○ BB級(ダブルバトル)団体戦:毘沙門館VS星王会館・中堅戦 “強襲の巨人” シーム・シュミット スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:キングゴラス スポンサー企業:ハンエー VS “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜 スポンサー企業:シウソニック 巨大モンスターマシン『キングゴラス』。 パワー型BU-ROAD……否超パワー型と言っても差し支えない。 パワー型の機体は強い出力を発揮するため、防具など総重量が重く設計される。 例を挙げると、一般的にアメフトの防具の総重量は6から8㎏。 そして、パワー型BU-ROADの操縦用プロテクターは7から8.5kgほどでありそれほど変わらない。 では、一方のキングゴラスの操縦用プロテクターの総重量はどうだろうか。 「その総重量は16kg!!」 セコンド席に座る中台は自信満々だ。 キングゴラスが規格外の大きさを誇るため、その代償として操縦者の体にかなりの負荷をかける結果となった。 大出力を発動させるために、16kgの重いプロテクターを装着して動き続けなればならないのだ。 一般人ではとても扱えそうにない代物だった。 「“強襲の巨人”でしか扱えないモンスターマシンですね」 同じくセコンド席の角中は静かにそう述べた。 その代償として体に負荷をかける設計がなされているが、それはあくまでも常人での話だ。 規格外の体躯を誇るシームにとって、それは何の足枷にはならない。少々重い程度の感覚だった。 「Mr.バオに代わり、審判は私リリアンが務めさせて頂きます」 次鋒戦の事故により、審判を務めていたMr.バオは負傷退場。 これより中堅戦は女性審判のリリアンが取り仕切ることになった。 リリアン操る純白の審判機は右手を掲げる。 「BU-ROADファイト……開始ッ!!」 勢いよく右手を振り下ろす審判機、銅鑼の合図と共にいよいよ中堅戦が始まったのである。 「女と試合するのは始めてだべ」 キングゴラスから野太い声が聞こえた。 特に構えずに悠々と旋風猛竜に向かってくる。 迫りくる巨大建造物の如き機体。その威圧感をルミは強く感じていた。 『来る!来る!デッカイヤツがやってくるぞ!?どうする!どうする!?』 煽るかのような実況が聞こえている。ルミは相手を見据え、水流れの構えを取るだけだ。 自分より大きな相手をすることは、小柄な女性であるルミにとっては初めての事ではないのであるが……。 (流石にデカすぎるだろ……ゴラスよりデカいじゃん) 砂武戦で対戦したゴラスは、キングゴラスよりも一回りも二回りも小さかった。 どう崩し、どう攻めるか思案を巡らせていた。この場合、どうするかはだいたいの定石がある。 (足元から崩すか!) スピード型の機体である旋風猛竜の機動力を活かすことにした。 脚部は股下を攻めて崩す。なるべく遠い間合いを意識し、ヒットアンドウェーの戦法を選択することにした。 左右に、八の字に、あるいはジグザグにステップワークを取る。下段蹴りを中心にした打撃を組み立てていく。 『打つ!打つ!打つ!下段蹴りの雨あられだーっ!!』 ダメージがないことはわかっている。 これだけの巨大マシンだ、旋風猛竜の出力では限界があることは理解していた。 目的は別……下段に攻め立てることで意識を足元に集中させる。 ――ス…… 打撃を受け続けるシームはやっと構えを取る。キックボクシングスタイルのアップライト。 大山脈の構えである。 ――ブンッ! キングゴラスは中段蹴りを繰り出す。 ただその中段蹴りは、小柄な旋風猛竜にとっては上段蹴りに相当する高さだ。 (来たッ!) コレだ。キングゴラスが動くのを待っていた。 無雑作に繰り出される中段蹴りを踏み台に旋風猛竜が飛び乗る。 『蹴りに飛び乗ったァ?!どういう運動神経してるんだこの娘はーっ!!』 スタジアム内は、ルミの曲芸技に拍手喝采だ。 人の少ない隅の観客席で、怪しげな覆面男がいた。 彼の名はウラノス……前年度BBBB級超武闘祭のチャンプである。 ウラノスは関心した様子で一言述べる。 「足譚か……」 一方の旋風猛竜、蹴り足を踏み台に宙に舞った。 スタジアムの照明に当たり輝いて見える。その姿はまるで、かぐや姫のようであった。 月光で輝く拳が狙うは頭部。生物であれば司令塔である脳が内蔵される最大の急所である。 「藤宮流……〝兜割〟ッ!!」 握拳がキングゴラスの頭部に直撃する。 この兜割……藤宮流の鍛練法の一つである。 つまりは試し割り。 戦国時代より藤宮流各士は具足……兜を握拳で打つことで拳を鍛えていた。 現代において兜はないので、代用として砂を詰めた壺やブロックを打ちつけることで鍛練する。 ルミはその試し割りの技法を、顔面への飛び正拳突きにまで昇華していたのだ。 ――ガゴッ!! 鈍い音がした。鉄が割れるような音がした。 スタジアム内に亀裂した音が鳴り響いたのだ。 『キングゴラスの頭部が割れた――ッ!!』 巨大機体の頭部が割れ、小さな黒煙が上がった。 グラリと揺れる。このままダウンであろうか……。 「巨人はこの程度では倒れない」 控室でどっかりとパイプ椅子に座る信玄はそう語った。 つまりは……。 ――ブン!! 濁りのない、真っすぐで、巨大な右正拳突きが放たれた。 「ッ!?」 つまりは反撃。 キングゴラスの攻撃が、旋風猛竜に直撃する。 『旋風猛竜くん、吹っ飛ばされるゥー!!』 遠藤の実況、観客達のどよめきがないまぜになる。 何とか両腕でブロックするものの、ルミの腕に鈍い痛みとしびれ、衝撃が襲っていた。 (バカ力……?!) 今まで経験したこともない圧倒的な力。 力の極限。巨大な機体。ゴラス以上のキング・オブ・モンスター。 巨大怪物の一撃を受けた旋風猛竜。 空中を一回転し、フワリと地面に着地する。 「場外!戻って!!」 審判機からリリアンの声がした。気付くと後数センチで壁に激突しているところだった。 キングゴラスはそれでも油断していない。 大きく構えながら、旋風猛竜が戻るのを待っている。 「頭をブッ叩かれたのは、マスターニシとのスパー以来だべ」 シームは所属していた覇道塾の師匠を口にした。 あまりにも強過ぎる彼……唯一敵わないとしたら覇道塾の創始者である西剛だけであった。 だが、既に師はこの世にいない。彼の心にポッカリと穴が開いた。 余りにも強すぎる故にまともに闘える相手がいなくなったからだ。 キックに転向して強者を求めたが、スーパーヘビー級であっても彼と対等に闘える相手はいなかった。 プロモーターや格闘技評論家に言われた言葉が、彼の心を錆びたナイフで突き刺した。 「お前はデカ過ぎて、強過ぎるんだ!」 「彼の試合は本当につまらない。あの体じゃあ何をやっても勝てるんじゃないですかね」 体は生まれ持ったものだ、自分ではどうしようもない。 それに体格だけで勝てるほど格闘技は甘くない。鍛練、工夫でここまでやってきたのだ。 シーム・シュミットという男の努力を誰も認めようとはしなかった。 『デカい』というだけで格闘技界から差別され、迫害された。対戦相手のいない日々……。 「シーム君……是非とも星王会館に協力して欲しい」 そんな時だ。葛城信玄からお呼びがかかったのだ。 星王会館という新興勢力であったが、闘えるのならばどこでも構わない。 星王会館に移籍してからも、団体が開催する大会も総ナメ。 そして、流行りの‟ORGOGLIO”にデビュー。無敗のままBB級に昇格した。 「最初、女と闘うのは気が引けたがやるべ。今まで闘ってきた誰よりも強い」 彼は闘える喜びを感じていた。 一方ルミは試合場に戻ると、再びキングゴラスを見上げながら述べた。 「あたしもアンタと闘える喜びを感じているよ」 旋風猛竜は戦闘態勢をとる。 左手は開手で鳩尾をカバーし、右手は握拳で顎をガード。 藤宮流の〝弘真〟と呼ばれる基本構えであった。
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