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 ゴールドガラハッドの膝から放電の光を放つ。  ルミに体当たりをした際に、右膝の内側を蹴られていたのだ。  膝に伝わる鈍く針で刺すような痛みを堪え、何とか立ち上がる。 「二段蹴りか……日本ジャポネの古い武道は投げ技、逆技中心と聞いたのだが」  ゴールドガラハッドは再び構えをとる。  プフルーク『鋤』の構えと呼ばれる切っ先を相手の顔面に向ける中段構えだ。  これはドイツ流のロングソード流両手剣術の技法である。  レオポルドは、ドイツ流をベースに様々な剣技を取り入れ独自のスタイルを作り上げたのだ。 「ハッ!」 (平晴眼からの突き……ならば構えを!)  顔面へ向けての突きが繰り出される。  ルミは手の甲を外側に向け頭部を死守。  体捌きにより、斜め側方へ入り身し攻撃の制空圏へと入る。  例え斬撃がきても、ダメージを最小にするためだ。肉を切らせて骨を断つ戦法ともいえる。 (前蹴り!?)  ゴールドガラハッドは前蹴りを放つ。突きはおとりだったのだ。  槍のような鋭い前蹴りは胴体に入った。 「うっ……!」 「剣術家ソードマンが打撃技をしないとでも思ったのかい?」  その言葉と共に、右の袈裟斬りだ。 「ちィ……!」  ルミは咄嗟に右手掌部で受け止める。  ノーマルレッドの右手掌部に剣が食い込み放電した。  刃引きだが、その剛剣により刃物相当の斬撃力となっていた。  装着するプロテクターから痛みの感覚が伝わってくる。  出血はないものの針で刺すような鋭い痛みだ。本来なら裂傷は免れない大怪我をしている。 ――ドン!  太鼓の音が鳴った。ラウンド1終了の合図である。  観客達は沈黙していた。本来であれば歓声で包まれているが、この死闘に固唾を飲んで見守っていた。  死者が出たのも納得できた。これが剣闘試合グラディエーターバトルである。これぞ剣対拳の試合なのだ。 「棄権してくれないか?」  蓮也はセコンド席から指示を送った。  この剣闘試合。ルミなら勝つのではないかと思っていた。  そうすれば5勝分の勝利数を得て、BB級ダブルバトルにスピード昇格できると算段していた。  なんとか斬撃を凌ぐがそれも紙一重。ルミが死んでしまうのではないかと思っていた。 「俺はお前を……」 「中途半端な覚悟で闘っていない。あたしを信じな」 「ッ!」  ノーマルレッドは静かに試合場へと戻っていた。 ――ドン! 「BU-ROADバトルラウンド2……開始はじめッ!!」  Mr.バオがラウンド2の開始の合図を出す。 「開演だ……」  ムッソは構えをとる。ロングソードを片手で握り半身の態勢を取る。  それはフェンシングの構えに酷似していた。  その時だ……。 「あ、あの……構えは!!」  観客席で見守るレオポルドは驚く。あの技を行う気なのだと。 「死亡遊戯Jeu de la mort……!!」  それは自身が現役の頃に得意とし……封印した技だった。 「死亡遊戯Gioco della morteッ!!」  ムッソは半身の態勢から素早く踏み込んだ。突きの嵐がルミを襲う。  ルミは〝水流れの構え〟と呼ばれる攻防一体の構えだ。  両刃の剣で突きを行うため、深手とは言わないまでも両腕を切り刻まれる。 「くっ……構えが!」  ノーマルレッドの両腕は多数の破損個所が出来る。  当然ながら、ルミの両腕も鋭く鈍い痛みが伝わる。  構えも次第に崩れ下段構え…蜘蛛糸の構えへと変化した。 「上半身が空いてるぞ!」  空いた隙を見逃すほどムッソも甘くはない。  続いて剣の握りを両握りし、構えをフォム・ダッハ屋根へと移行した。 「ハァ――ッ!!」  右袈裟斬りを放つ。 ――スッ! 「ツァ――ッ!!」  ルミはバックステップしながら躱す。  次は左袈裟斬りを放つ。 ――スッ!  これもバックステップし躱す。  だが攻撃は止まらない。右袈裟、逆袈裟と交互に踏み込みながら斬撃を放つ。  レオポルドが薩摩の示現流を参考にした剛剣術は重く鋭い。  これぞ東洋と西洋の剣術を組み入れ開発した『死亡遊戯』点と線の連続攻撃である。 「ヴィート……その技はお前の父を殺した技なのだぞ」  それはマウロを死に至らしめた技だ。  無論この技をレオポルドはムッソに伝授するはずがない。  彼自身が、レオポルドの現役時代の映像を見て独自に習得したのだ。 「すばしっこいネズミトッポだ……ではッ!」  ムッソは呪われたこの技を更に改良を加えている。  斬撃後に体を旋回させる、それはさながら風車のようだ。 「シィイ――ッ!!」  後ろ回し蹴りだ。父マウロが得意とした大技である。 ――ガンッ! 「……ッ!」  顔面を蹴られ、ルミの意識が飛んだ。 「今度こそ終わりだッ!!」  ムッソは半身の態勢へと変化し片手平突きを行う。  狙いは心臓部など重要な器官がある胸部。 「やめろ――ッ!!」  レオポルドは叫んだ。  何故その呪われた技を使うのだと。  その片手平突きは、お前の父の命を奪った技なのだと。 「ヴィート……お願いもう止めて」  アンナは祈る。彼を殺人者にはしたくなかった。 ――スッ…!!  だが、突きの軌道が外れた。 「……限界だったか」  右膝が放電し故障している。限界が来たのだ。  死亡遊戯は素早い踏み込みやフットワークを多用する。膝への負担が大きくなっていた。  崩れ落ちるゴールドガラハッド。  剣先はノーマルレッドの胴体をかすめ地面へと突き刺さった。 「終わりだね」 「そうだな……」 ――フッ!  倒れるゴールドガラハッドに顔面へ中段突きを放つ。だが寸前で止めた。 「とどめを刺さないのかい?」 「もう勝負あったろ」 「ORGOGLIOは戦意喪失による負けは認められていないはずだよ」 「気に入ったやつにはとどめを刺さない主義でね。それに、これ以上やったらアンナに恨まれる」 「……!!」  ルミは審判機の方を見る。Mr.バオの審判機は黙って頷いた。 「この状況は≪試合ルール≫⑶に該当する。私個人としては、ヴィート・ムッソ氏にこれ以上の試合続行は不可能と判断する」 ※⑶ 頭部以外のダメージが明らかな場合、審判の判断により中止する場合がある。  Mr.バオは、セコンド席にいる小夜子に通信を繋ぐ。 「そちら側がTKO宣言を認めてくれたら、試合を終了できるのだが」  小夜子は、やれやれといった表情だ。 「シウソニック側の勝利で構いません」 「いいんですか?」  小夜子の隣に座る山村がいぶかしげに言った。 「こんな殺伐とした試合状況が続くと、世間の批判がASUMAに集まりますからね」 「委細承知……!」  それを聞いたMr.バオは右手を高く上げて宣言する。 「勝負ありッ!勝者〝藤宮ルミ〟!!」  審判の宣言と共に、沈黙していたスタジアムは歓声に包まれる。  蓮也とカミラは微笑みながら握手し、レオポルドは安堵の表情を浮かべる。 「ありがとう……ありがとうルミさん」  そして、アンナは涙を流していた。 “謎の古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 バランス型BU-ROAD:ノーマルレッド スポンサー企業:シウソニック ≪戦績≫6回戦 10勝0敗 [特別ポイント制度]適応により5勝追加 ※〝BB級ダブルバトル〟リーグ昇格決定! VS “イタリアンナイト” ヴィート・ムッソ スタイル:ナイト・デュエル ナイト型BU-ROAD:ゴールドガラハッド スポンサー企業:ASUMA ≪戦績≫1回戦 0勝3敗 [特別ポイント制度]適応により3敗 ・ ・ ・  控室にてムッソとレオポルドがいた。二人は何やら会話をしている。 「ASUMAから協力金とスポンサー契約料が入ったよ」 「約束は守ってくれたようですね」 「何故、死亡遊戯を使った?」 「あの技で終わりたかったんです」  彼は一言そう述べた。これ以上の詮索は無用。  二人の間には、深い師弟以上の絆が結ばれているからだ。 「引退試合に相応しい試合で満足しました」  レオポルドはマウロとの死闘を思い出していた。マウロとの激闘……。  結果的には悲劇を生んだが、最後の最後でマウロが笑っていたのを思い出した。 ――ガチャ……  ドアが開く音が聞こえた。  二人が振り向くとそこにはアンナがいた。 「ア、アンナ……!」  アンナの後ろにはカミラがいる。 「余計なことを……」  ムッソの言葉にアンナは返した。 「余計なことをしたのはヴィートよ……」 「経営が危ないナイト・デュエルに資金提供の話があったそうね」  カミラは試合前、ある人物からナイトデュエルへの資金提供等の話を聞かされていたのだ。 「男二人だけで大事なことを隠していたの?」  アンナの問いに二人は黙っているだけだ。暫くしてムッソの口が開いた。 「ごめんね。ボクも最初は迷ったよ。試合はいいとしてもルールが問題だ。そのことで過去が暴かれ、君が酷く傷つくんじゃないかと恐れた。でもボクはどうしても、ナイト・デュエルを救いたかった」 「私の気持ちも知らずに……」  アンナの目に潤んだタイミングだ。ムッソは彼女に自身の想いを伝えた。 「君の気持ちは知っていたよ」 「え……」 「でも闘うことしか能がないボクは、その想いに応える勇気がなかった。それにいつか知らされる事実を、君の父親に語らせたくなかった。だからボク自身が、君に残酷な事実を知らせた」 「ヴィートのお父さんは……」  アンナが続きを述べようとした時だ。ムッソは彼女に近づき優しく抱きしめた。 「もういい……もういいんだよ」  その様子を見て、レオポルドは娘であるアンナに語りかけた。 「アンナすまなかった……いつか伝えようと思ってはいた。でも……お前はまだ子どもだ。事実を伝える勇気がなかった。私はお前から嫌われたくなかったんだ……卑怯な父を許してくれ」 「私、もう子どもじゃないんだよ……」  アンナはムッソの胸で泣きじゃくった。 「ボクがバカだった……」  胸のロザリオが光に反射し美しく輝いていた。

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