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 藤宮ルミ対ヴィート・ムッソの試合が正式に決定。  マスコミ各社、テレビ報道・SNS共にこの試合のことで持ちきりである。  剣闘試合グラディエーターバトルを行うからだ。  即ち『マウロの悲劇』依頼、曰く付きのルールが数年ぶりに実施されるからである。 「今日はヴィートの誕生日だったな。プレゼントだ」  それはロザリオだった。父が珍しく誕生日プレゼントをくれたのである。  父は格闘技しかやったことがない不器用な人で愛情表現も苦手だった。  ムッソが12歳の頃に母親が男を作って出ていった。皮肉にも、その男はマウロのジムの後輩であった。  それ以降、酒とギャンブルに狂ったが息子の悲しそうな顔を見てすぐにやめた。  この頃から息子への格闘技の指導を始める。  時にあまりにも厳しい指導だったので、虐待疑惑をかけられた。  だが、その度にヴィートは父親を庇った。父親のことが大好きだったのだ。  不器用な人にも、不器用なりの愛情表現があることを息子は知っていた。 「今日は大事な日だ。お前を必ず大学へ行かせてやっからな!」  それが最後の言葉だった。  自分も色々あってORGOGLIOの機闘士マシンバトラーになったが、結局はケガが原因で引退。  格闘技しか知らない自分の進路について悩んだ時に、声をかけてくれたのがレオポルドだった。 「許してくれとは言わない。ただ君に謝罪をしたかった……」  レオポルドは父マウロを事故とはいえ、殺めたことを懺悔し涙ながらに謝罪してくれた。  感情的にこの男を決して許すことが出来ないのが普通だ。  だが彼を許した。レオポルドを恨むことは、父の命を懸けた闘いを否定することであると思ったからだ。  そして、レオポルドは自ら経営する〝ナイト・デュエル〟に誘ってくれた。  彼の誘いを承諾するが『闘いしか知らないボクはこのままで良いのだろうか』と不安も感じていた。  そう思いながらも、剣技の指導を受け実力をつけていく。  イレギュラーリーグとはいえ、チャンピオンまで上り詰めることが出来た。  だが、悩みは消えることなく続く。アンナの存在だ。  最初は、自分より6つ年下のアンナを妹のように感じていた。  しかし、同じ屋根の下で暮らす中で彼女の持つ優しさと純粋さに惹かれていった。  また、彼女も満更ではなさそうな様子であった。  内に秘める想いを伝えても良いが、格闘技しか知らない父と同様に自分は不器用な人間だ。  彼女と添い遂げたとしても、不幸を招くのではないかと悩んだ。その原因の一つとして足の古傷がある。  『拳』を『剣』に変え、ケガをした膝や足首の負担は軽減しているがそれでも限界は近かった。  このままでは何れナイト・デュエルも去らなければならない。  稼ぐ手段を失くすのだ。指導者としての道も考えたが自信がなかった。  ナイト・デュエルの経営も思わしくなかったのもある。  解雇されたORGOGLIOの選手を集め、剣技の指導をして試合させたが、途中で嫌気がさして離脱する者も多かった。  看板選手である自分が抜けると、必然的にレベルが落ちると強く感じプレッシャーになった。  そんな時にASUMAのクロサワと名乗る日本人が現れた。 「我々は、ナイト・デュエルに投資をしたいと思っています。イレギュラーリーグとはいえ、その独自性、経営理念共に素晴らしく、長期的なビジョンで貴方達に支えていきたいと考えております。その代わりと言っては何ですが、ムッソさんを1日だけ貸して欲しい」  そう〝剣闘試合グラディエーターバトル〟で、ムッソをORGOGLIOに復帰させたいと申し出たのだ。  レオポルドは悩みに悩んだ。何故ならばこのルールでヴィートの父マウロは……。 「オーナー……やりましょう」  だがムッソはこの提案を承諾した。ナイト・デュエル――そしてアンナのためだ。  剣術家としてもダメになるのであれば、自分を犠牲にしてでも彼女達を助けてあげたかった。 「ヴィート・ムッソ選手……試合の準備が出来ました」  係員の呼びつけに、ムッソは何か覚悟したかのような目をしている。 「すぐに行くよ」  その手には、父から貰ったロザリオを固く握りしめていた。 ・ ・ ・ バトルスタジアム【ルーキーコロシアム4】  スタジアムには多くの観客達がいた。  〝剣闘試合(グラディエーターバトル)〟ルールでの試合が始まるからだ。  『フィスト』VS『ソード』漫画や映画の世界だけの話がこうして見られるからだ。  多くの観客達の中に蓮也や小夜子、レオポルドの姿もある。 「ヴィート……あなたはどういう想いで闘うの?」  そして、アンナの姿も……。 「今回の審判を務めるMr.バオだ……お互いに覚悟はよろしいか?」  Mr.バオは今回の試合が異例中の異例ためか、双方の覚悟を改めて確認した。 「何を今更って感じだね。アンタもそう思うだろ?」  ルミは右拳を対戦相手ムッソに向けながら述べる。 「ふっ……確かに」  対するムッソは静かにそう述べた。 「承知……では〝剣闘試合グラディエーターバトル〟ルールでの特別試合を始める」 ○ 最下層リーグ:B級シングルバトル剣闘試合グラディエーターバトル〟ルール特別試合 “謎の古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 バランス型BU-ROAD:ノーマルレッド スポンサー企業:シウソニック ≪戦績≫6回戦 5勝0敗 VS “イタリアンナイト” ヴィート・ムッソ スタイル:ナイト・デュエル ナイト型BU-ROAD:ゴールドガラハッド スポンサー企業:ASUMA ≪戦績≫1回戦 0勝0敗  ノーマルレッドは何も装備していない。簡素な武装、素手のみだ。  対するゴールドガラハッド、ASUMAが開発した安全面を考慮した衝撃吸収性の強いソードアーマーを装備している。  見た目はノーマルパープルに、白銀の剣と金色の鎧風プロテクターを装備させただけだが風格を漂わせる。  流石はナイト・デュエルのチャンピオンといったところか。 「ルミさん……あなたがアンナと知り合いだなんて驚いたよ」  ゴールドガラハッドは、ムッソの動きに連動しフォム・ダッハ屋根……つまり八双の構えを取る。  対するノーマルレッドは、対片桐戦で見せた〝蜘蛛糸の構え〟を取った。 「偶然知り合ってね。アンナや……アンタのためにも勝たせてもらう」 「BU-ROADファイト……開始はじめッ!!」  審判機が勢いよく手を振り下ろす  試合開始と共に、ゴールドガラハッドは間合いを詰めた。 「ボクのためだって?」  一足一刀の間合いに入ってきている。鋭利な刃が削がれているが当たれば大ダメージだ。  ルミは緊張を感じながらも、自分が言った言葉に対して説明する。 「あの時の教会で、アンタはこう言った『ボクは強い人間じゃあない』と」 「それが何か?」  ルミはあの言葉で気づいたのだ、ヴィート・ムッソは何かに苦しんでいると。  アンナに対し、敢えて厳しい口調で過去を語っているようにしか見えなかった。 「何を苦しんでいるんだい?」  対戦してわかる。  そう軽井沢で出会った片桐結月と同じ苦しみ、迷いを感じたのだ。 「試合中だ!」  フォム・ダッハからの上段の一撃がルミを襲う。ルミは咄嗟に真横に体捌きで躱すものの、ゴールドガラハッド、即ちヴィート・ムッソは直線状の途中で剣線を止める。 (フェイント!)  そうフェイントである。握られた剣は途中で軌道を変え、真横に薙ぎの一閃が繰り出される。狙いは胴斬りで。  ルミは何とか十字受けで止める。だが機体の腕は僅かに破損し放電していた。 「大丈夫かよ!?」  蓮也の声が通信で聞こえてくる。ルミはその声に対してやれやれといった具合だ。 「いちいち心配すんな。腕は痛いが、機体の一部にキズがいっただけだ」  ゴールドガラハッドといえば、アルバー愚者の構えと呼ばれる下段構えを取っていた。  ルミの攻撃を誘っているようだ。その誘いにつられたのか、素早く飛び上がり、左足にてゴールドガラハッドの顔面に向け飛び蹴りを放った。 「そこ!」  その言葉と共にショルダータックルをルミに見舞う。 「……ッ!!」  飛び蹴りに合わせて行ったため吹き飛ばされた。  力を利用されたような感じだ。遥か数メートルまで吹き飛ばされるノーマルレッドは仰向けに倒れる。  だがルミを警戒しているのか、ゴールドガラハッドは追撃の姿勢を取らない。観客達は一連の試合模様を見て言った。 「やっぱり武器相手は無理ゲーか」 「接近戦も強いじゃん!」  一方的に見えるこの試合、一人この試合を不安視する男がいた。  そうレオポルドである。彼の眼はあることを見抜いていたのだ。 「蹴られたか……」    仰向けに倒れるノーマルレッド。追撃の一閃を放てば勝負ありである。  観戦する小夜子は勝利を確信したのか、ルミの敗北する姿を今か今かと待ちわびていた。 「追撃してトドメを刺しなさい」  しかし、ゴールドガラハッドは追撃の気配を見せない。  小夜子は通信機を取りムッソに命じた。 「聞こえているの!?」  その時だ。ゴールドガラハッドは剣を杖代わりにして体を支えた。  よく見ると右足の膝部分が若干破損している。 「いつの間に蹴ったんだボクの膝を」  ムッソの問いかけと共に、ルミのノーマルレッドは立ち上がった。 「左の飛び蹴りはフェイントさ。体当たりされるのと同時に右足で膝を蹴らしてもらった」  飛燕の連脚が、ゴールドガラハッドの膝を襲っていたのだ。

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