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 〝有段クラス・無差別級 準々決勝2回戦〟  ドルフ・ウエムラ(勇真会館)VS 秋山亮(玄鵬大学空手道部)  いよいよ準々決勝2回戦が始まろうとしている。  試合壇上には、ウエムラと秋山が相対していた。 「柚木さんの彼氏って?」 「あの人よ」  柚木の視線は秋山に向いていた。  爽やかなスポーツマン風の男性だ。  端正な顔立ちで、柚木の彼氏として釣り合いが取れている。 「キャプテン頑張って下さい!」 「秋山先輩ファイト!」  玄鵬大学空手道部の部員達が応援している。  大学の空手道部であるが、毘沙門館の大学支部で秋山は主将を務めている。  10歳の時に、今大会の主催者である葛城信玄の元に入門。  数々の大会で優勝してきた実力者である。  現在4回生の22歳。卒業後は、ブジテレビのアナウンス部に入社が決まっており将来有望だ。 「けっ……スポーツマンが」  対するは勇真会館のドルフ・ウエムラ。  こちらも22歳の若き格闘家である。  父は日本人、母はスウェーデン人のハーフ。  顔面ありの防具空手やグローブ空手の試合にも出場、好成績を上げている。  某企業が実施した機闘士マシンバトラーのセレクションにも合格しており、来年のプロデビューが決まっている。 『前評判では、来年のプロデビューが決まっているウエムラ選手の優位が予想されております。タニヤマさんはどう思われますか?』 『大学空手道部ではありますが、秋山君の実力も侮れませんよ。彼はなんせ葛城信玄の愛弟子の一人ですからね』 『……と言いますのは?』 『秋山君は〝勝つ空手〟というものを、師匠の葛城信玄に叩き込まれています』 『勝つ空手……ですか』 『見ていればわかりますよ』  両雄お互いに組手の構えを行う。  ウエムラは、腕の拳は肩の高さまで構えている。典型的なフルコンの構えだ。  一方の秋山はやや半身に構え、どちらも開手で構えている。  順手は目の高さに、逆手は鳩尾に手を置く。円心の構えと呼ばれるものだ。 「はじめッ!」  審判のかけ声が響いた。試合開始の合図だ。  先に仕掛けたのは秋山だ。鞭ような速さでローキックを放つ。 (何だこの程度か)  ウエムラはニヤリと笑う。  ダメージがそれほどないのだ。ハッキリ言って全然痛くない。  反撃と言わんばかりに猛攻をかける。  左中段の順突き、右ローキックのキックボクシング風味の対角線からの攻撃だ。 「シッ……シィッ!!」  だが彼のジャブは躱され、ローキックはカットされる。  ディフェンス後、秋山はカウンターとして連打の突きをボディに叩き込んだ。  これも速いパンチのコンビネーションだ。 「このッ!!」  ウエムラはそのお返しだと言わんばかりに、右のボディへ重いフックを放つもバックステップで躱された。  そして、逆に秋山はそのカウンターとして左のハイキックを放つ。  そのハイキックをウエムラはしっかりガードする。 『攻撃が……ウエムラ選手の攻撃が当たりません!』  実況の遠藤が叫ぶ。  その声に合わせて、秋山を応援する部員達が声を出す。 「秋山先輩ナイス!」 「かっこいいです~!!」  ウエムラの猛攻は続くも、その攻撃を躱されあるいは受けられた。  そして、その猛攻後には必ず左右に回り込みながら反撃されたのだ。  そのような状況が暫く続く。 (バカな……おかしいぞ)  ウエムラは焦っていた。  対戦相手の攻撃は効かない。全然痛くないのだ。  だがどうだ……。  攻撃するものの悉くディフェンスされ、手数のコンビネーションで反撃される。  次第に自分のスタミナも消耗し始めている。  それに試合時間も……。 ――チーン 「なっ……?!」  ベルの音が鳴った。残り試合時間30秒の合図だ。  試合規定では、1試合3分延長は1分である。  もし、このままの印象で試合が終了すると……。 「そろそろ行かせてもらうか」  秋山が何か言った。  だが、ウエムラは聞き取れなかった。 「ハァッ!!」  そのかけ声と共に仕掛けたのは秋山だ。  構えをやや屈め、アップライト気味に手の位置を置く。  ウエムラの懐に飛び込んだのだ。  突きのラッシュを繰り出してきた。 (こ、こいつ?!)  突きと言っても、鋭く速い突きではない。  その突きは押し込むような重い突きだ。  効かせるというよりも、相手の態勢を崩すような突きである。  ウエムラは、その突きで場外へと押し出された。 「場外……戻って!」  試合中央上に戻される二人。 「では構えて……続行ッ!!」  その審判の声と同時だった。  ドンという太鼓の音がなったのだ。試合終了の合図である。 『どうやら判定に入りそうですね。印象としてはどうですか?』 『んあ~遠藤さん愚問ですね。これまでの試合の流れからわかるでしょう』  遠藤とタニヤマのやり取りから、試合結果はもう予測がついただろう。  手数によるコンビネーション、最後の場外へと押しやる攻防と印象が良かったのはどちらか…  審判が判定を下す。 「判定!赤1……白1,2,3……」  試合場の端にいる審判が、紅白の旗を掲げ判定を下していた。  赤がドルフ・ウエムラ、白が秋山亮である。 「白4……勝者〝白〟!」  主審が白の判定を下し、圧倒的大差で秋山の判定勝ちとなった。  試合終了後、お互いに握手をする。 「ウエムラ君、いい試合だったね。ORGOGLIOでも頑張ってね」 「あ、ああ……」  ウエムラの健闘を爽やかな笑顔で称える秋山。  その後、そのまま試合壇上から降りていく二人。  ウエムラは少し不満顔だ。 (負けたけど、負けた気がしねェ……) 『互いに健闘を称える両者。若き格闘家の今後が楽しみですね』 『そうですね。ですが秋山君は、この大会後に暫く空手をやめ仕事に専念するそうですよ』 『そうでした。彼はブジテレビへの就職が決まっていましたね。今度はお茶の間で彼の姿を見ることになるでしょう』  テレビ中継の画面は、秋山と玄鵬大学の空手部員の談話する映像が流れる。  その映像の中、遠藤はタニヤマに尋ねた。  『タニヤマさん、〝勝つ空手〟というのは〝試合に勝つ〟という意味だったんですね』 『そうです。秋山君は空手をスポーツとして見ています。〝ルールを熟知し、如何に戦術を組み立て効率的に勝つ〟か…葛城信玄の教えとそれを実行できる彼の器用さの証明とも言えるでしょう」 『なるほど。準々決勝の2回戦も終了となりました。次の3回戦はCMの後です』 ・ ・ ・ 「相手は来年プロデビューする人でしょ?プロに勝ったようなものですね」 「かっこいいです先輩!」 「それほど苦労せずに準決勝に進めてよかったよ」  試合場で談笑する秋山と部員達。  そんな彼らの前に柚木とルミが近づいてきた。 「亮くんお疲れ様」 「綾那じゃないか、来てくれたんだ」 「誰っスか?この可愛い子は」 「俺の彼女だよ」  そう言うと秋山は柚木の肩を抱き寄せる。  柚木は少し照れている様子だ。 「先輩羨ましいです!」 「うわァ……ショック」 「そう言うなよ。ところで綾那、あの子は?」  秋山の視線の方向には、ルミが腕を組んで立っていた。 「彼女は藤宮ルミさん。私の高校の後輩なの」 「へェ……ルミちゃんって言うんだ」  秋山はルミの傍まで近寄ってきた。 「気安く呼ぶな。お前の空手つまんねーんだよ」  初対面の秋山にルミが放った第一声だ。 「ふ、藤宮さん!」 「なんだキミは初対面の相手に失礼だろ!!」 「まあまあ……」  秋山は殺気立つ周りをなだめた。  彼はルミに質問した。 「僕も初対面の相手に馴れ馴れしかったね。えーっと……藤宮さんだっけか。僕の空手のどこがつまらないんだい?」 「手数が多いだけの点数稼ぎだ。ルール上、相手がアンタの顔面を殴らなかっただけだ。格闘的な強さなら相手の方が上だったよ」  ルミの言い分としては、最後の30秒間での押し突きでのラッシュ。  もし顔面ありのルールであるならば、KOされる隙やタイミングが幾度となくあったと言いたいようであった。  だが、この言い分に対し秋山は軽く笑いながら答えた。 「この大会はフルコンタクト空手の試合なんだ。キックボクシングじゃないんだよ?」  秋山はルミに、この大会はあくまでも空手の大会であることを伝える。  そして、彼は雄弁に自身のやり方を教えた。 「〝ルールを熟知〟し〝効率的に〟そして〝効果的にポイントを入れて勝つ〟……それの何がダメなんだい?」  秋山の言い分も最もだ。  格闘技と云えでも、所詮はこれは競技空手の大会なのだ。  壊し合いでも、殺し合いでもない。  ルールというものが存在し、彼はそれに沿った勝ち方をしただけだ。  実に合理的な試合巧者だ。 「その勝ち方がいつまで通用するか見ものだね」  そう述べるとルミは、踵を返してその場から去っていった。 「なんて失礼な子なの!」 「主将、このままバカにされたままでいいんですか?」 「落ち着け、相手はまだ高校生だぞ」  いきり立つ周囲を彼は冷静になだめる。  柚木は一連のやり取りを見て、後輩の無礼を詫びた。 「亮くんゴメンね。あの子ちょっと変わってるの」 「ハハハ。綾那が気にすることじゃないよ」  秋山は柚木をフォローしながらも、その視線の先はルミを見ていた。 (藤宮ルミちゃんか……ああいう強気な子もいいな。僕のモノにしたくなるよ)  彼は再び柚木の方を見て邪な思いが沸き上がる。 (この女にも、そろそろ飽きて来たな……) ・ ・ ・  試合場控室では、正座をして黙す男がいた。  純白の空手着を着ており、膨れ上がった拳ダコから修練と情熱を感じさせる。  準々決勝第3回戦を待つ〝角中翼かくなかつばさ〟……齢27歳。段位は4段である。  長髪を後ろで結び束ねている美形の空手家だ。 「師範!こんなところにいたんですか。もうすぐ試合ですよ!」  〝少年〟らしき門下生がそう告げた。 「すばるさん……もう試合ですか」  角中は静かに立ち上がった。

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