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――ギュイイインッ!!  骸童子の両手が回転する。  周囲に漂う塵は、螺旋回転の渦に吸い込まれていった。 『両手がドリルのように回転しております!どうする気だ!!』  ザッと踏み込む骸童子。  諸手突きにてベルウルフの胴体へと打ち込む。  これに対しエルデは咄嗟とっさに両腕でカバーするも、装甲部が螺旋回転の拳により摩耗まもうする。 『こ、これは腕が削り取られているぞ!』  ドリル状に回転するこの機構。  ――その名も螺旋拳デッドスクライド。  骸童子……即ち朧童子のプロトタイプに実装された機能である。  だが、実際の朧童子にこの機能はない。蒼の意見でお蔵入りになった。  武術に必要な手首からの先の変化、操作が出来ないからだ。 「ドリルは男のロマンでしょ?」  毘沙門館側の控室では、山村が嬉しそうにルミに語りかける。  ルミは何とも言えない顔だ。 「いやドリルじゃねーだろ」  さて試合の方であるが、ベルウルフは螺旋拳デッドスクライドの出力に押されていた。  高速回転する拳により、両腕のメッキは剥がされ装甲には亀裂が入る。  その亀裂部からバチバチとショートしていた。  押されっぱなしのベルウルフは上体が仰け反り、下半身がガラ空きとなっている。 「シュッ!!」 「ぬぐッ!」  アルーガの無音の気合と共に、骸童子から強烈なローキックが叩き込まれる。  エルデのモニターには≪左大腿部機体損傷率30%≫と表記された。  一瞬であるが構えが解け、胴体部の正中線が晒される。 「フ……ッ!!」  アルーガから笑みがこぼれた。  そこにあるのは勝利への渇望と確信、一種の狂気。  右手を握拳から貫手へと変える。狙いは肩口の関節部だ。  ザクリと打ち込まれた貫手は螺旋回転しているため、ドリルのように削り込む。 『肩口を打ち込まれた!それはもう拳ではなく凶器だァ!!』 ――バリバリ……  嫌な音と共にベルウルフの左肩口から火花が散り、鉄がすれ焼けるような匂いが立ち込めた。  スタジアム内の観客は、その破壊行動に引き気味である。  間宮蒼ファンクラブ会長、小倉江梨香おぐらえりかは固唾を飲んでいた。 「……」  小倉はアルーガの情報を知った。そう彼は破壊屋こわしやの問題児。  〝ミルコジャガー〟〝デニーオーシャン〟とイレギュラーリーグながら試合では負けなしの存在。  独立のエース的な存在だ。だが、彼は各団体を3ヶ月ほどで解雇されていた。  その理由はやり過ぎるためだ。  どの試合も『徹底的なBU-ROADを破壊』することで勝利をものにしている。  ただでさえBU-ROADは設備・整備費用がかかる。  試合ごとに修理不能まで破壊されてはリーグ運営の存続に関わってしまう。  ただでさえ資金力が乏しいイレギュラーリーグ、彼の存在は運営するオーナーにとっては好ましくない選手だ。  どれだけ注意・警告しても、そのような試合を辞めようとしない狂気性も問題だった。  破壊屋こわしやの彼は、他のイレギュラーリーガー達からも煙たがられるようになっていった。  試合の度に命の危険を感じるような試合を強いられては、たまったものではない。  遂にはリーグから追放され、また新たなリーグを見つけては所属し同じことを繰り返す。  何時しか彼はこう呼ばれるようになった。 「“里都亜尼亜リトアニアの魔拳士”……」  小倉はポツリと述べ、通信携帯機の電源を落とした。  隣りに座るカミラは小倉に語りかける。 「何かわかりましたか?」 「い、いえ……何でもないわ」  小倉は額から軽く汗がにじんでいる。  カミラはそのような様子を見て不思議に思うのであった。  さて試合では、ドリル状の形態となった右貫手がベルウルフの左肩を破壊していた。 『このまま虫歯を削るように肩が破壊されるか!?』  左肩からは火花が飛び散る。エルデは痛みをこらえていた。 『‟蒙古の空手魔術師”!どうする!!どうなる!?』  遠藤の煽りに応えたのか、空手魔術師は遂に動く。  次なる引き出しは何を出すのか。 ――ガギャ…… (腕を……?)  ベルウルフは骸童子の右腕をしっかりと掴んだ。 (抜き取るつもりか……)  ドリル状に回転する右貫手は、バリバリとベルウルフの左関節部を削り取っている。  かなり食い込んでいた。抜き取れるほどのやわなものではない。  毘沙門館側の控室では山村が冷たい表情で述べる。 「螺旋拳デッドスクライドの威力は伊達じゃありません。今更抜こうとしたところで……」 「いやマズい」  ルミはそう言った。掴む両腕は抵抗で外そうというものではない。  むしろ左関節部に押し込め食い込ませているように見える。  そう、このエルデという男は次に出す技は……。 『こ、これは!自らの肩に突き入れている!!』  スタジアム内がどよめく。  正気の沙汰ではない。より左肩が抉られ破壊される。  バチバチと火花が飛び散り、一層スタジアムに鉄の匂いと黒煙が立ち込めている。  エルデは額から脂汗ふきでて、着ている紺色の道着が少し湿るのを感じた。  痛みという生理現象は正直なものだ。嫌な汗を流しながら述べた。 「沖縄空手には、と呼ばれる独特の稽古法がある」  突然の蘊蓄うんちくにアルーガ少し戸惑う。 「何だそれは?」 「推手のように手を触れあった状態から、押し引きして牽制をしあいながら技を掛け合うものだ」 「それがどうした!」  アルーガが更に右貫手を突き入れ、残った左手の螺旋拳を顔面に打ち入れようとした時だ。 ――フッ!  ベルウルフは体捌きで横に動く、右貫手は喰い込んでいるため肘が伸びきり一本の棒状に固められる。  極めた骸童子の右腕を抱えていたのだ。相撲でいう小手投げの体勢である。 「押し合い引き合いの攻防なら……私の方に分がある!!」 ――ベギャッ!  そのまま小手投げの形で骸童子の右腕を破壊。  ≪右腕機体損傷率100%≫モニター画面にはそう表記された。 『お返しと言わんばかりに右腕を破壊ッ!!』  遠藤の絶叫解説と同じくして、アルーガは全身から脂汗が流れる。  実際に折られてはいないが、肘を破壊されるリアルな痛みが伝わっていたのだ。  何とか冷静さを取り戻し、即座に反撃のミドルキックを放つも狼のような俊敏性で躱された。 「それは相撲の技だろうが」 「相撲道も空手道も同じ道。同じ道の技を区別して使う必要はなかろう」 「……屁理屈を!」  骸童子は折れた右手をダラリと下げたまま左半身の体勢だ。  残った左腕で闘うしかない。  一方のベルウルフは大きく両足を広げ腰を落とす。  四股立ちと呼ばれる姿勢である。両手は地面に触れている。  相撲の立会いの形だ。その姿は獲物を狙う狼のようであった。 『こ、これはブチかましの合図か?!』 ――ドン!  その解説共にベルウルフは突っ込む。元大相撲力士の本格的なブチかましだ。  アルーガは待ってましたと言わんばかりの顔になった。 (突っ込んだところをこの左拳で……)  左螺旋回転の拳で狙うは顔面だ。  いくらブチかましの衝撃が強かろうと、この螺旋拳デッドスクライドを顔面に受けてはひとたまりもない。  そう思った時、モニターにセコンドの夏樹が映る。 「彼が空手家ということを忘れるな!」 ……警告のアドバイスだった。 ――グルッ!  ベルウルフは前方向に体を捩じり回転する。  アルーガは、咄嗟に左手で顔面をカバーしようとするも遅かった。  その大技は幾度となく空手の試合映像、稽古や大会で体験したものであった。 「これは……!!」  〝胴回し回転蹴り?!〟   前回りの要領で、縦回転または横回転して踵を相手の顔面に打つ蹴り技だ。  相手の格闘技経歴に相撲があったので、てっきりブチかましをするのかと思い込んでいた。  しかし、繰り出す技は違った。まさかここで空手の技に切り変えるとは。  自分の経歴までもフェイントに使う、その巧みな戦術は空手魔術師の仇名に相応しい。 「ぐっ?!」  そのまま顔面を蹴られる骸童子。  アルーガのモニターには≪頭部機体損傷率69%≫と表示され衝撃が加わる。  頭部を打ち込まれ地面に倒れた。意識が遮断されたのだ。 『ダ、ダウン!!』  倒れ込む骸童子。  『名は体を表す』と古人は言った。  骸童子……その亡骸のような機体が倒れ込む姿は死骸のようであった。 「押忍」  左拳を腰に付け、右手を突き出しながらエルデは残心をとるのであった。  ――決着か、夜風が吹き静かな間が流れていた。

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