして、父である黒澤了慶より拳法の薫陶を受け極めた武道家。  その実力は高く信玄が長年交渉し続け、やっとORGOGLIOの舞台に上げた男である。

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