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「あたしをしたいだァ?!」 「飛鳥馬CEOからのお達しだ」  蓮也より社長室に呼び出されたルミは驚いた。  ASUMAから今度行われる団体戦のメンバーとして参加して欲しいと伝えられたのだ。 「その団体戦って何だよ」  ルミの疑問にカミラが答える。 「毘沙門館VS星王会館の団体戦よ。毘沙門館側としてあなたが選抜されたの」 「何故、あたしが……」 「無理矢理こじ付けるなら、あなたのお父さんが毘沙門館の大会で優勝したからみたいね」 「イヤ、流派が違うんですけど!」  確かに父である魁道が関西で行われた毘沙門館の大会で優勝した。  しかし、それも数年前の話だ。  毘沙門館の代表として選ばれること自体が不思議でならない。 「毘沙門側の人材難ってところね」  カミラはそう述べると、A4サイズにまとめられた簡素な資料を渡す。 「これは?」 「今回選ばれた毘沙門館側のメンバーらしいわ」  ピラリと一枚めくるとメンバーの名前と顔写真が載せられている。  そこにはこう書かれていた。 【毘沙門館選抜メンバー】 1.岡本謙信 2.間宮蒼 3.伊藤二郎 4.アルギルダス・モリカ 5.藤宮ルミ 「謙信が選ばれてるじゃねーか!」 「今回の団体戦の大将戦は、岡本謙信と葛城信玄との一戦が決まっているのよ」 「マジかよ。信玄とかいうおっさんだいぶ歳だろ。大将戦だけ泥仕合のグダグダになるんじゃないかい」  ルミの言葉にカミラは少し怪訝な面持ちになる。 「それはどうでしょうかね」 「ん……?どういうことだ」  二人のやり取りをじっと見ていた蓮也はサッと椅子から立ち上がった。 「取り敢えず今晩、飛鳥馬CEOや選抜メンバーと顔合わせするぞ」 「また、いきなりこのパターンか」 「今度は料理を食しながらの団欒だ。面倒事は起こすなよ」 「はいはい」  そう答えるとルミは思い出したかのように言った。 「あっ……そうだ」 「何だ」 「あの言葉を覚えているか?」 「はっ?」  蓮也はナゾ解きを出されたかのような不思議な顔をしている。  全く覚えていないからだ。 「忘れてるのか……フラグクラッシャーだな」 「何言ってンだ?何を俺が忘れているって言うんだ」 「いいよ……後で場所と時間を指定して伝えてくれ」  ルミは残念そうな顔をしてそのまま社長室を出て行く。  数秒の時が流れ、蓮也はカミラの顔を見て尋ねた。 「何か俺忘れていることあるか?」 「……存じません」  カミラはその言葉とは逆に何か思い当たる節があるような顔をしていた。  蓮也はただ首を傾げるだけであった。 ・ ・ ・ 「マスコミ諸君。ようこそお集まり頂きました」  場所はハンエーが所有する機闘士マシンバトラー専用のトレーニングルーム。  広々とした空間はサッカースタジアムを改造した贅沢なものである。 「これからお見せしたいものがあります」  黒いTシャツにジーパンを履いたイノベーションな男は中台歩。  ハンエーの経営トップだ。  その周りには、マスコミ各社が集まっていた。 (……一体どういうことかしら)  その記者やカメラマンの中に、ブレネースポーツの駆け出し記者であるいさみもいた。  記者団の一人、週刊バトリンピアの正田は尋ねた。 「急に我々を集めて何をされるのでしょうか」  正田の質問に中台は顎に手を当てて答えた。 「言葉の通りさ。これから星王会館館長である葛城信玄の公開練習をお見せ致します」 「公開練習?葛城信玄氏は既に現役からかなり遠ざかっていますよ。一体何をするために……」 「BU-ROADバトルさ」  中台はフフンとした顔で続ける。 「一夜限りですが、葛城館長はORGOGLIOに参戦します」  記者団がざわめき始める。信玄がORGOGLIOに参戦するというのだ。  正田は冷静に質問を続ける。 「どういうことでしょうか」 「毘沙門館との関係に終止符を打つためですよ」 「終止符……?!」  記者団は再びざわめく。  確かに毘沙門館と星王会館は決して良好な関係ではない。 「葛城館長は『完全に毘沙門館を潰し、名実共にフルコン空手界のトップに立つ』と」 (び、毘沙門館を潰す……?!)  いさみは額から汗が流れた。  今更になって毘沙門館を潰すと言っているのだ。 「あ、あの……質問をよろしいでしょうか」 「君は?」 「ブレネースポーツの岡本いさみと言います」 「お、おい!岡本勝手に……」  岡本の隣にいる上司の酒井は言った。  あくまでも仕事のアシスタントとして彼女を呼んだからだ。 「岡本いさみ……そういえば毘沙門総裁の孫娘に同じ名前の子がいたな」 「私は岡本毘沙門の孫娘です」  記者団は再びざわめき始めた。上司である酒井も驚く。 「あ、あれ……お前そうだったの。面接の時に言ってなかったぞ」  カメラマンの一部がパシャパシャといさみを写し始めた。  いさみは質問を続ける。 「毘沙門館を潰すという意味が理解できません。自分で言うのもなんですが、既に星王会館の力は圧倒的です。前年のウラノス選手の優勝も手伝って勢いは増すばかり……これ以上何をされるのでしょうか」  そう勢力的には既に星王会館に軍配が上がる。  組織力、広報力、選手層……僅か数年で日本国内トップの力を持っているのだ。  毘沙門館もそれなりの勢力を保っている、がそれは過去の話だ。  今でも団体、組織内は分裂を繰り返し縮小。衰退の域である。 「格闘技界のトップに立つためだよ」  中台はいさみの質問に対しそう答えた。 「そ、それはあなた方の個人的な目標であって……」 「団体戦チームバトルで決着をつける。WOA直々の興行イベント企画だよ」 ――長年の遺恨に決着をつけさせたくてな。  それを合図にしたか、老人が入って来る。その傍には西洋人が護衛でついていた。  老人と西洋人を見た記者団は驚きの顔を隠せないでいる。 「あ、飛鳥馬不二男……?!」 「BBB級トリプルバトルトップファイターのゲオルグもいるぞ!」  老人は飛鳥馬不二男であった。珍しく紺色のスーツを着ている。  傍らには黒いスーツを着たゲオルグもいた。 「今回の興行イベントを立案した飛鳥馬不二男さんだ。説明するほどでもないよね」  中台は顎に手を当てまま記者団にイヤミったらしい顔をしている。 「中台よ。俺の吹いたラッパに応えてくれてありがとうよ」 「会長のご提案を無下に断れませんよ。それに小夜子さん……」 「おっ!なかなかいい観客席じゃないか」  不二男は中台を無視して観客席まで行きどっかりと腰掛けた。 「椅子が広々としていい」  中台はそれを見て少し慌てる。 「か、会長……」 「……邪魔だ」 「ヒ、ヒェ……」  ゲオルグに一睨みされる中台。  その眼力に押され、金縛りを受けたかように固まってしまった。  ゲオルグはそのまま飛鳥馬の傍に立ち腕を組んでいる。  不二男は何かに気付いたか記者団の方を振り向いた。視線の先にいさみがいる。 「いさみさん……だっけか」 「わ、私ですか?」 「こっちへ来な。そこじゃあ見えにくいだろ」 「……いいんですか?」 「お前さんの爺さんとは友達ダチだったんでな。そのよしみさ」  困惑するいさみ。彼女の姿を見て上司である酒井が背中を押した。 「さっさと行け!こんなチャンス滅多にないぞ!!」 「え……あっ……はい」 「特等席だから写真撮り忘れるなよ!!」  いさみは混乱したまま不二男の隣に座った。 「し、失礼します」 「はじめましてだな。それよりなんだ、あんパン喰うか?」 「ほへ?」  不二男は懐からあんパンを取り出しいさみに手渡した。  顔に似合わずフレンドリーで甘党の不二男の意外性に驚くばかりである。 「会長、そろそろ始まります」 「いよいよだな」  場内に機械音が聞こえ始めた。一体のBU-ROADが入場する。  ネオシュライカー…元々フラットが所有していたものだ。  記者の数名が小声で話し始めた。 「何でハンエーが持ってるんだ」 「ハンエーがフラットから買い取ったらしいよ」 「ああ……があったからね」  不二男はゲオルグに尋ねた。 「信玄が操縦しているのか?」 「いえ違います……」  そうするともう一体のBU-ROADが入場する。  ノーマルレッドだ。ノーマルカラーズと呼ばれる量産機である。  ゲオルグはノーマルレッドに視線を向けて述べた。 「あれが葛城信玄です」

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