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「アスパラ。わかってんだろうな」 「ま、待て、これにはワケがあるんだ」  ルミが蓮也の胸ぐらをガッシリと握りしめている。  どうやら、BU-ROADを遠隔操作するための操縦ルームへと連れていかれていたようだ。  どのような方法でされたかは分からない。だが一つ分かることは『自分の許可なく出場された』という事実だ。 「どうしても、君を機闘士マシンバトラーにしたかった」 「そういえば鬼塚はどこ行った」 「大阪へ帰った」 「ちっ……」  一応はあの蕎麦屋で説明されたのではあるが、ルミの欠点として自分に興味のない話は流してしまう傾向がある。 「つーか勝手にデビューさせるな」 「いや……それは、あの蕎麦屋できちんと説明したぞ」 「覚えてないね!」  ルミは更に強くグイグイと振り回す。蓮也は少し後悔していた。タザワーの時にしてもそうであったが、何故ORGOGLIOオルゴーリョ参入で難儀するのだ。  これは赤字経営が続く、シウソニックの社運をかけた一世一代を賭けた事業であり広報活動だ。  今の時代〝普通に宣伝〟するだけではモノが売れなくなった。  昔のようにチラシや広告、テレビCMだけでは消費者は商品を購入しなくなったのだ。  実際に商品の品質を口コミやネット等の情報を集めて購入を決める。消費者の目が厳しくなったのだ。  よって、ORGOGLIOに参入することを決心したのだ。最中級のリーグである、BB級ダブルバトルと呼ばれるクラスでは専用のBU-ROAD開発が認められている。  そこで自社専用のBU-ROADを開発し活躍すれば、シウソニックの品質や開発力を内外にアピール出来ると考えたのだ。  新事業参入のやり方に問題があった。蓮也は格闘技にそれほど興味もなく、スポーツ工学等の知識がほぼなかった。  情報収集はネットや友人の話が殆ど、専門家にあまり頼らず自分と秘書のほぼ二人で進めた。 (何でこうなるんだ……)  ついつい蓮也は自らの軽率さから招いた不運を嘆いてしまった。元々会社経営はやりたくなかった。子どもの頃の夢はプロ野球選手だ。  偶々父親がシウソニックという会社の社長だったから継いだだけ。  創業者で祖父の辰之助が死去、カリスマ性のあった経営者の後を継いだ父邦雄は人が良すぎた。  邦雄のダメダメ経営で、ライバル企業に即座に抜かれ赤字経営となる。  巨大グループだったシウソニックはたちまち分裂。  規模も縮小し子会社・グループ会社はライバル企業に買収あるいは社員の裏切りにより乗っ取られていった。それに耐えかね邦雄は失踪。  蓮也が3代目に就任したのは2年前だ。家電製品の販売もやっているが、今は介護福祉向け福祉用具や介護ロボットや健康機器に力を入れているが上手くいっていない。 「落ち着いて下さい」  一人の女性が入ってくる。その姿を見てルミは蓮也から手を離した。スーツを着たスレンダーで清潔感の漂う女性だった。 「誰だ……」 「はじめまして芥生あざみカミラです。今日からあなたのマネージャーになります」 「マ、マネージャー?」 「よろしくね、ルミ」  彼女は芥生カミラ。日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフ。  数カ月前にシウソニックの秘書として入社。採用理由は『美人だったから』という単純な理由。  蓮也の個人的な感情からの採用となったが、彼女は秘書としてアドバイザーとして優秀だった。  ORGOGLIOオルゴーリョ参入も、彼女からの発案だった。当初この提案からは、社内から大反対の嵐だった。それもそのはずだ、数カ月前に入社したばかり。  秘書であるにも関わらず、会社の経営に口出しをしてきたので快く思わない社員がいるのも普通だ。  そんな批判にさらされた蓮也であったが、その批判中傷もいつの間にか消えていた。  噂によると、彼女が上手く社内で根回し等したとのことであるが詳細は不明。  秘書からルミのマネージャーになったのも、彼女の頼みからなった。今回のデビュー戦までの流れも、彼女が行った藤宮ルミに関する独自調査から出たデータに基づき立てられた作戦である。 「あなたの経歴を少し調べさせて頂きました。年齢は20歳……父は戦国時代から続く藤宮流の宗家、藤宮魁道ふじみやかいどう」  藤宮流は由緒ある古武道の一流派であるが、その存在はあまり知られていない。  魁道も古武道協会に所属することを良しとせず、演武大会等も参加・主催せず細々と伝承していたからだ。 「若干17歳で流儀を正式に継ぐも弟子が続々と離脱」  ルミは父の死により正統を継いだ後、それまでの型稽古重視の稽古法を辞め、防具を使用した乱捕りを開始した。  それに反発されて弟子がどんどん辞めたのだ。 「道場は閉鎖。その後、全国各地の格闘技大会に参加を申し込むも、全て女性を理由に拒否される」  蓮也はそれを聞いて疑問に思った。 「女性というだけで拒否されるワケないだろ。格闘技の大会も女性とか参加しているぞ」 「彼女は男性が参加する大会に申し込みをしたからですよ」  そう彼女は女性であるのに関わらず、男性が参加する大会に申し込んだのだ。  体力的に男性と女性には圧倒的な差がある。ルミのような前例を作ってしまうと、女性が男性の格闘技大会に出場しケガを負うリスクが高くなるのだ。また女性に負けた男性選手の面子というものもある。 「東京へ上京したのは高校を卒業してから暫くしてからですね」 「東京ならチャンスあるかなと、単純に思って来ただけなんだけどね」  蓮也はルミを見て思った。なんというチャレンジ精神の持ち主なのかと。  自身の生まれ持った属性を拒み、あらゆる手段を講じて挑戦する姿を知った。そこには自分にないものを目の前の女性、しかも自分より年下の娘が持っていた。  彼女との出会いは偶然の産物である、がこれは何かの導きだと思った。シウソニックだけでなく、この女性は何か限界を超えようとする力をくれるものであると強く思った。 「君の力が必要なんだ!!」  不思議と彼は土下座の姿勢をとった。  一見すると卑屈と懺悔の現れにあるかのように見える。  しかし、その形は〝最高級〟の誠意と必死さを表すものと解釈出来る。  社員数千人を抱えるシウソニックの社長が、自分よりも10歳以上若い女性に深々と頭を下げていた。 「お、おい……やめろよ」  蓮也の土下座を見てルミは困惑する、そこまでしてこのロボットを使用した格闘技大会に参加して欲しいのかと。これまでORGOGLIOは、金持ちの道楽、お遊びであると彼女は思っていたが、この男の訴えから大会にかける意気込み、本気度を感じ取った。 「シウソニックに君の力を貸して欲しい!」  蓮也の真剣な願いを感じた。 「……わかったよ」  彼女はそう端的に述べた。 「アンタに……いやアンタらにあたしの力を貸してやる。そのために磨いた武術だ」  契約成立である。これにより藤宮ルミは正式にシウソニック専属の機闘士マシンバトラーとなった。その言葉に蓮也は薄っすらと涙を浮かべていた。傍にいたカミラは静かに優しく微笑んでいた。 ・ ・ ・  その後のルミは2回戦の相手、総合空手覇道塾の町原河樹を撃破。続いて3回戦の相手、キックボクシングのミック・ルーファウスを撃破し連勝。  スタイルの古武道や女性であることもあって世間から注目を浴び始めていた。そして、今日は昭和から続く野球場を改修し出来上がったバトルスタジアム【ルーキーコロシアム2】にて4回戦目へと突入する。  次は“福岡の暴れ熊”の異名を持つ、甲斐貢かいみつぐが対戦相手である。巨漢から繰り出されるパワーが持ち味のラフファイターである。レスリング出身なのではあるが、打撃を得意としており空手やボクシング経験者を打撃でKOした実績を持つ。 ○ 最下層リーグ:B級シングルバトルワンマッチ “謎の古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 バランス型BU-ROAD:ノーマルレッド スポンサー企業:シウソニック ≪戦績≫4回戦 3勝0敗 VS “福岡の暴れ熊” 甲斐貢 スタイル:體術たいじゅつ泥舟會でいしゅうかい・福岡支部 バランス型BU-ROAD:ノーマルイエロー スポンサー企業:ハードバンク ≪戦績≫7回戦 4勝2敗 「女がよくもまァ過酷なORGOGLIOに参加する気になったばい」 「女は関係ないだろ」 「BU-ROADバトル……開始ッ!!」  試合が始まってしまった。試合の合図と同時に甲斐貢が乗るノーマルイエローは打撃を繰り出す。重い左のローキックである。そのローキックをルミはカットする。強い衝撃はくるがダメージはない。 「どうじゃ!女には耐えられんパワーだろ」 「女がどうのうるさいね。彼女いないだろ」 「お、おいが気にしていることを……くらえ!」  甲斐は右ストレートを繰り出す。このパンチで数多の打撃系格闘家をKOしてきた自慢のパンチだ。しかし、その自慢のパンチも流され腕の関節を極められる。  藤宮流〝仁王挫き〟腕への関節を極めたまま投げ捨てる技だ。 「藤宮流……〝仁王挫き〟ッ!」  関節を極めたまま背負い投げを繰り出す。ノーマルイエローは地面に叩きつけられ腕はあらぬ方向に曲がっていた。  痛みはあるであろうが、本来この状況から腕の骨折や靭帯の損傷は免れない。BU-ROADに載ることで助かったようなものだ。この安全性もBU-ROADの売りである。  ……とはいえ実際体へのダメージはある、試合による大怪我や死亡事故の事例も報告されている。  安全が売りなのは表面上で、実際は過酷な戦いなのである。 「お前はさっさと彼女作った方がいい」 「勝負ありッ!!」 ○ 最下層リーグ:B級シングルバトルワンマッチ “謎の古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 バランス型BU-ROAD:ノーマルレッド スポンサー企業:シウソニック ≪戦績≫4回戦 4勝0敗 VS “福岡の暴れ熊” 甲斐貢 スタイル:體術泥舟會・福岡支部 バランス型BU-ROAD:ノーマルイエロー スポンサー企業:ハードバンク ≪戦績≫7回戦 4勝3敗 勝者:『藤宮ルミ』

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