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 イタリア料理店『アレッサンドロ』で毘沙門館選抜メンバーが集まっていた。  毘沙門館関係者はもちろん、スポンサー側代表として蓮也と小夜子もいる。  テーブルの中央に座る小夜子は言った。 「ようこそ皆さんお集まり頂きました。これより……」  小夜子が挨拶する前に手を挙げている者がいた。  メンバーに選ばれたルミである。 「何かしら」 「あたしが選ばれた理由をキチンと説明してくれ」  父親である魁道が優勝したのは事実であるが部外者だ。  藤宮流が毘沙門館の大会に出場したから関係者というのは、こじ付けが過ぎる。  ましてや友好団体でもない。このルミの疑問に対して謙信が答えた。 「俺が頼んだんだよ」 「勝手に選ぶなよ」 「毘沙門館の層が薄いんだ。頼むよ」 「プロデビューしたヤツを選べばいいじゃん」  ジャージ姿でいるのは伊藤二郎。彼もまた選抜メンバーに選出されたようだ。 「BB級ダブルバトルに昇格で出来ねェ時点で実力不足だからな。……つーかよ」  伊藤は頬杖を作りながら蒼を見た。 「俺はBU-ROADバトル初参戦になるんだけどいいのか?」  蒼が微笑みながら述べる。 「伊藤さんは実戦向きだから」  大会実績が少ない伊藤であるが、それは競技空手内の中だけだ。  制約が少ないORGOGLIOならば、実力を発揮できると判断され選出されたようである。 「それにしてもよく参加してくれましたね」  伊藤の実戦性を評価する小夜子は彼に言った。  事前にORGOGLIOを嫌っているとの情報をキャッチしていたからだ。 「星王会館に一泡吹かせてやろうと思ってな」  続いて蒼は一人の選手に声を掛けた。 「アルーガ君だっけか。よろしくね」 「……」  彼の名前はアルギルダス・モリカ、リトアニア出身。  毘沙門館内では『アルーガ』の愛称で呼ばれている。 「こちらこそ……」  身長168㎝と外国人選手にしては、かなり小さいが隠れた強豪である。  毘沙門館の世界選手権や、欧州の修斗大会に入賞を果たした実績を持つ。  現在はプロの機闘士マシンバトラーを目指し、日本のイレギュラーリーグに所属している。  そんな彼は金髪碧眼、眉目秀麗びもくしゅうれいの美青年であるが……。 (あいつ根暗そうだな)  ルミの彼を見た第一印象である。  どこか影があった。  そんな中、蓮也は緊張した面持ちで視線を下に向けている。 (お、落ち着かん)   この中では一番の部外者であるだろう蓮也は固まったままだ。  隣りに座るルミは軽く肘を当てて小声で話しかけた。 「さっきから黙ってどうした」 「いや、目の前の飛鳥馬CEOがずっと俺を見てるもんだから」  蓮也の目の前には小夜子が座っている。  彼女が来てから、蓮也から目を離さないでいる。 「何で俺をずっと見てるんだろう?」 「それは……」  小夜子の想いを伝えたが蓮也は忘れている。  ルミはそのことを改めて伝えようとした時だった。 「失礼します」  ASUMAの山村である。丁寧にお辞儀してから小夜子に言った。 「お呼びしましたが……よろしいですか?」 「ええ。入ってきてもらって」  山村の後を一人の男が入って来る。  40代前半といったところだろうか細身である。  虚弱な体躯といってもよかった。だが眼光は鋭い。 「た、高橋先生!!」  伊藤は椅子から立ち上がって言った。  彼の名は高橋夏樹。毘沙門館関西支部の支部長を務めている。  また毘沙門館の重鎮であり伝説の空手家……星王会館の昴の父親でもある。 「久しぶりだな二郎」 「お体の方は大丈夫ですか?」 「やっと体を動かせるまでになってな」  伊藤は久しぶりの師との再会に喜んでいた。  ルミは謙信に尋ねた。 「あの弱々しいおっさん誰だ」 「高橋夏樹先生だ。円の組手の提唱者さ」  蒼とアルーガは夏樹を見て各々思う。 「高橋夏樹か、実際に会うのは初めてだね」 (……アンチパワー空手の象徴)  夏樹は毘沙門館でも異端の存在である。  彼はパワー空手に異を唱え徹底的な護身空手を追求。円の組手を完成させた伝説的空手家である。  数年前より体調を崩し病気療養を繰り返していた。  小夜子は改めて高橋を紹介する。 「今回、特別コーチとして招集しました。高橋夏樹先生です」 「よろしく頼む」  ルミは夏樹を見て言った。 「あたしは毘沙門館に入門したつもりはないよ。おっさんの指導を受けるつもりもない」 「何だと先生に失礼だろ!」  伊藤は少し怒った様子だ。彼の師への尊敬は信仰に近い。  侮辱されたと感じたのだろう。 「二郎やめぬか」 「す、すみません」  夏樹は伊藤を制すると静かに言った。 「藤宮ルミさんだったね。君の活躍は知っているよ」  穏やかな口調だった。その口調にルミは少し驚いていた。  夏樹の存在は知っていた。雑誌に掲載された彼をモデルにした漫画を読んだことがある。  その中で、彼は荒っぽくも涙もろい存在で描かれていた。  だが、実際の夏樹は漫画からはかけ離れ優しげな雰囲気を出していた。 「君は君のやり方を通してもらいたい。それは他のメンバーもそうだ」 「じゃあ何で特別コーチになったんだい?」  ルミの質問に対して夏樹は言った。 「信玄……そして昴に用事があってな」 「昴?」 「星王会館のチームに昂さんが選ばれたんですよ」  山村が笑いながら答えた。  星王会館選抜メンバーに昴が選出されたのだ。 「昴かァ」  謙信は腕を組みながら唸った。 「がよく選ばれたなァ」  ……。  一瞬だが時が止まった。  ルミと蓮也は異口同音で謙信に尋ねた。 「「も、もう一回言ってくれ!」」  確かに言ったと。 「昴は女の子だよ」 「男の娘じゃないのか?」  謙信は明確に否定した。ルミはまだ信じられない顔だ。  カミラのように彼女を男性と思っている人も少なからずいる。  それほどまでに少年っぽさを出していたからだ。  伊藤は続けて述べた。同門だったので昴の幼少時をよく知っている。 「あいつは女だぞ、知らなかったのか?」 「見た目は完全にジャニーズ系アイドルだぞ」  蒼とアルーガは彼女を試合中継でしか見たことがない。  彼らもまた女性であったことに驚いていた。 「あの子……女の子だったんだ」 「女性の機闘士マシンバトラーは珍しくはないが……」  父である夏樹は少し恥ずかしそうにしている。 「……空手を修行させるにあたりからな」 「ベル○イユのばらかよ」  蓮也は一人天井を見上げながら思い出していた。  そう言えば自分の手が、彼……いや彼女の胸に当たった時に悲鳴を上げた。  確かにあれは女性特有の反応だった。 (……まな板だったな) ・ ・ ・  星王会館本部道場にて昴は型稽古を繰り返していた。  型稽古が終わればステップワークの練習だ。  前後左右、円形に周ったりと美しい足捌きだ。  何れも父親の教えである。 「頑張っていますね」 「し、師範……」  昴が振り向くと角中がいた。 「父親には逆らえませんね。先生の教えを忠実に守っている」 「父は関係ありません……それに今は師範が私の師匠です」  角中は昴の肩をポンと叩いた。 「選抜メンバーに選ばれたらしいですね」 「私で大丈夫なのでしょうか?」 「自分を信じなさい」  昴は角中の目を見つめている。 「師範……私……」 「失礼するよ」  何か伝えようとした時だ。  一人の東洋人が道場に入って来た。  同じ選抜メンバーに選ばれたエルデ・ガラグメンデ。  蒙古の空手魔術師と呼ばれる男である。  スキンヘッドに口髭、そしてその眼光は鋭い。かなりの手練れであると想像される。 「同じチームのガラグメンデさんだ。挨拶したいんだって」 「先程の稽古を拝見させてもらった」  エルデはそう言った。一体どういうことだろうか。 「キレやスピードは申し分なし。ただ……」 「ただ?」 「実戦はどうかな」  挑発であろうか。  エルデの言葉に昴はムッとして答えた。 「組手をしたいと?」 「少しだけな」 「フッ……いいですよね師範」  角中は笑って答えた。 「もちろんですよ」  二人は道場の中央に相対する。  空手着の昴に対し、エルデは普段着のままだ。 「はじめ!」  角中の号令と共に二人は構えた。  昴はサウスポースタイル。  エルデは腰を深く落とし、両手を前に突き出している。  空手の構えというより組み技系の構えだ。 (エルデ・ガラグメンデか……)  昴はエルデを見ている。彼の噂は聞いたことがある。  ‟蒙古の空手魔術師”と呼ばれている星王会館の空手マスター。  ベテランだ。卓越した技量の持ち主らしい。 (どれほどのものか!)  昴は下段蹴りを放つ……と思いきや軌道が変わった。  下段から突如上段蹴りに移行した。 (このタイミングなら!)  エルデの顔面を捉えたかのように思われたが蹴りは空を切った。  背後に何かを感じた。いつの間にか回り込まれていたのだ。 「つァッ!!」  昴はすかさずバックエルボーを放つ。だがミリ単位の間合いで躱された。 (う、巧い!)  エルデの卓越した技術に驚いた。魔術師とはよく言ったものだ。  間合いの取り方……空間処理技術が非常に巧みである。  攻撃を全てギリギリで躱している。 「合格だ」  合格と言った。昴は構えたまま不思議そうな顔だ。 「俊敏性、技、共に素晴らしい」  エルデはそう述べた。そうすると鼻から血が流れたのだ。  角中はメガネをかけ直して言った。 「私の自慢の弟子ですからね」

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