――親父、ゲームオーバーだぜ。 (またこの声だ!) ――もう50過ぎの年寄りだ。無理するな。 (俺がガキに負けるわけがねェ!) ――あんたは欲深過ぎた。 (星王の輝きは消させねェ!!) ――つーかさ……俺の話を聞いてる? (まただ!!) ――死んだ倅の話を無視するほど耄碌はしてねェはずだぞ。 (また、この幻聴だ!!) ――これは幻聴じゃない。俺の声が聞こえるってことはつまり……。 (俺は認めん!星王を……空手を生産的なものに!!) ――夜は明け……あんたは目を醒ますだろう。 (黙れ!!) ――そこには朝はなく暁が見える。そして、暁が沈んだ時はまた夜が来る。 (言ってる意味が分からねェぞ暁!!) ――やっと俺の名前を呼んでくれたかい。 (死んだ人間が話しかけてくるんじゃねぇ!!) ――ハハ……親父よォ。死んだ人間の声がする時、何を意味するか知ってるかい? (……ッ?!) ――それはつまりだな……。 ・ ・ ・ ――もうすぐ永遠の夜が来るんだよ。 それは幻聴か、それとも本当に死者の声なのか。 耳に聞こえて来るのは確かに息子、葛城暁のものであった。 全ては一瞬のことであったが、リアルな体験だった。 ふと気付くと、信玄は自分の体勢が崩れていることに気付く。 「ウオオオッ?!」 バランスを取りなおそうと手足をバタバタする。 その動きはまるで陸上された魚のようであった。 『崩れます!乱れます!!アストロ風林火山!!』 実況の遠藤の言葉がスタジアムに木霊した。 ――ガギャッ!! 大きな金属音がスタジアムに鳴り響いた。 美しいまでに基本的な正拳突きが胸に直撃していた。 「グホ……ッ?!」 ――ワアアアアアッ!! 続いては観客達の歓声が聞こえて来た。 スタジアム内の者達全ての声が響いている。 まるで一流打者がホームランを打った時のような歓声であった。 『教科書通りの正拳突きで飛ばされたぞ――ッ!!』 突きで吹き飛ばされるアストロ風林火山。 だが、まだKOまでのダメージには至っていない。 「俺が……この俺がッ!!」 信玄は歯を噛みしめながら思う。 ――俺が謙信のようなボンクラに負けるはずがないと。 星王会館が負けるわけにはいかないと。 「星王の巨星が崩れるわけにはいかん!!」 ドンと足を踏みしめ体勢を整えた。 空手は立ち技の格闘技だ。 寝てしまえば持ち味が発揮できない。 『ど、土俵際で!首の皮一枚で踏み留まった!!』 信玄は遠藤の声を耳にしながら思った。 そうだ、星王会館の巨星がここで打ち砕かれてはならぬものか。 次に来る技は何だ。 正拳突きか? それとも上段蹴りか? もしくは前蹴りか? いや……裏をかいて寝技に持ち込もうとするかもしれない。 これまでの格闘経験と研究の成果を総決算する。 次に謙信操る毘沙門ウォリアーがする技は……。 ――ダッ! 機械音がする。 入場時と一緒だ毘沙門ウォリアーが駆けて来た。 それは駿馬のように、流星のように、閃光のようにだ。 「このオンボロ空手屋が!時代遅れのニセ総裁が調子に乗るンじゃねェ!!」 アストロ風林火山は構えた。 それはこれまでのような、達磨の如き丸い構えではない。 順手は下段、引手は顎を守る構え。 「――『運慶の構え』か」 信玄の構えを見て述べるとは黒澤である。 あの姿勢は仁王禅時代に覚えた構え。 躱してよし、受けてよし、捌いてよし。 攻防一体の仁王禅流であるが、この型は『主守従攻』の反撃重視の姿勢。 (来いやアアアアア!!) 早く次の攻撃を繰り出せ、と言わんばかりに信玄は待ち構えている。 「最初に覚えた型は身に染みついているものだな」 黒澤はそれを見て、鼻で笑うように述べた。 ここへ来て信玄が選んだ構えは、己が踏み台とした流儀のものであった。 そう……信玄が最初に覚えた武道、格闘技の技を自然に出していたのだ。 (突き蹴り……それとも体当たりか、投げか、関節か!!) モニター画面に映る毘沙門ウォリアーの姿がだんだんと大きくなる。 (全て対応可能!!) 自信満々の信玄。 謙信のひよっこ空手、付け焼き刃のグランドテクニック。 自分ならば全て対応することは可能だ。 先程は少し調子が悪かっただけ。今の俺なら大丈夫だ。 ――そういう驕りがアンタの弱点だ。 「なッ?!」 暁の声がまた聞こえて来た。 今度は大きくハッキリと聞こえた。 「暁ゥウウウッ?!」 一瞬……。 一瞬だが脳裏に暁の顔が浮かんだ。 悪魔のような笑みだった。 〝竜骨突!!〟 謙信はそう叫び飛び込んだ! 勇気ある跳躍だ。 その跳躍は前へ……前へと!! ――ガゴォン!! 先程の正拳突きよりも大きな金属音が鳴り響いた。 まるで雷鳴の如き一撃であった。 謙信が繰り出した技は……。 『ず、頭突きだアアアアアッ!!』 そう頭突き。 錘頭竜の如き、強烈な頭突きだ。 地味な技。 泥臭い技。 決してカッコよくはない。 ――それでよいのじゃ。 不思議と毘沙門の声が謙信の耳元に聞こえた。 (じ、爺ちゃん?!) 打撃系らしい突きや蹴りではない。 空手らしい空手ではない……? 否、断じて否!! ――空手とは五体これ凶器とする。 また謙信の耳元に偉大な祖父の声が聞こえた。 ――よくぞ選んだ、よくぞ繰り出した。 「お、俺……」 ――よくぞ謙信空手を生み出した! 「勝ったのか?!」 ――見事なり謙信! 「WINNER!岡本謙信!!」 ――毘沙門館は爆発、爆発じゃあアアアアア!! 謙信はモニター画面を見て気付いた。 アストロ風林火山が大の字に倒れていたのだ。 全体重が乗った頭突きが炸裂したのだ。 アストロ風林火山の顔面は陥没している。 ――ヘッド機体損傷率100%のKO勝利であった。 「押オオオォォォッ忍スススㇲㇲㇲッ!!」 南天の夜空に向けて十字を切る謙信。 毘沙門のニセモノがホンモノになった瞬間だ。 巨星を打ち砕き、新星は輝きを放っていたのだ。 信玄が欲していた星の輝きは毘沙門館へと移る。 そう――これにて星毘戦争は終結したのである。 ○ BB級団体戦:毘沙門館VS星王会館・大将戦 “星王の巨星” 葛城信玄 スタイル:星王会館空手 バランス型BU-ROAD(スピード寄り):ノーマルレッド・アストロ風林火山 スポンサー企業:ハンエー VS “毘沙門館の若き総裁” 岡本謙信 スタイル:毘沙門館空手 バランス型BU-ROAD(パワー寄り):ノーマルブラック・毘沙門ウォリアー スポンサー企業:ASUMA 勝者:『岡本謙信』
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