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 天へと拳を突き出す毘沙門ウォリアー。  その姿を見た観客達は盛り上がりを見せる。 ――ワアアアアアアッ!!   「いいぞ館長!」 「館長立って下さい!」  観客達の歓声、そこには当然双方所属する門弟達も含まれる。  同じ『館長』という言葉を使うが、毘沙門館と星王会館、押す側と押される側での反応が違うのは当然の事であった。 『すごいよケンシンさん!巨星を倒した――ッ!!』  遠藤の実況が遅れて入った。  彼もまた謙信の過去を見たものとして、その成長ぶりに驚いたのである。 『レベルが格段に上がったぞ若様!どうした信玄!!どうなる星王会館!!』  謙信の猛攻により、地面に伏せたアストロ風林火山。  信玄はうつ伏せで倒れたまま嗤い始めた。 「ククク……ハッハッハッ!!」  信玄もといアストロ風林火山はゆっくりと起き上がる。  最初こそ驚いたとはいえ、試合も現実も修羅場を潜った信玄。  謙信の変身ぶりに認めつつも、所詮は上辺だけのものと看破していた。 「見せかけの強がりは終わりだ」  それはまるで、子供のイタズラに驚いた大人の反応だった。 「み、見せかけだと!」 「顔にペイント、無駄なハイテンション……全て見せかけだと言っている」 ――ゆらっ……  信玄は大きく構えた。  腰を深く落とし、両手は開手。達磨の如き丸い構え。  かといって鈍重さはなく、軽快に前後左右にステップを刻む。 「お前は自分を騙し、鼓舞しながら闘っている」 ――ススッ! 「あっ……」  アストロ風林火山は、水澄ましのような足捌きで潜り込んだ。  見えなかった、ステップを用いて風の如き速さであった。 「シッ!」 「げっ……!」 ――ドン!  重い一撃が腹部に入った。  林の如き静かな一撃。  東洋武術特有の気合ではなく無声の一撃、西洋的合理的な気合法。 「ぐゥっ?!」  たった一発ではあるが、確実に入った岩石のような正拳。  装着するプロテクターの腹部に強烈な衝撃が伝わる。 「シャッ!!」 ――ガキ!  今度は熊手の一撃が顎へと命中する。  下から上へのアッパーカット気味の攻撃だ。  謙信の脳が揺さぶられ、瞬間的な意識と反応を失わせるには十分な攻撃。 「ムンッ!!」 「へっ……」  熊手によるアッパーカットにより、下から上と突き上げられる毘沙門ウォリアー。  アストロ風林火山はそのまま入り身し、足をかけ大外刈りの要領で頭部を地面に叩きつけた。  打撃により相手を崩し、その足払いは払うというよりも、踵で相手のふくらはぎを打つ蹴り技に近い。 ――ゴシャッ!! 「――ッ!!」  大きな金属音が鳴り響いた。  火の如き、威烈な打撃と投げを組み合わせた一打。 「お前はピエロだ」  倒れる謙信を見下ろしながら空手式の残心を取った。  その姿勢は巌の身。まさに動かざるごと山の如し。  〝風林火山ここに完成する〟 『毘沙門ウォリアー……岡本謙信、動けないィ!!』  頭部から叩きつけられた謙信は動けないでいた。  数秒間での瞬く間の反撃と攻勢。  スタジアムは静まり観客席にいる姉のいさみは目を逸らしていた。 「ケンちゃん……!」  宇井はそんないさみを慰めるかのように抱き寄せた。 「大丈夫だよ、いさみちゃん」 「う、宇井さん……」 「大丈夫、大丈夫だよ。きっと……きっと大丈夫!」  その祈るような言葉が天に通じたのか。 ――グッ……  謙信、毘沙門ウォリアーは立ち上がった。 『おおっと!立ち上がったぞ若き総裁!』 「ほう……」  アストロ風林火山は静かに残心を解き、信玄はモニターに映る毘沙門ウォリアーを静かに見据え構える。 「頭だけはカバーしてたか」  そう頭部が打つ寸前、謙信は咄嗟に両手を後ろで組み防御したのだ。  直撃は免れたが目の前は歪んで見えた。脳震盪を起こしていたのだ。 「さあ、来たまえ謙信君」  ドンと構えるアストロ風林火山から信玄の声が聞こえた。  格上が格下に稽古でもつけるかのような言い草だった。 「ウオオオオオオ!」  再び謙信は攻撃を加えるために突撃するも……。 「ソリャッ!」  押し込むような前蹴りが胸部に打たれ、尻餅をつくように倒れた。  まるでそれは、道化師の滑稽な喜劇の一幕のようであった。  観客席にいる心無い観客や、星王会館の応援団はその姿をみて嗤う。 「コントみたいな倒れ方だぞ」 「笑える!!」 「サイみたいに突っ込むだけか、しょっぱい空手だぜ」  試合では、アストロ風林火山が構えもせずゆっくりと近付く。  それはゆっくりと、じっくりと、確実に獲物を仕留める虎のように……。 「対戦してわかる。君は強がっている」 「つ、強がっている?」  信玄は何故か急に優しい口調となった。  それはまるで大人が子供を託すかのような雰囲気だった。 「そうさ。いくら訓練を積み、顔にペイントをして気持ちを変えたとて、所詮は付け焼き刃だよ」 「……」  付け焼き刃と言われた、確かにそうかもしれない、全ては促成な短すぎる訓練だった。  また和香子からのキス、顔にもペイントを施し、高揚しハートが強くなった……と思った。  しかし、現実はどうだ。こうして猛攻を加えても信玄は立っている、自分を嗤っている。  横綱に勝てる序ノ口力士がいようか、少しづつであるが謙信は自分を疑い始めた。 「お、俺……」 「いいかい、人間はすぐに変われるものではない」  モニター画面に映るアストロ風林火山が、どっしりと構え直し右手を大きく後ろに引いていた。  その姿は弓を引くオデュッセイアのようだ。 「私の積み重ねた技量、経験が促成で仕上げた君と大きく違う……そして何より」  アストロ風林火山はドンと一歩前に踏み込んだ。 「テメェとは、潜ってきた修羅場が違うンだよボケ!」  〝大惑星衝突拳チクシュルーブ・ブレイクッ!!〟 ――ゴウッ!!  巨大な隕石のような正拳突きが顔面へと迫る。  シンプルながら強烈、強烈ながら最速、最速ながら重厚。  足の踏み込み、腰肩の回転力を総合して効率的に拳面に乗せるその一撃……。  岡本謙信を毘沙門館を絶滅させるには十分すぎる威力だった。 ――ゴガッ!! 『毘沙門ウォリアー飛ばされたァ――ッ!!』  数十……いや数百メートルは飛ばされたであろう毘沙門ウォリアー。  場外まで壁近くまで機体は吹き飛ばされたのだ。 「じょ、場外!」 「場外?勝負ありだろ」  リリアンが場外の判定を下すも、信玄は己の勝利を確信した。  観客席は沈黙と歓声が半々だ。  沈黙するのは毘沙門館の応援団、歓声は一般客と星王会館の応援団だ。 「ありゃダメですね社長。最初押したときは、やってくれるかと思ったんですが」  そう述べたのは三宅だ。  顔にペイントを施した謙信を見た時、プロレス的なもので親近感をもって応援した。  が、所詮はトンビはトンビで急に鷹にはなれない。  年齢は離れているが、武の才能や実力では圧倒的に信玄が勝っていた。 「ふゥむ……さてはて。ところで、あの顔に施したペイントなんだが」 「あのペイントがどうしたんですか?」 「私が駆け出しの頃、アメリカで『ビシャ・スティンガー』というレスラー……もとい空手家と対戦してね。偶然にも同じペイントをしていたよ」  威場は謙信が顔に施したペイントに言及した。  謎の空手使い『ビシャ・スティンガー』インディーズ団体所属であったがそれなりの人気があった。  その正体は、岡本毘沙門その人。瓶切りなどゴッドハンドをリング上で披露し観客達を喜ばしていた。 「懐かしいね。アメリカでの修業時代が……」  アメリカでの修業時代、威場は毘沙門と対戦し突如セメント、つまり真剣勝負を仕掛けられた。  突然のことに威場は驚くも、後からプロモーターから聞いた話では威場の将来性を感じての行為だったらしい。  このことが切っ掛けで、ビシャ・スティンガーは解雇されたが、思い出深い対戦相手の一人として威場の心に深く刻み込まれていた。 「そうか……ビシャ・スティンガーとはあの方だったのか。何故、今更気付いたんだ」 「あの社長」  不思議な顔をする三宅に威場は言った。 「謙信君は自分の空手に徹すれば勝てる。なんせ岡本毘沙門の血を引いているからね」  その言葉と同時だった。  毘沙門ウォリアーは立ち上がり、ヨロヨロと試合場まで歩いてきた。 『び、毘沙門ウォリアーが立ち上がったぞ!!』 「ひィひィ……」  謙信は汗を流し、息を乱していた。  汗でペイントが半分剥がれている、紙一重だった。  当たる直前に両掌でカバーし、後方へ飛び退くことでダメージを軽減させたのだ。 「しぶといやつだな」 「お、俺だってそう思うよ」  信玄は呆れ返り、謙信は自虐的に返す。  再び対峙する両雄、審判のリリアンは再び試合の合図を出した。 「では試合を続行します……ファイッ!!」  試合再開……であるが。 ――ゴォーン!!  銅鑼の音が鳴る。  その音はラウンド1終了の合図である。

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