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「やめておきましょう」  黒澤は丁寧に元同門の先輩に対して答えた。  信玄は構えを解くとニタリと笑っている。 「変わったなお前。昔はもっとギラギラしてただろうが」 「強さを求めることに虚しさを覚えました」  黒澤は視線を下に落とした。  強さを求めることに虚しさを覚えたというのだ。  何が原因かはわからないが、信玄は何を今更という気持ちだ。 「だったら、何で俺の誘いを受けた?」 「私を満足させてくれる格闘家がORGOGLIOにいると思いましてね」 「ほう……で、BBBB級クアドラプル超武闘祭で会えたかい」  その問いかけに首を振る。 「あのような、つまらない大会にはいませんでした」  つまらない大会。  黒澤はORGOGLIO最高峰の大会をつまらないと切り捨てた。  何故最高峰の大会をつまらないといったか、信玄は理解出来ないでいた。  相変わらず父に似ず、真面目な男だと思った。 「そりゃあ残念だったな」 「でも……一人闘ってみたい方はいます」  黒澤の脳裏には、一人の機闘士マシンバトラーが顔が浮かんでいた。 「ほう。誰だいそりゃ?」  その機闘士マシンバトラーの顔と名前が出ながらも、黒澤は押し黙った。  この信玄という武道屋に言っても仕方がないことだ。 「言ったところであなたに関係があるのですか?」 「減らず口だけは増えたな」 「それよりも話の続きをしましょう」 「警告だったな……言ってみろよ、その警告とやらを」  この男も昔は武道を真面目に極めようとした時もあった。  だが社会の環境や本人の状況、何が原因かはわからないが武道を己の欲望を満たす道具にしていた。  『生産性のある空手』とのことだが、武道を汚す行為にしか見えなかった。  そもそも信玄は父と流儀を裏切った男。そして次は毘沙門館と高橋を裏切った。  二度も師と流儀を裏切った男なのだ。信用出来ない。  ……がORGOGLIOという場所ならば自分を満足させてくれる人物がいるのではないかと思い、信玄の誘いを受けた。  強さを求め数多の武道、格闘技の大会に出場し続けたが、そういった場所で出会えなったのが原因だ。  新しい戦いの場所であるORGOGLIOならばきっと出会える。  そう思い『ウラノス』という名前で参加した。もう辞めようかと何度も思った。  そう思った矢先に、やっとその人物が現れたのだ。  黒澤は思い浮かぶ機闘士マシンバトラーと、何時か対戦できることを願いながら話の続きをする。 「先輩、脱税してますね」 「真面目なお前が、紙くずと変わらん3流雑誌でも読んだのかい」  警告とは信玄が脱税していることであった。  週刊誌を中心に取り出されていた。  税理士出身の国会議員と懇意にする信玄は、その議員と共謀して脱税行為を行っている噂だ。  その隠し所得は、高級車購入や愛人へのマンション購入に充てているという。 「警告ってのはそれかい?」 「ええ」 「バカバカしい」  信玄は両手を横に上げながらそう述べた。  話は事実であるが、儲けた金を過分に税金で取られるのは不服だった。  そもそも脱税まがいの行為は、多くの金持ちどもがやっている。  自分がやって何が悪いと思っていた。 「空手を金儲けの道具にすると、空手から痛いお返しが来ますよ」 「はっ……?」  信玄は黒澤をバカにしたような顔で見つめた。  空手を金儲けにして何が悪いと。 「貧乏武道家どもの嫉妬か知らんが、空手をビジネス化して儲けて何が悪い」 「やはり、あなたに何を言っても無駄なようです」  金儲けにしないからこそ、多くの空手家は道場を畳み廃業、または空手を辞めていったのだと。  空手に『金』という夢を持たさなければ誰もついてこない。  信玄は真剣にそう考えていた。 「クソ真面目な野郎だ。警告ってのはそれだけかい?さっさと出て行けよ、俺はもうすぐ試合なんだ」 「岡本謙信にあなたは必ず負けます」  信玄の悪態に、黒澤はハッキリとそう告げた。  これから試合をする信玄が必ず負けると。 「ハッハッハッ!お、俺が負けるだってェ……ヒッハッハッハッ!!」  信玄が腹を抱えて笑い始めた。  黒澤の言葉が余りにもおかしかったからだ。  ASUMAの協力を得て鍛練しているとは聞いているが、人がすぐに強くなるなど不可能だ。  やったとしても所詮は付け焼き刃。データを見る限り実力的に自分が圧倒的に上と算段していた。 「笑い過ぎです」 「お前、何時から芸人になったんだ。何ならタレント事務所を紹介してやろうか」  信玄は天に向かって指差しながら己の野望を高らかに宣言した。 「謙信のガキを倒して、星王会館は次のステージに上がるぜ!目指すは最強格闘技集団、空手興行軍団だ!!」  そんな欲望の塊である信玄を、黒澤は哀れみをもった目で見つめている。 「どこまでも強欲で軽率な人だ。そんな父親に育てられたから、暁さんは道を踏み外したんです」  信玄の表情が変わった。  黒澤から暁、つまり息子の名前が出たからだ。 「今なんて言った?」 「暁さんも可哀相な人でした」 「答えろ!暁を知っているのか!!」 「ええ色々と。悪さも、いる場所も」  葛城暁。亜紅莉を辱め声を奪った張本人だ。  黒澤はアメリカで行方不明になった暁の居場所も知っているという。  信玄は強い口調で問いただした。 「あいつはどこにいる!」 「父親の顔になりましたね」 「さっさと教えろ!!」 「お亡くなりになりました」 「な……ッ」  死んだ。葛城信玄の息子、暁は死んだというのだ。 「ロサンゼルス郊外で日本人が殺されたニュースがありましてね。その日本人は酒やドラッグ、女に溺れ、最後はチンピラとの喧嘩で銃殺されました。あなたのように自分の力を過信してたんでしょうね……一目惚れした女を手籠めにしたことや格闘技の大会で優勝したことをよく自慢してたそうです」  黒澤の言ったことは事実である。  米国ロサンゼルスの地元紙に小さな記事にそのニュースはあった。  被害者はサトル・カツラギ。  地元の不良と些細なことで揉めて喧嘩となり、銃殺されたとある。  この事実を判明したのは、つい最近のことである。 「ウ、ウソだろ、そんな」 「そうそう、非合法のBU-ROADバトルの試合にも出場してたみたいですよ。能面を付けて『アカツキ』なるリングネームでそこそこ活躍してたみたいですね。日本に戻って、父親が館長を務める星王会館の機闘士マシンバトラーとしてデビューすると言っていたみたいです」 「そんな情報はどうでもいい!息子は……暁は!!」 「試合の健闘を祈ります。では……」  信玄の返答にまともに答えず、黒澤はそのまま出て行った。  唐突だった。暁が息子が死んだというのだ。  黒澤より他の情報も教えられたが、息子が死んだ事実を伝えられ、それらのことは吹き飛んでいた。 「唐突すぎねぇか。暁のヤツがそんな無様な死に方を……」  信玄が強く動揺した時だった。  突如、耳に冷たい声が聞こえて来た。 ――アハハ……やっと気づいたか。 「こ、この声は……!」  空耳か幻聴か。  親である信玄が聞き間違うはずがない。  その声は息子、暁の声だった。  幼少時より可愛がり、欲望を抑えずに育てて来た息子の声だ。 ――親父……お前の息子、暁は死んだぜ。 「バ、バカな……」  欲望があるからこそ人は成長する、夢が達成できる。  自らの経験からそう確信して育てて来た。  多少のヤンチャは男の子につきものだ。だからこそ、暁の不祥事は全て揉み消した。 ――俺は欲望のまま生き過ぎた。 「ふ、ふざけるな!こんな時にクソ!!」  自分の後を継ぎ星王会館の館長になってもらいたい。  そして、いつかは格闘技界……強いては政界に進出してもらいたいと強く思っていた。  そのために国会議員とも懇意にして準備も進めている段階だ。 ――我慢することを躾てくれりゃ、長生き出来たのに……。 「こ、これは幻聴だ――ッ!!」  一人絶叫し、体を震わせながら操縦用プロテクターを装着していた。

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