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――バチンッ!!  激しいミットの音が聞こえる。  試合が行われるスタジアムの控室では、選手とトレーナーがウォーミングアップをしていた。 「順調な仕上がりだね。島原君」  その傍には、オールバックの髪型をした恰幅の良い男がいる。  彼の名前は葛城信玄。星王会館の館長を務めている。 「君はまだまだ輝ける逸材です。共に上を目指しましょう」  ミットを持つトレーナーは髪を後ろに束ね、メガネをかけており知性を感じさせる。  彼の名前は角中翼、星王会館の師範代を務める。  4年前に現役を引退し門下生の育成に専念、数多のチャンピオンを育て上げたその手腕は好評である。 「毘沙門館にいた時より体のキレが増した感じがするぜ!」 ――バチンッ!!  島原は後ろ回し蹴りをミットに放つ。  あまりにも衝撃で5メートルほど後方に飛ばされた。  飛ばされた角中は、やれやれといった感じだ。 「島原君、もういいでしょう。あまり熱が入り過ぎると疲れますよ」  汗ばむ島原に角中はタオルを渡した。  島原はタオルで額を拭きながら、改めて今宵の対戦相手を確かめる。 「で?俺の対戦相手は誰だっけ」  信玄は資料を見ながらこう言った。 「藤宮ルミ……昔、私が開催した空手の大会を荒らした男の一人娘だ」 「なるほど、マスコミどもが持て囃してる女か」  島原はニタリとする。その笑みは相手を格下と侮るものだ。  俺が負けるはずがない、おいしい相手だと思っている。 「女が上がってくること自体が奇跡だぜ。今まで女性格闘技界のヤツらが勘違いして乗り込んできたが、どいつもこいつもダメだった」  その言葉を聞いた角中は、メガネをキラリと光らせる。  その眼光は相手を侮ってはいけないという戒めの視線だ。 「嘗めてはいけません。最近じゃ藤宮選手以外にも、ヨーロッパでは『エリザ・フランマ』という女性選手がBBB級トリプルバトルに昇格すると噂されています」 「へっ……元BBB級トリプルバトルの俺が言うが、出だしだけ好調だったヤツなんてごまんといたぜ」  警戒する角中に信玄は冗談交じりに言った。 「君もフェミニストになったな。昴の影響か?」 「か、館長」  それを言われた角中は気まずそうな顔をしていた。  一方の信玄は、その反応を見てニタニタとしている。 「ハハッ!何にせよ『お手並み拝見』といこうか。なァ島原君」 「任せて下さいよ」  島原は操作用のメットやプロテクターを着用する。  自信満々の表情だがおどけてはいない、その眼は獲物を狙う鷹のように鋭い。 (俺の獲物はゲオルグだけだぜ!!) ・ ・ ・ 「なんつーか……もうちょっとナウでヤングなマシンだと思ったんだがな」  ルミは操縦用ルームでそう言った。  今日は、初のBB級ダブルバトルでの試合である。  彼女はシウソニックが新開発した『旋風猛竜サイクラプター』の感触を確かめていた。  モニターには、蓮也と野室が映し出されている。 「文句言うな」 「ぶっつけ本番だから不安は残るね」  本来ならば試験運用してからの試合である。  ところがルミはそれをサボった、油断というワケではない。  そもそも武道において『ぶっつけ本番でこそ真価を発揮する』という信念に基づいての行動である。 「気にすんなって楽勝だからさ」 「そうは言ってもな」  モニターに映し出される蓮也は心配そうな顔だった。  隣りに映る野室がルミに尋ねた。 「それより空調の方はどうだい?」 「最高だね」  着用する操縦用プロテクターは快適そのもの。  シウソニックの空調システムにより、中は快適な温度が自動的に設定されるのだ。 「ベストパフォーマンスが発揮されそうだ」  ルミの言葉を聞いて野室は嬉しそうな顔をしている。 「そう言ってもらえると、開発者として嬉しい限りだよ」 「それにこのメットとプロテクターも軽くて動かしやすい」  野室の開発した、旋風猛竜サイクラプターは何も戦闘面での性能ばかりではない。  操縦者が如何に快適に過ごしてもらうかも念頭に開発されたのだ。  装着しているメット、プロテクターもそうである。  介護用の車椅子やベッドで使用されている特殊吸収材を使っているため、操縦者の安全面にも考慮されたものとなっているのだ。 「アンタは最高のメカニックだよ」 「お褒めに預かり光栄だね」  蓮也は二人のやり取りを見てニッコリとしている。  やっとこれで自社製のBU-ROADを世間にお披露目することが出来るからだ。 「今日は大切な日だ!頼んだぜ!!」 「よっしゃーッ!!」  ルミはそう咆哮すると試合場へと向かっていった。 ・ ・ ・ 「長らくお待たせしましたッ!!」  キラリとスクエア型のメガネを光らせる中年の男がいた。 「私!Mr.ベテランアナの遠藤一郎と申します!!」  試合中央上でマイクを握るのは遠藤一郎、フリーアナウンサーである。 「カボスはどうした!!」  観客から野次が飛んだ。  人気アナウンサーのマスク・ド・カボスが登場すると期待してたからだ。  だが、彼はこう答えた。 「あの人はBBB級トリプルバトルの試合でしか実況しませんッ!!」  少し残念そうな雰囲気になるバトルスタジアム【サムライコロシアム】。  BBB級トリプルバトルの前座ではあるがBB級ダブルバトルより、日本の本試合場ともいえる【サムライコロシアム】を使用できる。  これよりテレビ放映が開始され、全国に試合の模様が流されるのだ。 「いきなり本番だけど大丈夫かしら」  カミラはいつもと違い、観客席で試合を見守っていた。セコンド席は二人までしか入れないからだ。  ルミのセコンドには、蓮也と野室がついているためである。 「大丈夫ですよ!」 「そうです!ルミちゃんは強いんですから!!」  そして、その隣には何故か宇井といさみがいた。 「それより宇井君……その子は誰なの?」 「僕の彼女ですよ」 「えっ……?!」 ――タッタッターン!  試合場は軽快な音楽が流れ始めた。  これより試合開始のようだ。 「それでは!レッドワイバーンの方角から島原駿明選手の入場ですッ!!」  ポップでワイルドな音楽と共に何が現れた。  それは、クリーム色のBU-ROADである。  古き良き昭和のアニメ『ガッチャ○ン』を連想される頭部を施してある。 ――シュババッ!  走る、走って来た。  そのBU-ROADはクルリと一回転してリングインした。  正直言ってカッコださい。だが、それがまたいいのだ。 「うわァ……なんだあの頭部。絶対『ネオシュライカー』の方がカッコよかったよ」 「けっ!相も変わらずだな」  観客席にいるのは謙信と伊藤だ。  島原をどう相手にするのか、ルミの闘いぶりを観戦に訪れていたのだ。 「続いては!ブルーライガーの方角から藤宮ルミ選手の入場ですッ!!」  和風な音色である。琴や尺八の調べが会場に流れていたのだ。  これぞザ・ニホン、デイス・イズ・ヤマトナデシコといった和の美しさ。  ……のハズなのであるが。 ――ダララダダダン!ダララダダダン!  メタルな音楽に変わった。和の音から現代風な音楽に変わったのだ。 ――ギュイイイン  旋風の音が聞こえる。それは嵐か竜巻か。  否……違う!それは……それはッ!!  旋風猛竜サイクラプター見ッ参ッ!! ――ウオオオォォォッ!!  観客達の歓声が包み込む。  それは藤の竜である。藤の旋風である。  威厳と神秘が交錯する紫の恐竜人型BU-ROADであった。  細身であるが鋭い。鋭いがどこか柔らかさがある。 「なんだか綺麗ね。道が輝いて見える」 「美しすぎるぞ!藤宮ルミ……いやいや旋風猛竜サイクラプター!!」  若い男女の観客がそう言った。  マシンが走った後の道が金剛石ダイアモンドのように美しく輝いていたのだ。 「両脚にサイクロン型掃除機の機能つけたからね」 「いる……その機能?」 「シウソニックの宣伝したいんでしょ」 「そりゃそうだけど……」  セコンド席にいる蓮也と野室はそのようなやり取りをした。  いよいよこれから旋風猛竜サイクラプターのデビュー戦が始まるのだ。 ○ 中層リーグ:BB級ダブルバトルワンマッチイベント “帰ってきた肉食系鳥人キッカー” 島原駿明 スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:ガッチマンヘッド スポンサー企業:ハンエー VS “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜サイクラプター スポンサー企業:シウソニック 「フェ……元BBB級トリプルバトルの俺に勝てるかなお嬢さん!?」  島原は指差しながらルミを挑発した。 「勝てるも何もアンタに負ける気はしないよ。ハンデとして片腕でやろうか?元色物さん」  ルミの返しに島原は青筋を立てながらこう返した。 「今の俺はBBB級トリプルバトルにいたときより強くなっている。嘗めない方がいいぜ」

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