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 場所は『フィールドテスト場』様々なロボット・健康器具が並んでいる。  二人はランニングマシンに乗せられていた。  阿波田は二人に向かって説明した。 「我が社が新しく開発したランニングマシン〝スーパーケイシ〟さ」 「すーぱーけいし?変な名前だね」 「社会人としての常識がなってないね。鈴草さん!」 「わかりましたでェ!!」  鈴草はランニングマシンのコントローラーを握りしめスイッチを押す。起動すると同時にマシンから軍歌のような音楽が流れ始めた。 「鈴草顧問!この変な歌はなんですか?!」 「変な歌とは何じゃ!」 「時代遅れの歌を流して意味あるんスか?!こんなの絶対に売れませんよ!」  鈴草はこの曲が大のお気に入りなのだ。それを『時代遅れ』と言われ激怒した。 「な……貴様許さん!魂に300勝を叩き込んだるッ!!」  起動されたランニングマシン〝スーパーケイシ〟は、ゆったりとランニングベルトが動いていく。 「あわわっ!」 「ふふふ……まず手始めに『ノーマル“藤井寺”モード』や」 「なんだい。この程度なら普通のランニングマシンじゃないか」  ルミは軽快にランニングベルト上を走る。この程度の走行ならいつものトレーニングより遅いくらいのスピードだ。 「な、ならば『ハイパー“藤井寺”モード』や!」  鈴草は『ハイパー“藤井寺”モード』と表記されているボタンを押した。 「げげッ!何だこりゃ!?」  宇井やルミの体が異変を感じる何やらおかしい体が重いのだ。ランニングマシンの上で走る二人を見て阿波田はニヤリとしている。 「気分はどうだい?」 「うげげ?!か、体が重い!」 「それには〝重力発生装置〟が備え付けられているからね」  重力発生装置。元々は宇宙船に搭載されている機能だ。  宇宙飛行士達が宇宙船内で、トレーニングしている映像を見たことがあるだろうか。重力が発生しないと、人間の筋骨が弱ることは良く知られている。  そこで無重力空間でも筋骨が衰えぬよう、人工的に重力が発生させ開発されたものである。 「どうじゃ!これでもまだ序の口やで!!」 「へぇ……そうなんだ。ところでさ?」  ルミはまだ軽快にランニングベルト上を走っていた。それを見て驚く鈴草と阿波田。 「名前にフジイデラを付ける意味なくね?」 「むぐ!?」 「てか、流れる歌が絶望的にダサい」  ルミ自身も演歌系統の音楽は好んで聴くが、流石に曲のチョイスがマズい。彼女は軍歌調の音楽が好みではなかった。彼女は鈴草のセンスを全面的に否定したのだ。 「なんやてッ?!をバカにしたなッ!!」 (鈴草さんにその言葉は禁句だぞ。アホな女だ)  鈴草は何やら握っているコントローラーのボタンを押す。 「胃に汗をかいてもらうで!『いてまえ“藤井寺”モード』やッ!!」  ベルトの動きは早くなり傾斜角度が上がってきた。更には重力発生装置から発生する重力負荷量がドンドン上がる。 「こ、これは体が……うわあッ!!」  宇井は懸命に走るも、コントのように前のめりに倒れた。ランニングベルトは停止するが、宇井は地面にへばりついたままだ。 「う、動けない……」 「情けないやつや」 「それは立ち上がるまで重力はかかったままだよ」 「そ、そんな」  宇井が地面にへばりついている間も、ルミはまだまだ軽快に走っていた。そして彼女は鈴草と阿波田を見ながら言った。 「こんなの市販に出したら、クレームとクーリングオフの嵐だぞ」  ルミは問題なくランニングマシンを軽快に走っているのだ。鈴草と阿波田は絶句するしかない。  アスリートなら未だしも普通の女性が耐えられるような負荷量に設定されていないからだ。 「シウソニックの魂ってのは、こんなガラクタばっかり開発する心根なのかい?」 「ワ、ワシの愛社精神を侮辱したな!!」  鈴草は目を血走りながら、コントローラーの裏側ボタンを押す。 「『スピードキング“大石大二郎”』モードや!」  トランペットのファンファーレや男性の応援歌が流れる。ルミの体にかかる重力量がこれまでものとは比べ物にならないくらいの負荷量になった。 ○ 『スピードキング“大石大二郎”モード』  地球上に働いてる5倍以上の重力が全身に負荷を与える恐るべきモード。  合金製の鎧を着用して走らされるような感覚が全身を襲う。以前、五輪にも出場したアフリカのマラソン選手がテスト走行したが5分も持たずストップをかけた。  阿波田は腰に手を置きながらルミに言った。 「これに懲りた……らァッ?!」  彼の思惑とは違い目の前の女性は軽快にランニングマシンを走っていた。 「拘りのフジイデラが消えてるぞ」 「バ、バカな……信じられへん」  彼女は軽快に走り続け、目の前にいる鈴草に対して突っ込みを入れた。指摘された彼はワナワナと手を震わせながら停止スイッチを押す。  ルミはハンカチで軽く汗を拭いている。 「よ、よ~し……準備運動はこれで終わりや!今度は〝少林寺36号〟の相手をしてもらうで!」  宇井とルミは別のフィールドテスト場に移動する。部屋にはベッドやテーブルがある。老人介護施設のような雰囲気をしている。  だが何故か二人とも、全身にアメフト用のプロテクターを装備させられていた。 『ナムアミダブツ』  鈴草は一体のロボットを連れてきた。  ロボットの名前は少林寺36号。介護用お手伝いロボットである。 「女はベッドへ!宇井は車椅子に座れ!」  鈴草は二人に指示した。宇井は渋々車椅子に座り、ルミはベッドに横たわる。  少林寺36号は車椅子の方へと移動した。怪しげな拳法の動きをしている。 『ハイッ!!』 「うわらばッ?!」  勢いよく車椅子を思い切り突き飛ばす少林寺36号。  凄まじい勢いで壁へと激突する宇井を眺める鈴草と阿波田。 「ちィ!また失敗や」 「介助動作を見直さなければね」  介護用ロボット少林寺36号は、だいぶ前に古武術の技術を応用した介護法がブームを起こしたのでそれを参考に開発が進められた。  しかし、開発部の趣味で中国拳法の技術をプログラミングとして組み込まれてしまったのだ。  医療事故必須の動きをしてしまう問題作だ。 『ナムアミダブツ』  合掌礼をする少林寺36号。続いてルミの方向へと移動した。  同じく変てこりんなカンフーポーズをとり右手を上げるロボット。 『ナムサン!』  少林寺36号はプログラミングされた鉄砂掌の要領で掌をルミの胸へと叩き込む。  鉄砂掌とは鉄砂の入った袋を台の上において叩く、シンプルなカンフーのトレーニング法である。 しかし掌や指には内臓に通じるツボがあり、無暗に行うと重大な障害を引き起こすと言われる。訓練を行う際は薬を併用しその成分は秘伝とされている。 「ボク達の言うことを聞いてたら、痛い思いをしなくて済んだのに」 「バカな女やで」  だが二人の思惑は外れることになる。  彼女はひらりと身を躱しベッドから降り、少林寺36号の胴体に掌底を入れていたのだ。  〝鉄砂掌返し〟である。 『ナム……ア……ミダブツ』  少林寺36号から機会音声が流れ、ボンという音と共に頭から煙が出ていた。そのまま放電しながら倒れた。どうも故障したようだ。 「え、ええーい!とりあえず駐車場に行くで!」  だんだん焦りの表情を見せる二人。今度はどんなお仕置きを二人に科すのか。  次は駐車場へと場面を移した。  宇井とルミの目の前には、試作品として保管されていた介護用お手伝いロボット達がいた。 「コイツらを廃棄処分するから頼むで」  ロボットは見るからに重そうだ100㎏以上はあるだろう。それを機械を使わずに運べというのだ。無茶ぶりとしか言えない。 「こんな重そうなロボットを僕達二人だけで?!」 「ちゃんとバッテリーは外すんやで。時々勝手に動き出すからな」  そのセリフを残し二人はエレベーターへと消えていった。 「はぁ……就職先を間違えたかな」 「アンタも大変だね」  溜息をつく宇井にルミは話しかけた。 「ああ……君か。僕は宇井っていうんだけど君は?」 「藤宮ルミだ」 「見ない顔だけど中途採用?」 「まぁな。それよりも何だか嫌な二人だね」  ルミは宇井の話を聞くことにした。あんな社員がいることを、あのアスパラは知っているのだろうか。彼女はシウソニックの闇の部分を体験して思った。 「鈴草顧問はパワハラで何度も問題になってるんだ。その度に阿波田部長が揉み消してね。それにあの人は仕事サボるし、女性社員に直ぐに手を出すしで」  宇井は地元の工業大学を卒業後、シウソニックになんとか入社。福祉介護分野での新商品開発を夢見て希望を膨らませていた。  しかし、商品開発部・営業部をはじめ社内はあの状況であった。 「ところでどうやって片づける?」 「こんなもんはッ!!」  ルミは介護ロボットを持ち上げトラックの積荷に雑に投げ込んでいく。  その怪力と独特な運搬方法に宇井は驚いている。 「君さ……女の子なのに力が凄いね」 「これくらい軽いもんさ」 「雑に入れてるけど大丈夫?」 「不良品なんだから別にいいだろ。あらよっと!」  ひょいひょいとロボットを持ち上げて投げ入れている。  数分で運搬作業終了。ルミの怪力により通常なら無理ゲーの作業を攻略した。 ――ピコピコ…… 「な、なんだ!?」  機械音声が聞こえてきた。音の方向はどうやらトラックの積み荷から聞こえてくるようだった。 「藤宮さん……そういえばバッテリー外して入れた?」 「ばってりー?」 「マ、マズい。君が雑に投げ入れたから何かの拍子で起動しちゃったんだよ!!」

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