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「視殺戦!視殺戦が始まったぞーっ!!」  睨み合いを続ける砕波とカナリアンヘッド。  審判機は二機の間に割って入る。審判は勿論この人、Mr.バオ。 「審判を務めるMr.バオだ。これより毘沙門館VS星王会館の先鋒戦を開始する」  頭を付け合せる両者。一歩も引かない。  Mr.バオは少し呆れた口調で注意する。 「いい加減にせんと、両者失格負けにするぞ」  両機は沈黙のまま、一旦間合いを離れ構えを取る。  砕波はセンターラインを守る高橋空手の基本構え。  カナリアンヘッドはやや半身、開手で顎の高さまで上げている。 「BU-ROADファイト……開始はじめッ!!」 ――ゴォーン!!  戦いの銅鑼は打ち鳴らされた。先鋒戦の開始である。  伊藤は静かに構える。その姿は刀を構える侍のようであった。 (オルモ一族か……)  オルモ一族。南米では有名な格闘一家だ。  毘沙門の古参高弟・磯村清一が、カーリオ・ダ・オルモに空手指導を始めたことを起源とする。  技を身に付けたカーリオは空手だけに飽き足らず、柔術等の技術を採用し『オルモ空手』とも呼ばれる独自の体系を築き上げた。  しかし、カーリオ自身はそのように呼ばれることを嫌っている。  あくまでも毘沙門空手の一つであると主張だ。  云わば、高橋空手のような毘沙門館の個性の一つであると言える。  一族の人間は空手、柔術、総合格闘技の各種大会で優勝多数。  中でもカーリオの息子であるデクソンは伝説的な存在。  創生期ORGOGLIOのチャンピオンである。 「タカハシカラテ……前時代的な格闘技だな」  ファイアンは前後左右のステップを踏みながら挑発する。  まるでサンバのリズムのような軽快なスタイルである。  伊藤も挑発には挑発で返す。 「それひょっとして空手なの?」 「……ッ!?」 「俺はてっきりサンバかと思ったぜ」 ――プチ……  ファイアンの中で何かがキレた。 『静対動!毘沙館対星王会館!高橋空手対オルモ空手!まるで水と油だ!!』  そう紹介する遠藤。  二人は対照的であるが荒っぽさは似ている。 「いくぜおっさん!!」  その一声と共に飛び出したのはファイアンだ。  ガッチマンヘッドはパワー型であるが、カナリアンヘッドはスピード型。  素早い動きで懐に飛び込み、突きの2連打、ミドル、ローと2連打を叩き込む。 「ぬぅ!!」 「年寄りにこの速さはキツイだろ!」 「嘗めんなクソガキ!」  砕波はカナリアンヘッドの内膝に足刀を叩き込む。  体勢を崩されるファイアン。  その隙を逃さず、伊藤は差し手でスルリと腕を極める。  もう一つの手はカナリアンヘッドの頭部をしっかりと持った。  〝かんぬき〟と呼ばれる極め技の体制へ入った。 「ギッ?!」  カナリアンヘッドは極められて動けないでいた。  まるで鳥黐とりもちで捕らえられたような状態になっていたのだ。 「そらよ!」 ――ガキ!≪ヘッド機体損傷率30%≫  固められた姿勢で顔面に膝蹴りが打ち込まれる。 「せいッ!!」 ――ブン!≪ボディ機体損傷率35%≫  そして、流れるように足をかけられ巻き込み投げで地面へ叩きつけられた。  スタジアム内の観客達は余りにも華麗な動きで、自然と歓声と拍手が巻き起こっていた。 『実に美しい流れるような動きだ!これぞ武芸!デイス・イズ・タカハシカラテだ!!』  実況の遠藤は興奮した様子だ。  その声はスタジアム内に響き、更に観客達を盛り上げる。  観客席にいる妻の礼華は、前列に座る若者の頭を軽くパンパンと叩きながら応援していた。 「いいよ二郎!この試合に勝てば特別ボーナスだ!家のローンはまだまだ残ってんだからね!!」 「た、助けて……」  叩かれる若者は半泣きになりながら試合を見守っていた。  一方、セコンド席では中台が溜息を出す。 「何だよあいつ……」  隣にいる角中は微笑む。 「流石は伊藤さんですね」 「感心してる場合じゃないですよ!」  中台は倒れるカナリアンヘッドを指差しながら言った。 「何が“南米の喧嘩十段”だよ!!」 「フム……」  角中はメガネのクイッと上げる。 「伊藤さんがを入れてしまったようですね」  スタジアムではカナリアンヘッドが立ち上がった。  砕波の方を振り向く。両手をダラリと下げた姿勢だ。  片や砕波はセンターラインを守る半身構えを崩さない。 「へへっ……やるな」  カナリアンヘッドは軽くジャンプする。 「おっさん、認めるよアンタは強い」  そう述べると前後に軽くステップワークをする。  伊藤はジリジリと間合いを詰めて言った。 「今頃気付いたか小僧」 「ああ気付いたぜ。タカハシカラテは強い」 ――ブン!!  カナリアンヘッドは無雑作に飛び蹴りを放つ。  砕波は蹴りを左順手で軽くいなすも……。 「だが――」 ――ガチ!!  左手がカナリアンヘッドの両脚に挟まれる。  その形は『飛び付き腕挫十字固め』の体勢だった。 「なッ……?!」 「オルモカラテはもっと強く――」  飛び付いた体勢で関節が極められ、伊藤の左腕に痛みが伝わる。  飛び蹴りはフェイントだったのだ。 「残酷だッ!!」  〝ブースター発動ッ!!〟 ――バギッ!!≪左腕機体損傷率100%≫  当然ながら、ガッチマンヘッドの兄弟機であるカナリアンヘッドもブースター機能が内蔵されている。  そのままジェット噴射の勢いで、砕波の左腕はもぎ取られた。 「ぐわあああッ!!」  伊藤の左腕には激痛が伝わる。  カナリアンヘッドは左腕を投げ捨て、そのまま空中を浮いて蹴り技の姿勢に移る。  〝南天金糸雀脚カナリアンクルス!!〟  どこかで見た蹴り技の姿勢だ。 (おい……アレって……)  伊藤の脳裏に過去の記憶が蘇る。  毘沙門館オープントーナメント全関西空手道選手権大会。  同門で親友だった角中との遺恨試合を思い出した。  結果的には敗北。で負けたのだ。 (ブラジリアンキック!) ――ドギャッ!!≪頭部機体損傷率53%≫  反射的に残った右手でガードするも、振り抜かれた一撃は相当なダメージが伝わる。  またパワー型の砕波と言えども空中での飛び乗った一撃は重く、体勢が大きく崩れた。 「ヒョウウウッ!!」 ――バカッ!!≪腹部機体損傷率50%≫  そのまま体勢を崩れたところに、回転裏拳脾臓打ちが叩き込まれる。 「ぐう……!!」  急所への鈍痛が伝わり、伊藤は前のめりにうずくまる。  ファイアンは不思議と笑みがこぼれた。勝利を確信した顔だった。   「オラッ!!」  ファイアンは飛び膝蹴りを顔面に叩き込んだ。  ≪頭部機体損傷率67%≫  伊藤の画面モニターにはそう表記される。  仰向けに倒れた砕波は、左肩口と頭部は放電の光が放たれていた。  左肩口は機械のコードや破損した部品が見え、頭部は軽く変形している。  スタジアムには嫌な機械臭が立ち込めている。 「高橋先生……」  セコンド席にいる小夜子は夏樹の顔を見る。 「……」  夏樹は黙って弟子の姿を見ていた。 「パパ……負けちゃったの?」  観客席にいる娘の麗奈は倒れる砕波を見ながら呟いた。  目は少し潤んでいる。そんな娘の姿を見る礼華は無言だ。  静寂に包まれるスタジアム。  ファイアンは審判のMr.バオの回線に繋げる。 「審判さんよ試合は終わりだ。俺の完全勝利だ」 「……」  Mr.バオは無表情のままである。  仰向けに倒れた砕波をずっと見ていた。 「おい聞いてンのか!?」  ファイアンがそう言った時だ。 「根性見せな二郎ッ!!」  一際大きな声がスタジアムに響いた。 「な、何だ?」  ファイアンが声の方を見ると日本人の女性が叫んでいた。 「てめえ、それでも元祖喧嘩十段!高橋夏樹先生の弟子かーッ!!」  伊藤の関係者であろうか。その日本人女性は涙を流しながら叫んでいた。 「毘沙門館がバカにされたまま!負けたままでいいのか!?」  声の主は礼華だ。それは魂の叫びだった。  伊藤達は星王会館の勢力もあり、住んでいた大阪から追い出されるような形で東京へ来た。  その時の無念さ屈辱感は相当なものだ。何としても信玄達に一泡吹かせたい。  そういった想いで、この対抗戦に出場したのだ。 「試合続行!!」 「ハァ……!?」  試合続行――確かにそう聞こえた。 ――ドカッ!! 「うぎゃ?!」  衝撃が体に伝わる。誰かに体当たりされたらしい。  カナリアンヘッドはそのまま地面に倒れ込んだ。  そうすると観客達の歓声が聞こえてきた。  どういうことかとファイアンは不思議に思う。  伊藤を滅多打ちにして倒したはずだ。 「愛してるぜ礼華……お陰で目が醒めたぜ」 「バ、バカな……」  カナリアンヘッドが立ち上がると、そこには倒したはずの砕波が立っていた。

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