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 もうすぐ大将戦が始まるのであるが、スタジアムの通路では数人のグループが揉めていた。 「毘沙門館は古武道女を使って恥ずかしくないのか!!」 「そっちだって、セームを筆頭に他流派から引き抜いたヤツらばかりじゃねーか!!」  毘沙門館と星王会館の門下生達だ。皆、若く血気盛んである。 「蒼ってやつも噂じゃ他流派出身らしいな、ふざけんな!」 「黙れ!昴って小娘のやり方は何だ!!武道精神ってものを教育していないのか!!」  先程の血生臭い副将影響か、双方殺気立っていた。  事の発端は、星王会館の門弟が謙信の存在をバカにしたところから始まる。  所詮は祖父の七光り、空手での実績もなく、強さも大したことはない。  一方の信玄は今年で齢50となるが、稽古でも現役選手と組手を行い技量は伯仲。  対ルグゼ・"海尊"・レガシック戦でもその強さをマスコミに見せつけた。 「そちらのお坊ちゃんが館長に勝てるかよ!」 「うるせーっ!守銭奴空手屋に負けるわけねーだろ!!」 「寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ。これまで全日本や世界選手権で入賞したことあるのかよ?」  確かに星王会館の門弟が言うように、謙信はこれまで大きな大会で入賞したことはない。  ドジでマヌケ、それでいて空手の実力もイマイチ。  そんな館長、総帥であるが皆慕っていた。おかしな言動もあるが誠実で真面目だったからだ。 「か、館長を……総帥をバカにするんじゃねぇ!!」  毘沙門館の門弟が殴りかかろうとした時だ。 「やめたまえ」  野太い声がした。毘沙門館の門弟が振り向くと巨人がいた。  そうライジングプロレスの社長、ゴリアテ威場だ。  その傍には部下の三宅もいる。キラウエア三宅のリングネームで活躍するプロレスラーだ。 「ここらで暴れたらお客さんに迷惑がかかるってもんだぜ」 「い、威場に三宅!」 「何でこんなところに」  双方の門弟達が驚く中、今度は女性の声が聞こえた。 「全く騒がしいと思えば」  今度は星王会館の門弟が振り向くと、そこには和装美人がいて呆れた表情をしている。  女性の名は藤宮詠、ルミの母である。 「あなた方が揉めていても仕方がないでしょう」 「な、何だ急にあんたには関係……」  星王会館の門弟が詠に近付くも……。 ――ヌッ……  灰色のマスクをした男が割って入った。  男の名はグレイ・ザ・マン。  詠の弟子であり、既にBBB級トリプルバトルへの昇格が決まっている。  ここまで無敗でスピード昇格した新世代の機闘士マシンバトラーである。 「グ、グレイ・ザ・マン?!」  一流の武道家、格闘家が一堂に会した状況だ。  毘沙門館も星王会館も驚きを隠せないでいた。  団体戦といっても、所詮はBB級ダブルバトルの試合。  世間の注目もある程度高いが、それはマニアだけのものであった。 「あなたのような大物が何故こちらに?」  詠は双方の門弟達無視し、威場に質問をした。  門弟達は詠や威場の並々ならぬオーラに圧倒されていた。  両者ともに強者の匂いを感じさせていたのだ。 「毘沙門館と星王会館、一つの時代を象徴した両団体の遺恨に決着が着く闘いですからね。これが終われば新時代の幕開けだと思いまして」 「おや奇遇ですね。私もそう思って観戦に訪れたのですよ、うちのルミやグレイ君の時代が来るとね」  にこやかに詠は微笑んだ。それに応えるかのように威場も笑う。 「藤宮ルミさんのお知り合いの方ですか。実は昔、空手の大会でお見かけしたことがありましてね。もしよければ是非とも……」 「あの子は藤宮流の女です。女子プロレスには向いておりません、あの子は平気で台本を破りますからね」  そう述べると、詠はグレイ・ザ・マンを連れスタジアムの観客席まで戻って行った。  圧倒された双方の門弟達、その空気感が残る中、三宅は威場に言った。 「社長、俺の時代は来ますかね?」 「残念ながら君の時代はとうに過ぎたよ」 「ハ、ハハハ……そうですよね」  威場の言葉に三宅はがっくりと肩を落とすのであった。 ・ ・ ・  その頃、謙信は毘沙門館側の操縦用ルーム前に来ていた。  和香子以外にも、北山やタツジが出迎えている。 「男の顔になったようだね!う~んマンダム!!」 「試合前の景気づけだ、これを飲み給え」  タツジは緑色のドリンクを渡した。 「これは?」 「8種類の緑黄色野菜をベースに、漢方とローヤルゼリーを混ぜ込んだ特性ドリンクだ。即時的な効果だが疲労を回復させ、闘志を漲らせてくれる」  渡された謙信は少し怪しげなものとは思いつつも、一気に飲み干した。  すると不思議な事に体に闘志が溢れ、今すぐにでも信玄と試合をしたい気分となった。 「ヌオオオ――ッ!こ、これは――ッ!!」 「イイ感じだね!それじゃあ、ボクが最後の仕上げに入らせてもらおう!!」 「えっ……まだあるの?」 「とりあえず、そこの椅子に座りなよ」  よく見ると、北山の傍にパイプ椅子が用意されていた。  促されるまま謙信は椅子に座ると、北山はマッスルスマイルを浮かべている。 「まずは目を閉じるんだ。君をウォリアーにして仕上げだ!」 「ヘッ?」  不思議に思う謙信に、和香子が耳元で甘く優しく囁き、桃色の吐息を吹きかけた。 「いいから目を閉じて……」 ――フッ…… 「びゃあああ~?!わ、わっかりましたーっ!!」  全身に針が貫くような感覚に襲われるも興奮する謙信。  そして、静かに目を閉じた。 「謙信君を毘沙門館の超合金戦士にメイクアップ!!」  北山は用意したメイク用の筆に絵の具を付け、謙信の顔に何かを描き始めた。  謙信への作業が進む中、小夜子と夏樹はその様子を見守っている。 「高橋先生、大丈夫ですか?」 「うむ……」  副将戦が終わって以降、夏樹の体調は思わしくない。  顔が急にやつれ、老け込んだように見えた。  悪鬼に生気を吸われたような表情になっていたのだ。  毒を以て毒を制すというが、青鬼では夜叉を倒すことが出来なかった。  何としてでもあの作品を壊したい、怨念めいた気持ちが夏樹を追い詰めていた。 「次の大将戦……先生はどちらが勝つと?」 「……」 「先生?」  小夜子に声をかけられハッとする。  そうだ、今は昴の事を考えている時ではない。  せめて信玄を倒し、星王会館という巨星を破壊することがせめてもの慰めだ。  夏樹は邪な考えと思いながら、しっかりと答えた。 「勝つも負けるも、ここまでお膳立てしたんだ。小僧が勝つと信じるしかなかろう」 「……そうですわね」  小夜子は頷きながらも、夏樹の異変に気づいていた。  副将戦が終わって以降、怨霊や悪鬼に憑りつかれたかのような雰囲気を出していたからである。 ・ ・ ・ ――パチッ!!  スタジアムの照明が消された。 『場内の皆様、大変長らくお待たせ致しました』  実況の遠藤はいよいよ、毘沙門館VS星王会館のラストであることを示す……。 『大将戦を開始致します!!』  そう、いよいよ始まる大将戦のコールである。 ――ワアアアアアアッ!!  スタジアムの観客は熱狂の歓声を上げていた。 『岡本毘沙門……日本空手界の伝説、その伝説は多岐に渡ります。空手家として、それほど実績が少ない彼は周囲の反対を押し切り、20代の頃に単身タイに渡りムエタイに挑戦、日本人空手家として初のランキング入りをされました。またアメリカ、ヨーロッパに渡り空手家なのにプロレスデビューという破天荒ぶり。更に芸術活動にも力を入れ、武道を題材にした絵画は海外で高い評価を受けました。そして、マルチな才能を持つこの男は『空手も芸術も爆発だ!』を合言葉に毘沙門館を創立。残念ながら他界されましたが、そのスケールの大きさは我々格闘技フリークの心に深く刻まれております』  まず毘沙門館の創設者、岡本毘沙門の簡単な概略を説明する。  その経歴から物事に捕らわれず、柔軟な思考、エネルギッシュな活動からスケールの大きさを感じさせた。 『さて、その偉大な毘沙門館より分派した星王会館。創設者はご存じ葛城信玄。元々は別派拳法を学んでいたと聞き及びます。30代半ばまでその経歴は空白に近く、非公式試合を中心に牙を磨いていたとは本人の弁。ですが、思うことがあり別派から脱退。もう一つの伝説、高橋夏樹に頭を下げて弟子入りされます。天賦の才を持つ彼は、高橋が提唱する円の組手を短期間でマスター。また高橋の懐刀として手腕を振るい、関西で毘沙門館の勢力を拡大に貢献。また関西の財界、政界、更には芸能界とのコネクションも作り上げ、目標とする『生産性のある空手』を合言葉に毘沙門館から独立。空手という枠組みに拘らず、華やかな空手を我々に見せてくれていることは皆様もご存じでしょう』  続いて星王会館の創設者、葛城信玄の簡単な概略を説明する。  こちらも空手という小さな枠組みに捕らわれず、空手のビジネス化、興行化することで空手の可能性を提示してくれている。 『異端の空手、武道のもう一つの可能性を目指す両団体、一見この二つは似た者同士に見えます。……ですが!ですがです!!』  遠藤のマイクに力が入った。 『お前と一緒にするな!毘沙門館は武道の伝統を!!星王会館は武道の革新を!!信念が違う!理想が違う!道が違う!お前らのやり方は間違ってるウウウッ!!』  一呼吸入れると……。 『両大将の入場だ―――ッ!!』  最大限のメガボイスで絶叫したのであった。

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