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 今日は違っていた。いつもの2倍……いや3倍以上の客が入場していた。  特別な対戦カード組まれていたからだ。ルミVSタザワーの一戦である。  スタジアムの選手入場口の前に記者団が大挙していた。 「週間バトリンピアの正田と申します。動画の件についてコメントを頂きたいです。」 「ブレネースポーツの酒井です。藤宮ルミさんとお話させて下さい!」 「週刊文旦の田宮ですっ!社長と藤宮さんは愛人関係だと……」  これらマスコミの対応には、マネージャーであるカミラが対処していた。想像以上に記者達がいることに戸惑っていた。まさかここまで注目されているとは微塵も思わず、ネットの恐ろしさを思い知らされるのであった。 「申し訳ありません。紫雲も藤宮も試合前ですの詳しくはお答えできません」 「そんなこと言わずにお願いしますよ」 「そこを開けて下さい。もうすぐ二人が通りますので」  B級シングルバトルではあるが、ルミが女性機闘士マシンバトラーとしてデビューし4連勝中。  その容姿や古武道というスタイルもあって話題となり、マスコミに注目されていた。  カミラが対応する中、二人組の男女がゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。  紫雲蓮也と藤宮ルミだ。 「おっ!紫雲社長と藤宮ルミだ!」 「よーしっ!インタビューだ!!」  その姿を最初に気付いた記者二人が小走りで向かう。つられて他の記者達も気付き、ボイスレコーダーを向けるものやメモ帳を取り出すものがいる。蓮也は慌てているようだ。 「動画の件ですがあれは真実ですか!?」 「お二人の関係は!?どこで知り合ったんですか!」 「藤宮ルミさんだね。〝美しすぎる古武道家〟として大手芸能事務所も注目しているようですよ」 「まずあの動画についてだが……」  蓮也は記者の質問に一つずつ丁寧に答えようとする。マスコミの対応をしようとするのを見て、カミラは声をかけた。 「社長もうすぐ試合が始まるので行きましょう」 「あ、ああ……そうだったな。」  試合開始はもうすぐだ。記者の質問に一つ一つ丁寧に答えていたら時間に間に合わない。  しかし、記者も取材という仕事がある。 「ほんの少しだけでもインタビューを!!」 「真実を伝えるのも企業家たるものの務めでしょう!」  足早に入場しようとする蓮也達を記者達が責め立てた。  ルミは足を止め記者達を見る。その中から一人の記者を指名する。 「そこのアンタ、今までの試合がヤラセだと思ってるのか」  ブレネースポーツの酒井が答えた。 「いや……こちらもあなたの実力は本物であると認識しております」 「次はそこのアンタだ。もし、あたし達が男女の関係だとしても何か問題でも?」  次に指名された週刊文旦の田宮が答えた。 「それは認めるということでしょうか」 「面白おかしく書きたいなら書きな。それもアンタの仕事だからね」 「……わかりました」 「最後にアンタだ。これはあんた達マスコミに言いたい」  最後に指名されたのは、週刊バトリンピアの正田である。 「何でしょうか……」 「真実は試合の中にしかない」 ・ ・ ・  スタジアムの関係者専用通路を歩いている三人。選手控室まで移動するためだ。  ルミの記者達に対応する姿をカミラは微笑みながら言った。 「鮮やかね」 「ちょっとしたファンサービスさ」  試合前の緊張感があるにも関わらずリラックスしている。  蓮也はまだ緊張した面持ちだ。慣れないマスコミ対応に疲れていた。 「たかがB級シングルバトルの試合に、記者があんなに集まっているなんて」 「予想していたこととは言え、思ったよりも話が大きくなっていたようですね」 「会社の宣伝も、ああいったネットの媒体を使わなきゃならんな」  蓮也は今後の広報活動も考えているようだ。何もORGOGLIO参入だけが宣伝ではない。自社のPR方法はいくらでもあることを知ることが出来た。 「こんにちは紫雲さん」 「ん?」  後ろを振り返る蓮也。後ろに立っていたのは飛鳥馬小夜子あすまさよこだった。  蓮也は彼女自体に会うのは高校生以来である。 「あ、飛鳥馬CEO!」  テレビや雑誌、電車のつり紙広告でその顔を見たことはあるが、実際に成長した彼女に会うのはこれが初めてだ。 「ホステスか?」  ルミはつい言ってしまった。小夜子は無礼な発言をした彼女の方まで詰め寄ってきた。 「あなた、私を知らないの?」 「知らん」  目上の者に対する態度がなっていないルミに彼女は注意する。 「失礼な人ね。私はASUMAのCEOよ」 「横文字は苦手なんだ」 「なんと教養のない。我が社の製品は一流の……」 「なんか面倒臭そうなヤツだな……先に行くぜ」 「ちょ、ちょっとルミ!」    ルミはくるりと背を向けて歩き出した。それを追いかけるカミラ。  無視された小夜子は大きく呆れかえっていた。蓮也はこんな女を傍にいさせていいのか、と強く思っていた。その表れか表情は固く強く腕を握りしめる。 「常識がないわね……」  蓮也は深々と小夜子に頭を下げ無礼を働いた選手の詫びを入れる。 「すいません。うちの選手が失礼しました」 「いえ、いいんですよ」  蓮也の詫びに対して笑顔で応対する小夜子。それよりもここで会ったのもチャンスだ。彼女は蓮也にお誘いをかけた。 「それよりも少しお話しません?うちの選手と紫雲さんの選手が試合するのも何かの縁ですし」 「申し訳ありません。もうすぐ試合みたいなので後日改めて……」 「え……少し待っ……」  蓮也は丁重に断ると先に行ったルミ達の後を追いかけた。それを見た彼女はガッカリする。これを機会に蓮也にお近づきになりたかったのだ。  暫くすると人気の少ない通路から声が聞こえてきた。 「あたしは神経質そうな女は苦手なんだ」 「失礼だぞ。飛鳥馬CEOは世界でも有名な企業家なんだ」 「だからどうした。戦いの前に敵が話しかけて来るな」  ルミの無礼な振る舞い、発言に彼女は憤った。また蓮也に対してもだ。ルミだけではない。よく分からない女、つまりカミラも連れて歩いていた。  これほどの屈辱は華やかな道を歩いてきた彼女にあまりなかった。これまで数々男性セレブや有名俳優に結婚を前提にした付き合いを申し込まれたが全て断ってきたのだ。それは彼女が高校生時代に会った蓮也のことを忘れられなかったためだ。 (蓮也さんは忘れているようね……) ・ ・ ・  スタジアム中央に〝柑橘類〟を模したマスクを被る怪しい男がいた。  覆面姿には似つかわしくないタキシードを着ている。 「レディースandジェントルマンッ!!」  ダダンッ!(ドラムを打つ音) 「あッ……おっとつぁんおっかさん!」  タターン!(シンセサイザーの音) 「ボクはマスク・ド・カボス!」  観客達の声援に対し、独特な笑い方をする男の名はマスク・ド・カボス。  ORGOGLIOの名物アナである。時々BBB級トリプルバトルの試合のみ実況する。 「B級(シングルバトル)メイン試合を始めるよ~ん!!」  ドン!ドド!ドドドドン!!(和太鼓を打ち鳴らす音) 「まずはレッドワイバーンの方角から……曰くの古武道娘!」  彼が指示す方に、赤い翼竜の絵が描かれたゲートがある。選手の出場ゲートである。 「古武道藤宮流!藤宮ルミ選手の入場だ!!」  その紹介と共に、ノーマルレッドに乗ったルミが登場した。悠々と堂々と入場する。 「ブルーライガーの方角から……こいつは危ない炎上系ファイター!田澤至タザワー選手の入場だッ!!」  青く描かれた獣神風のゲートから3機のBU-ROADが入場する。カラーはインディゴ・ブルー・イエローである。  先頭のノーマルインディゴは田澤至ことタザワー。  続くノーマルブルーはカーリー・ヴェルマ、ノーマルイエローは甲斐貢である。 「私のカンフーをキック扱いされた……この無念を晴らしてくれ。」 「彼女がいないことを指摘されて悔しいばい!」 「おう!『藤宮ルミ被害者の会』の代表としてお前らの恨みを晴らすぜ!!」  二人の逆恨みを胸にタザワーは闘技場中央まで移動する。そして、いつの間にか『藤宮ルミ被害者の会』という組織が立ち上げされていたようだ。タザワーはルミを睨みつけながら相対する。 「修○の門ごっこも終わりだ!」 「随分と派手な登場じゃないか」 「MMAリアルな世界を教えてやる!!」  両選手中央にノーマルホワイトの審判機が立ち二人に注意と簡単なルール説明を行う。ナマズヒゲでスキンヘッドの男、ORGOGLIO審判『Mr.バオ』である。審判歴の長いベテランである。 「私は審判を務めるMr.バオだ。これより試合を開始する」  審判の声に合わせて両機はファイティングポーズを構える。審判機の白いBU-ROADは右手を天に掲げ振り下ろすと同時に開始の合図をかける。 「BU-ROADファイト……開始はじめッ!!」 【リーグ最下位B級シングルバトルワンマッチ】メイン試合 “謎の古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 バランス型BU-ROAD:ノーマルレッド スポンサー企業:シウソニック ≪戦績≫5回戦 4勝0敗 VS “炎上系ネットファイター” 田澤至タザワー スタイル:総合格闘技 バランス型BU-ROAD:ノーマルインディゴ スポンサー企業:ASUMA ≪戦績≫デビュー戦 0勝0敗  太鼓の大きな音と共に試合の開始だ。試合開始と同時に先制攻撃したのはノーマルレッドの藤宮ルミ。 軽く左ジャブを繰り出していた。だがノーマルインディゴのタザワーは、がっしりと左ジャブをキャッチする。 「ホイさ!」  タザワーは逆技をかけた。合気道でいうところの小手返しである。

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