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 経営戦略会議室には、社長である蓮也と幹部役員達そしてカミラがいた。  本格的な‟ORGOGLIO事業部”設立にあたり、ルミを役員の前に連れて来る予定だったが行方をくらましてしまったのだ。  幹部の一人、二原勇にはらいさむがカミラに尋ねる。 「12時を過ぎてしまったが、藤宮ルミ君はいたのかね?」 「いえ……それが探し回っているんですが……」  その質問に冷や汗をかく。元々は自分の不注意と油断から逃がしてしまったからだ。続いて、同じく幹部役員の鹿島隆夫かしまたかお井土博正いどひろまさは蓮也に対して苦言を呈した。 「社長、これは社会人としての常識が著しく欠けておりますぞ」 「この有様で本当に‟ORGOGLIO事業部”を開設してもよろしいのですか?」  元々シウソニックが畑違いの‟ORGOGLIO”に参入することは、役員会を始め猛反対にあっていた。カミラの根回しがなければ、このまま参入案が反対され事業計画自体がなくなっていたのだ。  選手であるルミの活躍自体は、役員会でも周知されていたがまだ反対の意見は強い。蓮也が頭を抱えている中、幹部役員の関俊三せきしゅんぞうが軽妙に言った。 「まァスポーツ選手なんて非常識なもんだよ」  二原はジッと蓮也を見て、関はカミラに向かってウインクをした。この二人はどうやらORGOGLIO参入に理解が深いようだ。  元々ルミを正式に幹部役員達の前に連れて来る案を出したのは、この二人からだった。機闘士マシンバトラーであるルミを社内にPRすることである。“ORGOGLIO”の参入を、シウソニックの一大プロジェクトであることを社内に知らしめるためだ。 ――プルルル……プルルル……  会議室の電話が鳴った。カミラが受話器を取り応対する。 「はいカミラです。今は会議……ええっ?!」 「どうした?」 「大変です地下の駐車場まで行きましょう!」 ・ ・ ・ 「阿波田部長、もう1時間経ちましたがどうでっしゃろな?」 「ふふっ……今頃泣きべそかいてるんじゃないかな」  一方その頃、鈴草と阿波田は地下駐車場へと向かっていた。あの二人が困っている姿を見る為だ。自分達が引き起こしたことが原因で、彼ら自身に不幸が起こることとは思わなかっただろう。 ――ギュイーン!……ガシャン  機械の音と煙…そして油の匂いがフロアを覆っていた。  介護用お手伝いロボットの残骸らしきものが散らばっている。  周りには昼休み中の社員達、そして社長や役員達らしき姿があった。  「つァッ!!」  『チャオ……ズ』  藤宮ルミが素手で暴走するロボットを破壊していたのだ。さながらカンフー映画のシーンを見るような爽快さがそこにあった。ギャラリーからは声援が聞こえる。 「いいぞーっ!」 「かっこいい!!」  蓮也はその姿を見て一緒に来ていた役員達に紹介する。 「あ……えーっと……あの娘が藤宮ルミです」  役員達はその姿を見て驚いている。ルミの活躍は名前しか知っていない。女性格闘家ということでアマゾネスのような女性を想像していたが、実際は可憐な女性であった。 『チャーシュー!』  ロボットがギャラリーの声に反応してか、蟷螂拳のポーズをしながら襲い掛かった。 「お、おい!ロボットがこっちに来るぞ!!」 「きゃあああっ!!」  その動きに気付いてか、ルミは後方宙返りをしながら少林寺34号の後ろに飛びつく。一人のプロレスファンである中年サラリーマンが何かを悟る。 「あ、あの技は?!」  その姿勢から次の技を叫んだ。 「キャメルクラッチだ!」 「そらッ!!」 『モ……モータ……マンッ?!』  無惨にもロボットは真っ二つにされた。 「やっとこさ片付いたか」 『ワンタンメン』 「後はアンタだけのようだね」  ルミはいよいよ締めの作業に取りかかりたいところだ。 『エースコック!』  跳躍する少林寺35号は飛び蹴りの放った。ルミもそれに合わせて空を舞う。交差する脚部、蹴りと蹴りが織りなす閃光。その光はギャラリーの蓮也達を照らした。  スタッと着地する両者。 「なかなか手強かった」  ルミはそう言って立ち上がり、ロボットの方へと向いた。 「なかなか面白かった」 『ブタ……ブ……タ……コブタ!!』  そうロボットは機械音声の断末魔を残すと地面に倒れ爆発するのであった。 「これは一体どういうことなの?」 「アスパラとカミラか。会社ってヤツは面白いところだね」 「そういう問題じゃねーだろ」  制服はもうボロボロだ。  フロア内は機械の油と鉄の異臭に満ちている。コンクリートの床や壁はあちらこちら壊されていた。 「ちょっとルミ!あなた今まで何してたの!?」 「ソレはだな」  ルミは鈴草と阿波田の方へと視線を向ける。視線を向けられた二人は気まずい表情だ。  エレベーターに乗り逃げようとするが、ルミは無情にも指を差す。 「あそこのおっさん達に面白イベントを提供されたんだ」 「な、なな……何言ってるんや?!」 「き、君……悪い冗談はよしたまえ」 「ウソじゃありません!」  ルミを見守っていた宇井は二人の悪事を糾弾する。 「その二人が僕達に理不尽なことを要求したんです!そもそも……」  宇井は草魂体操の無意味さ、それに異を唱えた者はどうなったか。またランニングマシンやロボットを使ったシゴキのことを告発した。蓮也や役員達は宇井の言葉に耳を傾ける。蓮也は申し訳なさそうに語る。 「そんなことが社内で起きていたのか」 「宇井が言っていることは本当です」  続いて同じ商品開発部の日野軽樹も糾弾する。ピッカリと禿げ上がった頭を輝かせながら言った。 「俺達、鈴草顧問のパワハラに困っていました」  大人しそうな女性社員、営業部の太田愛良(おおたあいら)も阿波田の件について語る。 「あ、阿波田部長に毎日デートに誘われて困ってました…断ると『仕事を与えないぞ』って……」 「お前ら何社長の前でデタラメ言ってるんや!?」 「ボ、ボクは知らない」  鈴草と阿波田の言葉を聞き、二原と関が不自然に笑ったような表情で近づく。 「そんなことはどうでもいいのだよ」 「オレは噂話ってヤツが好きでね。よくお前さんらの話聞いてるんだよ」  二原は今までにない怖い表情となり鈴草を睨み、関はニヤ付きながら阿波田の足を踏んだ。 「スズ!お前の仕事への情熱は認めるが……やり過ぎだ!!」 「おい……てめぇが仕事サボって女のケツ追っかけ回してることは知ってンだよ」 「「す、すいませんでした!!」」  二人の凄みにただただ平伏するしかない鈴草と阿波田であった。  この二人が不自然に笑っている時は機嫌が悪い時だ。 「うわァ……あの二人もう終わりかな」 「それにしても駐車場が滅茶苦茶だな」 「誰が掃除するんだ?」  ザワつくギャラリー。蓮也は混乱する場を収めるかのように言った。 「みんな……すまなかった!今まで俺の不注意で社内の状態を把握しきれなかった」  頭を下げる蓮也。自分が不甲斐ないばかりに社内の状況を把握しきれなかったことを知った。  しっかりと管理していれば、鈴草と阿波田のことにも気付いていただろう。蓮也は社員達に自分の想いとルミを紹介する。 「俺は今回の“ORGOGLIO参入”をシウソニック史上最大のプロジェクトだと思っている!今回の事業を成功させれば自家製品の商品開発力、品質の良さを内外にアピールできる。みんな改めて頼む!俺に少しだけ力を貸してくれ……いや見守ってて欲しい!!」  蓮也は社員・役員達に深々と頭を下げる。その言葉の一つ一つに誠実さと夢や希望が溢れていた。その姿を見て役員達はただ黙って話を聞いていた。そこに初代の紫雲辰之助の姿を重ね合わせていた。  蓮也の姿を見たルミは社員達の前に出てきた。何か言いたいようだ。 「えーっと……あたしは藤宮ルミ。シウソニックと正式に契約した機闘士マシンバトラーだ」  彼女の雑な自己紹介を聞いて、驚くもの、気付くもの、納得するもの様々である。そんな蓮也達の姿を見て関と二原は語った。 「やりゃあいいじゃねえ。てかもうやってるしな」 「歯車は既に動いている。どうかね?鹿島さん井土さん」  “ORGOGLIO”参入に難色を示していた、鹿島と井土は語った。  その表情からは何かを理解したかのような顔だった。 「チャンスはここしかないな」 「藤宮君の戦いぶりを見て、昔ヤンチャだった頃を思い出すね」  駐車場に集まっていた宇井達を始めとする社員達も同様であった。各々の心に蓮也の想いが届いたからだ。応援のメッセージを送る。 「全力で応援するぜ!!」 「マジマジ!あたいらも応援しちゃう!」  社員達からの応援エールを胸に蓮也は決意する。この事業を必ずや成功させると。 「ところでルミ……」  カミラはルミの顔を見た。今までとないスマイルだ。 「キチンとここを掃除してね。ここまでメチャクチャにしたんだから」 「え、ええ……」  こうしてスクラップ場と化した駐車場を掃除することになった。 「ル、ルミさん!」 「あっ……ウィローだっけか」 「宇井です……宇井健一。少しだけでも掃除のお手伝いします」  宇井が駐車場へやってきた。昼休み中だというのにだ。 「好きにしな」 「あ、ありがとうございます!」  ここは静かなシウソニック地下駐車場。鉄と油は残りつつも、協力して作業を行う二人であった。 【シウソニック人事部からのお知らせ】 この度、人事部より異動降格処分ならびに昇格のお知らせします。 異動降格処分:2名 営業部:阿波田幸秀 本社部長から神奈川支部部長補佐へと異動降格。 商品開発部:鈴草魂 本社顧問から商品開発部・関西支部担当補佐へと異動降格。 昇格発表:2名 営業部:福石雅徳ふくいしまさとく 営業部・九州支部長から本社部長へと転属および昇格。 商品開発部:梨畑孝昌なしばたけたかまさ 商品開発部・北海道支部担当から本社顧問へと転属および昇格。

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