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 試合の翌日。ルミとカミラは東京都内の教会に来ていた。  ムッソが来ていた、あの教会である。 「君達には色々と世話になったね」  ムッソは二人に感謝の言葉を伝える。  だが、ルミはあくびをしながら述べた。 「何で朝っぱらから教会に来ているんだ?」 「あなたねえ……今日は日曜日よ。教会の日曜日といえばミサに決まっているじゃない」 「いやだから、別れの挨拶だろ?……普通そういうのは空港でするもんだろ」  あの激闘後、カミラにムッソがイタリアに帰国するというので、別れの挨拶をしようということから連れてこられた。  だが場所が、あの教会であったことに驚いた。ルミとしては、こういうお約束として空港での別れの挨拶をすると思っていたからだ。 「すまないね。あちらのシスターと約束したんだ」  ヴィートが見る方向には年配のシスターがいた。こちらを見て、丁寧にペコリと挨拶をした。 「それにムッソさんが空港に行く頃に、私達は行かなきゃならない場所があるの」 「行かなきゃならない場所?」 「シウソニックの工場よ」  ルミのBB級ダブルバトル昇格が決定的になり、蓮也が社内で人員選抜し配置も完了。シウソニックの社内で正式なORGOGLIO事業部発足となったのだ。 「わざわざ日曜日にか」 「色々あってね」  カミラの意味深な言葉だった。 「ルミさん達も大変だね。まだ時間があるなら一緒にどうだい?」 「あたしはいいよ。仏教徒なんだ」 「ハッハッ……相変わらずだね」  カミラは辺りを見渡した。そういえばアンナ達の姿がない。 「アンナ達はどうしたの?」 「先にフランスへ帰ったよ。ボクは一旦イタリアに戻らなきゃいけないからね」  ルミが不思議そうな顔をする。 「何だよ。そのまま一緒に行けばいいじゃないか」 「そうはいかないよ……父の墓に報告しなきゃならないんだ。試合の事…そして君のことも」  胸のロザリオが太陽光に当たりキラリと輝く。  その言葉と共に、彼はシェイクハンドを求めた。 「そういえば、あの時は握手を断られたね」  一度〝馴れ合いは嫌い〟とのことで断った握手だ。  その時点ではお互いに敵対関係にあった、が今はもう関係ない。 「今度はいいだろ?」 「断る理由はない」  ルミは出された手をガッチリと握る。 「君と闘えて本当に良かった……〝Noi non potremo avere perfetta vita senza amici〟」 「何だそりゃ」 「〝友達なしで最高の人生はなし〟詩人ダンテの格言さ。わが友よ、また何れ会いましょう」 「ああ……またな」 ・ ・ ・ 「日曜日にこんな辛気臭いところに連れて来るなよ」  ルミ達がいる場所は、シウソニックが所有する‟ORGOGLIO”のために建てられた整備工場である。  そして、ここは格納庫。  そこには現在使用しているノーマルレッドがあった。  随時試合後に、メンテナンスおよび修理が施されるためである。 「もうボロボロだな」 「あれだけの試合をすればね」  ノーマルレッドは、ゴールドガラハッドとの激戦の影響でところどころ修理中である。  そんな修理中のノーマルレッドを見ているときだった。 「やっと来たんだ」  ノーマルレッドから声が聞こえてきた。男の声だ。 「カミラ……なんか人の声が聞こえなかったか?」 「そうね」  カミラは少し口角が上がり微笑んでいる。何か知っているようだ。 「待ちくたびれたよ」  ノーマルレッドの傍から、作業服を着た男が出てきた。  服や体はところどころ汚れがある。整備士か何かみたいだ。 「だ、誰だお前」 「誰だはないっしょ。一応、君の上司になるんだから」 「はァ?」  整備士らしき男は、ルミの上司であると述べた。  どういうことであろうか。その男はノーマルレッドを降りてルミに近づく。 「野室陽彩のむろひいろだ。シウソニックORGOGLIO事業部の部長になる」  野室と名乗る男は、正式に発足したORGOGLIO事業部のボスにあたるらしい。  しかし、普通ならこういう立場の人はスーツを着ている。  だが作業服を着ていた。どちらかというと技術職にしか見えない。 「野室君は、元々商品開発部にいた技術畑の人間でな」  ルミが後ろを振り返ると蓮也がいた。  その傍には商品開発部の宇井もおり、この状況に困惑している。 「一体どういうことだよ!?」  困惑する彼女に蓮也は質問する。 「お前……ORGOGLIOにデビューしてから何勝した?」 「えっと10勝だな」 「だったらわかるよな?」 「そっか……あたしは次のリーグに上がるのか」  そうルミは剣闘試合グラディエータールールに素手で勝利し、特別ポイントが負荷され10勝となる。  つまりマックスでの勝利数となり、BB級ダブルバトルへと昇格出来るのだ。 「WOAからもBB級への昇格が正式に伝えられたわ。いよいよ専用機を作る準備をしなきゃならないの」 「その記念も込めて、わざわざ日曜日に集まってもらったわけだ」  その様子を見ていた宇井は蓮也に尋ねた。 「あ、あの僕みたいな人間に務まるんでしょうか?」 「務まると思っているから抜擢したんだ。それに野室君も元々は商品開発部の人間だ」 「これから専用機の開発も進んでいかなきゃならない。君にも手伝って欲しい」 「ハ、ハァ……」  野室は元々商品開発部で所属し鈴草の部下であった。だが鈴草の無茶な業務命令や商品開発の企画に異見してしまい、工場勤務へと左遷させられてしまった。  左遷させられたとはいえ、彼は腐らず工場内の現場作業に従事しながら、大学院で機械工学やロボット工学の技術・知識を学び磨いていった。 「そうそう……大事なことを伝えようと思ってね」  野室は大事なことと呟いた。何か重要なことがあるのだろう。 「この機体、頑張って修理はしたんだけど」  彼は修理中のノーマルレッドに触れながら無念な思いを持っていた。  例え量産品といえども、メンテナンスや修理し続けていたものだ。  彼なりのメカに対する愛着を残していた。 「使えたとしても、数試合だけっぽいんだよね」  WOAから購入する『ノーマルカラーズ』は量産品であり、品質も機体ごとにまちまちであった。  一般的に各企業がカスタマイズするものよりも、故障しやすいと言われている。  従って管理・修復するのが難しいのだ。  体力のない企業は選手が燻り続けると、ノーマルカラーズの管理でコストを取られてしまい、選手の契約解除およびリーグから撤退するケースも多い。 「来年から君はBB級ダブルバトルに昇格する、対戦相手はもう既に専用機に乗ったような人が多い。量産機で闘うのも限界があるだろうし、試合中に機体が壊れちゃう可能性も十分に考えられる」  続けて、蓮也が人差し指を立てながら述べる。 「そこで専用機の開発というわけだ」 「鈴草さんが進めていたみたいだけど……センスが最悪だね」  野室はおもむろにポケットから紙を取り出した。  何かの設計図のようだ。設計図にはウシを模したヒト型マシンが描かれていた。 「これ『爆進草魂』って機体なんだけど、バランス型のマシンなんだよね」 「それが問題あるのか?」  ルミは野室に尋ねた。彼女自身は機体のデザインは気に入っていた。  ガン○ムのザ○っぽい外見をしていたからだ。 「君の今までの戦いぶりを見ていたら、スピード型の方が合っていると思っていてね」  専用機となるBU-ROADには、バランス型・スピード型・パワー型と基本3種類がある。この3つのタイプをベースとして機体の性能は変わってくるのだ。  ただし、タイプによって操作する際に着用するプロテクタースーツの重さや、体にかかる重力量が違ってくる。  バランス型ならば中レベル。スピード型ならば軽レベル。パワー型ならば重レベルだ。  それぞれには長所と欠点はもちろんある。  スピード型ならば防御は甘くなるが、精妙な動きを再現出来て、また素早い動きで相手を翻弄出来るテクニシャン向けの機体となる。  パワー型ならば、攻撃・防御共に高くなるが、動きが鈍重になり見切られやすいが一発当たると相手を破壊することが出来るパワーファイター向けの機体だ。  バランス型は全てが中途半端になるが、オールマイティーな性能と活躍が見込める。一般的に、このバランス型の機体を使用する機闘士マシンバトラーが多いと言われている。 「早速だが君の動きをトレースしてデータが欲しい」  彼はそういうと、ノーマルレッドの傍にある黒いスポーツバッグから何やら取り出した。  操縦用のVRメットやプロテクターである。 「これはなんだい?」 「コイツはモーショントレース用のものさ、悪いけどコレをつけて動いてくれ」 「いきなりかよ」 「時間がないから早く頼むよ」 「仕方がないね」  ルミは渋々メットやプロテクターを装着する。  野室達は格納庫に置いてあるコンピューターに移動した。 「何をすればいいんだい」 「適当にパンチとかキックをしてくれないか」  ルミは藤宮流の型を演武する。  その姿は能のように静かで、舞のように美しかった。 「なんというか――綺麗だな」  蓮也達はその演武の姿に見入っていた。  普段の彼女とはギャップがあったから尚更だった。 「ハッ!!」  彼女の気合と共に上段突きを繰り出す。残心を最後にとり演武を終了とした。 「野室さん終わったよ」 「……」 「おおーい野室さんってば、終わったって言ってんだよ」  ルミが野室の傍に近寄ろうとした時だ。カミラが言った。 「寝ちゃっているみたい」 「マ、マジか……」  野室はパソコンのキーボードに手を置いたまま寝ていた。  三人はなんとも言えない表情だ。 「この部署は大丈夫なんですかね?」 「……たぶん」  宇井の質問に言葉を濁す蓮也であった。  シウソニック・ORGOGLIO事業部の始動である。

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