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 静岡県・ASUMAトレーニングセンター。  富士山に近いこの施設は、ASUMAと契約する一流アスリートのために設けられた施設である。  宿泊施設やトレーニング機器も完備。またトレーナー等が常駐している。 「そこらのジムより凄いな」  毘沙門館館長の謙信は驚きを隠せない。  自分の本部道場よりも贅沢なトレーニング機器が並んでいた。 「24時間使えるので、お好きな時に使って頂いても構いません」  山村は施設内を案内している。どうやら彼がガイドを務めているようだ。  山村は歩みを止める。そうすると男がやってきた。  筋骨隆々としている。胸が臀部のように膨らみ、手足は水牛のように太い。 「こんにちは!」 「す、すげぇマッチョ……」  伊藤はその男の体つきを見て驚いていた。  そこいらのボディビルダーよりも逞しい体を肉体をしていたのだ。  山村は男を紹介する。 「彼はレックス北山。ASUMA専属のトレーナーです」 「皆さん筋肉はウソをつきません!トレーニングの相談ならボクにしてね!!」  北山はマッスルポージングをしながら言った。  鍛え抜かれた体とは裏腹に、その声は優しい感じがする。  ルミはポージングする北山を見て突っ込みを入れた。 「レックスって何だよ……」 「はい。じゃあ次行きますよ!」  山村は毘沙門館選抜メンバーを連れて次の場所へと向かう。  続いてメンバーは調理場へと来た。  そこには、緑色のTシャツを着た男がいる。 「誰だ。あの兄ちゃんは」 「彼はASUMA専属栄養士のタツジ。豪速薬膳料理の達人です」 「タ、タツジ?」 「彼のハンドルネームですよ。Wowtubeでも活動してますからね」  紹介されたタツジは爽やかな顔をして近付いてきた。  タツジは自慢の薬膳料理を用意して持って来た。 「これは私が特別に調理した薬膳餃子です。15種類の漢方と野菜を使った特別性です」 「健康食品かよ……」  ルミは薬膳餃子を凝視する。  わざとらしいまでに緑色の餃子だった。  そんな怪しげな餃子を出すタツジはアルーガを指名した。 「そこの影薄そうなキミ。どうぞ召し上げれ」 「俺か?」 「そうキミさ」  ルミはアルーガに声掛けする。何だか影が薄いので心配なのだ。 「やめとけ。明らかにヤバそうだぞ、ナメックで魔族な色をしている」 「どれ食べてみるか」 「……って人の話を聞いていたのか」  しかし、アルーガは忠告を無視し薬膳餃子を食した。  モグモグと口を動かし、ゴクンと飲み込んだ。  ルミは恐る恐る尋ねる。 「だ、大丈夫か?」 「うまい」 「えっ?!」  それを聞いたルミはタツジを見る。 「貰っていいか?」 「どうぞ」 ――パク…… (ア、アルプスの山頂のような爽やかさだ)  薬膳餃子を口にすると、まったりとした爽やかな風味が広がる。  中華料理特有の油っぽさは微塵もない。くちどけのよい野菜料理のようだ。 「こ、これは確かにうまい」 「この10日間、タツジさんの栄養管理による特性薬膳料理が出ますのでお楽しみに」  ニコリと微笑んだ山村は次の場所へと案内する。  今度はヨガスタジオらしきところに来た。  元気で若々しい女性インストラクターがいる。 「今度はどんな色物だ」  ルミは山村に尋ねた。 「彼女はですね……」  山村が紹介しようとした時だった。  蒼はその女性に近付いた。 「Wakakoさんじゃないですか!」 「あら蒼君じゃないの」 「知り合いかい?」  謙信は蒼に尋ねた。  Wakakoと呼ばれる女性は小顔でスラリとした体形。  モデルのような外見で気になったのだ。 「この人はWakakoさん。一緒に仕事をした仲さ」  蒼が説明するには仕事仲間のようだ。  山村がそのことについて説明する。 「彼女は間宮さんと一緒に、ASUMA製品のモデルを務めてくれましてね」 「ヨロシク」  Wakakoは挨拶すると謙信に近付いた。 「あなたね。毘沙門館の館長さんは」 「そうですけど?」 「柔軟性はどれほどかしら」 「へ?」 ・ ・ ・ 「ギャアアアーーーッ!!」  謙信は悲鳴を上げている、180度開脚が出来ないでいた。  Wakakoが謙信の足を広げ手を引っ張っている。 「データによると何でも体が固いそうね!」 「た、助けてくれ!」  伊藤は頭を抱えている。柔軟性のなさは空手家として致命的だ。 「壊滅的なまでの体の固さだな」 「ホラ!もっと息吸って吐いて!!」  Wakakoは笑顔になりながら謙信の手を引っ張った。  足の内側と背中の筋肉が引っ張られる。 「ギョエエエーー!!」 「アハハハ!本当に固いのね!!」  彼女は猟奇的な笑いを浮かべている。  アルーガはその光景を見て珍しく口にした。 「あの女、嬉しそうにしていないか?」  蒼は冷や汗をかいて言った。 「ちょっとサディストなところがあるから……」 「彼女はマッサージ師や鍼灸師の資格もありますからね。癒されたい人は彼女に相談して下さい」 「イデデデ!!」  伊藤は痛がる謙信を見ながら言った。 「あれで癒されるのか……」 「はーい!次が最後ですよーっ!!」  山村はそう言ってメンバーを最後の場所へと案内していく。 「お、おい!館長を置いていくな!!」 「まだ伸びが足りないわ!ホラ!!」  Wakakoはゆっくりと謙信の足を広げていく。 「ヒョゲエエエーーーッ!!」 ・ ・ ・  最後は広いロッカールームに来た。  そこに特別コーチに就任した高橋夏樹がいる。  伊藤は師を見て言った。トレーニングセンターで姿が見えなかったからだ。 「先生、こちらにおられたのですか」 「フフ……皆揃ったようだな」  夏樹は不敵に笑っている。何やらこれからするようだ。 「さて施設見学も終了です。早速ですが練習試合をしてもらいます」  山村がメンバーを見ながらニコニコしながら言った。  到着して早々の練習試合というのだ。 「いきなりですか?」  謙信が足を擦りながら、彼に尋ねるも意に介さずこう述べた。 「強化合宿は10日間しかありませんからね」  続いて夏樹も理由を説明する。 「私が君達の実力をみたいのもある。特に館長と伊藤はBU-ROADバトルは初めてだからね」  今回、謙信と伊藤が選抜メンバーに選ばれたが実力は未知数だ。  特に大将である謙信の強さを確かめたかった。  そして、もう一人実力を確かめたい人物がいた。 「アルーガ君。君の闘いを一度見ておきたい」 「……」  山村を始めとするASUMAのスカウト陣が、毘沙門館に所属する空手家を100名ほどリストアップ。  試合実績や映像、BU-ROADバトルの経験値を考慮して彼が選出された。  イレギュラーリーグで活動し、BU-ROADバトルは経験済みとのこと。  しかし、実力は謎に包まれたままだ。 「で……練習相手ってのは誰がするんだい?」 「ASUMA専属のORGOGLIO専用スパーリングパートナーズです」  練習相手は、ASUMA専属のスパーリングパートナーとのことだった。 「甲斐軍団が相手ばい!」  だいぶ前に聞いた独特の口調だった。  ルミが振り向くと『とんこつスープのような濃い顔をした男』がいた。 「久しぶりとね!!」 「お、お前は……誰だっけ?」 ――ドサッ……  男はズッコケた。あまりにも酷い反応だったからだ。 「“福岡の暴れ熊”!甲斐貢ばい!!」 「ああ……いたなそうなヤツ」  彼は甲斐貢。  ハードバンク専属の機闘士マシンバトラーだった男だ。  山村は彼の現在の状況を説明する。 「甲斐さんは去年成績不振でハードバンクを解雇されましてね。昨年末にASUMA専属のスパーリングパートナーとして雇ったんですよ」 「よ、余計な情報はいいとね!」 「他にも甲斐さんは都内でラーメン屋も経営しています」 「その情報も余計とね!」  仕切り直して甲斐はルミ達を見て言った。 「練習相手として呼ばれたと。ばってん『噛ませ』になる気はなかと」  甲斐は拳を突き出しながらそう述べた。 「その心意気だね。るからには忖度なしで行こうじゃないか」  ルミは甲斐の突き出す拳に自らの拳を合わせる。  かくして、毘沙門館選抜と甲斐軍団の練習試合が始まる。 (お、俺が毘沙門館の大将なんだがな……)  謙信は二人その光景を見て思うのであった。

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