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 暗い。  仄暗い。  試合場の照明は僅かにつけられただけだ。  そこには、既に2機のBU-ROADが相対している。  ゲオルグ操るバーバリレオン……。  そして、対するは2代目アカツキ操る東雲である。 「これから試合を開始はじめる」  安物のスピーカーから声が聞こえた。  声の主はドットイート、オーナーのスナック。  オーナー自らが試合の立会人を務めるようである。 ――スッ……  その声に合わせ両機は構える。  両者は無言、冷たく鋭い空気感が流れるまま試合が始まる。 ・ ・ ・ ○ ドットイート:非公式試合 “現役BBB級トリプルバトルファイター” 怪物モンスター(ゲオルグ・オットー) スタイル:トータルファイト ジャンク型BU-ROAD:バーバリレオン スポンサー企業:ノンクレジット VS “暁を継ぐ者” アカツキ スタイル:フリーファイト 改造型BU-ROAD:東雲 スポンサー企業:ドットイート 「思いっきりり合うといい。審判はいない――」  スナックは両機語りかける。  そう、この特別な試合に心配はいない。 ――何故なら。 「どちらかが死んでも事故で片付けてあげるからね」  冗談とも本気ともつかない言葉だ。  いや――言葉の殆どが真実を述べているのだろう。  その証拠に客がいない深夜帯を選んで試合が行われているのだ。 「では……開始ファイトッ!!」 ――カァーン!!  錆び付いたゴングが鳴った。いよいよ試合が始まったのだ。  試合早々にゲオルグが操るバーバリレオンが攻める。  左ジャブ、右ローのオーソドックスな攻めだ。基本的な攻撃だ。  2代目アカツキはジャブを避け、ローをカットした。 ――シュッ!  カウンターだ。  東雲はローをカットするのと同時に、ナイフの如き足刀を叩き込む。 ――ガチッ!  金属音が鳴り響いた。  腹部にまともに受けた、ゲオルグの画面には≪腹部機体損傷率10%≫の表示がされる。 (軽い)  攻撃は軽い。衝撃はあるが腹部への痛みは少ないのだ。  『肉を切らせて骨を切る』それがゲオルグ流の闘い方。  そのまま蹴り足を掴み、一本背負いの要領で投げ込む。 「コオオオォォォッ!!」  独特の息吹が発せられる。  これぞ不動流『一本鮫魚こうぎょ』。  百舌鳥小僧シュライクキッド時代の島原を一発で仕留めた投げ技である。  東雲はその投げ技に成すがままにされ、硬い地面へと叩きつけられる。  スッ。  ゲオルグは残心を取った。勝負あったか?  否、断じて否!! 「上手い受け身だ。流石は名ジョバー」  東雲はゆっくりと立ち上がった。  受け身の専門であるジョバー、2代目アカツキ。  これしきの攻撃などモノともしていないようだ。 「攻撃しないのか?」  ゲオルグは構えのまま挑発する。  それに応じたのか、はたまた挑発に乗ったのか。 ――ヌゥ……  東雲は左右に体を振りながら幻惑して向かって来た。  さながらそれは振り子運動のような不思議な動きだ。 「破ッ!」  ゲオルグは向かい討つため掌底を繰り出すが……。 ――フッ……!  その鉄砲は空を切る。  その隙を見逃すはずがなく連撃が叩き込まれる。  腹部への膝蹴り、後頭部への肘打ち、前後左右あるいは背部へ華麗なる技が次々と叩き込まれる。  だが―――。 「滅ッ!!」  気合一閃、ゲオルグの後ろ回し蹴りが炸裂。  回転力がついた蹴りは東雲の腹部に叩きまれ、後方のケージへと吹き飛ばされる。  ガシャリと機体と金網の音が鳴り響くとゲオルグは駆けた。  乗機であるバーバリレオンの名に恥じぬ猛獣の突撃、肩部から東雲を容赦なく叩きつける。  両機は金網を突き破り観客席まで飛んだ。 「やり過ぎだぜ」  スナックは呆れながら言った。  想像してみて欲しい、もしここに観客がいようものなら大惨事が起きている。  それはゲオルグも先刻承知、観客がいないからこそ出来る行為がある。  猛獣の突撃後、バーバリレオンは東雲に馬乗りになった。  格闘技界で言う所のマウントポジションである。  この体制になればエスケープ――つまり逃げるのは難しい。 ――パリポリ…… 「終わりだね。呆気ないもんだ」  試合を呑気に見守るスナックの声だ。  片手には、リングチーズの袋が握られている。 ――パリポリ…… 「所詮は女か」  女――スナックは確かにそう言った。  2代目アカツキは女だと言うのだ。 「攻撃しないのかい?」  東雲から声がした。女の声だ。  一方ゲオルグ操るバーバリレオンは、鉄拳を振り上げたまま止めている。 「どうしたの止まっちゃったよ」 「ぬっ……」  ゲオルグのモニター画面に女性が映り込んだ。  操縦用のプロテクターをつけているが、確かにそこに映っている。 (亜紅莉!)  亜紅莉が映っていたのだ。  髪は黒くボブカット、少し顔は異国人風ではあるが間違いなく彼女がいたのだ。 「違う!!」  ゲオルグはそう叫んで拳を振り下ろすが僅かな隙が出てしまったため、マウントポジションから易々と逃げ出されてしまった。  逃げられる拍子に拳だけが振り下ろされる、破れかぶれで繰り出した技は威力はなく、ただ床を打ち付けるだけであった。 「闘技場に戻りましょう。ここは狭すぎるわ」  亜紅莉によく似た2代目アカツキは言った。 「くっ……」  ゲオルグは珍しく精神的に動揺していた。  そのまま構えもなく、促されるまま試合場に戻ろうとするが――。 ――ガコッ!  東雲から後ろ飛び回し蹴りが炸裂。  バーバリレオンの顔面に強烈な衝撃が入った。  不意打ちの一撃、それは容赦のない無慈悲な一撃であった。 「これは死闘……。サトルはあんたが来ることを待っていた」  2代目アカツキは暁、即ち葛城暁の名前を口にした。  ゲオルグは顔面に一撃を受け、後方へと下がるも何とか踏みとどまる。  戦闘はまだ続いているのだ、バーバリレオンはゲオルグの動きに合わせ構えを取った。  その姿勢は両手を門のように上げ頭部を守る体構え。  即ち――不動流『朱雀門の構え』である。 「それ見たことがある!お兄ちゃんのやってた構えだ」  モニター画面越しに、2代目アカツキは笑いながら言った。  それを聞いたゲオルグは歯噛みし叫んだ。その言葉に感情を爆発させたのだ。 「違う!亜紅莉は兄のことをそうは呼ばない!」  怒気がこもっていた。  この女は亜紅莉に似ているが違う。 「お前はルベラだ!」  2代目アカツキの正体には気付いていた。  部屋にあった能を連想させる物品の数々、それは能面を被りドットイートで戦うアカツキこと葛城暁が近くにいることを暗示させるものであったのは先刻承知。  だがキーワードになるのが、部屋の時計の下にあった『痩せ男』の面だ。初めて2代目アカツキを目撃した時はこの面を被っていた。つまり『暁を継ぐ者』はずっと傍にいたのだ。 「気付いていたの?」 「時計の下に面があったからな」 「ネタバレが遅かったわね。もう少し早く置いておけばよかったわ」  ルベラは淫乱魔のような顔を浮かべている。 「……」  ゲオルグは無言のまま間合いを詰める。  両機には重い空気と鋭い空気が同時に流れている。 「サトルもあなたもアグリ、アグリ……そんなに魅力的な子だったのかしら」 「精神的な動揺を誘うために、亜紅莉の格好を装っているのか」 「皆に大人気ですもの。人気者の格好をしちゃあマズいかしら?」  ゲオルグは思い出していた。  2代目アカツキは『強か』だと。その意味にようやく気付いた。  何が理由で葛城暁の意志を継いでいるかは分からない。  暁への恋心か?それとも別の理由か?  ただ理解出来ることは、ルベラという女性の心の穴は暗く深いことである。 「参る」  ゲオルグは朱雀門を崩さず、そのまま攻撃へと移るのであった。

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